81.再びマイヤー湖畔へ
彼らを逃げられないように丈夫な紐で拘束した後、アクエリアスが確認のためルークス達に話しかける。
「星導光惑星の情報では、結界を破壊するには2つの術式を消す必要があるらしい。
一つがマイヤー湖畔にある獣人族の集落から北部にある古い遺跡の中、もう一つがクラフト峡谷の中層にある小屋の中。
これから二手に分かれて行動しようと思うけど…君達はどっちに行きたい?」
何事もなかったかのようにペラペラと喋る彼とは対象にルークスは先程の光景が目に焼き付いていた。
「その前に聞きたいことがあるんだが…」
「なんだい?」
「さっきのって…拷問なのか?初めて見たからうまく呑み込めねえけど…」
まるで愚問と感じ取れる態度で答える。
「なんだ。そんなことかい?あれは…うん。見た通りだよ。ああでもしないと口を割らないだろ?手っ取り早くするに他に無かったんだ」
彼の言い分に理解できないのか男達に視線を移し目を細める。
「暴力は駄目だよ…可愛そう…」
数歩砂浜を進み答える。
「いいかい、ステラ。時には力でねじ伏せることも大事なんだ。そりゃあ言葉で解決するのが一番だ。だけど現実というのはそう甘くはない。利己主義の連中なら尚更だ。
理解してくれ…なんて言わない。ただ君が思っている以上に現実ってのは残酷で…どうしょうもない世界なのさ。それだけ覚えていたらいいよ」
こちらに振り向き、ゆっくりと頷く。
「……納得は出来ない…出来ないけど…アクエリアスの言いたいこともわかる…」
アクエリアスは優しく笑みを出す。
「君は本当に優しいね」
二人の話が終わったところでミルキーが腕を組みながら話し掛ける。
「それでもう一つ聞きたいことがあるけどいい?」
何を聞こうとしていたか分かっていたのか、先程使用していた液体の入った瓶を手に取りすぐに答える。
「星水のことかな?」
「そう、それ。結局星水というのはなんなの?そんな水…聞いたことがないけど」
アクエリアスは瓶の中に入った星水を揺らし説明する。
「星水はこの星の奥深くにある特殊な水だよ。
これを人の体内に取り込むと拒絶反応を起こす。
それと同時に肉体を大きく飛躍させるものでもあったんだ。
拒絶反応を起こす時点で薬やドーピングとして完成することは無かったけどね。
一昔までは珍しくはない物だったけど…十年前を境に取ることができなくなってしまったんだ」
十年前という言葉にルークスは静かに呟く。
「…十年前…魔人戦争か?」
「そう。とにかく今は存在そのものが消えかかっている珍しい物と考えてくれればいいよ。とりあえずはこんなものかな」
人通り説明が終わりレグレスが近付く。
「質問は終わったか?」
「ああ、悪いな。時間取らせてしまってな」
「それでどうしますか?ルークスさん達はできればクラフト峡谷に行ってもらいたいんですが…」
サダルメリクの提案にステラは疑問を持つ。
「ほえ?なんで?」
「獣人族よ」
「獣人族?それがどうかしたの?」
「アンタもう忘れたの?ほら、湖畔の出口辺りで襲ってきたやつ居たでしょ?」
マイヤー湖畔の出口付近に二人の獣人族に襲われたことを思い出す。
「あの怖そうなモフモフさん?」
真剣な眼差しで彼女は答える。
「そうよ。獣人族はね…人間を嫌ってるの。
魔人戦争が終結するまでの間、あの子達は人間の奴隷、家畜として飼われてきた。今もその過去の名残りで人間を敵対関係にあるの。
ううん、獣人族だけじゃない。エルフも他の種族も酷い目に遭わされてきた。劣悪な環境に道具と同然に扱われてきた獣人族達は今も人間の事を恨み続けているわ」
フリージアは心配そうに口を開ける。
「だからルークス達にはクラフト峡谷に行ったほうがいいの。獣人族も人間も、その方がいいと思うから」
彼女と同じく心配そうに彼を見つめる。
「………」
しばらく沈黙が続きルークスの口から言葉が出てきた。
「マイヤー湖畔の方は俺達に任せてくれないか」
「アンタ本気?前にどんな目にあったか忘れたわけじゃないよね。先に言っとくけど話し合いで解決しようと考えてるならやめておいたほうがいいわよ。絶対に無理だから」
ミルキーに便乗するようにフリージアも止めに入る。
「そうだよ!そっちは私達に任せて、ルークス達はクラフト峡谷をお願い。移動なら心配しないで、スピカが連れてってくれるから」
しかし、彼女達の説得も聞かず話し続ける。
「悪い、それでも俺は行きてえんだ。人間がやったことなんだ。人間が解決しねえと申し分が立たねえよ」
彼の言いたいことはフリージアにも伝わっている。だが、現実は決して上手くいかないこともまた一つ。
「でも―――――」
次にフリージアが言葉を出そうとしたが、アクエリアスが先に話す。
「分かった。君がそこまで言うなら行ってきたらいいさ」
「アクエリアス!?何無責任なことを言ってるの?!もし彼達に何かあったら…」
彼女の不安と違いルークスは何か策があるのか、自信を持って話す。
「大丈夫だ。前にもこんな事があったから、そう心配しなくてもいいぜ」
「彼もこう言ってるんだ。ここは彼を信じよう」
明るいワンピースを両手でぎゅっと掴み、上目遣いになる。
「う〜…分かった…危なくなったらすぐに引き返すんだよ」
「ああ、ステラ、ミルキー悪いな。話を勝手に進めて」
「ううん。私は気にしてないよ。それに私もあの獣人族達が気になってた所だし」
ステラはそれほど気にしてはいないが、それとは対称にミルキーは愚痴を吐くように海を見ていた。
「はぁ…やる気が出ないわ…」
「行きたくなかったらいいぜ。無理についてくことはねえからな」
これは彼自身が勝手に決めたこと、イヤイヤで彼女を無理やり連れて行くわけにもいかない。
「あっそう?じゃあ先にサングレーザーに帰るわね」
サッパリとした感情で言い放つと本当に帰ろうとする。
急いでルークスは彼女の前まで走って止めに行く。
「ちょちょちょちょ待ってくれ!冗談だ!今のは冗談!本気にしないでくれ。ミルキーが居ないとどうしようもねえんだ!頼む!来てくれ!」
さっきの台詞はなんだったのか、言ってることをすぐに変えてきた。
この言葉だと彼女の同行が前提であることが感じ取られる。
彼女にとって身を危険に投じる行為だが何故か、どこか嬉しそうである。
「あ〜あ、結局アタシに頼る気満々じゃん。しょうがないわね…ついてってあげるわ。感謝しなさい」
不意に粘液が飛んできた。
「うわっ!?」
間抜けな声を出しながらルークスは回避する。
ステラが頭の上に乗っているテーベに軽く触る。
「仲間はずれにされたと思ってる」
どうやら不貞腐れていただけのようだ。
「忘れてねえよ。テーベも来てくれるか?」
ぷるぷるっと体を震わせて意思を表す。
「すごくはりきってるよ!」
「よし、それじゃ行くか!」
ルークス達は再びマイヤー湖畔に足を運ぶのであった。




