09.ルークスと星導光
「邪魔するわよ〜」
ローブを着たエルフの女の子ミルキーが部屋に入る。
部屋の中は大きめなテーブルに椅子が一つ、ベッドにはルークスが座っていた。
朝の日光が窓から入り部屋全体を明るくする。
「あら?意外と早起きなのね」
彼はステラと出会う前までは自身の剣技を磨くため、毎朝早めに起きる習慣が身についていた。
「なんだ? 早速仕事か?」
「いや今日は何もしないわ」
「じゃあ、何しにきたんだ?」
「ちょっと頼まれ事があってね‥ヒマリアからアンタのことを調べてほしいってね」
こちらに指をさしながら伝える。
「アンタと星導光の関係‥‥ヒマリアが言ってたわ。アンタが星導光を使えない体質ってこと‥‥それってホント?」
「体質かどうかは知らねぇけど、星導光が使えないのは本当だぜ ただ照明星導光や熱源星導光とかそういったものは使えるけど魔術星導光や武術星導光なんかは全く使えねぇんだ」
ルークスが小さい頃から使える星導光と使えない星導光があった。特に自身に負担を掛けるタイプの星導光は使うことが出来なかった。
そのためルークスは剣技に力を入れ磨き続けていた。
「‥‥なるほどね‥‥わかったわ 準備ができたら一階にある実験室に来て頂戴」
ミルキーはそう言い残し部屋を出る。
「‥‥ヒマリアのやつ‥余計なことを‥‥でもまあ、俺も気にはなってるし調べてもらうか」
ルークスは準備を進め扉をあける。部屋からでて階段を降る 改めてみると屋敷ぐらいの大きさはある 何やらよくわからないオブジェ‥‥いやこれは星導光なのか?あまり見たことの無いものもチラホラとある。
入口から右部屋にあるのが実験室‥なんの実験をしてるのかはまだ知らない。
「ここだよな?」
一応確認のため扉に軽くノックをしてから部屋に入る。
「あ、来たわね」
他の部屋とは変わって頑丈そうな床と壁が施されており
ミルキーは魔導書を片手に持ち待っていた。
「実験とはいったが一体なにをするつもりだ?」
「別に難しいことはしないわ アンタに武術星導光をつかってもらうわ‥‥はい」
そう言うと奥の棚からブレスレットを取り出しルークスに渡す。
「武術星導光なんて俺には使えねーぞ?」
「さっき聞いたわ でも実際に見てみないとさすがのアタシも分からないからね。ほら!さっさとやって!」
「わかったよ‥‥じゃあいくぜ‥‥オラァ!!」
ルークスは目の前にある人形に向かい斬りつける。
「‥‥さらにもう一発!」
ズバッともう一度斬りつける。しかし、なにも起こらなかった。
「‥‥‥‥」
ミルキーは首にかけていたレンズを片手に先程の様子を無言で確認をする。
(今のって‥‥ありえないわ‥‥)
「で?何か分かったか?天才魔術師様?」
「エネルギーを吸収?‥‥でもそんなことすれば‥‥」
ミルキーは何やらブツブツと呟く、こちらの声に気付かないほど集中しているようだ。
ルークスはもう一度声を掛ける。
「おーい! 聞いてるか!」
「あ、ええ悪いわね‥予想以上に凄いことが起こったからつい‥」
いつもと反応が変わり不安を煽られる。
「まずいことがあったか?」
「まずいなんて今のところ、なんとも言えないわね‥‥アタシもこんなこと初めてだし‥‥まぁとにかくアタシが分かった範囲で説明するから聞いて頂戴 あ、そうそう一応あの子も連れてきなさい大事な話だしね」
「ステラのやつ寝てんのか?」
「さあ?アタシは見てないから寝てんじゃない?あとアタシの部屋で説明するから」
ミルキーは彼を通り過ぎ部屋を出ていった。
「さて、俺も行くとするか」
ステラの居る部屋はたしか二階にある俺の部屋の反対側にある。
ドアの前まで行き軽くノックをする。
「ふぁ〜い」
寝ぼけた声とともにドアが開く、寝癖のついたステラが目を擦りこちらを見る。
「おはようさん」
「おはよぅ〜 どうしたの?」
「ちょっと話があるから着替えてミルキーの部屋に来てほしい」
「ほわぁ〜 うん‥まっててね」
着替えを済ませ部屋の外に待つルークスとともにミルキーの部屋に入る。
★
「あ、来たわね そこに座って」
甘い香りがする。年相応の可愛らしい雰囲気の漂う部屋
おそらくプライベートと仕事をキッパリと分けるタイプなのだろう、玄関とかにあった変なオブジェが一つも見当たらない。
ミルキーに言われるがままにソファに座り込む。
「ミルキーおはよぅ」
「おはようってアンタ寝癖ぐらい直したら?」
「う〜ん?」
なんのことか分からないステラにパンを差し出す。
「まあいいわ、これでも食べて聞きなさい」
ミルキーは立ち上がり、なにやら黒板みたいのを持っていき文字を書き出す。
「じゃあ早速本題に入るわ‥‥でもその前にアンタ達は星導光についてどこまで理解してるの?」
「えっとね、星のエネルギーみたいなやつを使って色んなことができるもの‥‥だったかな?」
「え、ええ‥大体はあってるわ でもこれって1から説明したほうが良さそうね。まずは星のエネルギーなんだけど‥‥この星コラプサーの至る所から発生してるエネルギーよ、まぁ星の血液みたいなもんね。で、このエネルギーを星導光に介して光星エネルギーが出来るのよ」
「こうせいえねるぎー?」
ポカンとした顔で首を傾げる。ミルキーは立て続けに話す。
「で、この光星エネルギーは変わった特性があるの それが色んなエネルギーに変換することよ 例えば光エネルギー 熱エネルギー 電気エネルギーとか他にもあるわ」
「ん?そんだけ便利なエネルギーならもっとこう‥なんか出来ねーのか?」
「確かに光星エネルギーは汎用性に優れたものだけど、ちょっと問題があってね‥まずひとつ 光星エネルギーはある物の中でなければすぐに消えてしまうこと ふたつ 強力なことが裏目に制御が難しいことよ」
「う〜?」
頭を抱え悩むステラ
「ミルキー先生〜ひとつずつお願いしまーす」
ルークスは手を挙げながら生徒のようにお願いをする。
「はいはい分かってるわよ、まず光星エネルギーがある物の中でないと消えることだけど、これについてはもう解決してるわ アンタ達がよく使ってる星導光がそうよ エネルギーを作るついでに守ることができるの ただどうしてそうなるのかは不明よ」
「よくわからないものをよくわからないままつかっているの?」
「そういうことになるわね‥でもそれを解明するのがアタシの仕事なのよ 次にふたつ目」
彼女の話を遮るようにルークスが口を開く
「それは俺でも知ってるぜ 星導光がその何とかエネルギーとやらを暴走しねぇように出力を調整してるだったか?」
「あら、知ってたのね 話を省けて助かるわ。まぁとにかく星導光で全て解決よ」
「一応ここまで話を聞いてきたが俺の事と何の関係がある?」
今までの話を聞いている限り星導光のことだけで、こちらのことは関係になさそうにみえるが‥‥
「関係あるわ アンタ最初に言ったよね 熱源星導光と照明星導光とかは使えて魔術星導光や武術星導光は使えないって‥それもそうよ だってアンタ‥光星エネルギー自体を吸収してんだから」
まるで意味が分からない‥隣に居るステラは話に飽きたのか席を立ち部屋をウロウロしだす。
「は?どういうことだ?」
「例えの話をするけど‥アンタは照明星導光と武術星導光の違いって分かる?」
「?」
ルークスの反応に察し説明をする。
「‥‥照明星導光は星のエネルギーを星導光に介して光星エネルギーを作り、そしてそのエネルギーを電気エネルギーに変換され照明として機能するの で、武術星導光の場合、星のエネルギーを星導光に介して光星エネルギーを作り、そのエネルギーと術者の生命エネルギーを使って術を発動させることができる‥‥要は外部からの干渉をするかしないかよ‥‥ついてこれてる? 」
長々と説明するが何を言っているのか分からないがとりあえず最後まで聞いてみる。
「あ、ああ 続けてくれ」
「そう?じゃあ続けるわ、前に言ったけどアンタはその光星エネルギーを吸収して術自体、発動できなくしてんのよ 簡潔に言えばボールを投げるのにボールを消し飛ばしてから投げようとするみたいなもんよ」
俺ボールなんて消し飛ばせねぇし‥と思いつつ質問をする
「大体は理解した‥‥けどどこか問題があるのか?あの時すげぇ驚いてたし」
「‥普通わね、光星エネルギーを体に取り込むと拒絶反応を起こすの、光星エネルギーはアタシ達にとって異物の存在‥その異物を排除しようと体が反応する そして攻撃された光星エネルギーはそのまま暴発を起こしエネルギー量によっては死に至る‥‥ でもアンタの場合 自分からエネルギーを吸収してたの しかも拒絶反応もなし‥」
「つまり、本来吸収できねえエネルギーを吸収してる‥なおかつ拒絶反応もしない体‥‥ってことか?」
自分なりにまとめて相手に確認を取る。
「ええそうよ、まぁアンタにしては―――――」
ここでミルキーが何かの異変に気付き会話が途切れる。
その直後に彼女の悲鳴?みたいのを上げる。
「ひゃああああああ!!」
「プニプニ」
話の途中からウロウロしていたステラが彼女の背後にまわりエルフの特有の長い耳をモミモミしていた。
すかさずその場から離れステラとの距離を取る。
ミルキーは頬を赤らめながら言い放つ
「いきなりどこ触ってんのよー!」
「耳だけど?」
当然と言わんばかりに堂々とした姿勢、何やらニヤニヤしながら近づいていく。
「もっと触りたい‥プニプニ」
「こ、これはマズイわね‥ちょっとルークス!どうにかしなさい!」
「はあ?さっきの勉強会で疲れたんだ それに耳を触らせるくらい別にいいんじゃねーの?」
ルークスはそう言い残すと部屋から出ていった。
「あいつ‥! 後で覚えておきなさいよ‥!」
ガシッ! 何者かに肩を掴まれ嫌な汗が吹き出る。
そこにはニッコリと優しく笑みをしたステラが目の前にいた。
「ステラ?!ちょっとまって!アタシがこんなに嫌がってるのにアンタはそれでいいの!?」
「え〜?嘘つくの?だってミルキーの心はちょっとしか嫌がってないよ?」
「はぁ!?アンタ何言って‥ちょっとまちなさい ちょ、耳はだめ!敏感だから‥あ‥あ‥ひゃあああああ!!」
ミルキーの悲鳴?が家中に広がった。