27.5 お風呂の話:ドーア温泉にようこそ!
1000年間噴火はしていないがドーア火山は活火山である。
地下にはマグマが存在し、城として使っている内部はかなりの温かさだ。
龍帝ヴェルドーアによる長年の森林化活動のおかげで周辺は大森林に囲まれている。
その為、大森林の下には地下水が貯まるようになり、
火山の麓からは温泉が湧き出すようになった。
それを発見した龍帝は水質改善に努め、
城に仕える部下たちを慰労する露天風呂として整備した。
今や露天風呂は部下たちの安らぎの場所となっている。
恥ずかしがり屋で風呂に入る必要を感じていないデスリッチ以外の将軍たちも、
例外なく利用している。
もちろん男と女は別々だが……
ここドーア火山に住み込みとなったイシュライザーたちも利用を許されている。
特に毎日の入浴が趣味のライザー・ブルー、マリカは狂喜した。
ヒューマン・キャッスルではシャワーしかないのである。
初めて見る温泉、疲労回復はおろか美肌効果も期待できるとあって時間があればやって来る。
もちろんカレンシアといつも一緒である。
今日はミミも任務の合間に、お付き合いで一緒にやって来た。
「ああ……いい気持ち……なんて有り難いところなのかしら!」
「お姉様、一日何回来るの?
あんまり入ってるとふやけるにょ」
湯船を泳ぐカレンシアに心配されるほど通っているのだ。
マリカは豊満な肢体を隠すことなく伸ばす。
周囲に人間がいないので誰にも見られる事もない……
上を見れば何もない。空だ。開放的な空間は心身のストレスが解消される。
「いいのよ。私の体は常に水を補給しないといけないから。
それにカレンも水分が必要でしょ?
せっかくお風呂があるんだから、入らないのは勿体ないわ」
「充分すぎるにょ。入りすぎでフニャフニャになるにょ」
カレンシアの長い金髪が湯船に広がる。
「まぁ、カレンの髪の毛って綺麗ね。
太陽のような金色」
「植物には太陽の光がお似合いだにょ」
「それにスベスベのお肌。
みずみずしい! 素敵!」
マリカはカレンシアを抱きしめ、スリスリする。
「にょにょ……お姉様、くすぐったいにょ!
だめー!」
「な、何やってるんですか……
二人きりじゃないんですよ?」
マリカの横で大人しくお湯に浸かっているミミは呆れ返る。
「ごめんごめん、あんまりカレンが可愛いものだから。
ミミちゃんも、とても綺麗よ」
ミミもマリカに負けないくらいのスタイル。
しかし、恥ずかしさが先でマリカのように体を風呂からは出せない。
「もう、大丈夫よ。誰も見てないから」
今度はカレンを膝の上に乗せてナデナデしている。
横にいるミミはそれを見てため息をついた。
「あ~あ、私もレオン様と入りたかった……」
「じゃあ、男湯に行ってみればいいじゃない?」
「レオン様はお仕事が忙しすぎてなかなか時間がないの。
いつも夜中のうちしかお部屋にいないし……」
マリカとカレンシアが羨ましい。
いつも一緒だからだ。
たまには自分も一日中一緒にいたい。
「いいわよね。マリカさんはカレンちゃんといつも一緒で……」
「あなたも夜は一緒に寝てるんでしょ?」
「……レオン様、ほとんど寝ないし、常に敵を警戒してるようで可愛そう。
私から積極的に行かないと全然気を許してくれない……」
「わぁぁ、いつも積極的なんだ。一体毎晩何してるの?」
「……ひ、秘密です」
赤くなるミミを見てマリカはあれこれ想像する。
「でも私たちは一緒にいられる人がいるけど……
隊長はここに来てからずっと一人で寂しそう……
毎日、アルノがいなくなった森の奥でじっとしてるんでしょ?」
「うん。私たちがこんなにのんびりしてるのって凄い申し訳ない。
隊長は私たちにのんびりするように言うけど……」
「たまには隊長も誘って来ましょう。
少し気晴らししないと参っちゃうわよ」
「そうね。マリカさんと私で説得すれば……ね」
◇ ◇ ◇
男湯にも将軍とイシュライザーたちが来ている。
裸の付き合いは団結するのに重要だ。
「ゾル。もう体は復活したのか?」
「ダハハ、俺の体は不死身よ! 鍛え方が違うぜ」
華奢なリクトと筋肉質で巨体のゾルタクスが並んでいると親子のように見えてしまう。
「しかし、すっげー体だな。
全身傷だらけだし。どんだけ戦ってるんだよ」
「傷はすべて勲章だ。
この傷の分、強くなるんだぜ」
「おおー! すげー!
俺も傷増やしたいぜー」
横で静かに温まっているヒショウはそれを冷ややかに聞いている。
「この二人、いつも傷だの、怪我だのと、なんでそんなに戦いが好きなんだよ……
普通痛いのやだろ!
似たもの同士すぎだよ。二人でどっかでやっててよ」
湯船は汚れで濁りまくる。
ほとんどゾルタクスの方から濁って来ている。
「ゾルタクス将軍はどんだけ汚いんですか!」
「ダハハ、いつも泥だらけで戦っているからな。
ヒショウ、お前も一緒に戦うか?」
「いえ、いいです。
俺はデスリッチさんの手伝いができればいいんです」
「何? それだけいいのか?
戦わないなんて暇だろ?
参謀殿は部屋で何をやってるんだ?」
「一晩中寝ないで機械をいじってるか、地図や図面を見てるかどちらかかな。
全く寝ないし……」
「ダハハ、お前はそれを横で見てるだけか? それが面白いのかよ」
「一緒にいるだけで充分ですよ。
それに……たまには……膝枕をしてくれるし……」
「膝枕? 何だそれ?」
「ゾルタクス将軍には関係ない話です……」
巨体の将軍には無縁の話だな。
「アハハ、膝に頭を乗せて寝ることだね?」
「そうなのか、一晩中そうして脚を鍛えているのか!
やるな、参謀殿」
……どうしてそうなるんだ。
「そういえば参謀殿は風呂に入らんな」
「そもそも体が霊体で存在しませんから。
お湯に入っても意味がありません」
「実体化できるんじゃないのか?」
「そ、そういえば!
今度、実体化してもらって、一緒に入りたい!」
「ダハッ、なんだよ!
一緒に入りたいのかよ」
「そりゃそうですよ。
せっかく二人一緒の部屋にいるんだし……
でも、隊長、いつも一人で可愛そうですね」
「あのドラゴンの男か?」
「隊長、いつも森で一日過ごしてみたいだよ」
「ドラゴンの将軍がいなくなったのが辛いのでしょう……
どうにかしてあげられないか」
自分だけ風呂に入っている事に気が引ける。
「アハハ、たまには皆で隊長を誘おうぜ。強引にでも」
「ダハハ、いいね、強引って言うのが」
「二人はやっぱり、力ずくですか。
でも隊長を誘うのはいい事かもしれませんね」
◇ ◇ ◇
大森林のアルノが消えた場所は薔薇が咲き乱れている。
カレンシア将軍に頼んで毎日咲かせてもらっているのだ。
「……これだけ綺麗だと落ち着けるな。
僕も毎日来るし、アルノも寂しくないだろう」
最近、一日中この場に座って過ごしている。
ここにいると気持ちが少し楽になるからだ。
落ち込む姿を誰も見られないし、何よりアルノを感じる事ができるから。
「……」
目を閉じて今までを思い出す。
出会えた感謝の気持ちや無理をさせてしまった後悔の念が次々と浮かんでは消える。
その後には激しい寂しさが湧き上がって来る。
「……うう……
……
毎日これではいけないな」
もう陽も暮れてきた。
ドーア火山に帰ろう。
あれから他の隊員と同様、居住させてもらっている。
部屋もわざわざ作ってもらった。
デスリッチさんには何から何まで世話になりっぱなしだ。
僕にできる事はこの森を警備する事ぐらいしかないな。
いつヒューマン・キャッスルから襲撃があるかもしれない。
戦う心構えだけは整えておかないと。
森を抜けて岩の野原を通り、ドーア火山へ。
長い坂道だがドラゴンの脚力ならあっという間だ。
「ん? 人が集まっている」
城門前にはイシュライザーの仲間たちとゾルタクス将軍、カレンシア将軍がいる。
「こんな所で何やってるんですか?」
「隊長を待っていたのよ!」
マリカさんが先陣を切って僕を捕まえる。
「ちょっと……」
「隊長、たまには息抜きも必要ですよ」
「アハハ、そうだそうだ観念しろい」
ヒショウさんとリクトまで、僕の体を掴んで来た。
そのまま強引に何処かへ連れて行かれる。
「ここは……!?」
「隊長、ここはお風呂です。
ずっと入っていないでしょう?」
そ、そういえば……
でも何だこの広い池は?
「ダハハ、早く入れよ、そりゃあ!」
ゾルタクス将軍に持ち上げられてブンブン回された。
スーツを掴んでそのまま投げられる。
ザバンッ!
スーツが脱げてそのままドボンだ。
「あちっ! これは……お湯!?」
「お風呂なんて全然気にしてなかったでしょう?
少しはリラックスしなさい。
落ち込んでてもしょうがないわ」
皆……心配してくれていたんだ。
こんな自分を気に掛けてくれるなんて有り難い。
「隊長には、こんなに仲間がいます!
寂しがる必要はありません」
ミミから激励されるとは思いも寄らなかった。
「そうよ、そうよ!
皆、仲間! お風呂仲間!
そう言う事で……私も入ろう!」
「にょ! お姉様、また入るんですの?」
「ダハハ、リクト、俺たちも入るぞ」
「アハハ、いいね」
「俺も入ろう。マリカさんたちは女湯ですよ」
「いいじゃない。混浴でも」
「にょ、だーめ。お姉様の体は見られたくない」
◇ ◇ ◇
「……レオン将軍、なかなかのチームワークですね」
「まさかイシュライザーたちと生活するとは考えてもみませんでした」
デスリッチとレオンダルムが山の上から見ている。
もう辺りも暗闇に包まれてきた。
「……たまには私も入ってみようかしら……
実体化すればお風呂に入れますね。
少し恥ずかしいですが……皆いますし。
レオン将軍もどうです?」
「敵がやって来たらどうするですか?
……と言う堅い事はやめましょうか。
私もたまには行ってみましょう」
ドーア火山の露天風呂は絆を深める最高の場所だ。




