09.薔薇の檻
「やったー! ドーア火山が見えるわ!」
「アハハ、随分歩いたなー!」
長い旅路だった。
歩きに歩いて、目指していた山が見えた瞬間、マリカさんとリクトは大声で叫んだ。
「おい! まだ喜ぶの早いぞ。
ここから先、『将軍』が待ち構えている可能性が充分ある!」
浮かれている仲間の気を引き締める。
もうここは敵のお膝元だ。
今回は敵の方に地の利がある。
どんな手を打って来るのか……
相手はあのデスリッチさんが作戦を立てているのだから。
「まだ、森の中よ? 早々見つからないんじゃない?」
確かにまだ深い森の奥。敵の城からはこちらが見えない。
肉体変換能力も全く発現させていないので気配はわからないはずだ。
「アハハ、もっとギリギリまで近くに行こうぜ!
ここからだと山全体が見えない」
「確かにどこから潜入できるかここからわからないな。
よし、もう少し進もう……」
リュックを背負い直し、一歩進んだ瞬間だった!
シュルシュルシュル……
「な、何だ? この音は!?」
シュルシュルシュルシュル……
正体不明の物体が迫ってきている。
「何か近づいてくるわ! 何の音なの!?」
どんどん音は大きく聞こえてくる!
もうすぐ近くだ!
「あ、上を見ろ! 何だあれは!?」
今まで空が見えていたが真っ暗になり何も見えなくなっている。
何かに覆われたのか!?
シュルシュルシュル……
「あっ! これは植物のツル!?」
いつの間にかイシュライザーたちの回りにトゲがついた植物のツルが伸びてきている!
それも無数、夥しい数のツルがにゅるにゅると気持ち悪く動き、周囲を取り囲んだ。
「まずい! このツル、俺たちを狙っている!
このままだと身動きできなくなるぞ!」
「空も完全にツルに覆われているわ!
どの方向にも逃げられないわよ!」
ますます増殖してくるツルたち。
いや、ツルをよく見るといくつもの蕾みが成長して花が開く。
これは、『薔薇』だ! 図鑑で見た事がある!
赤、ピンク、白、黄色。
様々な薔薇の花が咲き乱れて行く。
引き込まれるような美しさが不気味だ。
四方を埋め尽くされて行く様は、まるで『薔薇の檻』!
「これは……植物の肉体変換能力じゃ!
将軍『カレンシア』が近くにいるぞ!」
アルノドーアはカレンシアの能力を見た事がないが、
『花将軍』と言う別名を聞いていた。
きっと花の能力を使ってくるのであろう事は予想していた。
しかし、この花の数、森の出口からここまでの距離を包み込む程の巨大さ、
ここまで強大無比な肉体変換能力を使う事までは予想していなかった。
◇ ◇ ◇
「おい! カレン! 見つけたのか!
敵が大森林に侵入したんだな?」
ドーア火山の麓、大森林の入口。
虫将軍『ゾルタクス』と花将軍『カレンシア』が並んで立ち塞がっている。
「にょにょ! 森の中は私の庭。
植物たちの声がはっきりと聞こえる。
知らない者たちがやって来たって言ってる!」
カレンシアの両腕が薔薇の枝に変化していて、その先が大森林の中まで伸びている。
「私の『薔薇の牢獄』からは絶対に逃げられない!
既に獲物の居場所は、わかったにょ!」
「ダハハ、森の中ではお前が一番活躍できるな。
よーし! そのまま捕まえろ!」
◇ ◇ ◇
動けるスペースは、わずか数メートル四方。
薔薇のツルに埋め尽くされるのも時間の問題だ!
「アワワ! 来た来たー、絡みつかれる!」
「あわてるな! これは植物じゃ!
わしに任せろ!」
薔薇のツルの前に立って右腕を突き出す!
「サラマンダー・ファイヤー!」
グウォォォォォ!!
猛烈な熱風と渦巻く炎!
花びらが辺り一面に飛び散り、炎が薔薇のツルを焼き尽くす。
火が次々に燃え移り、数十メートルは後退した!
「もっとじゃ! タツオも『炎』じゃ!」
「わかった! 行くぞ!
……サラマンダー・ファイヤー!」
ゴォォォォォ!
二人の炎攻撃がどんどん薔薇のツルを焼いて消滅させて行く……
視界が開ける。動けるスペースがワイドに広がった。
「アルノ、やったぞ! 薔薇が後退して行く。
炎が効いているんだ!
『ドラゴン・ブレス』で一気に片付けるか?」
「そ、そんな力をここで使ってしまうと、城に残っている将軍と戦えん。
まだ、戦いは始まったばかりじゃ……
それに大森林が燃えてしまう……
むっ!
う……うう……」
ドサッ
「あ! アルノ!」
前のめりに崩れ落ちる。
アルノがまた意識を失って倒れた!
すぐさま抱き起こすが、また熱が高くなっている。
「ア、アルノ!
まだ、完全に回復していなかったのか……」
「隊長! 炎が消えたら、また薔薇が襲って来てしまうわ!
どうしたらいいの?」
「……アルノは将軍が近くにいると言っていた。
そいつを見つけてライズをやめさせれば消えてなくなるかもしれない……」
「わかったわ!
薔薇が後退して行っている今のうちに、私とリクトが将軍を見つけて戦う!
隊長はアルノについていてあげて! 回復させてあげられるのも隊長だけだし!」
敵に近づけるのはこのタイミングだけだ。
アルノを置いてはいけない。
今はマリカさんとリクトを信じるしかない!
「マリカさん、リクト、頼む!
君たちを信じる!
この薔薇の肉体変換能力を消してくれ!」
「あんちゃん! こんな時こそ、任せてくれよ」
「隊長、もっと頼ってもいいのよ。
今まで隊長に助けられて来たんだから!」
「うん。君たちが頼りだ!
僕もアルノを回復させて二人で後を追う!」
3人は頷き、それぞれの任務に向かう。
◇ ◇ ◇
「にょにょ! 薔薇のツルに火を付けられた!
燃えている部分を切り離すしかないにょ!」
「ドラゴンの炎だな。
やっぱり姫様がいるのか」
カレンシアは炎の隙間から何者かがこちらに進んで来ている事を察知する。
「ゾル! 敵が2名こちらに近づいて来てるにょ!」
「その中に姫様はいるのか?」
「にょ、姫様の気配じゃないにょ。
人間の気配がする……」
「別のイシュライザーだな!
捕らえるだけじゃなく、やっぱり戦いがないとな!
面白くなってきやがったぜ! ダハッ」
ゾルタクスが森へ飛び込んで行く!
「にょ! ゾル! 勝手に一人で行くなー!」
◇ ◇ ◇
「リクト、どうやら薔薇のツルは活動を停止しているわ。
炎が燃え移っているうちに隙間から外に出るわよ!」
「ああ、早く森を抜けちまおう」
整然としていたツルは動きが乱れて隙間が出来ている。
軽やかにツルの間をジャンプして進む。
鍛え上げてられている両脚は常人ではない跳躍力だ。
するすると外へ向かって飛び移る。
「アハハ、いいぞ! このまま行ける……」
「そうはいかないんだなぁ。
……スパイダー・ウェブ!」
「わっ!」「きゃあっ!」
ズザッ!
突然、目の前に巨大な蜘蛛の巣が現れ、糸に絡まった!
「う、動けない!」
「こんな所に蜘蛛の巣!?」
蜘蛛の巣の向こうを見ると、一人の大男が腕から蜘蛛の糸を放っている。
筋骨隆々。筋肉の塊と行った巨大な腕と脚。
人間とは思えない胸板。
しかし顔は人間。茶髪で汚い軍服を来ている。
「おう。お前たちがイシュライザーってヤツか?
ダハハ、こんな遠くまでご苦労なこったな。
俺はドーア軍の虫将軍『ゾルタクス』ってもんだ。
宜しくな!
って動けないんだったな」
蜘蛛の巣にピタっと張り付いて身動きできない二人。
リクトがその名を聞いたとたん反応する。
「ゾル……お、お前が!?
ゾルタクスか!」
「ダハハ、なんだ知ってるのか!?
俺って有名になったか」
「会いたかったぜ! 本当の強さっていうヤツを知りたくな!
……ジャイアント・ハンマー!!」
リクトは両腕を巨人に変える。
その重さで蜘蛛の巣から二人は落っこちた。
ズン!
「痛ーい! もう、こんな落ち方、お尻に悪いわ!」
「こいつとは俺が戦ってみたい!
マリカは先に行け!」
「わかったわ。薔薇のツルを操っているヤツは私が相手する!」
マリカは尻の痛みに耐えながらツルの間を飛び跳ねて行く。
「あ~あ。ひとり逃がしちゃったか。
カレンがいるから、まぁいいか」
こんな時でもゾルタクスは軽い。
「アハハ、微動だにせずって感じだね。
よっぽど強さに自信があるんだね?」
「ダハハ、いいね。俺と戦いたくて逃げないとは……
気に入った!
気の済むまで戦おうぜ!!」




