54.雑談
ヒマリアに見送られてからしばらくの間、同じような景色か続く街道を歩き時間が経っていた。
右側には森が茂っており、左側に草原が広がっていた。
ミルキーは、少し疲れた声で話し掛ける。
「ふぅ…だいぶ歩いたわね…ちょっと休憩しない?」
王都コーディリアから離れて、ゆっくりと歩いてきたが、さすがに数時間歩き続けていると疲れてくる。
「ああ、そうだな。よっと」
街道沿いにある石垣に座り休憩をする。
「ふぃ〜」
ピョンっとステラの頭の上から降りて、ステラと一緒に地べたに座り込む。
「……」
無言でこちらを見つめてくる。
「…なんだよ?こっちをみて…なんか用か?」
するとミルキーはルークスの隣に座り質問する。
「…別に用がある訳じゃ無いけど…アンタって当たり前のように武術を使ってるけど、一体いつから使えるようになったの?」
武術……それは光星エネルギーを使用し、身体能力の引き上げ、または身体、武器に術式を組み込み攻撃をする。
「いつからってそりゃあアレだよ。戦う時に決まってんだろ」
戦うこと以外に使うことは無い。
「いやだから、武術を使う前に何か鍛錬したーとか無いの?」
「ん?そんなのねえぜ?その場で思いついた攻撃をイメージして戦ってんだ。まあ上手くいくかどうかは別だがな」
どうやら今までルークスは、イメージだけで武術を発動しいたようだ。
「イメージだけで…ね」
「それが普通じゃあねーのか?」
「普通なわけないでしょ。そもそも魔術と武術は魔術星導光と武術星導光を用いて発動するの。まあ、アンタ達二人はソレすら必要ないみたいだけど」
通常魔術、武術を発動させるには光星エネルギーを必要とする。
しかし、ほとんどの生物は光星エネルギーを生み出す能力が無い。
そのため、その光星エネルギーを生み出す星導光が創られた。
そしてさらに魔術と武術を使いやすく改良された星導光が魔術星導光と武術星導光である。
魔術、武術を使用する際に、この2つの星導光を使うことが常識である。
「そういやステラも俺と同じで星導光無しでも魔術を発動できるんだよな?」
しかし、そんな常識をひっくり返したのが、この二人である。
星導光を使わずに魔術、武術を使用するのだ。
さらにステラは治癒術まで扱う事が出来る。
現段階で治癒術に関する情報が少ないため、どういった術なのかわかっていない。
今分かることは傷を癒やすこと、そして星導光では再現できるものでは無いことだ。
「うん。そうだよ」
過去を思い返しミルキーは質問をする。
「あ、それで思い出したんだけど、あの時アンタが放った魔術って今も使えるの?」
王都コーディリアにてキャンサーの襲撃の際に放った魔術。
「わかんない…あの時みんなを守るのに必死だったから…あんまり覚えてないの」
「そう…残念ね。あのキャンサーっていう男を一撃で吹き飛ばしたってのに…研究したかったわ〜」
ミルキーの悔しがる様子にルークスがその魔術の詳細について尋ねる。
「そんなにすげぇー魔術だったのか?」
あの時、ルークスはアルカーナ遺跡の探索をしていた。
「アタシも驚いたわよ。無詠唱であれぼどのチカラを持った魔術なんて初めてよ」
無詠唱はその言葉通り、魔術、武術を発動する時に威力を上げるために必要な詠唱を破棄する行為。
無詠唱自体、魔術と武術を普段から使用している者にとっては簡単に出来る事である。
しかし、この技術にもメリットとデメリットがある。
まず必要な詠唱を無詠唱で発動する事について。
無詠唱で発動する魔術、武術の威力は本来の5割程度、もしくはそれ以下の威力となる。
必要な術式とついでに威力を引き上げる役割を持った詠唱を破棄するのだ。当然、威力も落ちれば術そのものの精度が悪くなる。
本来の能力が5割程度しか発揮出来ない代わりに、無詠唱ではならずの即打ちが可能である。
いくら術の威力が下がったとなっても、敵に奇襲を仕掛けたり一時的な目眩ましとしても術者の技術によっては詠唱有りよりも無詠唱の方が上手く扱える事がある。
これらを踏まえた上で、あのキャンサーを一撃で吹き飛ばしたのだ。
ミルキーですら真似できない技である。
「…治癒術を使えて、さらにやべぇ魔術も扱えるか…ますます分かんねえな」
今までステラは治癒術しか使ってこなかったが、まさか魔術まで使えるとは思わなかった。
「それもサングレーザーに行けば分かる事でしょ?」
「そいつは知らねえけど、物知りなアイツの言葉だしな…今はアイツを信じるしかねえよ」
ルークスの言うアイツとはフェーベ村で出会った高身長で太陽の模様が印象的な男、ソルの事である。
「たしかソル…だったかしら?ソイツってステラの事を知ってたんだよね?」
「そうらしい。でも何も教えてくれなかったし、本当に知ってるかどうかは分からん」
アルカーナ遺跡、星天一族、様々な知識を持った不思議な男。
ステラのことを知っているようだが何故か教えてもらえなかった。
「ふーん。じゃあ次に会ったら問いだしてみましょう。もし拒んでも力強くで言わせればいいだけの話だし」
ミルキーの不穏な言葉にステラはとぼけた声で繰り返す。
「ちからずく?」
「そうよ。言わない方が悪いからね。その時はアタシがボコボコにしてあげるわ」
パンッパンッ!と拳を手の平に軽く殴り音を鳴らす。
「お、おう…でも止めた方がいいかもしれねえぞ」
やる気満々な彼女に水を差すように言う。
「はぁ?なんでよ?もしかしてビビってるの?」
目を半開きにして煽るように視線を向ける。
「いや…そう言うわけじゃあねえよ。ただ…なんつーかな…戦うべき相手じゃ無いっていうのかな…まあ、とりあえず止めた方がいい」
とは言ったが内心ミルキーの言われた通りルークスはビビっていた。
アルカーナ遺跡にいた守護兵器…あの強烈なレーザーを軽くあしらい、さらに一撃で屠っていた。
もし仮に彼と戦う事があっても、こちらに勝機は無い…そう確信をしていた。
呆れながら手を軽く振る。
「それって単にビビってるってことでしょ?ホント情けないわね〜」
「何とでも言いな。ま、お前も会ってみれば分かるさ」
「まあいいわ。そろそろ行くわよ」
「テーベちゃん。こっちだよ」
ピョンっと勢いよく飛び、ステラの頭の上に乗っかる。
十分休憩をとったルークス達は再び歩き始める。
「なあミルキー。マイヤー湖畔っつーのはまだまだ遠いかんじか?」
「うーん…まだちょっとって感じね」
サングレーザーに行くにはまずマイヤー湖畔を抜かなければならない。
「ねえねえミルキー、サングレーザーって所に何があるの?」
今のところ緑溢れる国としか聞いていない。
「そうねぇ…アタシも一回しか行ったこと無いからあんまり覚えてないけど…あ、ひとつ印象に残ったやつがあったわ」
「どんなの?」
「塔よ」
聞き慣れない単語に首を傾げる。
「とう?」
「そう、アレが一番記憶に残ったわ。あの町並みの中に明らかに浮いてたからね」
「浮いてたって…いったいどんな建物だったんだよ?」
「色は白色で普通なのよ。ただ形がね…すごく歪というか…なんて例えればいいかな…まぁとにかく見た目が変な塔だったて事よ」
例えられない形をした建物だということは理解した。
「あ、ああ、そうか」
(コイツがここまで言ってるから、よっぽど変な塔だったんだろうな)
「ん?」
二人が話し合っている間、ステラは森の方向から何かキラリと光ったものを目にする。
「あと先に言っとくけど、これ以外に覚えてることはもう無いわ」
「ないのか?もっとこう美味しい店とか景色のいい場所とか、何かあるだろ?」
色々と聞き出そうとするが、そのしつこさに苛立ったのか声を荒げる。
「覚えてないものは無いの!これ以上訊いてきたらぶっ飛ばすわよ!」
握り拳をつくり威嚇する。
「分かった!分かったから、その手を抑えろ…な」
すぐキレ出すミルキーに制止の声を掛ける。
「とにかく行ってみたら分かる事よ」
ミルキーも本気で無かったのか、すぐに収まった。
「そうだな……あれ?ステラは?」
周りを見ると、そこにステラの姿が無かった。
「ん?さっきそこに―――――」
「いないんだが」
「……いないわね」
しばらく沈黙が続きハッとしたように口を開く。
「ちょっとまて、まさか迷子か?」
どう考えても見晴らしのいい、この場所で迷子などあり得ない。
「迷子になるような場所じゃないわ。まだ遠くに行ってないと思うから、この辺りを探してみましょ」
ピョンピョン
テーベが急いだ様子で街道の右側にある森から飛び出してきた。
さっきまでステラの頭の上に乗っていたはずのテーベが単独で行動する姿に焦りが込み上げてくる。
「テーベ!?ステラはどうした!?」
ぷるぷるッ!ピョンピョン!ぷるぷるッ!
小刻みに震えたり飛び跳ねたりするが……
「ヤバいわね…」
「ミルキーお前コイツの言うことが分かるのか!?」
「全然っ分かんないわ…」
当然の回答が返ってきた。当たり前だ、ミルキーに魔物の言葉が分かるはずもない。
「と、とりあえずこの辺りを探すぞ」
「ステラ!どこ行ったのよ!」
周りをウロウロしながら大きな声で呼び掛ける。
「ステラー!いたら返事してくれー!」
しばらくの間、呼び掛け続けていると森の方からガサガサと音を出し何者かが近づいてきた。
その音に反応し、音がする所に近づく。
「ステラ!?」
すると、木の葉を被った彼女の声と共に勢いよく飛び出してきた。
「わっとっとっと!」
「ちょ、あんたどこに行ってんのよ?!」
心配する二人に反省の無いゆったりとした声で答える。
「えへへ、ごめんね。ちょっと気になることをみつけたから、つい見に行っちゃった」
その様子からして特に怪我などはしていないのだろう。
「気になる事があっても、ひとりで行かずまずは俺達に知らせてくれ。危険が無いわけじゃあねえからな」
珍しく声色を変え静かに怒るルークスにステラは縮こまる。
「うん…ごめん…」
ポンっと頭を撫でる。
「ふにゅ」
そんな彼女に優しく笑いステラの無事に安堵する。
「…ま、お前が無事で良かったよ。さあ、あともう少し行ったら今日はここまでにしようか」
ぷるぷるッ!
「ほら、テーベも心配してたぞ?」
「あ!テーベちゃん!さっきはゴメンね…」
申し訳無さそうに謝るとテーベはピョンピョン!とステラに飛びつく。
「多分許してくれたんじゃない?知らないけど」
ステラはテーベ何を伝えたか分かったのか笑みを零す。
「えへへ~」
予想外な事が起きつつも目的地であるサングレーザーに向かい三人と一体は前へと進む。




