53.西街道
「オラッ!」
掛け声と共に最後の草むらを斬り捨てる。
何とか西街道までテーベを連れて行く事が出来た。
ようやくゴールに辿り着くのもつかの間、ローブを着た焦茶髪のエルフの少女が、嫌味を吐くように話す。
「随分と遅かったわね〜?もっと早くできないわけ〜?」
ずっと待っていたのか地べたに座り込んでいる。
「うるせえな…こちとら道を切り開くのに…疲れてんだよ…」
ルークスの後ろから労いの言葉が飛んでくる。
「お疲れ様。ちょっと休む?」
「ああ、悪いな…」
道中、ちょこちょこ休憩を挟んでいたが、やはり疲れるものだ。
ぷるぷる…
ステラの頭の上で小刻みに震える。
「しかしまあ、相変わらずよく分からないスライムね〜ツヤツヤしてるし、ベタつかないし」
ミルキーは徐に立ち上がり、ぷにぷにっと軽くテーベを突き回し観察する。
(そういえばアルゲティの奴コイツを捕まえる時に電撃系の攻撃が何とかって言ってたよな…なんかまずい事があるのか…?)
そんな疑問を持ちながらテーベを見つめていると、ステラが覗き込み話し掛ける。
「どうしたの?そんなにテーベちゃんを見つめて…?」
「ん?ああ、何でもねえよ。それよりも道案内の方は大丈夫なのか?」
ここからはルークスの知らない土地に踏み込む。
頼りにするミルキーにもう一度聞く。
「道案内しなくてもそもそも一本道だし、変なとこに行かない限り迷う事なんてまず無いわよ」
「一応聞くけど、ここからサングレーザーまで、どのくらい掛かる?」
手を顎に触れながら答える。
「うーん…そうね。大体3日てところかしら」
「ふーん3日か………ん?3日!?そんなに遠いのか?」
「当たり前よ、あーでも馬車を使えば1日も掛からないわ」
「あ?そうなのか?ったく驚かせてんじゃあねえよ」
てっきり馬車で3日間かかるものかと思った。
「長旅になるの?」
「ああ、ちょっとだけな…さてと、そろそろ出発するか」
とりあえず馬車を確保するため、今のうちに動こう。
「ルークス、ちょっと待ってもらえる?もう少しでヒマリアが来るはずだから」
唐突に出てきた言葉に疑問をもつ。
「ヒマリア?なんであいつが…?」
「それは来てからのお楽しみね」
「?」
何かイヤな予感がする…こういった悪い予感は大体当たるものだ。
「あ、いたいた!」
聞き慣れた声が近づき、その声がする方向を見ると、軽装な騎士服を着たヒマリアが走って来た。
「噂をすれば来たわね」
両手を合わせ謝る意思を見せる。
「ゴメン待った?」
「今休憩してたところだったし気にしなくてもいいわよ。で、そっちはどうだったの?」
この話し方からして、ヒマリアに何か頼み事していたようだ。
「調べてみたけど、どうやら黒い魔物の影響で王都経由の馬車が止まってるらしいの…今すぐどうにかなる問題じゃないわ」
「ちょっとまて、今嫌な会話を聞いたような気がするが…まさか、馬車を利用できねえと言うつもりじゃあねえーろうな?」
「残念だけど今は使えないわ」
ルークスのイヤな予感が見事に当たる。
このままでは徒歩で行かなければならない。
「マジかよ…いつまでなんだ?」
「そうね…ざっと2〜3週間ぐらいかしら?」
「…さすがにそこまで待てねえな…なんだってこんな事に…」
急いではいないが、そこまでダラダラとする訳には行かない。
だが何故、馬車が使えないのだろうか。
「また黒い魔物が増えてきてね。安全に馬車を走らせる事が出来ないのよ」
黒い魔物…少し前に、ボスと思わしき魔物を倒して終わったはずだが…
「あ?黒い魔物?それって確か俺達で倒して解決したはずだよな?何でまた…?」
「この前の魔物を倒した時は、確かに黒い魔物の数は減っていたわ…でもまた最近になって増えてきてね…私達が倒した魔物と同じやつが出てきたんじゃないかって騒いでるのよ」
この話が本当なら、かなり厄介である。
サングレーザーへ行くルークス達にとって、今は黒い魔物と相手をしている場合ではない。
「あいつがまたぁ〜?うえぇ〜…思い出しただけで寒気が……うぅぅ!」
すっかりトラウマを植え付けられたミルキーはしゃがみ込み震える。
「ヒマリアは大丈夫なの?」
「私の心配をしてくれるの?ふふっ、ありがとね。でも心配しなくても大丈夫よ。昨日、精鋭部隊と共に団長が遠征から帰ってきてね。早速今日から黒い魔物を討伐する事になったから、ステラちゃんは自分のことを考えてて」
騎士団長…どの程度の実力か不明だが、フォボス隊長でも頼りになる強さを誇っていたため心配する事はないだろう。
「うん!ヒマリアも気を付けてね」
「怪我には気を付けろよな。ほらミルキー…いつまでそうしてるつもりだ?」
しゃがみ込んだミルキーに声を掛ける。
「うるさいわね……」
さっきまでの威勢は嘘のように消えていた。
まさか、ここまで虫型の魔物に精神をやられていたとは…
次からは少しだけ気を遣っていこう。
「あ、ちょっと待って、行く前にコレを」
ヒマリアは小さな筒の箱を取り出し、ルークスに手渡す。
「何だコレ?箱か?」
「それは携帯簡易結界よ。徒歩で3日ぐらい掛かるから、それを持っていって…使い方分かる?」
初めて見る物に色んな角度から見る。
「えーと、どう使うんだ?」
「これをこうよ」
元通りになったミルキーが携帯簡易結界をとり、ガチャガチャといじる。
「ああ、なるほどね」
分かった風に言ってるが、実は何ひとつ理解してなかった。
(今ので分かるわけねーだろ……これはミルキーのやつにまかせるか…)
見様見真似でガチャガチャしてると、ヒマリアから手を掴まれ止められる。
「あ!今使っちゃ駄目よ!それ使い捨てだから」
「ん?ああ…今の合ってたのか…ちなみにどんな効果があるんだ?」
「外部から魔物の侵入を防いだり、食糧品やテントが入っているわ」
「え!?こんな小さい箱に色んな物が入っているの?!」
ステラが今までの中で大きく驚く。
無理もない。こんな小さな箱から食糧品やテントが入っているなど、普通は信用できない。
それに加え、外部からの魔物や攻撃を防ぐ役割も搭載されている。
「ま、まあね。私自身もどういう作りか分かってないけどね。それと、これ…ちょっと貴重な物だから、慎重に使ってね」
どうやら簡易結界の中でも貴重な物をくれたようだ。
彼らの長旅によほど心配をしていた事が伝わる。
ここでステラはひとつ大事なことを確認する。
「ヒマリア。コレってテーベちゃんに悪いことは起きないよね?」
魔物の侵入を防ぐチカラがあるこの結界に心配する。
なぜならテーベは見た目からして魔族、この結界のチカラでテーベが傷ついてしまうと考えると、使用することを躊躇ってしまうからだ。
「えーと、それは何とも言えない……ね。多分大丈夫だと思うけど…」
テーベは他のスライムとは異なる見た目をしている。
だからっと言って安全というわけではない。
「使う時に一旦コイツを離れさせて、結界内に入れるか試してみるわ」
「うん。それがいいと思うわ…伝えたい事はこんなものかしら」
「色々とありがとな。じゃあ、そろそろ行くわ」
「みんな気を付けて行ってきてね」
手を振り、三人を見送る。
「行ってくるわ」
「バイバーイ!」
サングレーザーへ向かうため、まずはマイヤー湖畔へ目指す。




