19.語られた真実
龍帝ヴェルドーアが目にしたものは画像を印刷したシートだ。
ヒューマン・キャッスルの技術で鮮明な写真になっている。
「……これは……十七年前の……」
龍帝の横から写真を覗く。
「えっ……アルノ?」
映っているものは、金髪の壮年男性と白い髪の女性、そして女性に抱かれた赤ん坊の3人。
男性は長身で髪は短く、顎髭を生やしている。
女性は白い髪と言っても透き通っていてまるでダイヤモンドのような輝きだ。
顔は……アルノに似ている……いや眼鏡を外している……イイノさん!?
では、この赤ん坊は???
「……うう……う……」
龍帝が苦しみ出した。
「……頭が……割れそうだ……」
「だ、大丈夫ですか?」
巨大なドラゴンがのたうち回る。
地響きがする程の衝撃!
心配していても見ている事しかできない……
苦しみが治まって来たのか動きが止まった。
「……そうだ……記憶が……蘇って来た……
この写真は……十七年前の戦いの直前のもの、
これは忘れてしまった記憶を取り戻す為の鍵……」
……十七年前……では……これは……
「そこに映っている人物は……
男は全開変換する前のわし、
女は十七年前のイイノ、赤ん坊はアルノドーアじゃ」
「ええっ! これがイイノさん!!
今と全然違う! アルノを抱いているのは何故だ……」
今のイイノさんは眼鏡をかけていて髪の毛も黒い色だ。
別人に見える。
「……記憶が完全に蘇ったぞ……
アルノドーアとデスリッチが信頼している君なら……
全てを伝えてもいいだろう。
アルノドーアは、わしとイイノの子供だ」
「は……」
映っている場所はどう見てもヒューマン・キャッスル内。
ヒューマン・キャッスルで実際の両親がいる子供はいない。
あそこに住んでいる人間は皆、人工的に産まれてくるのではないのか?
「はは、不思議そうじゃな。
ヒューマン・キャッスルでは科学技術で人工的に人間を誕生させているんじゃったな。
アルノドーアは違う、わしとイイノが愛し合って産まれた子供じゃ!」
愛し合うってなんだ!?
「それはまだわからなくていいだろう。
まず、最初に教えておきたい事、それは……
オリジナル・ジェネシスの遺伝子の事じゃ」
「1000年前、発明された10体の強化された遺伝子を持った人間の事ですよね?」
「そうじゃ。
人間の世界ではオリジナルの遺伝子と人間の遺伝子、
ライザーと言う遺伝子の3つが合わさって産まれたとされているらしいの。
しかし実はライザーなんて遺伝子はないのじゃ。
オリジナルと人間の2つだけじゃ」
「そうなんですか? じゃあライザーって?」
「オリジナルの遺伝子は人間と交配した時しか継承されない……
それもコピーを防止する情報が付け加えられている為、
親から子へ、たった一回しか継承されない。
では継承させる為に何が必要なのか?」
継承……この前の将軍との戦いからよく耳にしていた……何なんだ?
「それが『愛し合う』と言うことじゃ。
ライザーとは『愛』で継承する者の事。
機械であるキャッスル・ブレインにはどんなものかわからん。
それで説明ができない為にそんなようなライザー遺伝子などと言う仮の情報を作ったのじゃ」
愛……人を想うと言う事なのか?
「オリジナル・ジェネシスの遺伝子が1000年も継承されて来たのは、
ずっとオリジナルの遺伝子を持った人間とそうでない人間が愛し合って子供を残してきたからじゃ」
「でも、外の世界では愛し合って子供を残してきたかもしれないけれど、
ヒューマン・キャッスルでは愛などと言う感情を持った人間はいません。
人工的に子孫を作ってきただけです」
「いや、オリジナル・ジェネシスの遺伝子を継承する為には愛し合わないと継承されん。
科学技術庁の試験管の中では絶対に継承できん。
愛がなければ遺伝子を正常に伝える事ができない。
しかし君たちイシュライザーは鳥や獣、水生生物に巨人、
と言うオリジナル・ジェネシスの遺伝子をちゃんと持っているのはよく知っているね?」
「そうです。
ヒショウさん、マリカさん、リクト、ミミは肉体変換能力を発現できる、
れっきとしたオリジナル・ジェネシス遺伝子の能力者です」
「その四人にもちゃんと両親がいるんじゃ。
親がいなければ伝わらないからな」
「ええ! 四人に両親がいる?
遺伝子を人為的に接種されたって聞いてましたが……」
「それもキャッスル・ブレインを理解させる為の仮の情報じゃ。
その四人の親はヒューマン・キャッスルの中枢にいる。
オリジナル・ジェネシスの遺伝子を持っている人間は能力が格段に優秀じゃからな。
そのような人間が各部門のリーダーに抜擢されている。
例えば農業エリアを稼働させるエネルギーはどこから生まれているのか。
それは水生生物の能力を持つ者のエネルギーで稼働しているのじゃ」
「つまり、ヒューマン・キャッスルの各エリアは……
オリジナル遺伝子の能力者によって運営されているって事ですか?」
「そうじゃ、じゃからヒューマン・キャッスルの管理者であるキャッスル・ブレインは、
オリジナル・ジェネシスの遺伝子を持つ者を宝として大切にしている。
遺伝子の継承者は普通の人間に比べると寿命は長い。
じゃが寿命も限りがあるのじゃ。
遺伝子を後世に伝える為、寿命を察知した時、子供を残すものじゃ。
子供に継承した時、親の能力はだんだんと衰えてくる。
この世に2人の能力者を存在させない為に……」
……信じられない話の連続で驚く事もできないくらいだ……
「20年前、ヒューマン・キャッスルが宇宙から落下して来た時、
わしはヒューマン・キャッスルに単身、乗り込んだ。
その時、イイノと出会ったのじゃ。
イイノの職場である科学技術庁でリツとも出会った。
今のデスリッチじゃな。
わしとイイノはいつの間にか一緒に生活をするようになり、
そしてアルノドーアが産まれた……」
「ヒューマン・キャッスルの中でよく見つかりませんでしたね」
「アルノドーアの存在はずっと隠していたのじゃ。
見つかればオリジナル・ジェネシスの継承者として
キャッスル・ブレインに利用されてしまうからな。
わしとイイノはアルノドーアの幸せの為、
いろいろと世話をしてくれたリツ以外、誰にも言わなかったのじゃ」
……まさか、アルノにそんな過去が……
でも、何故離ればなれに!?
「何故、あなたは戦わなければならなかったのですか?
そしてここまで避難して来なければならなったんですか?」
「……わしは、あの日まで知らなかったんじゃ。
イイノには隠された秘密があった……」
「イイノさんに何かあったのですか?」
「知っての通り、イイノは人間の中でも際だって優秀な頭脳を持っている。
それは……
イイノも『オリジナル・ジェネシス遺伝子』の継承者だったからじゃ」
「えっ!! イイノさんが継承者!?」
「秘密にされていた10番目のオリジナル・ジェネシス……
その継承者だったのだ」
10番目のオリジナル・ジェネシス……
正体不明で存在しているかもわからなかった遺伝子の……
「10番目の持っている力は凄まじいものじゃ。
キャッスル・ブレインの動力源となる『電気』と言うエネルギーを、
たった一人で作っていたのじゃから」
「何だって!? 僕たちの暮らしを支えていた電気を?
確かに……何の資源もないヒューマン・キャッスルで、
どうやって発電しているかはわかりませんでした。
太陽光や風力では足りない程、電気を使用している。
夜も煌々と明かりがつき、車もロボットも工場の生産ラインも……
人間が便利に生活する為のエネルギーは相当な消費量。
それを一人の力で……」
「そうじゃ。10番目の能力こそ宇宙の『星』と同じ能力、
簡単にいえば『太陽』と同じ力と言えば良いか……」
太陽……この世界を照らすエネルギー……
そのような力を人間が持てるのか……
「オリジナル・ジェネシスの開発者が最終的に作りたかった物、
それが究極の『エネルギー』じゃ。
人間がどんな場所に行こうとも、宇宙空間に行っても、
同じ生活ができる、それも永久的に……
10体のオリジナル・ジェネシスがヒューマン・キャッスルにいれば、
それぞれの特別な力を使って人間を永久的に生存させる事ができる。
科学技術の頂点じゃ、それをキャッスル・ブレインは目標としているんじゃ」
人間を永久に生き続けさせる……そんな事を目標にしているのか!
「オリジナル・ジェネシスの鳥、獣が運搬や食料生産を、巨人は建設を担い、
水生生物に水を発生させ、虫が土壌を変え、植物の力で草木を茂らせる。
吸血生物は医療、不死生物の力で死を克服、太陽の力でエネルギーを永久に作る……
ヒューマン・キャッスルは楽園化の実験の為に作られたのじゃ」
「そ、そんな! それでは人間は何の努力もしなくなります。
それこそ『愛』なんて必要なくなるじゃないですか!」
「今のヒューマン・キャッスルを見てみろ。
全てキャッスル・ブレインの言われた通りしか動かん人間ばかりじゃ。
わしとイイノは気づいた。
このままでは人間が人間でなくなる。ただの人形のようになってしまうと。
それに1000年の間に人間の数は減り続けている。
人工的に子孫を残して行く事に限界があるからじゃ。
愛の力こそ人間を繁栄させる。
そこで考えたのが『イシュライザー』じゃ」
「イシュライザーが人間の為に作られた?」
「イシュライザー・スーツには人を強く想う、愛すると言う想いから出る脳からの信号を、
増幅させる力を備えている。
その信号は細胞同士の繋がりを強固にする。
自分の中の秘められている力を発揮する事もできる。
『愛』と言う奇跡の力を人間が失わない為、イシュライザーは作られた。
まずオリジナル・ジェネシスの遺伝子を持つ10人を強化する為、
それぞれの能力を発揮しやすくする10色のスーツが作られた」
「そうか、だからアルノの事や仲間の事を強く想った時、
信じられない力を発揮できたのか……」
「じゃが、それがオリジナル・ジェネシス遺伝子を持つ人間にとっては諸刃の剣。
細胞を変化させる『肉体変換能力』の力をも強くしてしまうのじゃ。
イイノは自ら実験台になり、スーツを纏った。その瞬間じゃった。
バランスを保って眠っていたイイノの力が突如暴発した。
強大な力が、よりとてつもない力へと変化してしまったのじゃ」
「とてつもない力とは何ですか?」
「太陽以上の宇宙の神秘の力……全てを消滅させる怪物、
イイノも力を制御できなくなって暴走してしまった。
このままでは世界がなくなってしまう……
わしは無我夢中で力を全開にし……イイノを……」
「まさか、殺してしまったと言うのですか……」
「そこからは記憶がなくなり、ここにこうしていたのじゃ。
わしもイイノと共に消えたと思っていたが……
このような写真を送って来るとは消滅を免れたとしか思えん」
龍帝が全身真っ黒になるまで戦ってここにこうしているのか……
凄まじい戦いだったのだろう。
そして……悲しい戦いだ……
「……今まで起きた事はよくわかりました。
実は僕がここに来たのはもう一つ理由があります!
アルノが突然、体調が悪くなり、熱を出して倒れてしまったのです。
大森林で一人待っています、今デスリッチさんが向かっていますが……
一体、原因は何なのでしょうか……」
縋るような思いで話す。
「おそらく原因は……オリジナル・ジェネシスの遺伝子じゃ」
「遺伝子ですか?」
「アルノドーアは何の遺伝子を持っていると思う?」
「ドラゴン……ではないのですか?」
「ドラゴンだけではないのじゃ。
ドラゴンはわしのオリジナル遺伝子じゃが、
母親であるイイノの10番目のオリジナル遺伝子も継承しておる」
「えっ、一人で2つのオリジナル遺伝子を!?」
「そうじゃ、アルノドーアはこの世界で初めて、
2つのオリジナル・ジェネシス遺伝子を宿しているのじゃ!」
そんな! あんな小さな身体で巨大な力を!
「アルノドーアはイシュライザー・スーツを着たのじゃろう?
しかも、白いイシュライザー・スーツではないのか?
白のスーツは10番目の能力を強化する。
おそらく、今まで眠っていた力が目覚めてしまったのじゃ」
「話に聞いたような力が目覚めては……
アルノの小さな身体では耐えられないのでは?
ど、どうしたらいいでしょうか!?」
いてもたってもいられない……
早く、何とかしてあげたい!
「10番目のオリジナル能力者だけはスーツは危険じゃ。
スーツを脱がせてから遺伝子の力を抑える。
デスリッチならば対処法はわかっている……
だが、君の助けも必要になるかもしれない……」
「僕も……早くアルノの元へ向かいます。
アルノを元気にさせてここに戻ってきます!」
「……頼むぞ」
数々の知らなかった真実……
頭の中はまだ混乱しているが、今は深く考えている時間はない。
すぐに玉座を飛び出す。
アルノを絶対……救うんだ!




