18.ヴェルのお悩み相談室
わしの予感は的中した。
イシュライザー・スーツを装着しての特訓を始めて3日も経たないうちだった。
隊員たちに驚くべき変化が現れてしまった……
「ヴェ、ヴェルよ! 相談に乗ってくれぃ!」
「な、何だ。ヒビキよ。お前から相談なんて気味が悪いわ」
まさか『ヒビキ』の部屋に呼び出されるなんて……
顔を合わせるのも嫌がられていたのに。
「……ここ数日……体が変なのだ。
胸が……熱くなると言うか……こう……
実は……ある女性が……もの凄く気になるのだ」
「何? 相談とは女性問題か?」
やはりイシュライザー・スーツの細胞調節機能の影響か?
人を『好き』になる電波が出とるらしいからのう。
しかも遺伝子課の4人は最大ボリュームと聞いている。
何も影響が無い方がおかしい。
「そ、そうなんだ。
わしの席の前に座っている女性を見た瞬間だった。
心臓が張り裂けそうに高鳴るんだ。
どうしたら良いか教えてくれ」
「わかった、わかった。
イイノが調べたところ、それを『恋愛』と言うそうじゃ。
相手の事を『好き』になると言う事みたいじゃぞ」
「恋愛……か。
でも長年、目の前にいたがこのような気持ちになる事などなかった。
何故に突然……」
イシュライザー・スーツのせいだと言えん。
もう実験に付き合ってもらえなくなってしまう。
本当の事は教えずに、ヒビキには恋愛の道に突き進んでもらうしかない……
「人間は一生のうちに一度くらいは恋愛に燃え上がる時があるそうじゃ。
今がお前のその時だと思う。
ここはその相手に『告白』するのじゃ!」
「は? 告白? 何ですか、それは!?」
「ええい、理屈じゃなく実際に行動してみろ。
その女性に『好き』と言うのじゃ!
お前の気持ちを素直に話せ!
相手は何が何だかわからんと思うがとにかく伝えてみるのじゃ」
「何だか……無茶苦茶な答えだな……
むむ……そう言われたら、
やらなければならない気持ちになって来たー!
善は急げだ! 行って来るー!」
ヒビキは部屋を飛び出し、何処かへ行ってしまった。
「ああ、余計に火をつけてしまった……
まぁ今までここの人間は感情が薄かったから燃え上がる事は良い事じゃ。うんうん。
言うだけ言ってダメならあきらめもつく事じゃろう」
相談に乗ったとは言いがたいが、いい事を言ったと己を納得させつつヒビキの部屋を出た時だ。
「あ、あの、ヴェルさん……
私も……ご相談が……」
「何じゃ? 今度は『シミズ』か……
相談とはもしかして……」
「は、はい。気になる人がいるのです……」
「……
そうか、お前もか。わかった、相談に乗ろう。
部屋に入りなさ……」
「ヴェル先生! ちょっと待って!」
ギクッ
もう一人……この甲高い声は!
「はーい、『ハヤオカ』でーす。
僕も相談がありまーす」
軽い性格で調子のいい男が相談?
「なぬ!? お前までも!
やはり、恋愛相談……」
「僕も会うと胸が熱くなる人がいるんだ。
遺伝子課ではないけれど、他の部署に……」
なな、なんて事だ!
恐れていた事が起こった。
イシュライザーたちが恋愛に目覚めてしまった。
これでは訓練どころではなくなりそうじゃ。
どうしたら良いのじゃ……
「ヒビキ君にも何か話していたよね?
僕もシミズさんと一緒に聞かせてよ!」
「ヴェ、ヴェルさん! 私からもお願いします!
ヴェルさんとイイノ課長はいい仲だと聞きます。
是非、解決方法を教えて下さい!」
「だぁ、わしは『戦い』の師匠であって『恋愛』の師匠ではなーい!」
「しかし、この熱い気持ちがおさまらなければ訓練も集中できないよー」
ハヤオカとシミズは部屋の出口を塞いで引き下がろうとしない。
これでは何処にも行けないではないか……
しかし……この者たちの願いを叶えてやるのも使命の一つか。
「よし、そこまで言うのならヒビキに言った事と同じ話をしてやる!
それに座れ!」
「おお!」「は、はい!」
◇ ◇ ◇
ハヤオカとシミズも気になる人の元に向かった。
「う~ん、好きだと言うだけでうまく行くのかのう。
わしとイイノも一緒に住むようになるまで時間がかかったし……
そうそう、うまくはいかんじゃろ。
その時はあきらめて訓練に集中してもらうのじゃ」
現在、自分はイシュライザーたちに戦いを教える教官の任命を受けている。
外敵に襲われた時の為に、肉体変換能力の訓練を共にしているのじゃ。
人間だけでこの世界を守っていくには必要な事じゃ。
結局、ここを守れるのはりっちゃんとあの4人しかおらんのじゃからな。
イシュライザーとは重大な使命を持っている。責任重大じゃ。
本来の仕事場である『訓練場』へ向かう。
でもシミズ、ハヤオカ、ヒビキは『告白』の真っ最中……
りっちゃんは『物質転送装置』開発の仕事があって今日は不在、
誰もいない可能性が高いのう。
「ん? これは?」
訓練場には一人、黄色のスーツを着た人間がライズを繰り返し発現し戻している。
気合いの入った声とともに何度も、何度も。
「……ヤマタケ」
わしが来た事はまだわかっていないようじゃ。
黙々と訓練をする姿が凜々しく見えた。
「俺は強くなる! 俺は強くなる!
誰にも負けない!
ヴェルなんかにも負けない!」
「そうじゃ、ヤマタケ。
お前は強くなるぞ!」
「!!
ヴェル!」
こちらに気づいたが顔をそむける。
「何だよ。いきなり現れやがって。
俺の事を馬鹿にしに来たのか?」
「いいや、褒めに来たのじゃ。
お前、体に異変は起こっていないのか?」
「異変? 無いね。
訓練ごときで体が痛くなるわけないだろう」
「体じゃなくて心の方なのじゃが……
お前にも気持ちの変化があったはずじゃが、
それでもこうしてストイックに訓練に打ち込んでいるのか……」
「確かに気持ちの変化はあったぜ。
他の人間が気になるってやつだろ?
ヒビキたちを見ればわかるぜ。
でも俺にはそれよりも、お前より強くなりたい気持ちの方が強い」
「それも気持ちの変化の一種じゃ。
強さへの憧れの気持ちが大きく変化したのじゃろう。
お前のその純粋な気持ち、立派じゃ!」
「やめろ。お前に褒められたくないね。
俺は嫌われ者でいいんだよ。
自分に正直に生きたいんだ」
「正直で結構。相手を蹴落として結構。金に汚くても結構。
しかし、わしには欠点の多いお前の、その純粋な目標に向かう『心』を尊敬するぞ。
人間悪いところは必ずある。
しかし良いこところも必ずある。
勝利にひたむきに向かって行くその良いところを伸ばすのじゃ。
そうすれば悪いところが隠れて見えなくなるからな。
お前は勝利を目指す仕事に就くといい。
きっとイシュライザーも良い方向へ行くじゃろう」
「……何言っているんだよ……偉そうに……」
「ハハハ、お前らしくて結構じゃ」
いつもの態度を崩そうとしないが、少し照れているのか、
言葉数が少なくなる。
「さぁ、訓練再開じゃ。
他の者がいないうちに強くなった方がいいぞ」
「言われなくてもわかっている」
マンツーマンの訓練はその後、一日続いた。
◇ ◇ ◇
翌日、科学技術庁へ登庁するとさらに驚くべき事が起こった!
「何ッ!? お前達……」
ヒビキ、シミズ、ハヤオカの3人は笑顔で報告する。
「わ、私……」
「僕……」
「私は……」
「「今日から好きになった人と一緒に暮らします!」」
「はぁ!?」




