51.仲間
王都コーディリア中央区にあるミルキーの家にステラが帰っていた。
キャンサーによって破壊された玄関の扉は、すっかりと元通りになっていた。
「ただいまぁ〜!」
扉を開け元気よく帰ってきた。
二人はステラの帰りを待っていたのか、ルークスが話し掛ける。
「お、戻って来たな。ご飯食べるか?」
「うん」
テキパキと夜ご飯を用意する。
「なあ、ミルキー。今日何かあったのか?やけに外が騒がしいんだが」
昼頃に部屋でゴロゴロしていると、外から歓声が耳に入り何事かと部屋の窓から覗いていたが、何から何まで起きている事が分からなかった。
今も夕暮れだと言うのに、外は相変わらず騒がしい。
「アンタ知らないの?今日の昼ぐらいに星群騎士団の団長が帰ってきたのよ。それでみんなお祭り騒ぎってわけ」
そういえばフォボス隊長が騎士団の部隊のほとんどが出払っていると言ってた。
「ふーん。団長ね…ミルキーは行かないのか?」
「はぁ?なんでアタシが行く必要があるわけ?そもそもあいつら騎士団の連中に興味は無いし関わりたくないの」
騎士団の騎士兵達はほぼ人間に占めている。
ある事をキッカケで、他の種族と人間は忌み嫌われている。
ヒマリアのように、エルフや獣人の人間以外の種族が騎士団にいるのが珍しいくらいだ。
どんな理由だろうと、人間に関わろうとする者は多くない。
そのため、人間が多く住む王都では他の種族を滅多に見かけない。
「そう言ってる割にヒマリアと仲良くしてるように見えるんだが…」
「ひ、ヒマリアは特別なのッ!次余計な事聞いたらぶっ飛ばすわよ!」
息を荒らげ、今にも突き飛ばされそうな雰囲気になる。
そもそもヒマリアは獣人、パッと見ただけでは分からないが、よく見ると獣人特有のフサフサの髪や垂れ目の猫耳がある。
騎士団の人間はどうでもよくて、獣人であるヒマリアは別ということなのだろう。
「悪かったって、落ち着け…な?」
食卓に料理が並ぶ今、暴れられては困るのでとりあえず謝る。
「ふふっ」
そんな二人の様子に笑みが溢れる。
「あ?何笑ってんのよ?」
「だって今日のミルキー、全然元気が無かったから」
「そうか?俺にはいつも通りにしか見えねえが」
ステラには何か感じ取っていた。
「別に…体調が悪い訳じゃあないわ。少し考え事をしててね」
「考え事?悩んでるの?」
「悩んでるというかその……」
ミルキーらしくもなく、しおれたようにほそぼそと話す。
「何だよ、その反応は…普段ならぶん殴ってくる勢いで話すのに…何かあったのか?」
「うっさいわね!アンタ達に関係ないでしょ!?」
心配されるのが嫌なのか急に怒りだす。
ミルキーの圧に負けず、ステラは口を開く。
「関係あるよ」
「はぁ!?アンタ何言って……」
「だってミルキーは私達の大切な仲間だもん。関係無くないよ」
真剣な眼差しでミルキーを見つめる。
「…………」
ルークスも黙り込み見守る。
ステラの気持ちが伝わったのか、小さな溜息を出し話しだす。
「……はぁ…もう率直に話すわ。アンタ達は明日サングレーザーに出発するよね?」
「ああ、そうだが?」
「アタシも連れて行きなさい」
「何でだよ?」
ミルキーが付いて来る理由が見当たらない。
「二人の研究がまだ終わってないからよ。アンタ達は星導光無しで治癒術や武術を当たり前のように使ってるけど、そんなの普通あり得ないことなの」
通常、魔術や武術を使用するには、魔術星導光か武術星導光のどちらが無ければ使う事ができない。
しかし、ルークスとステラの二人はそんなものを必要とせず、当然のように術を発動していた。
「そうなの?」
「まあ世間的に星導光を使うのが普通だからな」
現在、我々の生活を支えてくれる存在…星導光は、普段の日常生活、魔物から身を護る結界など、星導光は、それほど汎用性が高く、必須の存在である。
「とにかく、アンタ達二人の研究を続けるって事でついて行くから!」
力強く言い放つ。
「俺としては別に構わねえが、お前はいいのか?しばらく…いや、もう王都に帰ってこれねーかもしれねえぞ?」
遊びに行くためにサングレーザーへ行くわけではない。
ステラの記憶…そして彼女が帰るべき場所に戻すため旅に出るのだ。
半端な気持ちでついて来られても、こちらが困るだけ。
「それを承知のうえでついて行くのよ。確かにルディのことは心配だけど、ヒマリアが居るからね…問題はないわ。それにある程度の道案内役が必要でしょ?」
まだ足を踏み入れたことの無い場所に道案内は、必要といえば必要だが…
「そうだが…お前ってサングレーザーに行ったことあるのか?」
「あるわ。一度だけね」
どうやら一度だけ行った事があるようだ。
「へぇ〜。そうなのか。んじゃ、長旅になるけど、これからもよろしくな。ミルキー」
にこやかに歓迎する。
「ミルキー!」
ステラが思いっきりミルキーに抱きつく。
「むぎゅ!?ち、ちょっと!なに急に抱きついてきてんのよ!離れなさいよ!」
そういってるが満更そうでもないようだ。
ミルキーと一緒に旅ができる事が嬉しいのかニヤニヤしながら、ほっぺをスリスリする。
「えへへ〜ずっと一緒だよ〜」
二人のじゃれ合いを他所にケーキを一口食べ、感想を言う。
「コレ、なかなか美味いじゃねえか」
「今はそんな感想どうでもいいの!早く助けなさい!」
ステラを引き剥がそうと両手で押し込むが、意外とチカラが強くビクともしない。
「だってよ、ステラ。そろそろ離れたらどうだ?」
「えへへ〜」
「聞いちゃいねーな…こりゃあ…」
へばりつく彼女を見ながら1日を終えるルークス達であった。
★
次の日…
窓から朝日が差し込み目覚める。
「ん…あ…もう朝か…今何時だ?」
寝ぼけながら時針星導光の針を確認する。
現在時刻、9時40分を指していた。
「…もうこんな時間か…ふあぁ〜…」
大きな欠伸をして部屋から出る。
階段を降りると下には、白いワンピース姿のステラがソファに座っていた。
「あ、ルークス。おはよう〜」
こちらに気付き挨拶をする。
「おはようさん。ミルキーは?」
「ミルキーならヒマリアとルディに話をするって先に出ていったよ」
「そうか…」
長い間、王都には戻れない。
色々と話したいことがあるのだろう。
「お昼に出発するの?」
「んー…まあ、そうだな。アイツも話すことがあると思うし、ミルキーが帰ってきてからだな」
今すぐにでも行けるが、まず、彼女が帰ってこなければ話にならない。
「ミルキーが帰ってくるまで何するの?」
正直なところ、やる事が無い。
「うーん…ステラは何かしたい事あるか?」
「宝石甘味のケーキ食べたい!」
あらかじめ考えていたのか即答してくる。
「……ステラっていつも食べることしか考えてねえんたな…」
「だってお腹すいたし……ダメ?」
お腹を擦りながら上目遣いで訴える。
「駄目とは言ってねえだろ。仕方ねえな」
そう言うとルークスは準備を進める。
「?」
ぽけ〜っと様子にみる。
「何ぼ~っとしてんだ?ケーキ食うんじゃあねえのか?」
「うん!」
朝からケーキを食べるため、宝石甘味へ向かう。
一方ミルキーでは、ヒマリアと話しをした後、そのまま学園区に足を運び、ルディの住む学生寮の前に来ていた。
玄関にある音響星導光に触れ、音を鳴らす。
「今出ますね…」
白黒を基調とした学者服っぽい姿をしたルディが、相変わらず細々とした声で玄関の扉を開ける。
「ルディ、今大丈夫?ちょっと話したい事があって…」
「ミルキー?うん。大丈夫。あがって」
「お邪魔するわ」
前にアクエリアスと話した時と違いカーテンを開け日差しの光で明るい部屋となっていた。
「はい、お茶…」
友達相手でもしっかりと、もてなす。
「ありがと、頂くわ」
「それで今日はどうしたの?魔術の研究に苦戦してるとか?」
長い紫髪を弄りながら聞く。
コトンと透明色のコップを置き答える。
「ううん、今日はいつもの話しじゃ無くてね。ルディってルークスとステラの二人が今日からサングレーザーに行くって聞いてるよね?」
この数日間、ルディやヒマリアに色々なことを話していた。
「うん、確かステラちゃんの記憶のヒントがあるとかで……それがどうかしたの?」
「まぁ…その…アタシもサングレーザーに行こうと思って…しばらく留守にするから…」
ルディは優しい笑みを浮かべる。
「ふふっ、まさかと思うけど、この事を言うためにわざわざ私に会いに来てくれたの?」
「わざわざって、そりゃあルディはアタシにとって大切な友達だしね」
「友達…か」
一言呟くと何処か遠い場所をみるように、窓の外の景色を眺める。
「ルディ?」
「ううん、何でもない。私の事は大丈夫だから気を付けて行ってきてね」
「ありがとね…研究が終わったらすぐ戻ってくるから…待っててね」
立ち上がり部屋から出ようとした瞬間、ルディに手を掴み止める。
「まって!」
手を放し、学者服のポケットから小さな紫色の四角い物体を手渡す。
「はい」
「コレって…?」
「お守り…ミルキーを守ってくれる物だよ。もし危なくなったらコレを握ってね。そしたらこの御守りがミルキーのことを守ってくれるから」
見た目の変わった御守りを受け取る。
「もう、そんなに心配しなくてもいいのに…ありがたく貰っていくわ。それじゃあ行ってくるわね」
「いってらっしゃい」
ルディに見送られながら、自身の家へ戻っていく。




