64.蠢く影
ルークス達がアクエリアスの拠点で休めている間、サングレーザーから少し外れた峡谷に怪しげな2つの人影があった。
「さてさて、これからどうしたものか…」
鉛色の髪にしわくちゃだらけの服装をした男が呟く。
「順調か?リタース」
背後から別の男に話し掛けられて、リタースと呼ばれた男は振り返らず言葉を返す。
「まあボチボチってとこかな〜。あとは上手い事おびき寄せばいいんだが…」
「狙いはあのガキか?あの小さい子供相手なら、オレひとりでも行けそうな気がするが…」
「流石に舐め過ぎだ。お前ひとりで行けるなら最初からこんな回りくどい事はしない。星導光惑星の一員ならこれぐらいのこと知っておけよな」
リタースが喋り終わると同時にガサガサと草むらを踏みつける音がしてきた。
男は剣を鞘から引き抜き警戒態勢に入る。
「誰だ!」
その声に焦りもせずにガサガサと音を鳴らしながら一人の黒髪の男が姿を現した。
その男の正体に興味なさげにリタースは呟く。
「なんだ…お前か…」
草むらから出てきた男…プルートは少々驚いた風に話し掛ける。
「リタース?何故お前がここにいる。ファールバウティに向かったんじゃないのか」
「お前らの人使いの荒いボスに仕事を押し付けられてな。お前こそ何でここに…?この辺りに星瘍はいない筈だが」
「ふん…俺の事情などどうでもいいだろ。それよりもアイツらを見なかったか?」
「アイツら?誰の事だ」
「白髪の女にスライムを連れた奴だが…」
「いや、見てないな。ソイツに用があるのか?」
リタースは確認のために聞くがプルートは冷たくあしらう。
「お前に言う必要はない」
(コイツが見てないとなると……まだ王都に居るって事か)
しばらく沈黙が続きプルート側から話が無いと分かるとリタースは小さな虫を追い払うように手を振る。
「それだけか?用が無いならさっさと立ち去ってほしいんだが」
彼の態度に気に入らなかったのか大きな舌打ちをし、この場から歩き去る。
「チッ…まあいい…俺はもう行く」
(こんな時間から行くのも危険だな……今日はサングレーザーに泊まっていくか)
さすがのプルートも、こんな夜中から移動する気にはなれない。
それに魔物自身も活発化してくる時間帯…いくらプルートでも一人で行動するのは危険だ。
暗い夜道を慎重に進みながらサングレーザーへと向かって行った。
プルートが行ったことを確認すると、男はニヤニヤしながら話し出す。
「相変わらず馬鹿な奴だな。俺達に利用されてる事も知らずにさ」
「声がデカいぞ。誰かに聞かれたらどうする」
リタースに注意された男は悪びれる様子も無く返す。
「大丈夫だろ。こんな夜中にこんな所に来る奴なんて余程の物好きじゃあ無い限り誰も来ねえよ。もし誰か来たとしても始末すればいいだけのこと。それよりもどうする?明日からやるか?」
「いいや、まだだ。あの眷属もまだ洗脳しきってないからな。じっくりと時間を掛けて奴を洗脳し確実に成功させるぞ」
そう言うとリタースは立ち上がり、男と共にどこかへと去って行った。
★
アクエリアスの拠点にて疲れ切った体を休めて朝を迎えていた。
「なんかいい匂いがするな…」
パンを焼いたような香ばしい匂いにルークスは起き上がる。
眠気と戦いながら部屋から出て階段を降りると、エプロン姿のサダルメリクが朝ごはんの準備をしていたようだ。
すでにみんなは起きていて朝食を摂っている最中のようだ。
こちらに気付いたサダルメリクは挨拶を交わす。
「あ、ルークスさん。おはよう御座います」
「おはようさん。これって…?」
「朝ごはんですよ。ルークスさんもどうぞ」
ステラの隣に椅子を準備する。
「おはよう!ルークス!」
朝一から元気いっぱいなステラがニコニコしながら挨拶をする。
「おはよう。てかもう起きてたのか…いつもなら遅えのに」
「えへへ~。美味しそうな匂いがしたから目が覚めちゃった」
「ホント馬鹿みたいな嗅覚ね。感心するわ〜」
「いつまでもそこに立ってないで食べなよ。おいしいよ」
「ああ、そうさせてもらうぜ」
アクエリアスに言われた通りにステラの隣に座り、朝ごはんを頂く。
「君達は今日どうするのかな?せっかくサングレーザーに来たんだ。ちょっとはゆっくり観光ぐらいしてもいいんじゃないかな」
「ゆっくりはするけど、それはやる事やってからだな。そうだ、ついでに聞きたい事があったんだ。あんたらはポーシャって人知ってるか?ソイツに用があるんだけど」
ソルに言われて来たのだが、そのついでにクラーワから黒い箱を調べてもらうこともあり、クラーワの知り合いであるポーシャという人を探していた。
「ポーシャ?ふむ…僕は知らないね。メリーはどう」
「すみません。私も聞いた事ないです。あの〜その人の特徴というものを教えてもらってもいいですか?」
どうやら二人とも知らないようだ。
「悪い。名前以外なにも聞いてねえから分からねえんだ」
「おや、そうなのかい?それは困ったね…手伝いたいところだけど僕達も彼女の事もあるし…」
フリージアの件もあり安易に手伝えない。
「構わねえよ。お前らに関係ねえ事だからな」
ミルキーがパンを食べながら聞く。
「今日はどうするつもり?そのポーシャって人を探すの?」
「んー…そうだな。とりあえず探すだけ探して、それで何も進展が無かったらフリージアの方に行くよ」
ハッキリ言って黒い箱については、ついでのような事なので、そこまで優先してやるべき事ではない。
それにソルに言われた事も気になる。
彼からはサングレーザーに行けば分かる程度で、具体的な事は何一つ言ってはなかった。
ここで何をすればステラの記憶を取り戻せるか、または得られるか…今は黒い箱とフリージアの事に専念しよう。
「そうしてもらえると助かるよ。じゃあ、そろそろ出掛けるから後は頼んだよ」
「はい。気を付けて行ってくださいね」
アクエリアスは出掛けに去って行った。
「サダルメリクはついて行かないの?」
長い名前の所為か、ステラは言いにくそうに話しかける。
「メリーで良いですよ。今日は拠点周りの掃除の日ですから、私は出掛けませんよ。もう行くんですか?」
「ま、面倒事なんて早めに終わらせた方がいいからね。で、どうすんの?街の人達にひとりひとり聞いて回るの?」
「今はそれしかなさそうだしな。時間が掛かるが虱潰しにやっていくしかねえな」
「それならレグレスに聞いてみてはどうでしょう。あの人も知らないと思いますけど聞いてみないと分かりませんからね」
レグレス……昨日の夕暮れに拠点にいた金髪碧眼の男の事だ。
そういえば彼はあれからここに戻ってきてないようだ。
「でもレグレスは今どこにいるんだろう?」
「あれから拠点には帰ってきないので…うーん。多分ですけど広場辺りに居るんじゃないでしょうか。あの人あんな見た目してますけど花が好きなんです。サングレーザーで花がたくさん咲いてる場所は広場なので多分いる筈ですよ」
「ありがとな。じゃあ今から行ってくるわ」
ステラの周りには大量のパンが散らかっていた。
これを見る限りメリーに余分に作らせたのだろう。
「まって〜!まだ食べ終わってないよ〜!」
「アンタはここで待ってなさい。大丈夫よ。すぐ聞いて戻ってくるから」
不機嫌そうにジーっと見つめる。
「むぅ〜…やくそくだよ?」
「はいはい。約束ね。じゃあ行ってくるわね」
「気を付けて行ってくださいね」
ポーシャの情報を聞き出すために広場にいるとされるレグレスに会いに行くのであった。




