05.護衛
昨日の戦いから一夜が明け身支度を済ませる。
宿屋から出てくると、いつから待っていたか分からないヒマリアが壁にもたれながら話しかける。
「おはようルークス」
「………お前いつからそこに待ってたんだ? それに俺の居場所を言った覚えがないんだが」
「ついさっき来たところよ。それと星群騎士団の情報網を甘く見ないことね」
ステラがゆっくりと寄る。
「あなたは誰?」
彼女の存在に気付く。
「君は…?初めて見る顔ね。私は星群騎士団護衛部隊に所属する騎士兵ヒマリアよ、君は?」
「私はステラ・バイナリー……よろしくね……ヒマリア」
互いに自己紹介を終えたところにヒマリアが本題へ入る。
「さあ、ルークス聞かせてもらうわよ、昨日何があったの?」
昨日の出来事…赤髪の男キャンサーと戦った事だ。
ルークス自身もいきなり襲われた身なので、本人もよく分かってはいない。
それに今はステラがいる。彼女がいる時にこんな物騒な話をしたくない。
「それって今話さないとダメか?」
歯切れの悪い言い方に突っかかり尋ねる。
「……なにか問題があるの?」
「今は……ちょっと……な」
ステラに気付かれないよう慎重に目配せする。
それに察したのか、これ以上追及してこなかった。
「……わかったわ。でも、早めに話してね。こっちも情報がほしいから」
「わりぃな。そうしてもらえると助かる」
「……二人とも何の話をしてるの?」
話の内容が気になったステラが訊く。
「ん?ただの雑談だぜ……な?」
「ええ、そうよ」
「ふ〜ん?」
怪しい…と疑いの目を向ける。
「そ、それより二人は何しに来たの?買い物?」
不自然に話題を変える
「かいもの?ちがうよ、私の記憶を探しにきたの」
変な回答に戸惑う。
「記憶を……さがす?」
「これに関しては俺が話すよ、じつは――――」
★
ルークスはステラについての、これまでの経緯を話す。
「なるほどねー。それでコーディリアに目指すワケね」
「うん」
「じゃあ私もついてくわ」
「はぁ?なんでそうなるんだよ?」
「あら忘れたの?私は護衛部隊の騎士よ!困ってる人を守る義務があるの、ほら最近魔物が前と比べてかなり活発化してるでしょ? 二人で行くのは危険よ」
手を胸に当て話を続ける。
「どのみち私も今回の件で本部に報告し戻らないと行けないしね」
「うんうん私もそれがいいと思う。いっしょに来たほうが楽しいし」
ステラは、ジーとこちらを目で訴える。
「わかったよ。あんまり借りを作りたくはないが、仕方ねぇか…………頼りにするぜ騎士サマ?」
「任せなさい。二人のことは私がちゃんと守ってあげるからね!」
胸を張り自信満々に言うヒマリア。
心強い仲間が増えた所にステラが質問する。
「ねぇ? これからどうするの? 王都に行くの?」
「そうだな、まずはナイアドからでてこの先にある迷いの森ってところを抜けた先に王都があるから、ひとまず迷いの森へ目指そうか」
「ここから先、街や村が無いからここで色々と準備しましょ?」
「そうだな……」
ルークスは言葉を詰まらせる。不思議に思ったヒマリアが尋ねる。
「どうしたの?」
言いにくそうに渋々と話す。
「準備するのはいいんだが………まぁミラがな……使い切っちまった」
両手を腰に当てつつ、こちらを覗き込む形に
「君って、昔からそーゆうところ直ってないよね。少しは考えてから動いてよね」
「…何も言い返せねぇな」
ヒマリアが溜息をしながら、腰につけている袋を取り出す。
「まぁいいわ……今回は私が………て、あれ?」
彼女の言動に不安を募らせる。
「まさかお前……」
「忘れちゃった☆」
ニッコリ笑顔で伝える。まるで反省のいろが見れない……いや、元々俺の管理が悪かったからこうなってるわけだけど……
ステラが綺麗な長い白髪を揺らしながら尋ねる。
「どうしたの?」
「ステラちゃん……ミラが無いの!」
「そ、そうなんだ……」
(どうしよう……クラーワからミラもらってたんだった……言ったほうがいいのかな? でもルークスに見せちゃだめだし……)
彼女の異変に気付いたルークスは、そばにより尋ねる。
「どうしたステラ? お腹痛いのか?」
「ちがうの……その……」
体をモジモジとさせる。
「?」
「じ…実は私…ミラ…持ってるの」
そういうと、しゃがみ込みスカートの内側を弄りはじめる。
ルークスの言葉よりもステラがササッと動く。
「はい」
彼女の手には1万ミラの入った袋を差し出す。中身を確認し驚く。
「コイツは…!…ステラ…これ、どこで手に入れた?」
「………道に落ちてた」
「いやそれ嘘だろ」
「ちちちちちがうよ、うそじゃないもん」
動揺が隠しきれず後退りする。
「ステラ…素直に教えてくれ…こいつはどこで手に入れたんだ?」
観念したのか話し始める。
「えっと、じつはフェーべ村からでていくときにクラーワから貰ったものなの……」
「はぁ、あのじーさん……大丈夫なのか……こんな大金渡しやがって…」
「まあまあ良いじゃないの、別に悪い事じゃないわ」
「だけどよ」
「だけどじゃない。まぁ、君の性格からして、直接渡せなかったと思うよ。こういう時は素直に受け取るのがいいの。それに借りたものは後で返せばいいだけだから…ほら、こんな所につったってないで買い物を済ませるわよ!」
少々話を強引に進めるヒマリアに、ルークスはあまり納得しないまま買い物を済ませるのだった。