60.あの日以来
「いたたたた……もう、なんなのよ…」
小言を挟み、後頭部に手を擦りながら起き上がる。
綺麗に着地が出来なかったのか、体のあちこちに鈍い痛みが走る。
「やあ、元気にしてたかな?」
軍服の姿をしたアクエリアスが声を掛けに来た。
「テメェは…!」
ステラにゆっくりと近付いて来るアクエリアスに対して剣を構える。
「どうしたんだい?剣なんか構えて?」
「惚けてんじゃねーよ。リゲルの事を忘れた訳じゃあねえだろ」
かなり前にリゲル尖塔で禁断盗賊団との戦闘の後、取り戻した月星石を返すのは危険と判断し、アクエリアスとの激戦を繰り出した。
「あははは…まだ覚えていたのかい?君って根に持つタイプなのかな?」
軽薄な態度を取り余裕を見せる。
今の所、彼は何ひとつ構えていないが油断のできない相手だ。
「ル、ルークス…どうするの?」
テーベを抱きかかえ心配そうに見つめる。
「ステラは下がってな…危ねえから」
「う、うん…」
ルークスの言われた通りに後ろに下がる。
「さあてと…覚悟は…出来てるでしょーね?」
すっかり回復したミルキーが徐に歩き魔導書に手を掛ける。
「ちょっ、なんでそんなに攻撃的なのかな〜?二人とも、ちょっとは頭を冷やそうよ」
苦笑いをしながら落ち着くように言う。
「これでも冷静だけど?」
とか言いながらいつでも魔術を放てるように警戒を怠らない。
このままでは埒が明かない。アクエリアスは深くため息をつき視線を落とす。
「ホント疑り深いね……どうしたものか」
「ね、ねえ二人とも待って」
何らかのことがキッカケに今にも弾け飛びそうな雰囲気にステラが口を開く。
「なによ?」
ステラの声に反応したものの、視線はアクエリアスに向いたままだ。
「あのね。私この人の事よく分かんないけど、とりあえず話だけでも聞こうよ」
「おいおいステラ。王都に居た時に話したこと忘れちまったのか?コイツはリゲル尖塔で俺達を殺そうとしたやべぇ奴なんだぞ。コイツの言う事なんざぁ信用できねえよ」
そもそもの発端となった事はアクエリアスが持っていた月星石が禁断盗賊団により奪われ、それを取り返す為にルークス達に協力を仰いだこと。
ルークス達の協力により無事に月星石を取り戻したがソレはナイアドの襲撃との関係に気が付き月星石を渡さなかった。
それにより月星石を巡る戦いが始まったわけだが…
「でもこの人も何かの事情があったかもしれないし…」
ステラら目を半開きにしてジーッと見つめていく。
「ちょっ、そんな目で見んないでくれる?え、何?これってアタシ達が悪いの?」
ステラの視線に堪えたのか両手で視線を遮るように手を動かす。
「だってこの人が私達を守ってくれたのは事実だし…」
彼女の言っている事は正しい。
現に彼の助けが無ければ今頃どうなっていたことか…
ステラの言い分を理解し剣を鞘に納める。
「……分かったよ。だがもしお前が何か怪しい動きを1つでもしたら…わかってるな?」
一応念の為にと圧力を掛ける。
ミルキーも魔導書を閉じて腰に掛ける。
「ああ、分かってるさ。それに今回は君達と戦うつもりは毛頭無いからね。逆に助けてほしいぐらいだ」
「なにか困ってるの?」
ステラが聞いてみるとアクエリアスは先程の黒ずくめの男達に視線を向けて話す。
「ちょっとね…話したいところだけど僕にもやる事があってね。少し遅れそうだから先にサングレーザーに行っててくれないか」
「やる事ね〜?まあいいわ。で?サングレーザーのどこら辺に待ってればいいわけ?」
彼のやる事というワードに引っ掛かりがあったが、今はどの辺りに待てばいいのか聞いてみる。
「そうだね……サングレーザーの広場付近に花草の丘という飲食店にサダルメリクっていうカールヘアに水色の変わった服装をした女の子が待ってるはずだから、先にその子に会って話を聞いといてくれ。僕の名前を出せば彼女も分かってくれると思うから」
思いのほか詳細に教えてくれた。
「サダルメリクだね。うん覚えた!」
メモを取るように繰り返して覚える。
「とりあえず話を聞くだけ聞くよ…協力するかどうかは別だけどな」
ルークスの冷たい態度にアクエリアスはお願いするように両手を合わせて頭を下げる。
「そう言わずに頼むよ〜。あ、そうだ。もし協力してくれたら前回と同じく30万ミラを渡そう。これでどうかな?」
「30万…!いやいや!もう同じ手に騙されねえぞ!」
思わず30万ミラという大金に釣られそうになったが、なんとか自我を保ち我に返った。
「良いわね〜その話乗ったわ」
しかしミルキーはミラの魅惑に勝てず了承してしまう。
「まてまて、なに勝手に話を進めてんだ。前もこうやって痛い目に遭ったじゃねえか…今回は慎重に行こうぜ?」
前回もミラに釣られて酷い目に遭っている。
「うっさいわね…別に前みたいに何かあるわけでも無いんだし良いじゃない」
確かに前回みたいな出来事はそうそうにない。
それに前はルークスが素直に月星石を返していれば戦う事は無かっただろう。
「そりゃあそうだが……うーん……でもなぁ〜コイツだしな……」
アクエリアスのことだ…何か企んでいるかもしれない。それにキャンサーの件も解消されていないため信用しようにもできない。
「ひどい言われようだね。じゃあ君はどう思う?」
驚いた風に自身に指をさす。
「えっ?わたし?」
ニコニコしながら手を腰に掛け、わざとらしく声を上げて言う。
「そう、君は目の前の困ってる人を無視するような残酷非道な人じゃないよね?」
「ざんこくひどう?よく分かんないけどアクエリアスが困ってるなら手伝うよ」
「お?本当かい?」
ステラは人差し指を立てる。
「うん。でも1つだけ約束してほしいの」
「約束?言ってみて」
するとステラは二人とアクエリアスを交互に見ながら話す。
「ルークスとミルキーの仲直りをしてほしいの。今とてもギスギスしてるから…」
「ははは、そんな事か…それならお安い御用だよ」
アクエリアスは難なく応じてくれた。しかし、ルークスの方は曇った表情になる。
「ちょっと待てよステラ。いくらお前が言おうと俺はコイツと――――」
「ルークス」
ルークスの言葉を遮りジーッと見つめ始める。
「………」
「………」
互いが沈黙になる。ステラが一度でもこうなってしまえば折れる事はないだろう。
ルークスはこの事に悟り大人しくステラの要求通りにする。
「はぁ…わーったよ。ほら、これでいいか?」
しかし、ステラは顔をしかめたままだ。
「ダメ。仲直りの握手だよ。ミルキーも」
「…仕方ないわね…はい」
三人が手を取り合って仲直りの握手をする。
この変な雰囲気にアクエリアスから笑みが溢れる。
「ははは!なんだか不思議な光景だね?」
「今回だけだ。こんな事をやるのは…」
満足したのかステラは満面の笑顔をする。
「うんうん!仲良しにしよ!」
(はぁ……何やってんだろ…アタシ)
だだっ広い草原の中、三人が手を取り合い握手をする光景にミルキーはもうどうでもいいと思い、この雰囲気を楽しむことにした。




