50.帰還
ルークスが帰ってきてあれから数日後、キャンサーの襲撃により怪我をしたステラは、すっかりと元通りの日常へと取り戻していた。
「ルークスぅ〜お腹へったぁ〜」
昼下り王都コーディリアの中央区にあるミルキーの家にて、ひとりの白髪の少女が言う。
「さっき食ったろ?」
ちょっと面倒くさそうに黒髪の男ルークスは返す。
「まだ食べ足りない」
まだまだと言わんばかりに食べ物を求める。
「相変わらずね〜。一体どんだけ食べるのよ?」
ミルキーも半ば呆れたような態度をとり、ステラに視線を向ける。
これ以前に昼食を摂りさらにデザートのケーキまでペロリと平らげていた。
これ程の量を食べてもまだ足りないと言うのだ。
「ま、こんだけ元気なら明日から出発しても問題は無さそうだな」
元気が良すぎるのもアレだが、体調が悪いよりかはマシである。
「今日から行かないの?」
「そこまで急ぎで行くわけじゃねえしな。まあ今日はゆっくりしていくよ」
急いで彼女の記憶を探す必要は無い。
無理に動けば予想外な所で、怪我をしてしまうかもしれない。
それにルークス自身、サングレーザーへ行くのは初めてなので、慎重に行こうと決めていた。
二人の話にミルキーの表情が曇り始める。
「………」
(…どうしよ。まだ二人の研究が終わってないのに…)
ミルキーは何か考えてはいるが、その考えを知らずにルークスが声を掛ける。
「そんなわけで世話になったなミルキー。明日からサングレーザーに行くからよ。またここに来た時は頼むぜ?」
「ルークス。まだ気が早いよ?」
ステラがボソッと言う。
「ははは、そうだな。さて、俺は今日、大人しく寝てるよ。ステラもあまりはしゃぐなよ?疲れるからな」
一応ヒマリアから聞いていたが、サングレーザーは少し遠い場所にあるらしい。
その為、今日は休めるだけ休もうと思っていた。
ルークスは階段を上がり、部屋へ入る。
「そんな事言われなくてもわかるもん。ね?ミルキー」
「あ、うん。そうね…」
ミルキーはどこか上の空の様子だった。
変に思ったステラは尋ねてみる。
「………?どうしたの?」
するとミルキーは考えた素振りを見せ呆気なく答える。
「別に…なんでもないわ」
「変なの…?あ、テーベちゃんの様子見てこよ」
ひとりでやる事が無くボーっとしたミルキーを置いて、迷いの森と王都の間にある街道に隠れているテーベの様子を見ることにした。
★
ステラ達が休んでいた数日間、ネメシスでは―――
雨風が吹いており昼にも関わらず薄暗く所々に設置されている照明星導光の光が目立っている。
常に天候の悪い国なので、草木があまり無く建造物も他の国とは変わった形像をしている。
雨風に飛ばされないように加工された石や特殊な金属製の建造物が並んでいる。
そしてその中の民家のひとつにある者達が集まっていた。
そのある者達…王都コーディリアから戻って来たヘルセとプルートの二人であった。
ギィィィィィ……
劣化のためか嫌な音を出しながら鉄製の扉を開き、傘を閉じて家へ入る。
部屋の中は簡易的に質素な物となっており、無駄な物が置かれてない。
「おっ?帰ってきたね〜。どうだったかな?」
明らかに場違いと言えるピエロの男がふざけた声で話し掛ける。
すると、ヘルセが報告する。
「ボスの言う通り、王都周辺に巨大な悪星魔物がいましたヨ」
「うんうんそれで?他に何か無かった?」
想定内なのか適当に流し他の事を問い出す。
「……何も無かったな。悪いが俺はもう行く」
次にプルートが答え、急ぐようにこの場を後にする。
興味なさそうに彼を止めることなくそのまま見送る。
「あっそう。ヘルセ。君はちょ〜とっ残ってくれるかな〜?」
ヘルセを止め、部屋の端にある大きな物体に手をかける。
「別に構いませんが」
ガチャガチャと機械の塊をいじっていると、中から小さな細長い銀色の機械を取り出す。
「君に…コレを渡そう」
ピエロの男はソレをヘルセに渡す。
「これは?」
「ふふふ…これは探知機さ。君にはしばらくの間これを持ってアトランティスに向かってほしい。何別に難しい事はない。ただ歩き回ればいいだけさ」
よく分からない機械を押し付けられ、歩き回れと言われた。
ヘルセ自身も理解せずとりあえず従うことにした。
いや、理解する事を諦めると言ったほうが正しいか。
「……分かりました。それでは行ってきマス」
ヘルセも部屋を後にし、ひとりになったピエロは誰かを待っているのか独り言のように呟く。
「……そろそろかな?」
その言葉を答えるようにひとりの鉛色の髪をした男が入ってきた。
「邪魔するぜー」
だらし無く格好をした男がズガズガとピエロの元に行く。
ニヤニヤしながらピエロの男が訊く。
「帰ってきたね。どうだった?」
「俺の調べではコーディリアとその付近に4人、サングレーザーに3人、ファールバウティに2人、そして、流星ノ丘に1人確認した。で、どうするつもりだ?まさか俺に戦わせようとしないだろうな?」
「ん?そのまさかだけど?」
当然のように答える。
鉛色の髪をした男は苦笑いを浮かべる。
「勘弁してくれ…あんたも知ってるだろ?俺の弱さを」
自身の弱さを示す。
だが、ピエロの男は取り合わせず一方的に出る。
「そんなこと言わないでよ~。本当はボクちんが殺りたいところだけど、今は忙しくてね…そんなわけだからさ〜やってくれない?」
相変わらずフザけたやり取りだ…こちらの事情など微塵も考えちゃいねぇ…心のなかで愚痴を吐き捨てる。
男は考え込み、しばらく沈黙が続き口を開く。
「10倍……10倍のミラを支払ってくれるのならやるよ」
「うん別に構わないよ。ただし、ちゃ~んと星核にして持ってきてくれたら支払うよ。じゃあたのんだよ〜☆」
男の要求に即答で任意し、酔っぱらいのような足取りでこの場を去っていく。
「はぁ……まったく人使いの荒い道化だ…あ、これ返すの忘れてた…まぁいいや、どうせ壊れてるし捨てるか」
先程ヘルセが受け取った物と似た機械を適当に捨てる。
「さて…と、俺でもいけそうな相手は……ふむ……いないな。いやそもそも十二星宮の奴等とどう戦えと……まてよ、奴等の眷属を利用すればワンチャンいけるんじゃないか?よし、そうと決まれば早速行こう」
大きな独り言を呟くと、男は早速行動に移しサングレーザーへ向かって行った。
★
しばらく時が経ち、王都と迷いの森の街道の外れにステラとテーベの姿があった。
「テーベちゃん!ナデナデ〜えへへ〜」
ツヤツヤのテーベを笑顔を浮かべ撫でる。
ぷるぷるッ!
気持ちよさそうに小刻みに震える。
「明日から旅だね」
ぷるぷる…?
自身の記憶のためにサングレーザーへ行く。
しかし、彼女はどこか不安を感じていた。
「ちょっと不安だけど…大丈夫だよね…?」
今回のキャンサーの襲撃…明らかに自分を狙っての襲撃だった。
この先、自分のせいで誰かを巻き込ませる…そんな嫌な考えが頭の中を過る。
ぷるぷるピョンピョン!
落ち込む彼女を何かに気付かせるように跳ね始める。
「あれ?どうしたの?」
迷いの森の方から大勢の足音が聞こえてくる。
迷いの森から大勢の人達の姿が確認できる。
あれは……星群騎士団の者達のようだ。
どうやら騎士団長と共に星群の主力メンバーの者達が帰還してきたようだ。
ひとりひとりが完全武装しており、顔の表情が伺うことが出来ない。
そして、その先頭に歩くひとりの年をとった男性がいた。
この男だけ鎧や兜など、体を守るものを身に着けていなかった。
あるのは腰に掛けた2つの長めの剣に、偉い人なのかヒマリア達と違い重々しい服装をしていた。
しかし、あれで戦場に行っていたとしたら、かなりの自信家である。
「団長!これは…!」
ひとりの騎士兵が黒ずんだ小さな守護星導光に近づき、団長と思わしき軽装の男性を呼び込む。
団長と呼ばれた年をとった男性が近づき、覗き込むように黒ずんだ守護星導光を観察する。
「……星瘍にやられたか…後で新しい物と交換しておくように」
「はっ!」
そして、別の騎士兵がこちらの存在に気付く。
「む?魔物かッ!」
慌ててテーベを抱き上げて後退する。
「あわわっ!ち、違うよ!」
「待ちたまえ」
団長がこの場を鎮める。
そして1つの質問を優しい声色で話す。
「ふむ…その魔物は君の仲間かね?」
「うん。私の大事な仲間…だから傷つけないで」
少し間が空き、王都方面へ振り向き言葉を残して去って行った。
「そうか。なら大事にするといい。ゆくぞ」
「団長…よろしかったのですか?」
心配そうに騎士兵が聞く。
「構わん。それよりも王都の警備を上げろ、辺りの星瘍を一掃する」
「はっ!」
団長達はコーディリアへ戻って行った。
「何なんだろ…あの人。どこかであったような…?気のせいかな?」
何故か分からないが団長と呼ばれた男に見覚えがあった。
ぷるぷる?
「あ、ごめんね。怖くなかった?」
ぷるぷるッ!
テーベは大きく震える。
「わわっ!元気だね〜。じゃあもう少し一緒にいよっか」
ステラは夕暮れまでテーベと一緒にいる事にした。




