14.ライザー・バイオレット
イイノはさらにイシュライザー・スーツの開発に没頭した。
試作品の出来に自信を持ったからか。
最近は徹夜で自室にも戻らない日々が続く。
あまり二人になる時間もなく取り憑かれたように研究室に籠もっている。
「……イイノさん。頑張りすぎてますね。
いくら重要な研究と言っても無理しすぎです」
毎日イイノを見ているリツもとても心配している。
殆ど休憩も無しにデスクに向かっているからだろう。
「りっちゃん。イイノには何を言っても無駄じゃ。
わしがいくら休むよう言ってもやめないのじゃ」
「……ここまでやらなくても……すぐにスーツが必要と言うわけでもないでしょうに」
「わからん。何か急ぐ理由でもあるのかのう。
ところでりっちゃんの研究の方はどうなんじゃ?」
「……私の方もやっと物を電子状態に変えてそのまま固定化させる事ができるようになりました。
あとは発射する装置の開発、それと人間の細胞を電子状態に変える方法がわかれば……」
「そうか、りっちゃんの方も進んでいるんじゃな。
わしも協力できる事はするぞ」
イイノは自分の世界に入り込んでいるし、あまりわしの手伝う事もない。
りっちゃんの方を手伝う方がいいだろう。
「……有り難うございます。
では部品を綺麗に整頓して下さい」
これは……雑用係か……それでも役に立つなら……
◇ ◇ ◇
そんな事が続いたある日、突然イイノが大きな声を張り上げた。
「できたわ!
イシュライザー・スーツ、正式版、完成よ」
「ついにできたか! 本当に大変じゃったのう」
「ヴェル、有り難う。
最近は迷惑をかけていたわね。
おかげでやっと満足の行く出来になりました」
研究室の奥には10種類のスーツがマネキンに装着されている。
色は黒、青、黄色、ピンク、茶色、紫、緑、橙色、赤、白。
「これがイシュライザー・スーツか。
10着並ぶと壮観じゃ。色違いじゃの」
「全部同じ色だと一目見てわからないですからね。
それに色は1000年前のオリジナル・ジェネシスを開発した際に使われた判別色。
ちゃんと意味があるのです」
「判別色? ではわしの『ドラゴン』はどれかの?」
「ヴェルの色は『赤』ね。
機能的には全部同じだけど……
遺伝子への信号はドラゴンの遺伝子に合わせてあるわ。
各色のオリジナル・ジェネシスに対応しているの」
「わしはこないだの『金色』の試作品で充分じゃ。
イイノが苦労して作ったのに悪いが……
正式版は未来の継承者に任せよう」
「……そう」
ちょっと寂しそうな顔になったのを見逃さない。
わしの為に作ったのだからな。
「寂しそうな顔するな。
そうじゃ、りっちゃんはどうじゃ?
不死生物の継承者だったな。
何色のスーツになるんじゃ?」
「不死生物の判別色は『紫』よ。
そうだわ。りっちゃんにテスト起動してもらおうかしら……」
「……えっ!
わ、私? オリジナル・ジェネシスの能力なんて……
自分の意志で使った事ありません」
「一度、りっちゃんの力を見てみたいと思っていたの。
疲れているところ悪いけど、協力してくれない?」
一瞬、悩んだ様子を見せたが意を決して起ち上がる。
「……わかりました。
イイノさんには私の研究を助けて頂いていますし、
私もイイノさんの研究成果を証明する為、
実験に参加させて頂きます!」
「有り難う、りっちゃん。
では、ヴェルも試作品のスーツを着てね!」
「わしもか?」
「二人ともスーツを装着して訓練場に集合して!」
◇ ◇ ◇
訓練場は科学技術庁から少し歩けばすぐに着いた。
広いドーム状の空間。衝撃を吸収する素材に囲まれている。
緊急時にはシェルターとしての機能を持ち合わせている。
派手に戦っても表の人間には迷惑はかからない。
同じ格好の二人は訓練場の真ん中で向かい合う。
ヘルメットで顔がわからないが外観が金色と紫色なので人の判別ができる。
離れた場所にはイイノが見守っている。
「イイノ、これはもしかして、わしとりっちゃんを戦わせようとしているのか?」
「オリジナル・ジェネシスの能力は戦闘向きなものが多い。
戦いの中で新たな力を発現する場合もあるわ。
本気でなくてもいいから、りっちゃんに肉体変換能力を教えてあげて」
「う~む。もしもの場合の為じゃな。
よかろう。りっちゃん。能力の使い方を教えよう」
リツは初心者じゃ。
まずは細胞を変化させるところから始めるか。
「りっちゃん、いいか、肉体変換能力の起動はまず頭にイメージ浮かべるところからじゃ。
そうだな、不死生物は『冷気』が得意と聞く。
氷とか雪などを強くイメージしろ」
「……頭で……イメージ……」
目を閉じて氷を思い浮かべる。
他の事は何も考えないようにする。
「それを発現したい体の箇所へ送るイメージじゃ。
手から放つのなら頭から腕、手へと移動させるような感じじゃ」
リツは右手を前に出して集中する。
だが何も起きない。
「どうした……わしに向けるのじゃ。
遠慮するとわしから攻撃するぞ!」
こちらからも右腕を突き出す。
「ゴールド・ドラゴン・ブレス……
さぁ、どうした。このままでは炎で焼かれてしまうぞ!
イメージを言葉にして出してみろ。
さらに強いイメージになる」
右腕が赤くなって熱を帯びてくる。
今にも炎が飛び出そうとするような熱さだ。
「……う……く……
冷気……
コールド……」
リツの右腕が紫色に光る!
恐ろしく冷たい風が右腕に集まっている。
これは……
「……ブレス!」
ゴォォォォォ!!
マイナス200度にも達する冷気が猛烈に放たれた!
「む、何!?
ゴールド・ドラゴン・ヒート」
ズドォォォン!
冷気が直撃し厚い氷に体が包まれた。
「……あ、ヴェルさん!」
「ああ、ヴェルが凍り付いてる!」
雪像のように動かなくなってしまったが、
すぐにヒビが入る。
「む……む……む……」
バリッ!
氷は粉々に砕け散った。
「な、何という力。
これが不死生物の力か……
わしも見るのは初めてじゃ」
「……これが、私の力……」
「寸前で炎を出していなかったらまずかったぞ。
他のイシュライザーにはやるなよ。
死んでしまう」
「正式版のイシュライザー・スーツも成功ね。
それにしても、りっちゃんがこれほどの力とは……」
わしもイイノもびっくりじゃ。
いくらイシュライザー・スーツを着てパワーアップしていると言っても、
強烈すぎる能力じゃ。
しかし、不死生物の能力はまだある……
「りっちゃん……君にはまだ隠された力があるはずじゃ。
生物の活動を止める能力。
これを使って細胞の動きを止めたり、動かしたり、
仮死状態にして長く生かしたりできるのじゃ。
死神をイメージしてみたらどうなるか、やってみてくれ」
「……あの、夢に出てきた死神……
あれが真のリッチの姿……」
再び二人は向かい合う。
リツは両手を前に上げて『リッチ』をイメージする。
リツの目の色が変わり、体から紫色の煙が吹き出した。
この世の物ではない恐ろしさと威圧感を覚える。
ゴゴゴゴゴ……
「何じゃ……まずい事になりそうじゃ。
一旦中止するのじゃ……」
「……デス・スリープ!」
声をかけたが一瞬早くリツの能力が発現する!
あっという間の出来事だった。
紫色の煙に体を包まれた!
「な……に……
これは……眠……い」
バタンッ
「グゴゴゴゴォォォ」
「ヴェル! どうしたの!
……えっ、寝てる!?」
イビキをかいて寝てしまった。
「……あ、ごめんなさい……」
「あのヴェルさえ眠らせてしまうのですから、
りっちゃん、あなたは凄いわね」
「……本当にごめんなさい……眠らせてしまって」
「ヴェルだから少しくらい、いいのよ。
頑丈だもの。
これであなたは正式なイシュライザーの第一号よ」
「……最初のイシュライザー」
「そう、あなたはイシュライザー・バイオレット。
『ライザー・バイオレット』よ」




