27.甲殻線虫フォエトル①
再び迷いの森に足を運ぶルークス一行。
ステラの感じる嫌な気配を辿りながら奥へ進んで行く。
「大丈夫か?ステラ」
うつむきながら返す。
「私は大丈夫だよ…」
プルートは苦い表情になり辺りの警戒を強める。
「……俺でも分かるぐらい周りの空気がビリついていやがる」
「何だか不気味ね…遺跡からそこまで離れてないけど、こんなにも雰囲気が変わるなんて…」
遺跡にいた時と違って、昼過ぎにも関わらず薄暗く辺りの木や草が風でガサガサとして、不気味さをより一層掻き立てる。
長い白髪を振り周りをキョロキョロする。
「うぅ…イヤな気配がすぐ近くに感じるよぉ……」
(それに…なんだろう…?イヤな気配とべつの何かがいる…?…なんだじっとみられてる感じで怖い…)
正体の分からない気配が、あちこちから感じ取り不安を覚える。
そんな中ヘルセが語りかける。
「ルークスボーイ。1ついいデスカ?」
「なんだよ。こんな時に」
「…この先に恐らくデスガ、この王都周辺に蔓延る黒い魔物のリーダーがいると思いマス」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「我々も、今までこういった危険な魔物と戦ってきました。しかし、今から戦おうとする魔物はかなり危険なものデス。ハッキリ言ってワタシとプルートボーイだけでは骨が折れマス」
「何が言いたい」
「改めて言いますと協力して欲しいのデス。アナタも黒い魔物を倒すためにここまで足を運んできたんですよネ?目的もなくこの森の奥深くまで来たりしません。さぁ、ルークスボーイ…我々に協力してくれマスカ?」
二人だけでは色々とマズいから協力しろと言っているようだ。
ただ、これについては考える間もない。
ルークスの答えは最初から決まっているからだ。
「協力も何も最初からそのつもりだ」
こればかりはプルートも渋々と手を組むことを選ぶ。
「…チカラを貸してもらう予定では無かったが、こればかりは致し方無い…か…」
何か発見したのかミルキーは、進む方向に指をさし伝える。
「ん?…何よアレ?」
指された場所に明らかに場違いとも言える黒い魔物が佇んでいた。
丸く地面に埋まっており、周りに木や草が不自然に黒ずんでいる。地面は所々に抉り取られた様な跡が所々にあり、硬そうな殻のようなものに覆われている。
黒い魔物だと言わんばかりに指をさし言い放つ。
「あ、アレだよ!イヤな気配がするの」
その魔物は全体的に黒く、所々に深い緑色の斑点らしきものがある。
不気味と言うより異形と言うべきか、なんとも言えない見た目をしていた。
「あいつか…ステラ、ここに隠れてな。行くぞ!」
「き、気を付けてね…」
テーベを頭から降ろし抱きかかえ、この場を離れ木の裏側に隠れる。
ステラが離れた事を確認すると、ルークス達も巨大な殻に覆われた黒い魔物の元へ走る。
近くまで来たが、相手から攻撃する気配がない。
目や口といったものが見当たらず、ただ大きな殻が覆われているぐらいしか分からない。
「見るからに硬そうな見た目ね」
不用意に近付く彼女に細剣を引き出し注意を促す。
「おい、あまり出過ぎるなよ。痛い目に遭うぞ」
プルートの注意を無視して魔導書を開く。
「怖気づいてるの?こんなのアタシの魔術で一発よ!」
自信満々に宣言をし、詠唱を始める。
「荒れ果てる水流よ…アクアブラスト!」
4つの水塊が黒い魔物に襲う。水塊が触れ突風が吹き荒れる。
しかし、黒い魔物は微動だにせず、ただひたすらに動かない。
無抵抗な事をいいことに追撃として、さらに術を発動させる。
「雷電を落とし天からの一撃を受けよ!ライトニングロッド!」
魔物の周りに4つの針を地面から突き出し雷撃を呼ぶ。
ドゴォォォォォォォォオン!!
轟音と共に黒い魔物に雷撃を当てる。先程のアクアブラストにより、相手の体全体を濡らしていたため、感電を引き起こす。
「どう!アタシの魔術は!効いたでしょ」
両手を腰に当てドヤ顔をかます。
すると黒い魔物の殻をほんの少し動かす。
危険を察知したプルートは急いで術を発動させる。
「ッ!?強固なる壁よ、我を守れ!ハードシェル!」
その場にいる全員にシールドを付与し、相手からの攻撃を防ぐ。
シールドが形成すると同時に、黒い魔物の殻の小さな隙間から黒緑のガス状を吐き出し、辺りの視界を悪くする。
このガスが、ルークス達に届いた時点で気づく。
圧倒的な臭さに
「くっさッ!」
「ぐはっ!」
「あ〜クサイクサイ!なんなの!」
手で一生懸命パタパタさせるが大して意味はない。
「ノオォォォゥウ!そこデス!」
悶ながらもヘルセは銃型になった武器を構え、魔弾を3発打ち込む。
バンッ!バンッ!バンッ!
隙間の中に届くことなく殻に命中する。
次第に黒緑のガスが晴れていき、視界がもとに戻る。
ミルキーは四つん這いになり咳き込む。
「ケホッケホッ…あ〜もう嫌!」
珍しくプルートもフラつき片手に頭をおさえる。
「くッ…息で攻撃するなんて…気持ち悪い…」
ルークスは仰向けになり、死にかけたような声をだす。
「あ〜…今のは効いたぜ…」
「何してるのデスカ?」
淡々とした声で話し掛ける。
「ヘルセ…お前、よく無事でいられるな…」
細剣を杖代わりにして態勢を立て直す。
「無事ではありませんヨ。あの臭さは尋常ではありまセン。吐きそうでしたヨ」
堂々としているがヘルセも、あのクサイ攻撃には堪えていたようだ。
息を整えながら状況を把握する。
「はぁはぁ、このデカブツ…見た目通り動かねぇな」
こちらがクサイ攻撃に苦しんでいる間に、相手は動かした殻を閉じ追撃することなく何もしてこなかった。
何か考えがあるのか、プルートが口を開く。
「…少し試したい事がある。お前達、下がってろ」
「わ、わかった。一旦ここは、まかせるぜ」
とりあえず彼の言うことを聞き引き下がる。
「這い寄れ影の剣よ…降り注ぐのは悲痛の刃!ベイオネットシャドゥ!」
黒い魔物の影から黒い銃弾を発射され、魔物に撃ち込む。
だが黒い魔物の殻に傷一つつけられない。
「チッ!ならば!闇の剣よ…悪を滅殺せよ!ナイトブレイド!」
ガアァァァァァン!
黒い魔物の下から巨大な剣が突き出るのだが、その剣が出ずにそのかわり鉄を打ったような地響きが発生する。
しかし、黒い魔物の変化は見られず反撃もしてこない。
「舐めやがって…!」
静かに目を瞑り詠唱を始める。
「獄炎に眠る大地の力…枯れ果てた土を蘇り闇夜を祓うその力…開くは絶望の扉!絶炎のマリオネット!」
黒い魔物とその周りに円を描くように黒炎を発生させ、魔物の真上には黒い扉が現れる。
「焼き払え……!」
黒い扉が開きその中からケタケタと不気味な笑顔をした黒い人形が5体降り立つ。
人形が黒炎に触れると瞬く間に全身が燃え上がり、魔物に向って素早く魔物のもとへ移動する。
人形が魔物に触れた瞬間、大きな爆発を起こす。
その爆発が連鎖を起こし、残りの人形も次々と爆発をしていく。
「ふうん……この術を受けて生き残れた魔物はいない……さて、帰るか…」
ゴゴゴゴゴゴ……!
「ん?」
何やら地響きが起きその直後、黒い魔物の殻が一気に開き、黒緑のガスを撒き散らし中にいた魔物が姿を現す。
「なんだコイツ…!」
大きく開かれた殻の中は、線状の細長いものが地面に根を張るように引っ付いている。
細長い胴体に、頭部に2本の鋭い牙、頭を守るためにあるのか殻のような硬そうなものに覆われている。
胴体から2本の腕が生えており、指先の部分に、5本の触手がでてきている。
ミルキーはあるものに気付き叫びながら逃げ出す。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
「ミルキー!?どうした!?」
ルークスの質問に答えることなく、草木に隠れていたステラの元まで走って逃げ出す。
「ムリムリムリムリムリムリ!キモいキモいキモい気持ち悪いィィィィ!!」
ミルキーの変わりように戸惑いを隠せない。
「ミ、ミルキー!?大丈夫!?」
ステラの肩を掴み必死に訴える。
「大丈夫な訳ないでしょ!?なんなのアイツは!気持ち悪すぎる!!」
……殻から出てきた魔物の胴体、腕に無数の線状の小さな虫が蠢いていた。
近くまで来なければ分からないほど、小さな虫だがミルキーは大の虫嫌い。そのため直ぐに気付く事が出来た。
ルークスとヘルセ、プルートの三人は前に出て構える。
「我々だけで対処するしかありませんネ」
「まじかよ。しゃーね…やれるだけやってやるよ」




