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科学防衛隊イシュライザー  作者: kuro96
四.ヴェルドーアの過去編
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08.『りっちゃん』


 ヒューマン・キャッスルに来て20回目の朝。

 ここの生活にも大分、慣れて来た。

 時計の針が7になった時に起きて、何かを食べて出勤する。

 規則正しすぎる生活。

 外の世界ではその日、その日の状況で起きる時間は違っていたので緊張があった。

 ここでは天気も気温も管理されているし、景色も同じで外敵もいない。

 科学技術庁ではイイノのおかげで目的を持って仕事ができるからまだいいが……

 他の職場では決められた事の繰り返しだと言う。

 わしにはとても退屈で耐えられん。

 しかしイイノの為にもここで働かねばならん……


「おお、いかん。もう出かけなければ……」


 定刻になった。

 団地を飛び出し、商業エリアへ向かう。

 通勤にも慣れた。道も完璧に覚えた。

 同じ方向に向かう人間の列にはまだ慣れないが。


 大通りを行くといつもと違う光景が広がっていた。

 車道を見ると一台の運搬車が止まっている。

 その後ろには車が列になって停止している。


「どうしたのじゃ? いつもは規則正しく動いていると言うのに」


 相変わらず道行く人たちは無関心でそのまま通り過ぎている……

 その中の一人にこの状況を聞いてみる。


「ちょっとすいません。この車はどうしたのですか?」


「はぁ……きっと故障したのでしょう。

 車もリサイクルを繰り返して何十年も使ってますから。

 よく故障するのです。たまにこのような状況になるのですよ」


「では何とかしないと……」


「いや、そのうちキャッスル・ブレインが探知して修理用ロボットが来るでしょう。

 放っておいていいですよ。もういいですか?」


「はあ、そうですか。よく知らないもので……

 どうも、有り難うございました」


 よくある光景なのか……

 誰も通報せんとは。すべてキャッスル・ブレイン任せと言うのも何じゃろなぁ。


 車道に止まっている運搬車に近づき、様子を確認する。

 この車は無人で操作されているのか、誰も乗っていない。

 車は音もなく静かになっている。

 エンジンとやらが完全に停止しているのだな。


「しかし、この中の機械とやらはわしにはよくわからん。

 人間の怪我なら、少しは治せるのじゃが……うん?」


 道を歩く人間の列の中から一人の人間がこちらに気づき近づいて来る。

 そして止まっている車の脇にピッタリと止まるとすぐに話しかけて来た。


「……故障?」


「ああ……そうみたいじゃ……よくある事みたいじゃが、

 わしにはどうにもならん」


 その人間をよく見るとイイノより年下の女性だ。

 紫色に見える長い髪がところどころ跳ねている。地面に着きそうな程、異様に長い。

 体は小さいがイイノのように大人の女性を感じさせる落ち着いた仕草と声。

 しかし他の人間と同じく無表情で冷たい印象を受ける。

 格好は白衣……

 もしかして科学技術庁の職員?


「……キャッスル・ブレインに通報するまでもないです。

 簡単に直ります」


「何じゃと?」


 女性は車の前方の蓋を開けて中を覗き込む。

 持っていた鞄の中から何種類もの工具を取り出すと、

 車の中をササッとイジッた。


 バンッ


 車の蓋を勢い良く閉めるとわしの手を引き、車道から歩道へと移動した。


 ウィーン


 いつもの車の音が響き、止まっていた車が動き出す。

 後続の車も次々と動き出して元の日々の光景に戻った。


「おおッ、あっさりと……

 あんな難しそうな機械を簡単に直してしまうとは。

 君は天才じゃ!」


 機械の修理など肉体変換能力(ライズ)してもできないだろう。

 その技術力に感動し、大きな声が出てしまった。

 白衣の女性はビックリして固まってしまう。


「……こんな事で驚くの?」


「ああ、凄い事じゃ。

 機械の修理などここではロボットがやる仕事のようじゃからな。

 それを人間の君ができると言う事が凄いぞ。

 ロボットがいなくてもできると言う証明じゃ。

 君、もしかして『科学技術庁』の者じゃな?」


「……ええ、でも今日が初めての出勤です……」


「そうか、では一緒に行こうか。

 案内するぞ」


「……」



 ◇ ◇ ◇



 中央管理塔(タワー)のエレベーターを降りると科学技術庁の庁舎だ。

 エレベーター出口両脇の廊下伝いに各部署の部屋が並んでいる。


「君は何処の部署なんじゃ?」


「……」


 女性はヅカヅカと通路を歩き出し、部屋を探す。


「……あれです」


「ん? 『遺伝子課』……何じゃ、わしと同じ部署か。

 何という偶然なんじゃ」


 ガチャリ。

 わしは案内係じゃったな。

 先に歩いて遺伝子課の扉を開ける。


「おはようございます!」


「ヴェルさん、おはようございます!」


 リュウヤさんとカズミさんは早いな。

 元気のいい清々しい声で迎えられる。


「その女性はどなたですか?

 ヴェルさんと知り合い?」


「いえ、通勤途中でバッタリと会ったんですよ」


 女性は入口近くでだまって立っている。

 そのうちに、いつものメンバーが出勤して来た。


「お、おはようございます……」


「よー、おはようー」


「どうも、失礼する」


「ケッ」


 例の四人は一緒か。

 仲がいいのか悪いのか……。


「皆さん、おはようございます。

 集まっていますね」


「ああ、イイノ課長、おはようございます!

 初めて見る方が来られていますよ」


「ああ、あなたね。遺伝子課にようこそ。

 私が責任者のイイノです」


 女性は何も言わず頭を下げる。

 それを見てイイノは優しく微笑んだ。


「彼女は今日から遺伝子課に配属された新人よ。

 修学期間を終了し、今日から晴れて登庁です。

 機械の設計、電子工学、ロボット工学の成績はトップで将来有望よ」


「そんな機械に強い人材が何故、人間を研究する遺伝子課に?」


「これからの私の研究に必要な人材です。

 キャッスル・ブレインのお願いして探して頂きました。

 この子も私の『助手』に登用致します」


「イイノ課長の助手ですか……

 こんな短期間に二人も」


 また嫉妬されないか、心配になるが、

 イイノもわしもいるし大丈夫だろう。


「では、本人から自己紹介をお願いします」


「……『リツ』と言います。

 新しい機械を開発する事が趣味です。

 何卒、宜しくお願い致します……」


 ちと暗い感じじゃが、しっかりした性格のようだ。

 この部署には機械に詳しい人間もいないし、頼もしいかぎり。


「リツ……ね。

 親しみを込めて『りっちゃん』と呼びましょうか。

 その方が早く打ち解けると思うから」


「りっちゃんか、いいのう。

 わしらは大歓迎じゃ、のう、皆」


「はは」「はい!」「うん」


 リツは少し照れたのか赤くなっている。


「おい、ヤマタケ、いじめるなよ」


「ケッ、子供をイジめるかよ」


「じゃあ、皆、仕事開始よ。

 りっちゃん、あなたの仕事場は私の研究室よ。

 行きましょう」


「……はい!」


 今日からイイノの研究室は3人か。

 これまで以上に楽しくなりそうじゃ。



 ◇ ◇ ◇



 その日から3人での研究が始まった。

 イイノがオリジナル・ジェネシスの遺伝子の研究を行い、

 りっちゃんが物質転送装置の開発を担当した。


 物質転送装置は物質を電気に変えるところから始められた。

 目の前に存在する物体を一度電子レベルに分解する工程は困難を極めた。

 様々な装置が作られたが成功しなかった。


「……また失敗……電気にしても長く持たない……ボロボロに壊れてしまう」


 いかに機械の天才と言えども失敗が続いてショックを受けている。


「物質転送は1000年前から成功した事がないの。

 瞬間移動は人間の夢。

 そう簡単ではないわ」


「……でも……せっかく開発させてもらっているのに……

 何度も失敗を……」


 リツは激しく落ち込んで目に涙を溜めている。

 イイノに期待されて配属されたのに応えられていない。

 非常に責任感が強いのだ。


「りっちゃん! 元気を出せ!

 わしなんか機械を動かした事もないぞ。

 君がやっている事は誰も果たせなかった夢の仕事なのじゃ。

 誰もできない事を君はやっている。

 特別なのじゃ。

 自信を持ってやるのじゃ」


「そうよ、りっちゃん。

 ヒューマン・キャッスルで唯一、あなただけがこの研究をしているの。

 私も失敗ばかりだったのよ」


「……イイノさんまでも……」


 二人でりっちゃんの肩を抱いて激励する。

 今のヒューマン・キャッスルでは彼女の技術がなければ誰も成し遂げられないのだから。


 涙を拭いて、また机に向かう。

 新たな計画を考え始めた。


 三人の研究はその後も続いた……

 苦労と喜びを重ね……

 いつの間にか三人は家族のように打ち解けた関係になっていたのだ。


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