47.忘れた頃に
窓から日が入り目を覚ます。フェーベ村の朝は静かで小鳥がさえずる声で満たされる。
いつもの部屋にいつものベッドの上、しばらく王都にいたせいか新鮮さを感じる。
「ふはぁ〜…朝か…」
(懐かしく感じるな……ちょっと前までは、これが当たり前の日常だったのにな…)
そんな事を考えていると、顔面にひんやりと冷たい感覚と共に目の前が真っ暗になる。
ベチャッ!
「〜!?」
何かに引っ付かれ呼吸ができなくなる。
焦りながら両手でソレを引っ剥がす。
ベリッ!と剥がれ確認をする。
「はぁー…!ビックリした〜!」
青いスライムこと、テーベが顔面に張り付いた犯人のようだ。
「まったく、相変わらず引っ付くの好きだな?それ心臓に悪いから止めてくれ…」
ぷるぷる?
「ふ、お前に言ってもわからないか…さて、準備でもしますか」
ルークスは淡々と身支度を済ませる。
「テーベ」
ピョンピョンと飛び跳ね近寄る。
テーベを呼び頭の上に乗せ家からでる。
いつもよりも早く起きてしまったため村の外には誰もいない。
「………」
ゆっくりと歩き村の景色を目に焼き付ける。
(この景色も…しばらくは見れそうにないな…)
「さて、と」
クラーワの家まで来ていた。
コンコンと軽くノックをする。
「………」
しばらく経つと玄関の扉が開く。
「ルークスか?」
「おっと、起きてたんだな?いつもより早く起きたからてっきりまだ寝てるかと思ったぜ」
「ワシはいつもこの時間に起きとるぞ。もう行くのか?」
「ああ、また旅に出る。しばらくは戻れそうにねえ」
「そうか…旅に出るって事は王都から離れるのか?」
「まあな、サングレーザーてとこに行く予定だ」
場所を聞き、顎に手を当て懐かしさに浸る。
「ほう、あそこか…懐かしいな」
「じーさん。知ってんのか?」
「ワシが若い頃、行ったことがあってな…そうだ、ちょっと待っておれ」
そういうと家に戻り何かを探し始める。
「…?」
少し待つとクラーワが小さな黒い箱を持って戻って来た。
「これだ」
持っていた黒い小さな箱を差し出す。
「あ?何だ、この小さい箱は?」
「お前が王都に行ってる間、近くの森に行ってたんだが、そこに見慣れないものがあってな…それがこの箱だ。この箱をサングレーザーにいるポーシャって奴に渡してくれないか?」
貰った奇妙な箱を色んな角度から見ながら聞く。
「渡す?拾った箱をか?」
「この箱、不思議と開けられなかったんだ。あいつは昔から意味の分からん研究をしとったし、何か分かるだろう。ついででいいからよ」
「別にいいけどよ。そんじゃそろそろ行くわ。おっと、忘れる所だった。じーさん、照明星導光についてだが、あれ数日後ぐらいに騎士団と共にくると思うから、適当にやっといてくれ」
「おう。気を付けて行くんだぞ」
クラーワから見送りの言葉を最後にフェーベ村から離れる。
★
フェーベ村を後にしてから数時間…
ナイアドに寄らず馬車に揺られながら真っ直ぐ王都に向かっていた。
「お客さん。変わった魔物を連れてますね。何処で買ったものですか?」
御者が素朴な質問をする。
「買ったんじゃあないぜ。拾ったんだ。つーか、魔物なんて売ってるのか?始めて聞いたぞ」
「私も友人から聞いた程度なのでどこまでかは分かりませんが、国を転々と移動する魔物売りの人がいるそうです。普通スライムってドロドロしてて粘液を出しているのですが、そのスライムは妙に綺麗でツルツルしてますよね?てっきり魔物売りの人から買ったものかと思いまして」
通常スライムはドロドロとしててネバネバ粘液を出しているのだが、テーベはその逆で、表面はツルツルしていてドロドロでは無くまん丸い綺麗な形をしている。
「まぁ確かにコイツは他のスライムとは違うみたいだしな」
ぷるぷる…?
自身の事を言われているのが、分かってないのか、小刻みに震える。
(これからどうなることか…とりあえずソルの情報を元にサングレーザーってとこに行くけど、そこにも何も無かったら……いや、今はそこまで考えることはないか。それにポーシャって奴にこれを渡さないと行けねえし…)
これからの動きを考え、しばらく経ち…
「はいはーい、止まって下さーい☆」
どこかで聞いた事のある活発的な少女の声が聞こえた。
少女の声がする方向に視線を向ける。
「ん?何だい君たちは?」
すると隣にいた少年が答える。
「怪我したくないのなら僕達の言うことを聞いたほうがいいよ?」
何やら不穏な会話が気になり馬車から降りて、前へ出る。
「どうした…てお前は!」
馬車を止めていた二人は、リゲル尖塔でやりたい放題してきた金髪の前髪が特徴的なギザギザの黒色した少女と、迷いの森にあった遺跡で出会った少年アルゲティが立っていた。
「おやおや〜?リゲル以来ですね〜☆元気にしてましたかぁ〜?」
「やあ、あの時はしてやられたけど、今度こそ033を返してもらうよ!」
この二人に出会えば戦いは避けられない。
「チッ!ほら、おっさん受け取れ!」
適当な袋にミラを入れ込み御者に投げつける。
「おわっと!?」
「先に馬車代、払っておくから、おっさんは早く逃げな!」
ここで関係の無い人を巻き込ませる訳にいかない。
しかし、いきなりの事に戸惑いを隠せずあたふたする。
「ええッ!ちょっと待って…ひいふうみい…て3000ミラ!?こんな大金貰えないよ!?」
今にも戦いが始まりそうな状況でも、キッチリとミラを数える。
だがミラの事はルークスにとってはどうでもいい事だった。
「そんな事はどうだっていいんだよ!さっさと行け!巻き込まれてえのか!?」
「と、とにかく、後でまた返しに来るから、そこから動かないでくれよ!?」
ルークスの勢いに御者は馬車を走らせてナイアド方面へ走っていった。
余裕なのか、ルークスと御者の会話のやり取りに邪魔する事無く様子を見ていた。
「あれあれ?これじゃあ私達、まるで悪役じゃあないですかぁ〜?」
「どう考えても悪役だろ?あの時はよくも好き勝手にやってくれたな」
「それはこっちのセリフだよ。人のモノを勝手に取ったら泥棒って教えられなかった?」
「人のモノって言う割に随分と嫌われてるようだけど?」
ぷるぷるッ!!
テーベは今まで比べものにならない程の激しく震える。




