31.約束
王都コーディリアの中央区にある魔術師の一軒家にゆっくりと体を休ませていた。
「う…ん…」
一室に寝ぼけた男の声がする。
「ふぁ〜…よく寝た」
大きな欠伸を出しベッドから降りる。
「あ〜水水…」
寝ぼけながら徐に近くにあった水の入った容器を掴み、ゴクゴクと飲む干す。
「…今何時だ?」
時針星導光の針は午前6時と示している。
「時間はまだあるな。さてと…」
部屋から出て階段を降り近くにある冷蔵星導光の中を漁り丁度いいパンをとる。
家の中は静まり返っている。どうやらステラとミルキーは眠っているようだ。
「アイツらはまだ寝てるな…」
パンを持ったまま玄関の扉を開け外へ出る。
朝早い時間なのか人出が少ない。
ゆっくりと歩き中央区から迷いの森方向の入口へ足を運ぶ。
道なりに進んで行くと、ついこないだまで綺麗だった筈の黒ずんだ守護星導光が見える。
「テーベ、いるか〜?」
辺りを見渡しテーベを探す。
近くの草むからガサガサと音を出し何かが飛び出して来る。
「ん?」
その何かがルークスの顔面に張り付く。
「っ〜!?」
急いでソレを両手で剥がし確認する。
「ソレびっくりするから止めろ」
ぷるぷる…昨日より元気が無いのか、小さく震える。
「ん?どうした?」
ビヨ~ンと体を伸ばしたり、ぴょんぴょんと跳ねたりするが、ルークスには伝わらず、どうすれば良いのか分からなかった。
「…ステラがいねぇと全然分かんねぇな。とりあえず、これ食うか?」
家から持ってきたパンをあげる。
テーベは勢いよく飛びつきパンを取り込み始める。
「悪いがもう少しだけ待ってくれ、用事が終わったら直ぐに来るからな」
言葉が通じたのか、パンを取り込みながら草むらの中に入っていた。
★
しばらく時間が経ち、ルークスはミルキーの家に戻る。
「あ、おはよう。ルークス」
パジャマ姿のステラが挨拶してきた。
まだ起きたばかりなのか目を擦りながら近付く。
「おはようさん。ぐっすり眠れたか?」
「うん」
グゥ〜…ステラのお腹から音が出る。
「おなかへった…」
冷蔵星導光を開け中にあったパンを取り出す。
「ほら」
「わぁい、パンだぁ〜」
早速パンを食べ始める。
「ミルキーのやつは起きてるのか?」
「さっき起きてきて、あの部屋に入っていったよ」
「そうか」
どのタイミングで行くか聞いておくか。
コンコンと2回ノックをして待つ。
すると扉の奥から歩いてくる音が聞こえてきて、目の前の扉が開き不機嫌そうなミルキーが出てきた。
「なに?…ってもう起きてたのね」
「今日騎士団の本部に行くだろ?今から行くのはさすがに早いと思うしもう少し待ってから行こうと思ってるんだが…」
「そうね。少し待ってから行きましょ。というかまだ何も準備してないからどの道行けないけどね。話はこれだけ?だったら今は一人にしてちょうだい。研究で忙しいし」
「あ、ああ…邪魔して悪かったな」
用が済むとパタンと扉を閉める。
「…やる事がねぇな」
★
この微妙な時間に特にやる事が無く白色のソファーに座ってボーッとしていると、背後からいきなり本でシバかれる。
「いてっ」
魔導書で殴ったであろう本人がルークスの後ろに立っていた。
「何ボーッとしてんの?ほら、行くわよ」
机にある小さな箱型の時針星導光は9時過ぎを指していた。
「もうこんな時間か」
「ルークス、なにしてるの〜?早く行こうよ〜」
ステラもすでに準備が整っているようだ。
「今行きますよ〜と」
ソファーから立ち上がり家から出る。
家から出てここからでも見えるデカイ城のような建物に向かって直進する。
「あれだろ?」
「あんだけデカイと迷う事もないわね」
コーディリアの中で最も大きく目立つ建物だ。
白を基調とした色で、真上から見ると8つの円錐塔が八角形を作るように並んでおり、その塔のとんがり屋根の部分には青色となっている。
「ほわぁ〜大きい〜」
近くまで来ると入口と思われる大きな扉に、その前には花壇が等間隔に設置されており、休憩できるように木製のベンチが置かれている。
騎士団本部前まで着くと、入口前に居た門番がこちらに近付き話し掛ける。
「そこの君達。止まれ。…星群の者ではないな」
こちらをジロジロと怪しんで見る。
「俺達はフォボスって奴から言われてきたんだが…」
フォボスと言うと、門番は何か思い出したのか、すんなりと警戒心を解く。
「ああ、護衛隊長の言っていた客人は君達か、これは失礼しました。さぁ中へどうぞ」
★
扉を開き騎士団本部へ入る。
中へ入ると、まるでホテルのように大きな広間となっていた。
床はピカピカとした白黒の大理石、白色の綺麗な柱にはお洒落に装飾品を飾ってある。
大きな広間を通り抜け廊下に行き、数ある扉の一つを開け入る。
「フォボス隊長をお呼びしますので、しばらくお待ち下さい」
門番はそう言い残すと扉を閉め去っていった。
「何これぇ〜?」
ステラは興味津々にテーブルに置いていた高そうなツボを触る。
「あんまり触っちゃだめよ?」
「無駄に豪華だよな」
赤色の絨毯が敷いており、真ん中にはテーブルと椅子が設置されている。
大きな窓ガラスから外の花壇が見え、いい景色となっている。
「客人専用だからでしょ?他なんて質素な部屋ばかりよ」
「うん?ミルキーってここに来たことがあるのか?」
「ま、まあね」
視線を壁の方に向けて答える。
しばらく待っていると扉からトントンと2回ノックの音が聞こえた。
「入るよ?」
「どうぞ」
確認をとり、フォボス隊長が入ってくる。
「朝から申し訳ないね」
「別に構わねぇさ。で、何が聞きたいんだ?」
椅子に座り話を進める。
「早速なんだけど君達はあの黒い魔物を倒すために、迷いの森の奥深くまで来ていた。そこに行くまでに何か会わなかったかい?」
「何かって……あ、そういえば迷いの森の奥にあった遺跡で変な奴に会ったな。えーと、名前はなんだっけな…」
思い出そうとする傍らにミルキーは苛立ちを見せるように話す。
「アルゲティよ。アイツ次に会ったらぶっ飛ばしてる!」
「…? その人と何かあったのかい?」
「じつは――――――――」
アルゲティの事と謎の機械の事を話す。
「なるほどね。そのアルゲティって人は、テーベを捕まえようとして君達と戦った…と、それに加えてテーベに何か余暇なぬことをしようとした」
普段怒らないステラが少し怒りの声を込めて話す。
「うん。テーベちゃんは物凄く嫌がってたの。あの人許せない」
「そのアルゲティって人はこちらで調べとくよ。それ以外に何かあったのかい?」
アルゲティと黒い魔物以外は特にない。
絶対悪の象徴については現地で会ってたので、話す必要がないだろう。
「いや、特にねぇな」
そう答えたあとに、フォボスは真剣な顔を出し、とある事を訊く。
「そうか。……ちょっと変な事聞いてもいいかな?」
「なんだ?」
「君達が迷いの森にいる間に何か変なものを見ていなかったかい?」
「変なもの?」
何か突っ掛かる事があったのか、ステラは話を聴く。
「そう。僕達も迷いの森の探索をしてる時に何かこう…誰かに見られてる…なのかな。何かが近くにいる。とにかく気味の悪い気配がしたんだ。君達にはそういうのはなかったかい?」
妙な質問に首を傾げる。
「俺には分かんなかったな」
「アタシもそういうのは何もなかったわ」
思い当たる節があるのか、考えるように下にうつむく。
「…………」
「ステラ?」
声を掛けられハッとする。
「え?な、なんでもないよ」
「そうよね〜。それどころじゃあ無かったし」
黒い魔物との戦いに、他の事など気にしてられなかった。
「そうか。僕の気の所為なのかな?」
「まだ聞きたい事はあんのか?」
「ああ、最後にひとつだけ、君達はどのように黒い魔物の居場所を特定したのかな?」
「それはステラがやった事なんだが…まぁ、その事は俺から話すよ」
フォボスはステラに視線を向ける。
「君が?」
「?」
なんの事か分からないステラはテーブルに置いてあったお菓子をパクパクと食べ始める。
「俺達も本人も詳しい事は分かってはいないんだが、どうやらステラは黒い魔物に対しては嫌な気配を感じるらしいんだ。で、その気配を辿って行ったって訳だ」
「なるほどね。君には黒い魔物を察知できる能力があるわけだ。さて、これで僕の聞きたい事はこれで終わりだよ。朝から早く申し訳ないね」
聞き取りは終わり肩の力を抜く。
「別にいいさ。こっちもあんたに用があって来たんだからな」
「おや、そうなのかい?」
「そう。用というかお願いに来たんだけどな。隊長さんはフェーベ村って知ってっか?」
少し目を瞑り思い出す素振りをする。
「ああ、あの小さな村の事だね」
「その村にほんの少しでもいいから護衛をつけて欲しい」
「すまない。それは出来ないんだ」
申し訳なさそうに謝り、ルークスのお願いを断る。
顔を曇らせて訊く。
「…何か不都合な事があるのか?」
「実は今、騎士団長並びに他の部隊がほとんど出払っていてね。今の星群騎士団は手薄なんだ。だからちょっと今は行けそうにないんだ…申し訳ない」
出払ってる状況なら仕方がない。
ルークスはもう一つお願いをする。
「いや、いいんだ。じゃあもう一個いいか?」
「なんだい?」
「照明星導光が1個欲しいけど、貰えたりしないか?」
魔物によってフェーベ村の入口にある照明星導光がひとつ壊されて、持ち帰る必要がある。
「それぐらいなら構わないよ。何日か時間が掛かるけどいいかな?」
あっさりと貰えて驚きつつ礼を言う。
「貰えるならそんなこと気にしねぇよ。ありがとな」
「本当は君の願いを叶えたいけど、状況が状況だからね。おっと、もうこんな時間か…すまない。この後用事があるから、このあたりで失礼させてもらうよ。せっかく来たんだし、ゆっくりしていってくれ。じゃあね」
少し足早になり部屋から出ていった。




