76.奇襲
クラフト峡谷に着き、アクエリアスと二手に分かれる事になったルークス達。
「こっちもボチボチ行きますか」
「そうですね。それじゃあ出発〜☆」
そう言うとギュイーンと機械音を出して走り出す。
「え?このまま行くつもりなの?」
「ええ〜?だって歩くの面倒じゃないですか~?」
「いやいや、ここ峡谷だぞ。足場が悪い上に落っこちたらどうすんだ!」
ルークスとミルキーの二人が反対するが、それでもお構いなしに走り続ける。
「大丈夫大丈夫。私にまかせなさい☆」
調子に乗ったスピカはさらにスピードを上げて足場の悪い道を駆け抜けていく。
その途中、ガタッと何かが外れ突然と車体が斜めへと傾く。
「あ…」
フリージアが理解したときにはもうすでに遅かった。
道のギリギリのラインを走っていたのか谷底に向かい落下していた。
「わぁぁぁぁ!落ちてるよ~!」
「ちょ、ちょっとアンタどうにかしなさいよ!」
ミルキーにそう言われたがいつも通りの澄ました表情で答える。
「そう焦らない焦らない☆」
その瞬間、落下していた車体は徐々にスピードを緩め、空中で停止した。
「あれ…?止まった?」
目をパチパチとしながら周りを見てみるとフリージアは呆れたふうに喋りだす。
「スピカ。そーいう悪戯は良くないよ」
「えー?別にいいじゃないですか~。皆さんの反応が楽しいし〜☆」
注意されてもまるで反省の色が伺えない。
「こ、コイツ…!」
「落ち着いてミルキー。この子はこういう子なの…だから…ね?」
思わずぶん殴りそうになったがフリージアになだめられて何とか踏みとどまった。
「はふぅ〜心臓が飛び出るかと思ったよ~」
「全くだ」
ルークスとステラがスピカの方を見ながら話す。
「え?そんなに怒ること――――――もごぉ!?」
途中からベチャッ!と粘液の音が響いた。
ぷるぷる……
テーベも怒っていたのか素早く粘液を飛ばしていた。
「おお…いつもより増してすげぇ速かったな…」
「あんな事されたら当然の結果よ」
「う〜!ネバネバしてて取りにくい〜!」
顔面に貼り付いた粘液を一生懸命に剥がそうとする中、ルークスが口を開く。
「1つ質問だけど、連中の居る場所って知ってるのか?ここ結構広いぞ」
空中浮遊している車の窓から見渡す限り、下の方は暗く底が見えなかった。
深さだけではなく、この峡谷自体の範囲もかなり広いものだ。
明確にどこの場所で星導光惑星の連中が待っているのか分からない以上、適当に動くわけにはいかない。
人差し指を立てながらフリージアが答える。
「それなら大丈夫、あいつらから取引の場所を指定してきたから問題ないよ。たしか奥深くのところだったはず」
はぁ…と溜息をこぼし、まだ粘液を剥がしているスピカに視線を移し指示する。
「いつまで遊んでるの?早く下に降りて」
「だってこのネバネバ全然取れないんだもん」
いつも飛ばしている粘液とは違うのか、いつもよりかドロドロとしてて粘度の高い粘液となっていた。
「もういいよ。わたしがやるから」
そう言うとフリージアは運転席にいたスピカをどかし自ら運転をする。
運転を始めると空中で止まっていた車が静かに動き始めた。
スピカとは違い慎重に下降していく。
「かなり深いわね。どこまで続いているのかしら?」
どんどんと下降していき、まるで深海の中を進むように辺りが薄暗く不気味な場所へと変わっていた。
ようやく顔に付いた粘液を剥がし切ったスピカが今までに聴いたことのない真面目な声色で彼女の名を呼ぶ。
「フリージアさん」
「わかってるよ。みんな気を付けて…あいつらはすぐそこにいるから」
フリージアもさっきまでの優しい雰囲気が消え、場の空気がガラリと変わる。
ドスン……
重々しい機械の着陸音が地面に響く。
ドアを開けルークス達よりも早く入り口の前へ移動する。
「私が先に行く、みんなは私の後に付いてきて」
フリージアが先頭に歩き、その後にルークス達が付いていく。
誰も喋らない…静かな時間が過ぎ前方から何者かが話し掛けてきた。
「あらあら…随分と珍しいお友達を呼んだじゃない」
緑髪に黄色と黒のバツ印がついた派手なドレスを着込んだ女性が佇んでいた。
こちらを煽るようにニヤニヤと笑っている。
その隣に仲間なのかもう一人の男、リタースが立っていた。
「コイツらがアレルを…!」
緑髪の女性を睨むようにスピカは身構える。
「へっ、いい感じに睨んできやがるぜ」
何かを期待するかのように笑みを浮かべながら緑髪の女性の前に立つ。
「天核を持ってきてくれたのかしら」
相手の問にフリージアが即答する。
「そんなの持ってきてないよ」
「あらそうなの」
予想通りなのか「ふ〜ん」といいながら女性は横に歩きながら続ける。
「でもいいのかしら?貴方に選択が無いことを教えてあげるわ」
緑髪の女性とリタースが退いた瞬間、その奥に黒髪の少年の姿が見えた。
「アレル!」
彼を一目見て名前を呼ぶ。
しかしアレルは何も反応をすることが無かった。
薄暗く視界が悪かったため、よく見えなかったがよくよくと見て見ると、アレルの手足に黒い鎖が巻き付き拘束していた。
彼の意識がないのか、うなだれたままだ。
緑髪の女性はアレルに近付き、クイッと気を失っているアレルの首を上げる。
「貴方が拒むのは自由だけれど、この子がどうなっても知らないわよ?」
「アレルを盾にするなんて…この卑怯者!」
感情的にスピカが叫ぶがリタースは「ふんっ」と鼻で笑う。
「卑怯も何も人質ってもんはこういう使い方が普通だろ?」
緑髪の女性はステラの方に目を移し観察する。
(ここまでは予定通りね。でもまさか、あいつがここに来てるなんて知らなかった。先遣隊からの情報も無いし……妙ね…)
「まあ、貴方達が素直に天核を寄越すことなんて最初から思ってもいなかっけどね」
「お前らの目的は何だ?」
少々荒らげた口調で言い放つが、緑髪の女性は相手をする気がないのか淡々と答える。
「知る必要はないわ。黙って私の言う事を聞けばいいのよ」
(でも解せないわね。日輪冠ならまだしも、あいつはコイツらにとって大事な存在…そうみすみす手放す筈がない。一体何を企んでいるのかしら?)
「まあいいわ。今の私とても気分が良いから、この子を返してやらなくてもいいわ」
隣で大人しくしていたリタースが突っかかるように割り込む。
「ちょっと待ってくれよユーピテルさん。コイツを返したら俺達の計画が成り立たなくなるぞ」
「ただで返すなんて一言も言ってないわよ」
フリージアは警戒しつつ問い出す。
「何が望みなの?」
クスっと笑いステラに指をさす。
「そこにいる白髪の女…ソイツが持っている日輪冠を渡せば返してあげるわ」
日輪冠と言われたが、ルークスには何のことか分からなかった。
「日輪冠って…ステラ。日輪冠って何のことか分かるか?」
試しに聞いてみると彼女は頭に付けている変わった髪飾りを触りながら答える。
「うん…多分コレのこと…だと思う」
ユーピテルが言うにはステラの付けている髪飾りが日輪冠なんだという。
今まで彼女の髪飾りを触ろうとした事が何度かあったが、全て彼女の堅いガードにより触れることすら出来なかった。
付けている本人自身もよく分かっていないものだが、それでもこの髪飾りを誰にも渡してはならないと本能が叫んでいた。
ステラを庇うようにミルキーは前へと足を踏み込み言い放つ。
「この変なものをとってどうする気よ!」
面倒くせぇと言いたげそうにリタースは答える。
「お前達には関係のない話だ。渡すのか渡せねえのかどっちだ?」
悩んだ末にステラが重い口を小さく開ける。
「これを渡せば…その子を解放してくれるんだよね?」
「ええ、そうよ」
この髪飾りを誰にも渡してはならないと誰かに言われた訳でもない。
日輪冠といわれたこの髪飾りが、どれほどの価値や危険なものであるかも分からない。
しかしその渡してはいけないという本能に従い守ってきた。
まだ確証がないが、これを渡せばアレルは返してもらえるかもしらない。
「だったら…」
彼女は無意識に髪飾りに手を向けて取ろうとしていた。
その瞬間、フリージアに腕を掴まれ制止の声を上げる。
「待って!」
腕を掴まれたステラは戸惑いの表情をだす。
「………」
チラッとユーピテルの方に視線を合わせ確認をする。
「日輪冠を渡せば本当に返すんだよね?」
「そうと言ってるじゃない。私の気が変わらない内に渡した方が賢明よ」
ほんの少し苛立っているのか、わずかだが声に圧がかかっていたような気がした。
ユーピテルと日輪冠を交互に見ながら決意する。
「…………………分かった。でも約束は絶対に守ってもらうから」
この事にみんなが止めるように突っかかってきた。
「ちょっと正気なの?!こんなの絶対に間違っているって!」
「そうよ!コイツらがアタシ達の約束なんて守るはずがないわ!」
「俺もそう思うぜ。よく考えたほうがいい」
全員が反対する中、フリージアは小さく呟くように話す。
「みんな……大丈夫だよ。私を信じて」
3人は黙り込みステラの前に立つ。
「フリージアちゃん……」
「ステラちゃん。日輪冠を私に」
スッと手を前に差し出す。
ジッとその手を見て目を閉じ言う。
「………うん…信じるね。フリージアちゃん」
「ありがとう」
「うふふ…話がついたかしら」
「ええ」
「リタース。貴方が受け取りに行きなさい」
「え?なんで俺が?」
「いいから行きなさい。命令よ」
「はいはい…」
彼女の命令に仕方なく受け取りに行く。
リタースに向かわせている間、フリージアの手に持っている日輪冠を警戒するかのように凝視する。
(あいつらが素直に日輪冠を渡すとは思えないわね。何か策があるとでも言うのかしら。念の為に感知能力のあるリタースに取りに行かせたけど……)
互いが近付き目の前で止まる。
「ほら、さっさと渡しな」
「うん………」
日輪冠を持った手で相手に差し出す。
リタースが日輪冠を手にしようとした瞬間、リタースの顔色が急激に変化し後退する。
「ッ!?」
日輪冠から魚の形をした水の塊が出現しリタースに向かい突進をする。
事前にどう来るか知っていたのかトラップを避ける。
「トラップ!?」
ユーピテルの背後から何者かが素早く接近し攻撃を仕掛ける。
「水影・斬!」
アクエリアスの放った水の影を相手に打ち込む。
「チッ!」
水の影を手で弾き飛ばし、その手で小さな岩を作り反撃しようとした刹那、反対側からレグレスが大剣を構え振り落とそうとしていた。
「逃さん!」
アクエリアスに気を取られ反応に遅れる。
「もう一人!?」
ドゴオォォォォォォォン……!
レグレスの重い一撃が命中し辺りの景色が土煙に塗り替えられていった。
その一方サダルメリクは拘束状態のアレルの元に辿り着き助け出そうとしていた。
「アレルさん。今助けますね!」
アレルを拘束している黒い鎖を手に取ろうとしたが、不思議な事がおきる。
「あ、あれ?ど、どうして!」
掴み取ろうとした鎖が何故かスカッと通り過ぎてしまった。
摩訶不思議な事に頭が追いつかずモタモタしていると不意に話しかけられる。
「良く出来てるだろう?これ…ホログラムって言うんだぜ」
リタースが小型ナイフを取り出し突き刺そうとしていた。
「っ!」
術式を組み込むも、この距離からは間に合わない。
「迅速迅雷!」
二人の間に割り込むように雷撃を放つ。
ヒョイっと身軽にかわされ後退する。
「おおっと危ない危ない」
「外したか…!」
「おお〜怖い怖い。やる気満々ってか? おっと!?」
喋ってる途中に魚の形をした水塊が地面を泳ぐように襲いかかる。
「ちょこまかと…!」
ジグザグに避けフリージア達から距離を取る。
一方レグレスの方ではユーピテルに大剣を振り落とし辺りに土煙が舞っていた。
「さて、まずは一人…」
土煙の中から岩の一部がチラッと見えた。
アクエリアスは何かに気付きレグレスに呼びかける。
「ッ!下がれ!レグレス!」
次の瞬間、土煙の中から鋭利な岩の小さな破片が四方八方に解き放たれた。
「まずい」
フリージアは急いで魔術を発動させ魚の形をした水塊で盾にしルークス達を守る。
飛ばされた岩の破片は速度を増し辺りを無差別に次々と突き刺さる。
「みんな!大丈夫!?」
フリージアの呼び掛けにルークスは返事をする。
「ああ、お陰様でな…助かったぜ」
アクエリアスの魔術によりレグレスとサダルメリクの前に水の障壁を作り二人を守っていた。
岩の破片を飛ばしてきた方向からユーピテルの声が響く。
「全く…随分と荒い挨拶をしてくれたわね」




