10.ライザー・イエローvsゾルタクス
ゾルタクスは腕から蜘蛛の巣をパッパと払いながら、こちらに振り返った。
「お前は虫が苦手か?」
「はっ? 戦う前に何でそんな事を……」
「俺は『虫』のオリジナル・ジェネシスの継承者だ。
虫なら何でも出せるぜ~。
人間が苦手な虫もな! 蜘蛛とか、ムカデとか、サソリとか……
大量に発生させることもできる」
「そんな先に手の内をわざわざ明かす事ないだろう?
こちらが有利になるだけだぜ?」
何なんだ? こいつは……
これから発現する肉体変換能力をバラすなんて、相当な自信家か……
「俺はどんな虫でも平気だぜ!
怖い物なんてないからな」
「そうかい、戦いが始まった瞬間、失神されたら叶わんからな。
面白くもなんともない!
……おっと、参謀殿から戦う時は仮面を付けろと言われていたな」
ゾルタクスは赤鬼のような仮面を取り出し顔に装着した。
頭部の変化防止用の物だろう。
相手がすぐ戦闘不能になる事が面白くないなんて……
純粋に戦いを楽しみだけなのか?
どれだけ戦闘おたくなんだ……
「アハ、楽しませてやるさ!
俺は『巨人』の能力者だぜ!
巨人の凄さを見せてやる!
……ビッグ・フット!」
ゴゴゴ
両脚を巨大な『雪男』の脚に変化させた。
それに比例して身体の部分も大きくなる。
巨体であるゾルタクスを見下ろす高さだ。
「お~お! でかい脚だな~!
これが巨人の肉体変換能力か。
初めて見るぜ」
「アハハ、虫なんか巨人の脚で踏み潰してやる!」
脚を高く振り上げて、そのまま直立しているゾルタクス目掛けて落とす!
ゴォッ!
「ダハハ、
……アイアン・アント」
ドコッ!
「何!? そのまま立っているだけだと!?」
容赦なく上からの押し潰しが決まった。
ゾルタクスは全く動いた様子がない。
巨人の足は地面との間に隙間なく踏んでいる。
衝撃で地面が大きく陥没して周囲より一段低くなっている。
まさか、始まったばかりなのに、もうぺちゃんこになったか?
「……もう終わりか? あっけなかった……」
脚をどけて相手の潰れた姿を確認……
「あっ!」
ゾルタクスは先ほどと同じ姿勢で立っていた!
地面にめり込んではいるが、全く防がず、逃げず、不動の姿勢で!
「な、何!? 一ミリも動いてないだと?
ビッグ・フットを防せがれた事があるのは隊長とホワイトだけだ。
しかもドラゴンの腕での防御……
こいつは立っていただけ!?」
「ダハハ、アイアン・アント……蟻の装甲よ。
虫の中には硬い装甲を持っているヤツもいるんだぜ。
虫は小さいゆえ外敵から襲われやすい。
しかし数万年も生き残っている。
何故か?」
「!!」
「生き残る為の強さを持っているからだ!
お前ように派手な攻撃ができるヤツが強いのではないぜ。
戦いの中でどう生き残るかだよ。
この弱肉強食の世界でいかに生存競争に勝つか。
生き残ったヤツが強いんだ。
虫はどうすれば生き残れるか考え、鍛え、自ら進化して身につけているのだ!
だから虫は強いのだ!!」
そうだ!
そうだったのか!
俺の求めていた強さは見かけだけの強さじゃない。
体の小さいヤツでも勝てる強さ……
それは……どんな事をしても生き残る事……
生きている自体、強さの証……
「ダッハ! 何かたまってるんだよ!
今度は俺から行くぜ!
……ダブル・ビートル・アーム!」
ゾルタクスの両腕が『甲虫』の腕に変わって行く。
しかし、細い! ひねればもげそうな腕。
こんな肉体変換能力でどうするつもり……
「ダッハ!」
ゾルタクスは雪男の片脚をその両腕で掴む。
「何を? そんな細い腕じゃ動かないぜ!」
「ふん!!」
「えっ?」
クルっと目の前の風景が回転する。
ドカァァン
「ぎゃっ!!」
背中が地面に付いている!
いつの間にか大の字で寝そべって居るぞ!?
背中から強烈な痛みを感じる。
逆にこちらの地面が深くめり込んでいる。
「な、投げられた!? まさか……」
ゾルタクスは両腕を解除し、パン、パンと埃を払っている。
「おいおい、そんなに簡単に投げられるんじゃないぜ。
少しは踏ん張りな」
「こちらの脚はヤツの10倍以上の重さのはず……
何で投げられる!?」
「カブトムシは自分の100倍の重さを放り投げる事ができるんだぜ。
見かけで強さが決まるんではない。
結果で強さが決まるんだ」
……俺は体の大きさ、技の格好良さ、派手に破壊する事を追い求めてきた……
こいつはそんな事、何も考えていない。
敵をぶっ倒す事のみを考えているんだ……
「早く立ちな、まだお互い最初の技を見せただけだぜ」
……俺は地面に大の字。追撃すれば大ダメージを与える事ができる。
なのに何もしないのか。
両脚の変化を戻して、言われた通り立ち上がる。
「……ジャイアント・スイング!」
右腕を巨大化し、回転して真横に振り回す!
巨人の硬い筋肉の塊が襲いかかる。
ブーンッ
「ダハハッ」
ドガッ!
「何!?」
巨人の腕を無防備でそのまま受ける。
「ラ、ライズを使わずに受けるだと!?」
ゾルタクスの背中にジャイアント・スイングは炸裂している。
ダメージは与えているはずだ。
ゴーグルのダメージ値も表示されている。
だが、何で立っている!?
吹っ飛ばないのはあり得ない。
「いいぜ。なかなかの痛みじゃねーか。
本当に強いヤツはな、肉体変換能力なんかなくたって強いんだぜ」
……その言葉に衝撃を受けた。
特別な能力があるから強いのではないのか!
自分のままの肉体、精神、忍耐、折れない心を持つ者が強いのだ。
「俺はライズだけに頼らないで生きられるように日々、肉体を鍛えている。
肉体だけではない。
常に強い敵と戦って心も強く鍛えているのだ。
折れない心、屈強な肉体、それがあって初めて特別な技であるライズが磨かれて行くんだ。
ライズとは自分の鍛錬の結晶なのだ」
「はぁ、はぁ……」
息が詰まる苦しさ。
いや自分の心が揺れ動いている!?
ゾルタクスの大きさ、威圧感、存在感に圧倒されている。
恐怖ではない。人間としての偉大さ、強さに……
「それじゃ、俺の強さの一部を見せてやるぜ!
これでも、くらいな!
……ホーネット・スティング!」
ゾルタクスの右腕が『雀蜂』の毒針のように!
「ダハ!」
一瞬動いたかと思うと自分の体に異変を感じた。
「うぐっ!」
針が自分の左肩を貫いている!
背中まで一瞬のうちに貫通している!
それを認識すると直後に強烈な痛みを感じた。
「ぎゃ、ぎゃぁぁぁ!」
「次だぜ!
マンティス・シックル!」
今度は左腕を『蟷螂』の腕に変えた!
グサッ!
「ぐわぁっ!」
右肩を後ろから刺された!
「解除だ!」
「ぐぅっ」
「まだ、降参しねぇか!?」
ゾルタクスを鋭く睨み、まだ戦う意思を示す!
「……グラスホッパー・レッグ!」
次は『バッタ』の両脚か。
虫の種類は多い。相手の能力が無限のように感じる。
「ダハッ!」
ビシッ、ドシッ!
鞭のような蹴りが連続ヒットする。
脚の太さはないが、当たるともの凄い衝撃だ。
「バッタも自分の100倍の高さまでジャンプできるんだぜ?
その脚力も虫の中でも随一だぞ」
ドカッ ドンッ!
息もつかない連続攻撃だ。
あらゆる方向から蹴りがやって来る。
スーツがあっと言う間にボロボロになってやがる。
ゴーグルのHP表示もどんどん削られている……
「……ダブル・ゴーレム・アームだ!」
攻撃のわずかな隙に、巨人の両腕を発現させてゾルタクスの体を掴もうとする。
「掴ませないぜ、ダハッ!」
ビュン!
見えない程の速さで空中高くジャンプする。
「バッタのジャンプ力か!?
速くて見えない!」
「ダハッ もらったぜ!
……スタッグ・クロー!」
天空高くから両腕を『クワガタ』のはさみ部分に変えて落下してくる。
こちらをはさみ込んで斬り裂くつもりだ!
「体よ、硬くなれ!
ゴーレム・ボディ!」
自分の胴体を岩に変えた……
ガシンッ!!
「ダッ!?」
クワガタのハサミで胴体を挟まれながらもゾルタクスに組み付いた。
ゴーレムの両腕をそのまま後ろから回して相手の胸を締め付ける。
お互い両腕で挟み込むような状態になった。
「ダハッ! 自分の身を犠牲にしてキャッチしたか!?
我慢比べに持ち込むとは!
やるな!」
グググ……
強烈な締めつける力だ。
意識が飛びそうだ。
「俺の腕力に勝てるか!?
このままだと胴体がちょん切れるぜ」
岩の胴体にひびが入り、その痕から血が流れてくる。
「ぐぐ……俺は負けないんだ!
俺も生き残るッ!」
死なない!
今までの俺だったら心が折れていたところだ。
強烈な生への執念が意識を保ち、両腕の力を強くする!
「!! ぐぅっ!」
ゾルタクスが苦しみ出した!
「ぬぬぬ……」
「うぉぉぉぉ!」
お互い血管が浮き出る程、渾身の力を振り絞った。
汗が滴り落ち、腕も痙攣する程だ。
「ぬぉぉぉぉ!」
「おおお……」
あと少し……もう少し……力を込めれば……背骨をへし折れ……
「うぐ……」
いきなり目の前が真っ暗に……
くそ……先にライズパワーが切れた……のか……
ガクンッ!
全身の力がなくなり意識がなくなった。
「はっ……こいつ、なんて執念だ……」
ゾルタクスは両腕のライズを解除して相手を離すと、
巨人はずるずると地面に崩れ落ちた……




