82.獣人族と人間
あの後、アクエリアス達と別れて各自、行動を始めていた。
クロイツ海岸から徒歩で出発し数時間、ルークス達はマイヤー湖畔までたどり着いていた。
湖畔に入るとジメジメとした湿気が体中に纏わりつく。
「なんなく戻って来たわね。まさかこんな早く戻ってくることになるなんてね…さっさと術式を壊して帰るわよ」
「前にモフモフさんに会った場所だよね。ええっと、ここからどこに行くんだっけ?」
相変わらずの彼女に呆れた顔で答える。
「人の話を聞いてたの?北よ。ここから北に進むと獣人族の集落があるらしいから、まずはそこを目印に行きましょ」
喋っているうちに以前、二人の獣人族に襲われた場所まで着いていた。
過去の事を思い出してか、ステラは不安を抱える。
「また襲ってくるのかな…?」
分かりきっていることなのか、ハッキリと伝える。
「十中八九襲われるでしょうね。見つかってもアタシが最大限フォローするからアンタ達も策の一つや二つ考えないよね。出会わないのが一番なんだけど。そう上手く行かないって思ったほうがいいわ」
極力戦うことを避けたい彼女は他の案が無いか確認をする。
「バレないように隠れながら進む…のは出来ないの?」
しかし、彼女の期待していた言葉は返ってこなかった。
「無理ね。獣人族はね、力が強いって事で有名だけど、もう一つ特徴があるの。それは鼻の良さよ」
「はな?」
「匂いで嗅ぎ分ける力…といったほうが正しいわね。
昔から獣人族は縄張り意識の強い種族なの。自身のテリトリーに侵入者が入ってきた時にいち早く対応できるように嗅覚が進化したと言われてるわ。
だからコソコソと移動しようとしても無駄よ。
すぐにバレるから」
そうだったのか…と内心ルークスは思っていた。
ミルキーが話し終えると、先程までステラの頭の上で大人しくしていた青いスライムが荒ぶり始めた。
「うん?どうしたのテーベちゃん?」
テーベがなにか伝えようと、全身を使い茂みの方を示す。
その意図を汲み取ったのか、ミルキーは急いで魔導書を手に取り詠唱を始める。
「強固なる壁よ…我を守れ!ハードシェル!」
ルークスとステラの前に半透明の壁が現れる。
すると、どこからか飛んできた弓矢と岩が二人に飛んでいき身を守る。
弓矢は弾き飛ばされ岩は衝撃によりバラバラへと砕け散った。
当然の結果に特に驚くこともなく呟く。
「ほーら、早速見つかった」
茂みの奥深くから前回襲ってきた二人の獣人族が姿を現した。
狩人の格好をした男がルークスを睨む。
「以前に警告をしたはずだ。二度と近づくなと…」
獣人族とルークスの距離は十分に空いている。
だが、ここからでも分かる。人間に対する憎しみや殺気が彼自身の肌にピリつかせていた。
下手に出れば即戦闘になりかねない状況…ルークスは冷や汗をかきながら自分に敵意が無い事を伝える。
「待ってくれ!俺達は争いに来たんじゃない!話を聞いてくれ!」
男の隣りに居た女が姿勢を低くし牙を見せる。
「人間の言うことなんて信用できるか!これ以上近づくなら容赦しない!」
「落ち着いてくれ!前は不意に近づいて悪かったと思ってる。けど、今回は理由があって来たんだ。話だけでも―――」
懸命に説得を試みるも二人には届かず、彼の言葉を遮る。
「人間に話す事など無い!逃げる時間は十分に与えた。それでも逃げなかったということは俺達に敵として受け取っていいんだな?」
今にも戦いが起こりそうな雰囲気にステラは焦る。
「あうあう…どどどどうしよう!?」
「仕方ないわね…こうなることは予想できてたけど…」
様子を伺っていたミルキーが声を上げて注目を集める。
「待ちなさい!」
耳がピクッと動かし彼女を見る。
「貴方は…物好きなエルフ…」
「ミルキーよ。ねえ、とりあえずアタシ達の話を聞いていかない?人間はともかくエルフであるアタシなら話くらい出来るでしょ?」
エルフは人間とは違い友好関係を築いている。
そのため彼女の言葉は信用に値するのだ。
「………」
ミルキーの持ち掛けに二人は黙ったままである。
不思議と不安に感じた彼女は言葉を出す。
「……まさか、アタシですら信用できないって言うの?」
すると、言いにくそうに返す。
「いや、そういうわけではない。お前いまミルキーと言ったか?」
「………?そうよ。それがどうかしたの?」
何故自分の名前を確認したんだろう?考えているうちに続けてこう口にした。
「もしかしてなんだけど…お前はミルキー・ウェイって名前で星導光を研究してる天才魔術師様か?」
何やら彼女の事を知っているようだ。
「へえ~、アタシの事を知ってるなんて驚きね。どこで知ったのかしら?」
ミルキーもよく知る名前が返ってきた。
「ヒマリアから聞いたことがあるんだ。変わった人間と研究熱心なエルフが居るって……その…ひょっとして…お前は…ルークス・ソーサリーて奴か?」
さっきと比べて二人の態度が軟化したが、それでも油断は出来ない状況だ。
言葉に気をつけながらヒマリアの事を聞く。
「あ、ああ、そうだ。アイツを知ってるのか?」
しかし、彼の質問に答えてはくれず、頭に生えたフサフサの耳をペタンと折り曲げて、しょんぼりと落ち込む。
「……やってしまった……まさか、お前達がヒマリアの知り合いだなんて…」
さっきよりも更に敵意が消え失せていた。
ここまで来るとルークス自身も警戒心を緩めていた。
「おい、急にどうしたんだ?なんかアイツと知り合いみてえけど…」
落ち込む彼女の代わりに男が答える。
「彼女には以前、俺達が浮浪者に襲われているところを助けてもらった事があってな…その日以降、定期的に連絡を取るようになったんだ。話をしているうちにお前達の話をいくつか聞いていてな…まさか、お前達が彼女の知り合いだとは思わなかった。すまない」
(ヒマリアの奴…王都内だけ動いてたんじゃなかったんだな…)
「わ、私も…ゴメン。もう少し考えてから動くべきだったよな。本当にゴメン…」
先程の光景とは一変し、誤り出す彼らにルークスは手を前に振り話す。
「いいっていいって、謝るなよ。先に近づいたのは俺達なんだ。人間と獣人族の仲が悪いのは俺も知ってたことだし、別にお前らは悪くねえよ。
前に追い返した人間が再び来たんだから警戒して当然だろ?」
人間と獣人族の関係は最悪だ。
これはこの星に住んでいる者なら誰でも知っていること。
どれだけ最悪な関係であろうが今はこれが精一杯なのである。
男は胸の前に手を当てる。
「理解してくれて助かる。それで俺達に用があって来たんだろう?」
ルークス達も無闇に彼らと喧嘩をしにきたわけではない。
「ああ、実は………」
ルークスは彼らに、これまでの経緯を簡潔にまとめて話した。
話を整理し過去の事を探りながら話し出す。
「星導光惑星…お前達の言う奴かは知らないが確かに少し前に怪しげな人間が集落付近にある遺跡の近くを彷徨いていたところを見たことがある。すぐに追い払ってやったがな」
「それでどうだった。なにか怪しいものとか置かれてなかったか?」
落ち着いてきたのか女が答える。
「あったよ。模様…みたいな変なやつだ、ただ見たことのないやつだったから触らずに放置したんだ。もし罠だったら大変なことになるからな」
ミルキーは考えながら喋る。
「恐らく結界の術式のものだと思う。アタシ達をそこまで案内してくれる?」
「あれを破壊してくれるなら断る理由はない。こっちだ」
獣人族の男が先頭に歩きだすと、他のメンバーも後をついていくように茂みの奥へと進んでいった。




