04.公園に行こう
ガシャァァン!
「きゃあああ!」
道路に踏み出した途端、走ってきた巨大な動物のような物と正面衝突した。
そのまま跳ね飛ばされたと思った瞬間……
「あっ!」
ドキャァァッ!
ぶつかった車の方がスピンして道路脇の電灯にぶつかっていた。
「……なんじゃ、この動物は?
見た事ない生き物じゃな……」
何事もなく、道路の真ん中で元のままの姿を現す。
「ヴェ、ヴェルさん! 大丈夫ですか!?」
「これくらい、何ともないぞ。
それにしてもこの硬い『動物』は何だ?」
「動物じゃありません。
『車』と言う乗り物です!」
「乗り物!? 大蜥蜴とかじゃないのか?
まずいな。少し壊してしまったな。
直すとしよう……それ!」
ぶつかって停止していた車を持ち上げると元の向きにして地面に置く。
そして凹んでいる部分をドンドンと叩いた。
「これは……
ちょっと凹んだくらいじゃ。
叩いて元に戻せるな」
さらに叩くと凹みがなくなった。
「よし、元通りになったな。
すまんかった。
じゃあ、行っていいぞ」
車に乗っているロボットは前方を確かめるとまた走り出した。
「この真ん中の道路は『車』とやらの道路だったか」
「そうです。人間は両端を歩くんですよ。
そういう『ルール』なんです。
……ヴェルさん、あなた……あんなに強く当たったのに平気なんですか?」
「あれくらい、当たったうちに入らん。
蜥蜴人のタックルの方がよっぽど痛いわ」
「……」
「それにしてもこんなに派手に当たったのに誰も見向きもせんとは……」
「そうです。自分の事以外には無関心で……」
「……
実はとにかく腹が減っているんです。
力がなくなって空から落ちて来た始末で……
反対側にあった食料を見たら反射的に走ってしまったのです」
「まぁ、食べ物ですか。
科学技術庁に戻ればいくらでも食べられるのですが……
職員以外は入れないので……
う~ん、じゃあ、あそこで買って食べますか?」
「え、買う?」
またイイノに手を引かれながら、横断歩道を渡って食料品ストアの前までやって来た。
「どうぞ、お好きなものを選んで下さい。
私のカードでいくらでも買えますから」
申し訳ない気持ちで一杯になるが空腹に耐えられそうに無い。
後で恩返しするとして……
「そ、そうですか……
すいません。お言葉に甘えて……
でも、人間の食べ物だとどれがいいのかわかりませんね」
「ヴェルさんは、普段何を食べてるのですか?」
「動物の丸焼き、山菜、木の実、蜥蜴とかですかね」
「……
聞いたこともない料理ばかりですね。
それでは私が選びましょうか。
よく食べそうだから大きなおにぎりにしましょうか」
「おにぎり?」
袋に沢山のおにぎりを詰め込む。
「これを食べるのですか?
いただき……」
「えっ!? ここでは食べられません。
自宅、もしくは公園ですかね。
公園に行ってみましょう」
◇ ◇ ◇
公園は先ほどの大通りを歩いてしばらく行ったところを曲がり、
橋を渡った先、居住エリアと呼ばれている場所にあった。
もう辺りは夜の暗闇が広がり、電灯が付いていなければ何も見えないところだった。
かろうじて明るく照らされているベンチと呼ばれるものに二人で腰掛ける。
「どうぞ、召し上がって。
私は科学技術庁に戻れば食べられますので」
「いやー、色々ご面倒お掛けしすいません。
遠慮無くいただきます……」
バクバクバクバク……
袋の中身を片っ端から口に詰める。
おにぎりとは色々な味があって飽きない。
なんて美味しい食べ物だ。
「随分、お腹が空いていたのですね」
「ハハハ、飛行能力はエネルギーを大量に消費しますので。
それにしても美味しいです。
今まで食べたことがない味です。
これを毎日食べられるとはここの人間が羨ましい」
「それはよかったです。
おにぎりは食べやすくてエネルギーを取りやすいですからね」
あっと言う間になくなってしまった。
変化するパワーもすっかり元に戻っている。
「商業エリアや居住エリアの被害はほとんど無いみたいですね。
私、墜落した後の状況をよく見ていなかったものですから。
グルっと確認できてよかったです」
「人間に犠牲が出なくてよかったですね。
外の世界では墜落の衝撃で地震も起こりましたから、
大変な状態だと思っておりました」
電灯の光の下、横に座っている女性をチラッと見る。
髪の毛が美しく輝き、白い肌が一段と眩しい。
「見ず知らずのわし、いや私に何でそんなに優しいのですか?」
「あなたは目を離すと何をするかわからないし、
放っておけないわ。
でも、外から来た人を監視するとかじゃないの。
あなたにとても興味が湧いたの」
「研究材料としてですか?」
「いえ、あなたからはこの世界の人間にない太陽のような温かさを感じます。
人を惹きつける魅力を感じているんですよ」
「ハハハ、褒められてると思っておきましょう」
「本当です。
こんなに思っている事を正直に話した事なんかありません」
「そうですか、私もあなたから人間の優しさを感じております。
ここの他の人間とは違います。
困っている者を放っておかない……なんて、とても素晴らしい事です」
「ヴェルさん……」
会ったばかりの二人だが、お互い共通するものを感じていた。
「そう、ヴェルさんは今晩どうするんですか?
このまま、ここでと言うわけには行きません。
これからの深夜時間帯は外出禁止なんです。
犯罪防止の為に……
もし見つかったら、不審者としてセキュリティー・ロボットに逮捕されてしまいますわ」
「ああ、そうなんですか。
まぁ、見つかったらロボットごと、やっつけてもいいのですが……」
「大騒ぎになって有名になってしまいますよ。
ヒューマン・キャッスル内を自由に歩く事もできなくなるでしょう」
「それは困る。
この人間の世界『ヒューマン・キャッスル』をもっと知りたいのです。
自由に動ける方法はありませんか?」
「そうですね。
私が科学技術庁の端末からヴェルさんを住民登録して、
ここの住民と同じ権利である居住地を提供しましょうか?」
「えっ!? ここにしばらく住めるのですか?」
「私は管理用コンピューターへの最上位アクセス権が与えられております。
キャッスル・ブレインからの信頼度が最高ランクなのです。
だから住民データの書き換えや中央管理塔の入退出権付与も自由できるのです。
ただし、住民になるからにはこの世界のルールを遵守する事も課せられますが……
それでも、よろしいですか?」
「はい! それは願ってもない事!
あなたに偶然出会えた事は幸運でした。
いや、運命と言った方がよろしいか……」
ここの世界の住人になる……
仮の住人だがしばらく逗留できれば、ここの状況が詳しくわかるだろう。
それに何か妙な胸騒ぎがしてこの世界が気になる。
人間の存亡の問題かもしれない……それを確かめる事ができれば尚いい。
「わかりました。
この近くに居住スペースの『団地』と呼ばれるところがあります。
科学技術庁の職員以外が住む所なのです。
今日のところはそこの空いている部屋に泊まって下さい。
私は科学技術庁に帰ってあなたの情報を登録しておきますから」
「そうですか! 有り難うございます」
「ヴェルさんの職業を何にするかが問題ですね……
そうだ、私と同じ科学技術庁の職員にしてしまう方がいいですね。
あなたの遺伝子を調査してみたい思いがあります。
是非協力していただけませんか?」
「ここまでお世話になっているので断れません。
そうして下さい」
「わかりました。
では、団地の空き部屋へご案内しましょう」
……こうして、イイノの手配のおかげで、
ヒューマン・キャッスルの人間として生活を開始した。
そして科学技術庁の職員、イイノの助手としても働く事になった。
この後、科学技術庁で様々な出会いをするのだ。




