27.6 メイドの話:ドーア城にご一泊
「いらっしゃいませ、お客様。
私はドーア城のメイド、ミミでございます。
お客様のお世話係を仰せつかっております」
黒髪の女性が目の前に現れた。
控えめで大人しそうな女性だ。
メイドとしての作法は完璧なようだ。
「わがドーア城の執事レオンダルムから、
あなたを一晩お世話するようご命令を受けております。
何なりとお申し付け下さいませ」
私は龍帝様の知り合いで、旅の途中に寄らせてもらった者だ。
龍帝様は快く一晩の宿として滞在を許してくれた。
しかもメイドのお世話付きで……
それでは少し城の中を見てみたい。
案内してもらおうか。
「城の中をご覧になりたいと?
承知致しました。
少し歩く事になりますがご容赦下さい」
メイドの先導で火山の中を歩いて行く。
さすが火山と呼ばれるだけ城内は温度が高い。
「ここは地熱でいつも温かいのです。
夜の寒さを感じる事がありませんのでとても快適ですよ」
大広間はとても広く歩くのは大変だ。
飛んで行ければあっという間なのだが。
「大広間は火山の中心の空洞です。
天然のドームですね」
突き当たると上に行く階段と横道に入る通路がある。
「上に行けば城門で外に通じています。
最近崖崩れがあって復旧したばかりです。
新しく階段を作ったので歩きやすくはなりました。
横道を行けば客室になります。
お部屋は沢山ございますので気に入ったお部屋を使って頂いて結構です」
火山の中の空洞をうまく利用している。
部屋は岩を削って広く作られている。
一晩過ごすには充分すぎる広さだ。
その一つの部屋を選ぶと石のベッドに柔らかい布が敷かれる。
堅い石の上に寝なくていいように心遣いが感じられた。
「あら? もうお休みになられますか?
……えっ、まだ? では食事になさいますか?
お持ち致しますのでお部屋にてしばらくお待ち下さい」
メイドはお辞儀をして部屋を出て行く。
食事も作ってくれるとは……
ドーア火山の料理とはどのような物なのか。
しばらくすると沢山の料理がトレーに乗って出てきた。
木の実や山菜のサラダ、蜥蜴の姿焼き、山芋のスープ、
焼き芋、鳥の丸焼き。
どれも大森林で採れた新鮮な食材なのだろう。
滋養強壮、栄養満点の自然が生んだ豪華な夕食だ。
端から食べて見るが味付けが絶妙。
人間の世界で作られている塩や油などが使われている。
料理人が人間の世界の味を知っているのだろう。
「食材は地元で本日収穫した新鮮なものです。
お味はいかがですか?」
うむ。美味しい。蜥蜴以外は。
すっかり平らげて満腹だ。
「お客様、山の麓には露天風呂もございます。
お入りになりますか?」
外には出られないから申し訳なさそうに断る。
「それでは、お休みになられますか?」
そうだな。毎日の仕事で疲れている。
少し早いが休ませてもらおう。
「では、明かりを消しますね……」
礼を言って横になった……ん?
このメイド、何故出て行かない?
「私、お客様を一晩中おもてなしするよう命令されております。
ですから……ご一緒に添い寝致します……」
服を脱ぎ始めている!
床に入ってくるぞ!
い、いかん!
「ミミ、そこまでのサービスはいいのです。
私はただ、もてなせと言ったはずです」
「だって……レオン様に格別な、おもてなしをしようと思ったから……」
「これは来客があった時の接待の訓練をしているだけです。
私を訪問客だと思って接待する訓練です」
客になりすましたレオンダルムが飛び起きて怒る。
「しばらくは来客など無いかもしれませんが、
あなたには執事としての振る舞いを教えておきたいのです。
平和になった時には役に立つと思って」
「ああ……私にレオン様と同じ仕事ができるようにしてくれてるんですね!
では、もっと一緒にいる事ができますね」
「ドーア城には丁寧な対応ができる方がほとんどいませんから。
喧嘩っ早い者ばかりですし。
平和になれば友好的な活動が主流となって来るでしょう。
その時に礼儀作法、言葉遣い、接待等が重要になって来ます」
「わかりました。
レオン様のお役に立ちます!」
「でも、今のは過剰なおもてなしです。
裸で一緒に寝るなど……」
「レオン様にしかしませんので『ご心配』なく。
だってレオン様、お忙し過ぎて一緒にいる時間も少なかったので寂しかったのです。
お風呂も一緒に入りたかったのに……」
ドーア城の修復や近隣の無事の確認で昼夜働いていた。
確かにミミに接する時間が仕事以外、ほとんどなかったか。
「平和になれば急ぎの仕事もなくなるでしょう。
そうなればミミのご要望にももっと応える事ができます。
もう少しの辛抱です」
「そうですね。
戦いがなくなるまで私も頑張ります。
……
でも、今日だけはいいでしょう?
今日はレオン様はお客様よ」
「え……」
ミミのおもてなしは続行された。
二人きりの夜はこれからだ。
第4章に続きます……




