71.忌々しい記憶
「お、いたいた」
あれから約数週間が経ち、気が付くとスライムのいる場所まで毎日足を運んでいた。
「ほら、お菓子だよ」
今日もいつも通りに家から持ってきたお菓子をあげていた。
「あははは。そう焦らなくてもお菓子は逃げないよ」
初めてこのスライムと出会ってから何となく分かった事が何個かあった。
ひとつ、人を襲わないこと、毎日時間が空いている時にスライムと遊んでいるが、一度もプルートを襲う素振りを見せなかった。
最初のプルートを包み込んだ行動に関しては未だに分かってはいないが、このスライムと仲良くなり一緒にいる時間も長くいる所為か、プルートにとっては些細な事だと思っていた。
ふたつ、このスライムは何でも食べる。
人間が食べるものから、そこら辺にある雑草まで食べれる範囲はかなり広いようだ。
最後に3つ目、人間の言葉を理解すること。
いや、厳密に言えば理解しているかもしれないことだ。
あれからプルートは、このスライムに無駄だと分かりながら独りでに話し掛けていた。
普段は特に変化は無いが、食べ物を持ってきた時の反応は凄まじいものだった。
そこでプルートはダメ元で「まて!」と犬を躾けるように言った。
そういうとスライムは静かに待ち始めたのだ。
この瞬間プルートは確信を持った。
人間と魔物は共存できるのではないかと。
しかし、そう思い始めてからのものの、最近プルートの行動に不審がっていた姉はコッソリと彼の跡を追いかけいたのだ。
そして遂にプルートが一人で魔物に会っていることがバレてユースは父に報告し、この日はこっぴどく叱られた。
だが1回目ということもあってか、そこまで厳しく言われはしなかった。
この程度でプルートはスライムに会わない理由にはならなかった。
当然このような行動をしていれば、またユースにバレて家族にこのことを知られる。
もう少しコソコソと動くべきだったと思った時はすでに遅く、そして現在、再び父に叱られ村の外へ行くことを禁じられ仕方なく部屋へ引きこもっていた。
「スライム大丈夫かな…?」
ベッドに寝転がりながら、あのスライムの事を心配する。
「今日は出れそうにないし、明日どうにかして行かないと…」
夕方ということもあり、今日こっそりと一人で行くのは危険だ。
それに家族の監視の目がより一層厳しくなり、明日も見つからずに行くのは困難だろう。
ふわぁ〜っと欠伸をだすと眠気が強まってきた。
「色々あって疲れたし、もう寝よ」
深夜ぐらいだろうか、プルートが起き上がる程の強い地響きのようなものが家中に響き渡った。
「…えあ…?何?」
飛び起きたプルートだが寝ぼけているのか、状況が全くついていかずにいた。
「熱っ!?な、何?!」
何故か部屋中が熱いことに気が付く。
その熱さと村中から聞こえる悲鳴でプルートの頭は一気に目が覚める。
急いで窓から外の様子を見てみるとそこにはありえない光景が広がっていた。
「…なんだよ…これ…?!」
なんと魔物達が村に侵入し人間を襲っていたのだ。
村中の火の手がまわり、家も畑も魔物達によって無惨な姿に変わっていた。
「!」
プルートは急いで階段を下り家族が無事なのか居間へ行く。
「あ……」
居間に辿り着く前に玄関にあるものが目に入り思わず止まってしまう。
魔物達はその何かを取り合ってるのか、まだこちらに気付いていないようだ。
プルートはその取り合っている赤黒い塊を呆然と見ていると、ある事に気が付いてしまう。
「お、お父さん…お母さん…!」
その赤黒い塊に見覚えのある顔を覗かせた
それは父と母であったものであろう無惨な姿だった。
「…………」
声が出ない。心の底から恐怖を感じていた。
悲鳴を出すことも逃げ出すことも出来ず、ただただ両親が魔物に喰われていく姿を見ることしか出来なかった。
「プルート!」
誰かが呼ぶ声がした。その声がする方向に視線を移すとそこには血まみれになったユースの姿だった。
「……お姉ちゃん…?」
「なにボーッとしてるの!はやく逃げるよ!」
呆然とするプルートの腕に掴み無理やり引っ張り出す。
ユースの声に反応した魔物達の何匹か子供の二人に襲い出す。
「お姉ちゃん…僕…僕…!」
「今は何も考えないで!ここから離れる事だけ考えて!」
魔物の攻撃をなんとか躱し家から飛び出る。
しかし村の悲惨な姿にプルートは絶望する。
どこも血塗れになっており、恐らく人間だった赤黒い塊からは腐った鉄のような臭いが村中に広がっていた。
涙目になっているプルートを引き連れて村の外へ目指し走り抜く。
「はぁはぁ…!お姉ちゃん…もうダメ…!」
なんとか村の入口付近まで来れたが、プルートはもう走れないのか息切れを起こし立ち止まってしまう。
「無理でも走るの!」
プルートの手を引っ張り無理にでも走らせようとしたが…
「ッ!」
二人の目の前には魔物達が待ち構えていた。
「ひッ!?ま、魔物…!」
「どうにか…どうにかして逃げないと…!」
後ろからも魔物が来ているのか、ズシンズシンと地響きを渡らせながら近付いて来ている。
「待ってお姉ちゃん!ほら、あそこ…」
そういうとプルートは指をさし、さされた方向に目を向けると、そこには見覚えのある魔物がいた。
「あのスライムだよ!僕達を助けに来てくれたんだ!」
絶望の中から希望の光が差し込んだかのように、プルートはその光にすがるようにそのスライムを見つめていた。
「プ、プルート……何を言ってるの…?あれは魔物よ!私達を殺しにきたのよ!」
ユースの言っている事が最もだろう。
しかし、プルートは姉の言葉よりもスライムの事を信頼していたのかユースの言葉を否定する。
「違うよ!あのスライムは僕達を守りに来たんだ!」
「ちょっと待って!」
ユースの声を振り切り、前へと足を踏み出す。
「ねえ、そうだよね?君は僕の友達だよね?」
スライムもプルートの声に反応したのか、こちらにゆっくりと近付いて来ている。
「プルートッ!」
ユースが声を荒らげる。
「え?」
気付いた時にはスライムが体を限界まで伸ばしプルートを襲おうとしていた。
その瞬間、ユースはプルートを力一杯に突き飛ばし、一言だけこう言った。
「逃げて」
ドシャ!
粘液が地面に落下する音が響いた。
村中に響く悲鳴、魔物達のうめき声…どれも耳を塞ぎたくなる音が鳴り止まない状況で、この粘液の音だけが強調されたかのように聞こえていた。
「………………あ……」
スライムに包み込まれたユースは苦悶の表情を浮かべ苦しそうにジタバタと抵抗をする。
「お、お姉ちゃん………」
抵抗していたユースに変化があった。
彼女が着ていた服が溶け始めていたのだ。
服だけじゃない…彼女の肌をよくみると赤く炎症を起こしていた。
「あ…………あ……」
やがて彼女の動きが鈍くなり、炎症していた肌からは真っ赤な血がにじみ出て、スライムの体全体に赤く染まり始めた。
この瞬間、プルートは理解してしまった。
ユースが殺されたことに。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
親を殺され姉も殺された。
プルートはただただ叫ぶことしか出来なかった。
★
「ッ!」
ベッドから起き上がる。
辺りを見渡すと、誰もおらず一人で横たわっていたようだ。
「……チッ……夢か……」
先程の事を夢だと認識すると苛立ったように頭を抱える。
「はぁ……なんであの時のことなんか………」
「………イライラする」
立ち上がろうとすると全身に痛みが走る。
「ッ……派手にやられちまったな」
昨日あれだけ派手にやられたのだ。いくらプルートといえど暫くは休んだほうがいいだろう。
「まあ、どうということはないな」
痛みに堪えながら誰もいない空間で呟く。
「少し早いが…そろそろ行くか…」
そう言うと部屋から出ていき今一度、自身の信念を再確認し、あの場所へと出発する。




