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星の願い  作者: ミケ
第三章 這い寄る星々
96/140

90.慈悲の魚

殻の中から出てきた彼女の姿は前とは大きく違っていた。

緑のドレスを優雅に着込んでいたが、今は灰色と所々黄色味が掛かった岩のようなゴツゴツとした厳つい見た目になっていた。

(なんだコイツ…!さっきと雰囲気が全然違う!)

異様な雰囲気にルークスは身震いを起こす。

瞬きをした瞬間に彼女の姿を見失う。

(っ!?消えたっ!)


いつの間にか背後を取られ裏拳を繰り出す。

「っ!?」

「遅い!」

鉛のように鈍い音が頭の中を駆け巡る。

「がっ!」

床に体中ゴロゴロと打ちのめされる。

残りの体力を振り絞り無詠唱で術を発動させようとする。

「アイス」

しかし、彼女が術を発動させることは無かった。

「こっちよ」


術の発動よりも敵のスピードが遥かに上回っていた、

「あうっ!?」

手刀を背中に繰り出し吹っ飛ばされる。

「ルークス!ミルキー!」

ステラが二人を呼び掛けるが、反応は良くなく呻き声が返ってきた。

「あ」

ステラの前に大きな影が出来ていた。

ユーピテルがもう目の前に来ていたのだ。


「まずは貴方からね」

作業するような単調とした声を発し、握り拳を振り上げる。

テーベはステラを守ろうと身体を震わせて粘液を飛ばそうとする。

「死になさい!」

死の目前に魚の形をした水塊が横切りユーピテルに食らいつく。

「ふん…」

呆気なく水塊は破裂し、辺りに小雨が降り注ぐ。


彼女の足止めをしてる間にステラと負傷した二人を水塊で回収しアクエリアスの側に集める。

フリージアは集めた全員に話し掛ける。

「みんな、ここでじっとしてて。アイツは…私一人でやる」

なんと、一人で戦うと言い出したのだ。

ルークスとミルキーは声を振り絞り口を開く。

「アンタ…さっきの見てなかったの!」

「一人じゃ無理だ…アイツは…強すぎる…」


しかし、フリージアは二人の声を制止する口振りで話す。

「大丈夫だよ」

何か覚悟を決めたのか、その瞳はハッキリとしていた。

「だってわたしは……」

一度言葉が途切れたが話し続ける。

「わたしは……十二星宮の一人だから!」

そう言い残すと彼女はすくっと立ち上がりユーピテルに視線を合わせ歩き出す。

「フリージアちゃん…?」

ステラが心配そうな表情で彼女の事を見つめる。


仮面をしていて上手く彼女の表情が読み取れないが、口角をうっすらと引き上げる。

「ふふふ…貴方の核は…どんな輝きを魅せてくれるのかしら?」

ユーピテルの問いに真剣な眼差しでハッキリと言う。

「死ぬつもりは無いよ。あの時とは違う」

クラフト峡谷ではアレルが人質となっていたため、本気で戦うことが出来なかった。

だが、今は違う。

「今度は全力で貴方を倒す!」


「うふふ…」

小さな体を張り前へ出る。

「十二星宮、「魚座パイシーズ」いざ…参ります!」


十二星宮の一人、慈悲の魚座パイシーズ


「あはっ!」

ルークス達をぶっ飛ばした時と同じ速度で近付き武装した拳で殴りつける。

「はっ!」

相手の速度に対応し回避する。

ユーピテルの拳が床を突き抜ける。

続けて拳を振るい、フリージアに隙を与えず攻撃をする。

彼女の動きを観察し的確に猛攻を躱す。


「見た目通り、すばしっこいわね」

ユーピテルの周りには鋭く尖った石が漂う。

「けど、逃げてばかりじゃ勝てないわよ!」

一斉に凶器と化した石が今までの攻撃とは比べ物にならない速度で襲いかかった。

「逃げてないよ」

守護術を使わず全ての攻撃を避けきる。

次々と石の破片は船体を突き抜ける。

船内に海水が入ってきたのか、鉄の擦る嫌な音が鳴り響き傾き始める。

船が沈むのも時間の問題だろう。


「貴方にチャンスをあげてるの」

「へぇ〜…」

心底興味の無さそうな声を出す。

「随分と舐められてるわね!」

再び石の破片を辺りに漂い始めた。

だが、さっきと違って巨大な岩も生成されていた。

「その生意気な顔に風穴を空けてあげるわ!」

石を飛ばし自らも走りフリージアとの距離を詰める。

あまりの速さに彼女が移動した後、数秒遅れて暴風が吹き荒れる。


接近した時にはフリージアの姿は無く、上を向くと高くジャンプをしていた。

止まっていた岩が空中に飛んだ彼女に向かって猛スピードで放たれた。

轟音が鳴り響き空気中に振動が伝わる。

土煙が晴れていき、彼女の無事な姿が見えていく。

無事な理由は彼女が出した水塊なのだろう。球体となった液体が岩の攻撃を防いでいた。

役目を終えたか球体は静かに形を失い流水となって落ちていた。

フリージアは空中に留まったまま相手を見下ろす。

「無駄な抵抗は止めて大人しくして。それが一番平和的な終わり方だよ」


「まるで私に勝てるような発言ね。貴方が死んだら止めてあげるわ!」

今度は槍の形をした岩を作り出す。

恐らくこの攻撃で全てを終わらせる気なのだろう。

「そう、それが貴方の選択なんだね」

フリージアは宙に浮きながら、それに対抗して術式を展開する。

互いの込めた渾身の一撃で全てが決まる。

(星天一族の中でも一部の者にしか扱えない技

星のエネルギーと光星エネルギー、そして術者の生命エネルギーを均衡に保つことで放てる御技)

目を見開き標準を定める。


「星天術、「アマシズク」」

船体を覆い尽くす青白い光が放たれる。

同時に撃たれた岩の槍は形を崩し砂粒でさえ消え去る。

「…………!」

ユーピテルの目の前は青白くなった。



    ★



3ヶ月前……

王都コーディリアの目立たない路地裏にある隠れ家に怪しげな人の姿があった。

「十二星宮?」

そう言ったのは黄色と黒のバッテンが特徴的で派手なドレスを優雅に着込んだユーピテルの姿だった。

すると、彼女の隣に居た男が答える。


「君も知っているだろう?私達の目的のためには彼らと戦わなくてはいけない」

灰色のローブに黒色のはかまと簡素な見た目に足には白い靴下に王都では馴染のない下駄を履いていた。

男はグラスを持ち話を続ける。

「君は七星人に成り上がったばかりだ。本当にいいのかな?」

彼の言葉の意味を察したのかギロリと睨む。

「なに?私のことを舐めてるの?」


しかし、男は慌てること無く静かに話す。

「いいや、君の実力は確かなものさ。だが…」

グラスに入った液体を少しだけ飲み込む。

「彼らの能力も未知数だと言うことも事実。過信は禁物さ」

「ふん、問題ないわ。それに今回の敵の情報は既に聞いてるし…後は実行するのみよ」

魚座パイシーズ…と言ったか、彼女の術式は」


話を遮り苛立つように口を開く。

「余計なお世話よ。さっきも言ったでしょ。知ってるってね」

ガタっと立ち上がった衝撃で椅子が僅かに動く。

「貴方もせいぜい背後に気を付けることね」

ユーピテルは出口に向かって歩き出す。

男はからかう様に彼女の方に振り向く。

「そんなに私のことが気に食わないかい?」


ユーピテルは視線を扉に向けたまま話す。

「当たり前よ。実力は私の方が上なのにどうして貴方のほうが序列が上か理解できないからよ」

再び歩き出し怒声を含ませた声色で言い放つ。

「あまり調子に乗らないことね。うっかり殺しちゃうかもしれないから」

彼女が去ると男は静かに笑う。

「うっかりか……知識チカラを持たない君が何を言うか…」


グラスをテーブルの上に置く。

「さて、吉と出るか……凶と出るか…」

うっすらと口元が緩む。

「じっくりと待つことにするよ」

そして最後に誰もいない空間の中で男は呟く。

「新たな見聞を得るためにも」



     ★



青白い光が止み、辺りの様子が見えるようになってきた。

船体は変わらず小さく揺れており今でも浸水を起こし沈みかかっている。

「ば、ばかな…」

優雅とは程遠くボロボロとなった彼女の姿がいた。

フリージアの放った術の影響か武装した岩は跡形もなく消えていた。


「この私が…こんなヤツに……!」

息も絶え絶えで今にも倒れてしまいそうだ。

「攻撃が当たる直前に守護術を発動させダメージを軽減したみたいだね」

よく見るとユーピテルを囲むように周りの床に円形の穴があった。

おそらくだが、術が直撃する寸前に岩の壁を作り出し身を守ろうとしていたのだろう。

その証拠に彼女の周りだけが原型を保っていた。


フリージアの放った術の跡は凄まじく船の一部がキレイに無くなっていた。

「………」

彼女は黙り込みうつむいていた。

「死なれては困るの…まだ、貴方に聞きたいことがあるからね」

星導光惑星エーテルプラネットの情報、七星人そしてその目的…謎に包まれた事が多く知らなければならない。

「………!」

言葉にならずユーピテルは悔しそうな顔をして倒れる。


「はぁ…はぁ…」

しんどうそうに息を切らしながら、こちらに歩み寄る。

「お、おい。大丈――――」

ルークスが声をかけようとすると、船が激しく揺れ始める。

「ゆ、揺れてるよ!?」

「もう船が限界みたいよ!」

船体が沈み始めている。

魚の水塊がユーピテルの体を包み込みルークス達の場所へ運ぶ。


「派手にやったようだね」

「うおっ!アクエリアス、起きていいのか?!」

体中が血塗れだがフリージアの治癒のお陰で止血されていた。

「話したいことはあるけど、今はゆっくりしてる場合じゃないからね」

痛みがあるのか刺された部分に手を当てる。いつもの余裕は無く申し訳無さそうに彼女にお願いをする。

「フリージア。すまないがお願いできるかい?」


「うん。がんばるよ!」

小さく頷き大きな魚の形をした水塊を作り出す。

「みんなじっとしててね」

全員を巨大な液体の中に入れ込む、不思議と傷口がしみることはなく逆に痛みが和らいでいた。


宙に浮きスピカの乗り物まで移動する。

「よし、ここまでこれば後は乗り込むだけだ!」

バシャッと水が弾けて床に足がつく。

「みんな急いで!」

フリージアが声を上げてみんなを先導する。

気絶している二人を持ち上げて中へと入れる。

「よいしょ…よいしょ…」

最後にステラが乗り込み扉を閉める。

「全員乗ったね。脱出するよ!」

ゴォォォォォ!

出力全開で沈みゆく船を後にした。









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