102.言霊族
「………」
フォンセは一人コーディリアの西街道に歩いていた。
ファールバウティに行くには様々なルートがあるが、その中でサングレーザー経由で行くのが一番楽で早い。
人通りが少ないため、自然の風や小鳥の鳴き声が気持ちよく聞こえていた。
眠たいのか大きな欠伸をする。
「………」
天気は良好で散歩日和だ。
特にイレギュラーが起こること無くマイヤー湖畔の近くまで来ていた。
「……?」
フォンセはなにかに気づく、街道の外れに目立たない赤い何かがこびり付いていた。
それを察したのか口元が緩む。
彼は湖畔に行かず街道の外れの中にある樹木が茂る場所に歩き出した。
「さっさとそのガキの口を塞げ!」
鬱蒼とした場所に三人の黒服達が一人の幼い少女を囲んでいた。
その周りには複数の死体と大量の血と肉が散らばっていた。
「あ〜、くそっ!自害しやがって…!」
少女の口にテープを貼られて、そのうえ体をロープに縛られて動けない状態だ。
「よぉ…」
「だれだっ!」
不意に何者かに話しかけられて一斉に振り向く。
かなり警戒しているのか、持っていた武器を声にする方向に構える。
「ずいぶんと楽しそうじゃねえか…」
ガサガサと茂みを掻き分ける音が次第に強くなり、そして声の主と思われる者が姿を現す。
「俺も混ぜてくれよ」
フォンセがニヤリと笑い少女に目を向ける。
(な、なんだコイツ…!)
一人の黒服が危険を察知したのか後退りする。
(この気迫と異質な気配…強いってレベルじゃねーぞ!?)
今まで盗賊や魔物といった相手をしていたがコイツは違う。
ただ突っ立ってるだけなのに威圧感が心臓の奥まで伝わっていた。
「あ?なんだぁテメェはよ〜?」
何も感じないのか一人の男が銃口を突きつけながらフォンセと距離を詰める。
「お、おい…」
もはや戦意喪失したのか情けない声しか出ない。
そんな仲間を見て「ははっ」と笑い言い放つ。
「な〜にビビってやがる?見てみろよ!魔術星導光も武術星導光もねえじゃねえか!」
フォンセに身に着けている星導光はどこにも無い。
シンプルな服装のため余計な仕込みが無いと判断したのだろう。
あとは……ガタイの良い体だけ、だがそれも無意味だ。
どれだけ体を鍛えたところで所詮、星導光の敵ではない。
普通であれば
「違う…コイツは…」
情けない仲間と別のもう一人の男も彼の正体に気がついたのか、距離を取るように下がる。
「ふん」
二人してなんだ?そんなにコイツが怖いのか?
男は不思議で苛立った様子でフォンセに目を向ける。
「おいオッサン!ここはテメェのような奴が来るところじゃねえんだぜ?今なら見逃してやるから」
男の口が止まる。
「………は?」
目の前に居たはずのフォンセが消えていたからだ。
半ば放心状態でいると後ろから強烈な気配が感じた。
「誰に言ってんだよ…」
その声は鮮明でよく頭の中に響いた。
「え?」
男が振り向く。しかし、途中で何故か視界がぐにゃりと歪む。
「がっ!?」
頭に痛みが走ることなく男は地面に叩きつけられていた。
それを見た仲間がビビり散らした声を発する。
「ひっ!」
二人が見た視線では、フォンセが急に消えては男の背後に周り、男が振り返りと共に裏拳を繰り出していた。
だが、黒服達がビビっているところはそこではない。
フォンセが裏拳を繰り出した際にとても人間が出すような音では無かったからだ。
実際に男が殴られた後、ズレたように衝撃波が発生していた。
「や、やはり…お前は…」
戦意喪失した男が立て直して武器を向ける。
「傭兵のフォンセ!」
星導光に頼らずこれ程の力を引き出せる人物は一人しかいない。
「ふ〜ん、お前らのような下っ端でも知ってる奴がいたんだな」
殴られた男はピクリも動かない。
「な、何のようだ!お前を邪魔した覚えはないぞ!」
少しでも舐められないように虚勢を張る。
「ん?ああ…別にお前らに用があったわけじゃねえぜ」
そんなことはどうでもいいのか、一人の少女に指をさす。
「そこのガキに用があるんだよ」
「…………」
全身に血がこびり付いた少女は目だけを動かしてフォンセを見る。
その瞳は死んだいた。
「ソイツ、言霊族のガキだろ?どういった理由で死んでねえのか知らねえが…ソイツを渡しな」
「なっ!?」
獲物の横取りにさすがの黒服も怒りをあらわにする。
「ふざけるなよ…!コイツは俺達が先に取った獲物だぞ!急に出てきて寄越せだと!?いくらお前でも無理がある話だ!」
もう一人の仲間が何かに気づく。
「いや、待て……依頼か?誰かにミラでも積まれたか?そうじゃないと話が合わない」
「お前らさ、俺の事を知った気でいるけどよ…」
「っ!?」
さっきまで視界内にいたフォンセが消える。
「残念だが…外れだ」
その言葉を最後に鉄を打ち付けるような鈍い音が響いた……
★
マイヤー湖畔の付近のおかげか、近場にちょうどいい深さの川が流れていた。
そこには獰猛な水棲魔物、ピスキスが川に放り込まれた肉を奪い合って荒ぶっていた。
普段は少し濁った程度だが、今は赤く鉄臭い臭いが目立っていた。
「や、やめ」
ボロボロになった最後の黒服は必死に抵抗するが、無駄に終わり川へと突き落とされる。
川へ落ちた獲物に反応して、肉の奪い合いが始まる。
男はすぐに水中へ引きずり込まれた為、悲鳴を聞くこと無く捕食されていった。
フォンセは少女のいた場所に戻っていた。
「おい」
「…………」
声を掛けるが少女からの反応は無い。
見た感じ泥や血まみれになっているが外傷は見当たらなかった。
「あ?なんか喋れよ」
肩を掴み強引に座らせるが、バランスを崩した人形のようにコテッと倒れる。
死んだ目で視線は真っ直ぐを見つめている。
「………チッ…」
どうしようも無いのか通信星導光を取り出して連絡をする。
ピーピーと音を出して相手の通信が繋がるのを待つ。
すると、ノイズ混じりに男の声が聞こえてきた。
「珍しいな…お前から掛けてくるなんて」
「コルトお前、言霊族ってのは知ってたよな?」
徐々にノイズが取り除かれていき鮮明に聞こえるようになってきた。
「そうだが…お前まさか…捕まえたのか…?」
「ああ、ガキの一人だけだがな」
「まじか…」
コルトはかなり驚いていたのか言葉を失う
「で、コイツいくらなんだ?」
「売るのか?」
「だったらわざわざ助けに行かねえよ」
フォンセの言う助けるという言葉に察して深い溜め息をこぼす。
「……お前またやったのか?はぁ…いつも言ってる事なんだがな」
「はいはい、テメェの説教なんて要らねえよ。で、いくらぐらいだ?」
「はぁ……そうだな…言霊族は獣人族やエルフと比べて希少性の高い種族だ。だが、扱いの難易度はかなり高い。そいつの状態にもあるが…奴隷なら5万ミラ、コレクターなら100から300万程度だな」
フォンセは普段から奴隷売買を繰り返しているため、ある程度の種族への知識は盛っていた。
「奴隷は話にならねえな。コイツらの習性を考えればそうなるのは当然か」
「言霊族は他の種族と関わりを持たなかった種族だ。そのおかげで知られて無いことも多い。だが、有名な奴が1つある…まぁ、これが一番の問題なんだが……自身の命に危機が迫った時に自害する習性がある」
言霊族は他の種族にあまり知られていない種族。
それ故に不明な点が多い、だが、その中でも判明していることがある。
それは自身の言葉に力を宿らせ、それを現実にする能力があることだ。
この力を利用し命の危険が訪れた時に自害するようにしている。
なぜ自害するかは判明していないが……
「普通なら隷属化させて自害させないように命令するんだが、どういうわけか隷属化しても自害だけは出来ちまうんだ。それがあるから基本奴隷としての価値は低い。労働にしろ慰めにしろ、いつ自害するか分からないやつを持っておく理由がないからな。一部変わったやつもいるが…」
隷属化させた対象は主の命令に背くことは出来ない。
しかし、それでも言霊族の自害を止めることは出来なかった。
「とりあえず売るならコレクターにしたほうがいい」
死体の皮や内臓を人形に仕立てて作る生き人形や生きたまま人形のようにキレイに保管する者がいる。
「コレクターね…確か死体を弄くり回して保管したり人形にしたりとかで…気持ち悪りぃ連中だったな。アレのどこがいいんだか…」
彼には一生理解出来ないことだ。
「世界には色んな奴がいるんだよ」
「そうかい。切るぞ」
用が済んだのか早々に切ろうとする。
「ちょっと待て」
「んたよ」
「聞くまでもないが一応な。コレクターに売るならその言霊族の状態を良くしてけよ。じゃねえと安く買われるからな」
「うっぜえーなぁ~。別にいいじゃねえか」
「お前さ…綺麗な星導光か汚え星導光があったら、どっちを選ぶと思う?」
「興味ねえ」
通信星導光を押し込んで通信を切る。




