73.天核
プルートを蹴り飛ばした犯人にルークスはその名を口にする。
「フリージア!?」
菜の花色の髪を揺らしながら近付いて心配の声を出す。
「みんな大丈夫だった?このガチクズサイテーな人間さんに何かされなかった?」
テクテクとフリージアの元へ歩み寄る。
「やあ、フリージア。君がここに来たということは話してくれるって事でいいんだね?」
「アクエリアス…うん。ごめんね…」
「謝らなくてもいいですよ。フリージアさんの事は私達がよく知ってますので。ここで話すのもあれですので中に入って下さい」
ステラは?顔になりつつサダルメリクの服の袖を引っ張り尋ねる。
「……メリー?この人だれなの?」
「あ、ステラさんは初めてでしたね。この人がフリージアさんですよ」
ステラに近付き握手をしながら挨拶をする。
「あなたがステラちゃんだね。私はフリージアよろしくね」
「うん。よろしくね」
挨拶した直後にフリージアはステラの事をジーッと見始める
「………」
その様子にレグレスが聞く。
「どうした?こいつなんか見て?」
「ううん。なんでもないよ。それよりも早く行こ?」
気を失ったプルートを放置し、家へと戻る。
広い食卓の場所に全員がそろい、改めて話を切り出す。
「それでフリージア。早速で悪いけど、今まで僕達を避けてきた理由を教えてくれるかな?」
アクエリアスが最も聞きたかった事を尋ねる。
少し顔を下げて間を開け話し始める。
「うん。一週間前ぐらいの事なんだけど…私はクロイツ海岸の周辺にアレルと一緒に来ていたの」
とぼけた顔でルークスが聞き返す。
「アレルって誰だ?」
馬鹿にしたようにミルキーが説明をする。
「アンタって記憶力が悪いのね~。ほら覚えてない?ちょっと前にコイツらが言ってたでしょ?」
ステラは悩む素振りを見せながら話す。
「ええーっと…アレルって確かフリージアちゃんの友達だよね?」
「へえー、アンタにしては珍しく覚えてたのね」
褒められて嬉しかったのか視線を外しにこやかに笑う。
「えっへへへへ〜♪」
二人のやり取りを側にフリージアは続ける。
「それでしばらくアレルと一緒に散歩してたら、いきなりあいつらが襲ってきて……」
「あいつら?」
ルークスの疑問にレグレスがボソッと答える。
「星導光惑星か」
星導光惑星…ルークス達が初めてサングレーザーに近付いた時に出会った黒ずくめの連中のことだ。
彼らの事はルークス達にとっても、良く無い印象を持っている。
「うん…いきなりの事だから私なにも出来なくて…そしたらアレルはボーッとしてる私を庇ってくれて…」
じわじわと顔を下げて暗くなっていく彼女にステラは質問をする。
「アレルはどうなったの?」
「あいつらに連れて行かれたよ」
アクエリアスは何か引っかかるところがあったのか納得のいかない顔つきに話す。
「人質か…でもそれだけじゃないだろう?君の実力だったら、その時点でどうにも出来たはずだ」
「あの時は気が動転してて冷静じゃなかったの。それにあいつらは事前に計画を立てていたのか知らないけど、手際よく襲ってきてたから…」
アクエリアスからしたらフリージアの実力はそうとうなものらしい。
しかし、その実力があっても彼らには出し抜かれてしまったようだ。
「なるほどね。それでアイツらから何か言われてなかったかな?」
「確かアレルを連れて行った薄緑色の女の人に、こう言われたの…「この子を返して欲しかったら一週間後に天核を持ってきなさい」って」
聞き慣れない名前にミルキーが突っ込む。
「天核?なによそれ。初めて聞いたわよ」
素早くアクエリアスが答える。
「濃密度の高い生体エネルギー…簡単に言えば星核の上位互換だね」
関心したふうにステラが喋る。
「ふーん。ところで星核ってなに?」
ミルキーは呆れてものも言えないのか、開いた口が塞がらない。
「アンタも大概ね…星導光を動かすのに必要な物。心臓みたいな存在よ」
星核は星導光を動かすのに必要な機関。
星導光はその星核の力を利用し、この星コラプサーにある星のエネルギーを取り込み、そしてそのエネルギーを星導光内部で光星エネルギーへ変換する。
変換された光星エネルギーは様々なエネルギーに変わり人々の生活の手助けとなっている。
「天核…あんなものを集めて何を企んでいる?」
レグレスが深刻そうな雰囲気をだしているせいか、ルークスは心配になりながら聞く。
「よく分かんねえけど天核ってのはそんなにやべぇやつなのか?」
その問いにサダルメリクが話を始める。
「ルークスさんは守護星導光の事をご存知ですよね?」
「ああ、魔物の侵入や物理的な攻撃を防ぐ星導光の事だろ」
今の所ルークスが知っているのは王都コーディリアにある巨大な守護星導光とその付近にある迷いの森方向の小さな守護星導光の二つだけだ。
「はい。守護星導光はその巨大な力で人々は安全な街の中で生きています。しかし、これ程の力を制御しようとすると、星導光に過負荷をかけてしまいます」
補足するようにレグレスが話す。
「厳密に言えば星導光の星核に力が集中する。そしてその力に耐えきれなくなった星核は内部分解が起き爆発を起こす。それを防ぐために天核が必要だ」
首をコクコクと頷きながらテーベを撫でる。
「ふむふむ、なるほど」
「アンタ理解できてんの?」
「ぜんぜん!」
予想通りの回答にミルキーはもう何も突っ込まず理由を聞く。
「あ〜そう。それでなんで天核とやらを狙ってきてるわけ?」
アクエリアスが圧をかけるように真面目に話し出す。
「さっきも言ったけど、天核は濃密度の高い生体エネルギー。言い換えれば莫大な力の塊なんだ。今は守護星導光しか使用されてないけど…もしこれを兵器に運用されたらどうなるか…分かるよね?」
「おいおい、アイツらはそんなもん造ってどうするつもりなんだよ。戦争でも始める気なのか?」
ルークスが嫌な方向の話をすると、さっきの真面目さがなんだったのか笑い飛ばしながら答える。
「あははは、ごめんごめん。君達を煽るつもりで言ったんじゃないよ。実際のところ、星導光惑星の連中は何の目的で天核を求めてるのかは僕達も知らないんだ。ただひとつ言えることは、天核をよくない方に使う事はたしかだね」
ジトーっとした目つきでミルキーを捉える。
「……ミルキーがウソついた」
「は?」
「だってテーベちゃんを拾う前に言ってたよね?守護星導光に星核があるって…本当は天核なのに…」
どういった感情なのか、少し体を震わせる。
「うぐぐ……ホンットあんたってそういうくだらない事だけは記憶がいいのね…仕方ないじゃない…アタシも知らなかったんだし」
サダルメリクはわざとらしく咳払いをして話に切り出す。
「こほん。少し話が脱線しましたね。フリージアさん、その女の人は何処に持って来てと言ってたか覚えてます?」
「クラフト峡谷だよ」
その場所を聞いて少し考え込むアクエリアス。
「ふーむ……クラフト峡谷か…。これは僕の勘だけど、もし仮に天核を持っていっても恐らく星導光惑星の連中は素直にアレルを返してくれないと思うよ」
「ふにゅ?どうしてなの?」
「場所がね…正直に言って天核目当てならサングレーザーの近くにでもやればいいだけのこと、だが奴らは何故か危険と言われてるクラフト峡谷を指定した。あそこは凶暴な魔物に足場が不安定な場所だ。不慮の事故も少なく無い…それにクラフト峡谷はサングレーザーからかなり遠い場所にある。奴らにとっても危険な場所の上に移動にも手間のかかる事までしてそこを選んだ。きっと何か企みがあっての事だよ」
彼の推測に焦りが込み上げてくる。
「じ、じゃあ私どうすれば…!」
「そう焦らない。僕に考えがある…でもその前に伝えたいことがある」
そういうとアクエリアスは立ち上がり、そばにあった棚に手を伸ばし何かが入った袋を持ち帰りルークスの方を見る。
「ルークス、君にこれを」
「うん?これって…!」
手渡された袋の中身を確認すると中には大量のミラが入っていた。
「そう、手伝ってくれたお礼だよ。遠慮せずに受け取ってほしい」
「これは遠慮なく貰うが…まだ解決したわけじゃ無いよな?」
大量に入ったミラ袋を握りしめ、まだ解決していないことに聞き出す。
「まあね…でも、ここから先は僕達の問題だ。君達が突っ込むべきところではない」
「でもよぉ…」
流石のルークスでもフリージアから聞き出すだけで、この後あからさまに何が起きようとする彼らを放っておくことに抵抗があった。
このことにレグレスも賛成なのか、自分たちの事を早めに忘れさせようとする。
「気持ちだけもらっておく。心配せずとも貴様らを巻き込むことはしない。このことは早く忘れてコイツの記憶を探しに行くといい」
しかし、彼らの言い分にステラは黙っていなかった。
「やだ」
「ええーっと…人の話を聞いてましたか?」
「そんなのやだ!」
サダルメリクの声をかき消すように声をあげる。
「ステラちゃん…?」
「だって、やっとアクエリアス達と仲良くなったんだよ?ここで別れるなんて絶対いや!」
「君の言い分も分からなくもないけど…でもこれは遊びで行くわけじゃないんだよ」
「アクエリアスは私に言ってたよね。目の前に困ってる人を無視する人じゃないって、それにアクエリアスもレグレスもメリーもフリージアも…アレルも私にとって大事な仲間だもん!ここで知らないふりして逃げるよりも、貴方達と一緒に戦って笑顔で終わらせたいの!」
「……………」
ステラの覚悟に各々が面食らい黙り込む。
静まり返った空間にミルキーが第一声をあげる。
「はぁ〜は、な〜に一人でカッコつけてるんだか…アタシもついて行ってあげるわ。アンタ一人で行かせたら危なっかしくて見てらんないし。で?アンタはどうすんの?」
「そんなの俺にいちいち聞くことじゃねえだろ」
当然と言うばかりか、ルークスも覚悟を決める。
「俺も行く。ステラを一人に出来ねえからな」




