19.リュウヤとカズミ1
遺伝子課の職員の中に『好きな人』との同居が流行した。
わしとイイノを筆頭にして、
ヒビキ、シミズ、ハヤオカの3人が好きな人との同居を始めた。
予想外の展開じゃ。
まさかここまで告白がうまく行くとは……
ヒューマン・キャッスルの人間は恋愛感情など無いはずではないのか。
もしかしたらオリジナル・ジェネシスの能力で自分を好きにできるのではないのか?
しかし、そんな能力があったらわしに会った人間は全員わしを好きになってしまっていただろう。
不思議な話じゃ……人間の感情とはわからないものじゃ。
まぁ、それで遺伝子課の仲間が幸せになるならいいか……
あとオリジナル・ジェネシス継承者は、ヤマタケとりっちゃんがいるが……
二人は恋愛と縁遠そうじゃ。
りっちゃんは真面目過ぎるし……
ヤマタケは興味なさそうだし……
これ以上、恋愛相談はもう無いじゃろう。
「あ、あのー、ヴェルさん。
ちょっといいですか」
「なっー! 何じゃ!?」
休憩室に一人でいたところに、後ろから突然声をかけられた。
油断したタイミングだったので変な声が出てしまった。
現れたのは遺伝子課の同僚『リュウヤ』だ。
優しげで男前なヤツじゃ。誰に対しても優しい。
ヒューマン・キャッスルでは、とても珍しいタイプの人間だ。
わしにも親切にしてくれている。
「よう、リュウヤ。休憩に来たのか?」
「いえ、あなたにお会いしに来たのです。
実は折り入って相談でして……」
も、もしや、リュウヤも恋愛相談!?
う~ん、リュウヤはオリジナル・ジェネシスではなく、ただの人間のはずだが……
まさか、こいつが10番目のオリジナル・ジェネシスじゃないだろうな!?
「ヒビキ君やシミズさんは同僚と一緒に住んでいるようですね。
どうしたらそのような事になったのか、知りたいのです……」
「それを知ってどうする? 何をする気じゃ?」
「ぼ、僕も……そうなりたいと思っている人がいるのです。
方法を教えて頂きたいのです。
ヒビキ君にはあなたに相談したと聞きました」
や、やっぱり恋愛相談……
こいつはオリジナル・ジェネシスなのか……
しかし、イシュライザー・スーツを着ていたわけでもない。
オリジナル・ジェネシスなら肉体変換能力を知っているはずだ。
「君にひとつ聞きたいのじゃが、君には体が変化する特別な能力はあるか?」
「変化ですか? 僕はそんな事できません。
普通の人間ですよ。何言ってるんですか?」
確かに能力を持っているような気配がない。
オリジナル・ジェネシスなら他の人間と異なる特徴があるはずじゃ。
今まで一緒にいてそれを感じた事がないからな。
「わかった、今の話は忘れてくれ。
君も気になる人がいる、と言う事だな?」
「ええ……同僚の中に……」
そうか、いつも一緒に仕事をしているあの女性だな。
確か、『カズミ』とか言う……
「そいつはカズミだな?」
「えっ!? よくわかりましたね」
「わかるさ。いつも一緒にいるようだからな。
それで、いつから意識するようになったのだ?」
「僕とカズミは同期で、この課に一緒に配属になりました。
常に同じ仕事をしていまして、何となく気が合うと言いますか……
長く一緒にいる中で自然と大切な人間なんだと思うようになりました。
特にいつから意識したと言う具体的なタイミングはありません。
いつの間にかです」
自然にか……このヒューマン・キャッスルでもまだ自発的に恋愛感情を持てるのか。
長い間、人工的に人間を産みだしていた弊害で恋愛感情は退化して行ったと言うが、
まだまだ……人間はまだ人間らしさが残っている。
きっとリュウヤのような考えが広まれば人間もまた自然に繁栄可能じゃ。
これは人間の復興の第一歩じゃ。
「よし、わしはお前とカズミを応援するぞ!
純粋な人間同士であるリュウヤとカズミが恋愛できたとすれば、
他の人間も恋愛可能だと言う証明じゃ!
絶対成就させてやる」
「ヴェ、ヴェルさん! 有り難う!」
◇ ◇ ◇
慎重に慎重を重ねる為にイイノにも相談しようと思った。
女性の意見も大事だ。
カズミはイイノの方が長い期間いるし、よくわかっていると思ったからじゃ。
その夜、リュウヤをわしとイイノの部屋に呼び出した。
「リュウヤ君、いらっしゃい。
ヴェルから聞いているわ」
リビングのソファに座ってもらう。
イイノは飲み物を出す為にキッチンに立った。
「イイノ課長、お休みのところすいません。
あ、あの、ご迷惑でしたよね?」
戻ってきたイイノは飲み物を並べてわしの横に座る。
「そんな事ありません。
カズミさんの事、気になっているのですね?」
「はい、ずっと気になっていたのです。
ヒビキ君たちが同僚と一緒に住むようになったので、
それに憧れを持ちまして……
できればカズミとそのような関係になれれば……と」
「イイノ、カズミはリュウヤの事をどう思っているのじゃ?
女性同士、話をする機会もあるじゃろう?」
「私は研究室に籠もりきりでしたから……
あまり込み入ったお話はしてないの。
だけどカズミさんの態度を見ているとリュウヤさんの事は悪く思っていないですよ」
「おい、カズミも呼んでここではっきりさせた方がいいんじゃないか?」
「それでもいいけど、やっぱり二人の間で決着させた方がいいですね。
リュウヤ君から、ちゃんと話した方がカズミさんもいい印象を持つはずです」
あまりわしたちが出しゃばらない方がいいか。
カズミの気持ちも考えなければな。
「リュウヤよ。ヒビキもハヤオカも、シミズも自分から『告白』したのじゃ。
それでうまく行って、ああ言う結果になっている。
お前も明日、告白するのじゃ」
「告白……何を言えばいいのですか?」
「素直な気持ちを言えばいいのじゃよ、なぁ、イイノ?」
「あなたはなかなかおっしゃっていただけませんでしたね?」
「そ、そう言えば、わしは告白したのではなかった。
お前に『好き』と言われて初めて気がついたのじゃ」
「ヴェルさん……その言葉、好き……と言うのが告白の言葉ですか……」
◇ ◇ ◇
翌日は休日であった。
リュウヤはわしたちに後押しされ、カズミを公園に呼び出した。
先にベンチで待つリュウヤ。
落ち着きがなくソワソワしている。
「カ……カズミ……来てくれるのかな?」
今日の朝、突然誘ったから本当に来てくれるのか?
ただ来てくれと言っただけだし……
「リュウヤ、お待たせー!」
あっさりとやって来るカズミ。
白衣じゃないカズミを見てリュウヤの顔が真っ赤になる。
カズミの青いワンピース姿は初めて見る。
いつも白衣とスーツなのだが、今の姿はその何倍も可愛い。
黒い髪が肩までの長さと言う短めなのが活発的に感じる。
仕事でも休日でもしっかりとした口調で特に変わりが無い。
気が強いのが良いところだ。
「何、黙ってるの? おーい、リュウヤくーん」
見とれて固まってしまった。
早く告白しないと……
「あ、あの……カズミ……」
「何? 改まって……いつものリュウヤじゃないみたい」
全然気にしてないみたい。
これではいけない。
雰囲気とか場所とか必要なのだろうか?
少し歩いて打ち解けてからがいいのか……
「少し歩いてみないか? まだ時間もあるし……」
「変なの……でも、いっか、せっかく公園まで来たんだし……」
ああ、どうすればいいんだ……
リュウヤは告白のタイミングを伺うべく歩き出した。




