100.静寂
「いやはや…君の実力は前から知っていたんだが……」
サソリの無惨な姿を眺めながらフォンセに近付く。
「改めてみると、脅威的なチカラだよ。君は」
「爪の破壊に脚の切断、尻尾を斬り落としたが死んじゃいねえよ」
謎の小さな白色の袋を手にとって武器を収納する。
明らかに武器が入るような袋ではないが、なぜか吸い込まれるように収納されていく。
親指をサソリに立てて言う。
「テメェの言う通り半殺しにしたぜ」
「ご苦労さま。さて、後の処理は私の方でやろう」
「で、報酬は?」
「そう急かさないでくれ…」
そう言うと識は袖口に手を入れて1枚の紙を取り出して彼に渡した。
「今渡した地図に印がついてるだろう?ここに私の部下が待機してるから、彼から受け取るといい」
小さな紙を広げると、識の言った通りに王都周辺の地図が描かれていた。
コーディリアのある部分にバツ印がついている。
ここに彼の言う部下が配置しているのだろう。
「………そうさせてもらうぜ」
仕事以外の面倒ごとに巻き込まれたくないため、フォンセは足早に去って行った。
彼が去った後、識は静かに呟く
「今の私では彼に敵わないが……」
右手を上げて、やや上に向く。
「いつの日か私の手で…」
くくく…怪しげな笑いが漏れる。
すると、隣に瀕死状態のサソリが動いたのか、ズズズと地面を引きずらせる音がなった。
「さて、待たせたね」
ゆっくりとした足取りで近付く。
「君の知識を……頂くよ」
死が目前のサソリの頭に手を触れる。
触れた直後、眩い光と共にサソリが苦痛に紛れた鳴き声を発する。
その光は止むことを知らずに徐々に強くなっていく。
「ああ、この感覚……どれだけ日が経とうと変わらないな」
青白い光が限界に達したのか今度は輝きを失っていく。
気がつくと識がサソリの頭に触れていた手にキラキラとした気体が現れていた。
その気体は何らかの力が働いているのか散らばることはなく、丸く形を保っていた。
「……これが君の魂と肉体の情報か」
球体の中の何かが一斉に散らばり識を包み込むように纏わりつく。
「…………」
次第にそのキラキラとしか光が彼の体に溶け込むように吸収されていく。
「ふむ…」
ゆっくりと瞼を閉じて悟ったように口を開く。
「硬質化と……毒耐性か…」
完全に光が消失し、辺りの小動物の鳴き声が目立ち始める。
動かなくなったサソリを蔑むように見下す。
「少しがっかりだよ。肉体の知識は前もって調べてたから分かってはいた。だが、君の魂の知識がこんなにもショボいものとは……まあいい」
灰色の袴をひらりと動かして王都へと向かう。
「結界術の時間はまだあるが、のんびりはしていられないな」
森が静かに戻る。
大きなサソリの死体を残して結界術を解く。
★
誰もいなくなった迷いの森に一人の白衣の少女が歩いてきていた。
一歩一歩、進む度に腰につけている試験管がジャラジャラと騒がしく鳴っていた。
しばらくの間、臙脂色の髪をした少女はあるものに気がつく。
「…………!」
そこには大きなサソリ型の魔物の亡骸だった。
すぐさま魔物に近づき状態を見る。
「カリュプス……誰がこんなことを……!」
驚きと怒りの混じった感情が溢れ出すが、すぐに抑える
「いいや、分かってる」
自身に言い聞かせるように呟く。
「人間だ。アイツらしかいない…」
少しの間、サソリの損傷具合を慎重に観察していると、誰かに背後から話しかけられる。
「シャーリィさん。待ってください―――ええっ!?」
緑色の髪に丸いメガネを掛けた少年アルゲティが魔物の姿を見て驚く。
「え!?え!?シャーリィさん!これって……」
「見ての通りだよ」
シャーリィは振り返ずにサソリを見つめたまま続ける。
「人間がやったんだ」
アルゲティはメガネをクイッと手を押し当てる。
「人間……どこの誰ですか」
「さあ?」
「さあ……て……見てないんですか?」
「ボクも今知ったばかりだからなんとも……でも、こんなことをするのは人間以外いないよ」
「…………」
アルゲティはサソリに近付いてしゃがみ込み確認する。
「どう……するんですか…ルディさんになんて言ったら…」
思い悩んだのか少しだけ間があく。
「………ボクから話す」
「大丈夫ですか…ルディさんと関係は……」
「どんな関係であろうとも今は僕が行かなきゃ……」
ルディの話になると、さっきまでのトゲトゲしい声色ではなくなっていた。
「一緒に行ったほうがいいですか?」
「いいよ、それよりもこの子を埋葬しなきゃね……アルゲティ、あれ持ってるよね?」
「はい、ロストカンパニーのストレージボックスですね」
アルゲティはポケットを探り、一つの小さな箱を取り出す。
「うん、この子を故郷に持って帰って埋めてあげよう。こんな腐った土地に埋めるなんて…かんがえられないから」
彼女はそう言うと王都へ向かい始める。
「夜空の星で待ってて、話がついたら連絡する」




