08.天才魔術師のアトリエ
「おいひ〜」
食べ物を美味しそうに頬張りながら感想を述べるステラ
王都コーディリア商業区域にあるレストランに来ていた。今は昼間のせいか人が多い。
「いや〜 ミラが無くてヤバかったんだわ。助かったぜミルキー」
感謝を述べる黒髪の男、ルークスは料理を口に運ぶ
テラスにある木製の丸テーブルに3人が囲むように座っている。パフェをモグモグしながらエルフの少女ミルキーが話す。
「あんたらよくこんな少ないミラでここに来ようと思ったわよね?」
「行きあたりばったりだったしな」
「ふぅ~ん? まぁアタシには関係ないから、どーでもいいけど」
次から次へと甘いものを平らげているステラを様子を見る。
「‥‥アンタ よくそんな甘いもんばかり食えるわよね?」
「ん? だっておいしんだもん」
「アタシにはできない芸当ね‥‥さて、そろそろ本題に入っていいかしら?」
ミルキーはきりのいいところに本題へはいる。
ルークス達がここまで来た理由‥‥ステラの記憶のこと、ステラの持つ能力のこと、それらを聞くためにコーディリアまで来たのだ。
「最初に断っとくけど、その子に関しては知らないわ。あと術を確認したからっと言ってその子のことが分かるわけじゃないから そこんとこ勘違いしないでよね」
「え?そうなのか?天才魔術師って豪語するぐらいだから分かると思ったんたが」
ルークスのボケた発言に呆れるミルキー
「天才魔術師様でも分からないことぐらいあるの 寧ろそっちのほうがいいわ、研究しがいがあるもの」
「けんきゅう? まじゅつの?」
「そうよ、まぁどちらかと言われると星のエネルギーを研究してるのよ‥‥て、今はそんなことどうでもいいわ 早速だけどステラ アンタの治癒術とやらをやってみて頂戴」
「やだ」
即答である。
怒りのボルテージが上がったのか少し強めの口調になる
「アンタ、人の話聞いてた?! 治癒術やってって言ったよね!?」
しかしステラは怖気づくこともなく堂々と否定する。
「イヤなものはイヤ」
「こんのぉ‥!」
手を出しそうなミルキーを止めに入る。
「まぁまぁ、何が嫌なんだ?」
「しんどいからイヤ」
「しんどい? 体調が悪くなるのか?」
「うん」
このやり取りを聞き静かに思考を巡らせる。
(しんどい‥ね これだけだと何とも言えないわね‥‥身体に負担を掛けるタイプの術かしら?)
「ちょっと質問いい?」
「なに?」
綺麗な瑠璃色の瞳で見つめる
「アンタの魔術星導光ってどこにあるの?」
「う〜?」
質問の意味が理解していないのか反応が薄い
ルークスが割り込む
「あー ミルキー? ヒマリアから聞いてないか? ステラが記憶喪失ってこと」
「は? そんな話聞いてないけど?」
あいつ重要なところ話して無かったのか‥‥
「ルークス?どーゆこと?」
「えーと、つまりだ‥‥ステラ‥何か適当なものつけてないか? 例えばネックレスとか指輪とか」
するとステラは自分の体を調べ始める。頭から腕へ
次に手を確認する
‥‥あきらかに怪しいものが一つある。
「ずっと気になってたんだが、頭につけてるソレ 怪しくないか?」
ステラの頭に右前あたりに小さな月と星のオブジェがあり、銀色の変わった円盤が土台となっている。
しかし、ミルキーは否定する。
「たしかに見た目は怪しいけど これは違うわ」
(でもこの髪飾りから 不思議な力を感じるけど‥‥気の所為よね?)
「ソレずっと付けてるよな、寝てる時もそうだったし ちょっと触ってもいいか?」
「だめ!」
髪飾りを守るような姿勢をとり拒否する。
「これは大切なもの‥‥さわっちゃだめ」
じ〜っとこちらの様子を伺う
「これじゃ何も分からないままよ」
(でもこの子から魔術星導光の力を感じないよね‥‥一体どういうこと?)
ミルキーは溜息をつき次のてを考えているとステラが何やら思い詰めた表情をしポツリと言う
「パンツ‥‥」
「は?」
「パンツ‥‥脱げばいいの?」
「どうしてそうなる‥」
急に変なことを言いだし困るルークス
「だって身につけてるもの‥服と下着しかないもん」
恥ずかしそうに身をよじりながら話す
「アンタばかなの?! そんなところに魔術星導光があるわけないじゃない! もし仮にあったとしてもこんな場所で調べたりしないわ」
「一応調べるんだな‥‥」
「もういいわ‥行きましょ」
ミルキーが話し終わると席を立ち会計を済ませる。
「ちょっとまてよ どこに行こうってんだ?」
彼女の焦茶色の髪をゆらし答える。
「アタシのアトリエよ! ついてきなさい!」
★
ルークス達はレストランから出て中央区へ足を運ぶ。
入口の広場よりも広く真ん中に大きな穴が空いており、巨大な噴水が水飛沫をあげている。
周りには住居や店など色々とある。
行き交う人々が意外と少ないことに気付く。
「ここが中央区よ。ここにアタシのアトリエがあるの」
目の前に豪華な2階建ての家が建っている。周囲の家と比べて明らかに浮いている。
「すごくおおきい‥‥!」
「あんたは貴族かなんかか?」
「んなわけないでしょ。入っていいわよ」
玄関の周りには、何やら変なオブジェが置いてある。
ミルキーが扉を手に掛け中へ入っていく。中は綺麗にされており、フローリングの色は暗めで壁も床と合わせて落ち着きのある空間となっている。
「へぇ〜、なかは思ったより綺麗だな てっきり散らかしっぱなしだと思ったよ」
「アンタ、アタシをなんだと思ってるの?」
「ミルキー! みてまわってもいい?」
「いいわよ、あ でも物には触っちゃだめよ 危ないからね」
ステラはミルキーの確認をとると一階のある左部屋から入る。
二人も後をついていきながら話す。
「そういえばアンタら泊まる所決まってるの?」
これは痛い質問‥なんせ今のルークスにはミラが尽きてしまっている。
「‥‥なんとかするさ」
「なんともならないよね?そのパターン」
ハァと小さく溜息をはき仕方がないと言わんばかりかルークスに提案を持ち込む。
「もしアンタらでよかったらなんだけど、しばらくここに泊まったら?正直アタシが使ってる部屋は一階のアトリエと二階の一室だけだしね」
これは美味い話だ、たが何か裏がありそう‥
「‥‥なにを企んでいる?」
怪しい目つきで相手を見る。
「失礼ね!何も企むわけないでしょ! 安心しなさい。別にヤバイことはやらせないわよ軽めのことよ」
見回りに飽きたのかテチテチとこちらに戻って話し合いに交ざる。
「なにはなしてるの?」
「これからのことさ、で?条件はなんだ?」
「アタシの助手になりなさい‥これが条件よ」
「は?助手?言っとくが俺は星導光に関してはそこまで詳しくねぇし何もできねぇぞ?」
今では星導光が当たり前のように日常生活に欠かせない道具だがルークス自身はその中身をあまり理解していない。
「別に星導光を弄れーとか言わないわよ アンタにしてもらうのは魔物の素材を取ってもらうか、簡単な買い物程度‥‥要は雑用係ね」
「ん?そんなもんでいいのか?」
「ええ、逆に出来ない事をアンタに押し付けても失敗して後片付けが大変だし それぐらいでいいわ で?どうするの?」
(本当はこの子が頭につけてる髪飾りが気になっただけなんだけど)
「なんだかたのしそう」
ステラは目を輝かせながらこちらを見る。
「まぁそうだな ここ以外行く所がねぇしな あんたの助手になるよ」
「話が早くて助かるわ 今日はもう疲れたと思うし休んでいいわ 明日から働いてもらうわよ」
「よ〜し がんばるぞ~!」
「頑張るのは俺なんだけどな」
気合いを入れるステラを横目に見るルークスであった。