104.同じ瞳
コルトの助言を貰い早速行動に出ようと思ったが……
(とは言ったものの……)
目の前には変わらず目の死んだ少女が横たわっていた。
(どうやって戻すかだ)
彼は誰かに対して優しくするなどとそんな甘いことはしてこなかった。
コルトからは少女の精神状態を普通に戻すことと言われたが、どこからやればいいのか検討がつかない。
(まあいい、まずは………)
後のことをごちゃごちゃと考える前に、まずはやれることから始める。
「ガキ」
「…………」
表情のひとつ変えない。いや、体全体そのものが何も動いていない。
生きているのかわからないくらいだ。
だが、少女の体は呼吸する度に僅かだが動いている。
「お前だよ。反応くらいしろ」
「…………」
死んだ目をして横たわっている。
反応が一切ないので聞いているのか分からない。
「まずは風呂に入れ。そのまま居られたら汚くなる」
「…………」
いくら安い宿とはいえ、こちらの都合で汚すのは良くない…などと彼は微塵も考えていない。
フォンセにとって目の前の少女は大金になるかもしれない物。
少しでも価値を上げるべきことをしているまで
「おい、聞いてるのか?」
「…………」
何も反応を示さない、というか全く動く気配がない。
だが、それと同時に自害することもない。
「面倒くせえ…」
溜め息をついた後、椅子から立ち上がりゆっくりと少女に近付いて、横たわっている彼女の手を引っ張る。
力を入れてないのか体がぐにゃりとする。
体を支えながらボロボロの服を脱がせた。
全裸にされた少女は抵抗もせずに死んだ人形のようにうなだれていた。
無理矢理立たせてみると自立はした。
「鉄くせぇな…」
少女の体にはべっとりと血がこびり付いていた。
「座れ」
「…………」
椅子を用意したが座る気配がない。
(マジで何もしねえなコイツ)
まるでボケた老人を介護してる気分だ。
強引に少女を座らせると少女の体を傷つけないように温水を使って洗い始めた。
「…………」
最初にボサボサになった髪の毛を洗い出す。
次に体についた血をまんべんなくキレイに落とし始める。
(コイツを見てると…過去の自分を思い出す。昔の俺もお前と同じ目をしていた。全てが終わった……絶望の感覚)
彼女の目を見ながらに自身の過去を思い出していた。
(何をどう転んでも決して変わることのない現実)
ソリュート家、それは魔人戦争が始まるずっと前から存在する。
ソリュート家には代々と伝わるあるモノが受け継がれていた。
それは特異能力と呼ばれる人知を超えた力。
人間の身にも関わらず星導光を使わずに発現できた不思議なチカラ。
ソリュート家から生まれ出た人間は必ず特異能力が見られていた。
それは神からの贈り物のように授けられていった。
特異能力と言っても多種多様で日常から使えるものや戦闘面で役立つものもある。
今から32年前にフォンセはソリュート家の長男として誕生した。
ガイヤ・ソリュート………それが彼の本当の名。
誕生してすぐ、彼は不遇な扱いをされた。
理由は単純明快、ソリュート家に伝わる特異能力が見られなかったからだ。
ソリュート家は根っからの能力主義と言っても過言ではない。
能力の中でも役に立たない力は衰退し、役立つ力だけが表へ立つ。
しかし、そんな彼でも10年間はソリュート家に残されていた。
どんなに役立たずでも能力の開花が秘めていたからだ。
だが実際に開花を引き起こせたのはたったの1名のみ。
能力を持たない彼を誰も初めから期待などされてはなかった。
10年間、歓迎されてなかったとはいえ別段、普段の生活に困ることは無かった。
多少の嫌がらせはあったが、どれも軽いものばかりだ。
彼は特にやることが無く10年の時が経った。
能力の開花など、そんな夢物語は無く彼はどこかの孤児院へと押し付けられた。
当時の彼はまだ10歳の幼い少年だった。
ソリュート家の実情を知っていた彼は捨てられたとわかっていた。
だが後に彼は知る事になる。ソリュート家と孤児院の裏の顔を………
★
「よし、キレイになったな」
「……………」
少女に付いていた汚れを全てを洗い落とし、綺麗な銀髪がツヤを出していた。
相変わらず目は死んでいるが前と比べると格段とよくなった。
「…………あ」
フォンセから間抜けな声が漏れる。
「俺としたことが……すっかり忘れてた」
少女の裸を目にしてある事を思い出す。
「服…無いんだった」
フォンセはこれまで誰一人、連れてくることは無かった。
少女なら尚更だ。
脱衣所に余った白色のバスタオルを掴み少女の頭に放り投げる。
「とりあえずタオルでも羽織っておきな」
「…………」
しかし、少女は何もすること無くバスタオルが頭に掛かったまま突っ立っていた。
「ちっ、自分から動こうともしねえ」
タオルを取り上げて雑に少女の体に羽織らせる。
「お前の服を買いに行くからそこで待ってろ」
少女からの反応を待たずにして部屋から出て行った。
「……………」
フォンセが外へ出て行った後も微動だにせず虚空を見つめていた。




