02.不穏の影
「ねぇ、ルークス……えーてるってなに?」
馬車にゆらされながら最初の目的地ナイアドに向かう途中、記憶を無くした少女ステラが尋ねる
「星導光か‥‥」
少し悩みながらルークスが答える
「悪い、実は俺もよく分かってねぇんだ。そうだな‥俺が知る限り確か星導光ってのはこの星のエネルギーを利用して動かすやつだったかな」
「そうなの?じゃあ、るーめんえーてるも一緒なの?」
照明星導光‥フェーベ村にあちこちとあった光る物体。辺りを照らし視界を確保するだけではなく時に道しるべにもなる。
「照明星導光は‥‥なんつーか‥まあ、明かりを照らすやつだな。原理は知らんが、まぁとにかく星導光は、俺達の生活に欠かせない大事なものさ」
ルークスの説明に納得しなかったのか微妙な表情をする。
「ざっくりとしてる‥」
苦笑いを浮かべ適当に返す。
「ははは‥わりぃ。俺こういうのが苦手だからさ‥大雑把にしか言えねぇんだ」
「そうなの?ルークス。あと一ついい?」
「おう。なんだ?」
「みらはなに?」
「ミラはお金だ」
「ほ〜‥うん、なんとなく分かったような気がする」
(なんか心配だな‥基本的な事も忘れてるようだし、しばらく村には帰れそうにないな)
内心これからの事を心配する彼をよそに何故か楽しそうにするステラ。
★
ガタガタ‥ガタガタ‥
道が悪いのか揺れが少し大きくなる。
「ステラ大丈夫か?」
この揺れに酔うていないか訊いてみる。
「‥?大丈夫だよ?」
彼の言葉により分からなかったのか、不思議な顔を見せ返す。
「そっか‥」
特に話すこともなく、少しずつだが目的地のナイアドに近づいて来ている。
そんな中、ステラが口を開く。
「ルークスって、普段なにしてるの?」
「え?俺か?そうだな‥朝から剣の練習して、村の見回り‥あとは困ってるやつがいたら、それを手伝うぐらいかな」
「ほ〜」
「なんだよその反応は、逆にどんな奴だと思ったんだ?」
想定外なのか、ポケ〜っとしたあとに一言。
「‥‥‥何も考えてなかった」
「そ、そうか」
あれから少し時間が経ち、目的地であるナイアドに到着する。
「500ミラだよ」
若い御者の男が、こちらに手を差し伸べる。
「ほい」
ルークスが自分の懐から、500ミラを渡す。
「毎度〜」
馬車を走らせ去っていく。
「ここがナイアド?」
見たことのない場所にキョロキョロする。
フェーべ村と比べると少し大きな町だ。真ん中に存在感の大きい巨木があり、その巨木を囲むように家が建っている。
よく見てみると、その巨木に青い宝石のような綺麗な石が埋め込まれている。
「ん?やけに人が少ねぇな」
ナイアドに来てから人一人すら会っていない。
普段ではありえない事だ。
ルークスの様子に気付いたステラは、そばに駆け寄る。
「どしたの?」
「人がいねぇ‥普段なら鬱陶しいぐらい人がいるはずなんだが‥‥お、あそこにひとが‥おーいちょっといいか?」
たまたま通りかかった人に声を掛ける。
「え?な、なんですか?」
急に声を掛けられて驚く女性、片手に木製のカゴを持ち、中には食べ物が沢山入っていた。おそらく買い物帰りの途中なのだろう。
「やけに人が少ねぇけど、何かあったのか?」
「あれ?もしかして他所から来た人?だとしたら悪いタイミングに来たね。」
白髪を揺らし首を傾げながら話す。
「なにかあったの?」
「ええ、ここ3日前から立て続けに殺人事件が起きていてね」
この町に殺人?物騒な話だ。
「犯人はまだ捕まってないし、騎士団の人もまだ来てないし、あなたも、ここに用がないなら早めに離れたほうがいいわ」
そう言い放つと女性は足早に去っていった。