02.ヴェルドーア落ちる
遙か東の彼方、険しい山岳地帯に流れ星が墜落した。
数百キロは離れているドーア火山でもその衝撃を感じたのだ。
墜落した物体はかなり巨大な物であるに違いない。
ドラゴンの翼を広げて墜落地点を目指す。
巨大な翼は力はあるが速度を出す事が苦手だ。
体重の軽い鳥にでも変身したいがそのような遺伝子を持っていない。
「ふーっ、休憩無しで飛び続けるとさすがに疲れるのう」
昨晩、ドーア火山にある城を出発してずっと飛んでいる。
早く到着するには飛んで行くのが一番いいが体力の消耗は激しい。
しかも飲まず食わずだ。
今更気づいた事だが水も食料も持っていない。
考えるより先に体が動いてしまった。
旅の準備も全く考えてなかった。
だが、あの墜落物の正体を確認するまではゆっくりしてられない。
危険だと言う胸騒ぎがしていたからだ。
さらに一昼夜を費やし、荒野の果てに鋭く尖った山々が見えてきた。
辺りは夕闇が迫っている。
ここらへんは『剣の山』と呼ばれている山岳地帯だ。
山には木が一本もなく岩の山肌しか見えない。
90度近い切り立った崖になっており、普通の生物には登る事が困難だ。
そのような山が連なって空から見れば針ネズミのようだ。
「んっ!? あれは……」
山のひとつから煙があがっている。
その頂上には……透明な膜に覆われた丸い物体が突き刺さっている。
「なんじゃ? この大きな建築物は!?」
空を旋回しながら近づいてよく確認する。
建築物は楕円形のドームのような形をしている。
上半分は透明になっていて何箇所か、排気口のような穴も見える。
下半分は金属でできていてこちらも底に行くほど丸くなっている。
一番底の部分が山の先端に突っ込んでいて穴が開いている。
絶妙なバランスで水平に固定されていた。
空から落ちて来て壊れないなんて『奇跡』だ。
「相当、頑丈に作られておるな。
一番底以外、無傷じゃぞ。
これがもしかして……1000年間、人間が乗って宇宙へ飛んで行ったと言う……
『ヒューマン・キャッスル』か!?」
自分は数百年前、親のドーアから聞かされた事がある。
人間が乗った衛星がこの星の回りを回っている……と。
「人間はこの地上で生きていけなくなって宇宙に脱出したと言っていたな。
今頃、突然落ちてくるなんて……
故障か? 事故か? それともエネルギー切れか?
……まぁ、そんな事はどうでも良い。
あの中の人間は生きているのだろうか?
行って確認してみよう」
興味本位だ。
1000年間、宇宙に行った人間たちは生きていけたのだろうか。
この地上にも忘れられた人間がシェルターで生き残っていたが、
時と共にいなくなり、もう姿を見かける事はなくなった。
純粋な人間が生き残っているのだろうか?
ヒューマン・キャッスルの真上へ向かって、旋回して移動する。
下を確認するが、中はよく見えない……
「ど……何処から入れば……
あ……力が……
まさか……エネルギー切れ……か?」
体勢を立て直そうと真上に飛んだが……
突然、ドラゴンの翼の肉体変換能力が解除される。
ライズを維持するエネルギーがなくなってしまったのだ。
「うわぁぁぁ……」
完全に飛行能力を失って重力に負けてしまう。
そのままヒューマン・キャッスルの天井目掛けて一直線!
キーンと言う摩擦音を轟かせて落下して行く。
だが、運良く排気口が開いており、偶然そこに飛び込んだ。
「あぁぁぁぁぁ……」
◇ ◇ ◇
ヒューマン・キャッスルの中心に中央管理塔がそびえ立っている。
中央管理塔の地下、『科学技術庁』と呼ばれるエリア―――
「居住エリアの被害はほぼありません」
「商業エリアも商品の棚が倒れた程度の被害でした。
商品で破損したものもありますが……人的被害はありません」
「工業エリア、生産ラインも正常に稼働できます」
「農業エリアは地下の給水パイプに被害があります。
至急、修理が必要です」
白衣を着た人間たちが忙しく動いている。
墜落による被害をコンピューターで調査している。
「キャッスル・ブレインに連絡して農業エリアに修理用ロボットを派遣して下さい。
商業エリアも心配ですね。
そこは私が行って見て来ましょう」
オフィスの中央に座る白衣の女性がてきぱきと指示を出している。
「イイノ課長ご自身が行く事ないじゃないですか。
職員の誰かにご命令下さい」
「いえ、私自身の目で街の被害を見てみたいのです。
ここにいるだけじゃわからない事もありますから」
「でも、お一人で行くのは……」
職員たちが心配するが……
「大丈夫です。
あなたたちは地下から農業エリアへ応援に行って下さい。
あ、何人か連絡係を残して下さいね」
『イイノ』と呼ばれる女性は科学技術庁の部署のひとつ、『遺伝子課』のリーダー。
遺伝子の研究を専門としているが緊急事態が発生した為、
災害管理課のヘルプを行っている。
20歳にもなっていない若さだが判断能力は優秀。
リーダーシップもあり、研究活動も飛び抜けて結果を出している。
将来は科学技術庁の長官にもなるだろうと言われている人材だ。
イイノは一人エレベーターに向かった。
◇ ◇ ◇
中央管理塔のエレベーターに乗り地上を目指した。
実際、自分の目で見て状況を確認しないと正しい指示が出来ない。
百聞は一見にしかずを根本としている。
エレベーターを地上1階で降り狭い出入口を出て、塔の回りをグルグル回る通路を通る。
その行き止まりは金網のフェンス。
出口となる扉はゴミ集積所に隠れるように設置されている。
誰もいない事を確認してから扉を開けて外に出る。
そこは袋小路のような小道。
外から見ればゴミ置き場にしか見えないよう、カモフラージュされた所だ。
ここから大通りに出れば商業エリアのメイン・ストリート。
店が建ち並ぶ大通りから被害を確認しよう。
一歩踏み出そうとすると、頭上から何か落ちて来るような音が聞こえた。
キィィィン
「な、何!?」
異変に気づき空を見上げる。
「うわぁぁぁぁぁぁ……」
「えっ? 人が!」
人間のような物体が落ちてくる。
それは頭から落ちる事を防ぐ為、一回転した。
ズドォォォン
「痛ー!!」
尻から地面に叩きつけられる。
「し、尻がー!」
「……」
人間のようだ。
男、結構な年齢だが若く見える。
金髪で顎髭を僅かに生やしている。
格好は登山に行くような服と帽子。
体は筋肉質で背が高い。
尻を強打してとても痛がっている。
あんな勢いで地面に激突して、よく無事でいるものだ。
普通の人間なら重傷、と言うか命すら危うい。
本当に人間なのだろうか?
「あ、あの、あなたは何者なんです?」
落ちて来た人は、私が近くにいた事に気づき驚く。
「えっ!? 人間!?
生きている!
す、凄い!」
私の両肩を掴んで、とても喜んでいる。
「ちょ……ちょっと何ですか……」
「あ、すいません。
わし、いや私は人間を探して旅をしてきた者です」
「旅……ここの住人じゃないんですか?」
「いえ、私は外の世界から来た者……」
「外の世界? ではここは……」
「そうです。ここは宇宙ではありません。
地上です。
この衛星は地上へ落下しました」
「やはり! 星に着陸したのね。
……あ、でも、旅の人って、あなたは人間なの!?」
外の世界の者と聞いて警戒する。
「ご安心下さい。
私は普通の人間ですよ。
半分は……」
「半分?」
「私は『ヴェルドーア』。
ドラゴンのオリジナル・ジェネシス継承者、
ヴェルドーアじゃ!
『ヴェル』と呼んでくれ」




