67.悩み
クロイツ海岸から彼女を連れ出す事に成功し、サングレーザーの広場まで戻ってきていた。
「ようやく着いたか。まずは展望台からだったか。さあ行くぞ」
「なんだか腹が立つ…」
さっきまで喧嘩をしていたのか、プルートが仕切る度にフリージアは苛立ちを見せていた。
「あれ?」
不意にミルキーの足が止まる。
「どうしたミルキー」
何かあったのかと思い尋ねると、怪訝そうな表情に彼女は、ある場所に指をさし答える。
「いや……ここってこんなに枯れてたのかしら…?」
その示された場所はレグレスと出会う前に見た半分枯れていた四季連花のあった場所だった。
あの時は1つだけ半分枯れていたのだが、今見てみると3つの四季連花が黒く枯れていた。
心なしか3つ以外の周りにある花も萎れている気がした。
「そういやそうだな……もっとこう…生き生きしてたっていうか…」
ルークス達が四季連花の異様さに気を取られている間、フリージアは聞こえない声でポツリと話す。
「もうこんなに……」
彼女の様子に気付いたミルキーは声を掛ける。
「フリージア?」
ハッとしたように振り返り急いで返す。
「う、ううん…なんでもないよ…それよりも展望台にいこう」
★
「着いたぞ」
プルートは疲れてたのか、そう一言いうと空いている椅子に腰を下ろした。
丁度椅子は4人分あり、木製の丸テーブルが置かれている。
椅子とテーブルは白色を基調としていてテーブルの真ん中には日光を遮るためか日傘が差されていた。
「もう昼過ぎだけど、あんま人がいないのね」
「展望台といってもただ景色を眺めるだけの場所だからな。それに最近サングレーザー周辺にある草木が枯れるといった妙な事も起きてるし余計に来なくなってるんだろう」
プルートとは反対側の椅子にルークスが座るとミルキーが喋りかけてきた。
「アタシとこの子で何か買ってくるから何か欲しいものある?」
お腹は空いてないが食欲は湧いていた。
何故なら展望台にある屋台から美味しそうな匂いが漂っていたからだ。
「適当なもんでいいぜ」
「俺は【薔薇のひととき】で頼む」
プルートはふざけてるのか分からないが変なポーズをとりながら変な名前を言い出した。
「アンタ、ふざけてるの?真面目に答えないとぶっ飛ばすわよ」
握り拳をつくり一歩でも間違えると、そのまま殴ってきそうな意気よいで問い詰める。
しかし、プルートは焦ることなくフンッと鼻で笑い続けて話す。
「お前しらないのか。サングレーザー名物の饅頭…薔薇のひとときを」
何を言っているのか理解できない。そもそもそんなふざけた名前の饅頭があるのかと疑う。
「はぁ?マジで言ってんの?嘘じゃないわよね?」
「ミルキー。このサイテーな人間さんはウソついてないよ。薔薇のひとときっていう変わった饅頭は本当にあるんだよ」
フリージアからの話からすると本当の事らしい。
嘘じゃない事が分かるとプルートはわざとらしくニヤつきながら話し掛ける。
「ほら、嘘じゃねえだろ。なあ、暴力エルフさんよぉ…俺に何か言う事はないか」
「はぁ?なにがいいたいのよ…」
「そんなの決まっている……土下座だ…さぁ――――」
話している途中、突然プルートの言葉が途切れた。
「たりぁぁぁぁぁ!」
「ごふっ!?」
なんとフリージアの強烈な蹴りが炸裂していたのだ。
「女の子に土下座を強要しようとするなんて……やっぱりサイテーな人間さんです!」
怒り心頭の彼女は、今の蹴りだけでは物足りなかったのか、その場でピョンピョンと飛び跳ねもう一発、強烈な蹴りを繰り出そうとしていた。
「おいおい…ここまでやる事なかったんじゃないか」
ルークスが止めようとすると彼女はキリッとこちらに視線を向けて指をさしながら答える。
「あなたも、このガチクズサイテーな人間さんの味方をする気ですか!?じゃあ仕方ないですね…あなたにも強烈の蹴りを入れてやらないと…」
「ちょっと待て!落ち着け!そういうつもりで言ったんじゃないって!」
「うわぁ〜…必死ね〜」
ミルキーは口元に手を添え、どこか楽しげにする。
「そんなことより早く行かなくてもいいのか。俺もう腹ペコペコだからさ」
焦っているのか少々早口に伝える。
「む…それもそうだね。じゃあ今から行くから二人はここで待ってて」
何事も無かったかのように切り替えて食べ物を買いに歩いていった。
「ああ…」
彼女の切り替えの早さに呆然とする中、プルートはテーブルに手をガタッと体重を乗せて立ち上がる。
「……あのガキ……思いっ切り蹴りやがって…!」
「大丈夫かー。宵闇の皇帝さんよ?」
「チッ…この程度どうということない」
とは言ってはいるが、お腹を支えながら痛そうにしている。
「なあプルート。さっきの話なんだが…」
ゆっくりと椅子に座り話を切り出す。
「さっきの話…?ああ…四季連花のことか?」
「そうそう。草木が枯れてきてるって言ってたよな。それってよぉ、大袈裟に言ってるだけじゃないか?ちょっと悪く言うけどよ、そこらにある植物が枯れた程度で何か起こるわけでも無いだろ?」
「普通の草木だけならな。お前、四季蓮花についてどこまで知っている?」
四季連花…以前ミルキーから基本的な情報だけだが教えてもらっている。
「確か寒さと暑さに強え水面に浮いた植物の事だったか?」
「そうだ。あの暴力エルフが言っていたが基本的に寒さや暑さに強い…水面が凍ろうが100℃を超える熱湯になろうが枯れることはない。それほど丈夫な水生植物なんだ」
ルークスが想像していたものよりも遥かに丈夫な植物のようだ。
「へぇ〜。じゃあなんで枯れてんだ?そんなに丈夫な植物なら早々に枯れることはねえと思うが…」
「この丈夫な四季蓮花に弱い部分がある。ヒントはサングレーザーだけに咲いてるという事だけだな」
「サングレーザーだけ……緑溢れる国……うーん……」
「………」
プルートが黙って見守る中、ある一つの答えがルークスの頭に浮かんだ。
「……あれか?空気とか水が綺麗ていうことか?」
「そうだ。四季蓮花は丈夫な花として知られているが、その一方で汚染された水や空気に対してめっぽうに弱く、ほんの少し触れただけで黒ずんで枯れてしまうらしい」
汚染という良くない単語が出てきたが、そもそもサングレーザーに汚染された水や空気なんてものは今の所ルークスが感じた事は無かった。
「汚染って…でもここの空気も水も綺麗じゃねえか。どういうことだよ」
「俺に聞かれても知らん。だがある程度犯人は浮かんでいる。憶測だがな」
プルート自身も分かってはいないが、それに関係するような人物を知ってるような口振りをする。
「一体何なんだ?」
その犯人が気になり聞いてみる。
「それはな―――――」
「今戻ってきたよ。ガチクズサイテーな人間さん」
プルートが言おうとしたタイミングで、屋台から、買い物を済ませたフリージア達が帰ってきたようだ。
彼女達の手には薔薇やクレープなど、美味しそうな匂いを漂わせたものを持っていた。
「ふん…まだ根に持っていたか…しつこい幼女だ」
「むっ……まあいいです。わたしはあなたのようなガチクズサイテーな人間さんと違って大人だから聞かなかったことにしてあげる」
「チッ……そんなことよりアレを買ってきたんだろうな」
「はいはい、これよ」
ミルキーが持っていた薔薇をプルートに渡した。
「薔薇のひととき!サングレーザーといえばやはりこれだな」
「なんか…これ…食いもんなのか?薔薇にしかみえねえが…」
清々しい程の真っ赤な色をした薔薇…いや、饅頭か。
これが饅頭で出来ているとは今見ても信じられないものだ。
「アタシも驚いたわよ。こんなものがあるなんてね。はい、アンタはこれよ」
「ん?これは…クレープか?」
ミルキーから渡されたものは、どこにでもありそうなクレープだった。
「他にも色んな種類が売ってたけど、無難なものにしといたわ」
逆に変な物を買ってイマイチという事も起こるかもしれない為、ここは無難なものを選んだようだ。
口に出さないもののミルキーなりの気遣いをしている。
「じゃあ、みんなで一緒に食べよう」
「ああ、そうだな」
ミルキーの合図に皆が食べ始める。
「ん〜♪甘くて美味しいわ〜」
「普段からクレープなんて食べねえけど…こりゃあ美味いな」
三人がモグモグと食べる中、フリージアは口につけずうつむいたままボーッとしていた。
「…………」
薔薇のひとときを鑑賞しながら食っていたプルートは彼女の様子に気付き声を掛ける。
「どうした?元気がないようだが」
「ガチクズサイテーな人間さんに関係ないよ」
まだ根に持っているのか…と思いつつ「ふんっ」と鼻で笑い薔薇のひとときを食べ始める。
「そういえばアンタって、なんで一人であんな所にいたの?」
「………考え事してて…」
「悩み事か?せっかくこうやって話せてるんだし聞かせてくれないか?」
「…………」
再び黙り込んでうつむき始める。
「どうした?話したくないのか?」
ルークスの問に答えたくないのか逆に質問をする。
「たしかルークスとミルキーってアクエリアスと一緒にいたよね。もしかして私の事を調べようと話し掛けてきたの?」
「そそそそそんなわけないじゃない…………ね?」
動揺しまくりのミルキーは助けを求めるようにルークスをチラチラ見る。
しばらく黙り込み諦めたように答える。
「……そうだ。俺達はアクエリアスに頼まれて、お前の悩みを聞き出しに来た」
ルークスは何を考えていたのか、あっさりとバラしてしまった。
「や、やっぱり…!」
ガタッと椅子から立ち上がり、ルークス達から少し距離をとる。
「ああもう!なんでバラしたのよ!これじゃあ聞けなくなったじゃない!」
ダンッ!と両手でテーブルを叩き怒りをあらわにする。
反省してないのか頭をかきながら苦笑いを浮かべ答える。
「わりぃ。やっぱ俺にはこういうのは向かねえんだ」
「お前達、さっきから何の話をしている?」
素朴な疑問に苛立つように返す。
「アンタに関係ないわよ」
「ふん…まあいい。お前達の事情などどうだっていいからな。そんなことより早くあのスライムの居場所を教えてもらおうか」
「ガチクズサイテーな人間さんは黙ってて!」
「チッ……」
軽く舌打ちをし大人しくする。
フリージアは目を瞑り黙り込む。
「………」
「嫌なら無理に答えなくてもいいんだぜ」
「……うん…今日はもう帰っていいかな?考える時間がほしいから」
「別に構わねえが…大丈夫なのか?」
「うん…ルークスが素直に話してくれたから…私も…それにみんなにこれ以上、迷惑かけられないから…。二人ってどこの宿に泊まってるの?」
「アクエリアスのとこよ」
意外な人物に驚く。
「あ、そうなんだ。あの人が…珍しいね。じゃあ明日の朝、私がそこに行くからアクエリアス達と一緒に待っててもらえるかな?」
「ああ、いいぜ」
「うん。じゃあまた明日!」
最後は元気よく手を振りルークス達の目の前から去って行った。
「気を付けて帰るのよ」




