08.遠征再開
果てしない荒野に朝が来た。
砂漠の真ん中のような場所なので夜と昼とでは寒暖差が激しい。
寝袋の中は二人の温かさで熱くなって来ている。
「う……ん……」
アルノドーアは心地よい光を感じながら目を覚ます。
誰かの腕の中にいるようだ。
「!! ……タツオ!?」
タツオの腕からは微かな生命の光を放っている。
「ライフ・ストリーム……タツオが……わしを……」
前日の記憶が定かではないが、身体が熱くなって倒れたまでは覚えている。
まだ、熱はあるようだが大分下がっているようだ。
タツオは疲れからか死んだように眠っている。
息をしているので安心したが生命力をかなり放出した事がわかる。
自分もライフ・ストリームで消耗した経験があるだけにその疲れは身をもって知っていた。
ひとつの寝袋の中、自分を抱きしめながら離そうとしない。
腕の上に頭を乗せているが、その腕の力の強さを感じてタツオがいかに心配してくれたのかを知る。
アルノドーアはそのタツオの熱い想いに嬉しさがこみ上げてきた。
それほど自分の事を想っていてくれた事に感謝する。
同時に自然と涙があふれた。
それがタツオの腕を濡らしてしまうが自分の身体が思うように動かない為、止められない……
「……うん? 温かい……アルノ!」
目を覚ましているアルノを一目見て安堵する。
ライフ・ストリームも限界に来ていた。
生命力を消耗しすぎて、放っていた光の効果がぷっつりと切れた。
「タツオ……わしの為に……すまん……」
泣いているアルノを見てどうしようか、とオロオロ戸惑った。
だが体の状態が一番心配だ。
自分が落ち着かいといけない
「アルノ、大丈夫!? 痛い所あるのか?」
腕の中で首を横に振る仕草を見せる。
まだ熱を感じるので体が完全には回復してないのか……
「ごめん、アルノ。
僕が君に無理ばかりさせてしまった。
今回の遠征も、この前の戦いも、君に頼りっぱなしだった。
僕がもう少ししっかりしていれば……」
「タツオは……悪くない……
わしがお前を助けたくてやってる事じゃ。
それより、自分の命を使ってわしを助けてくれたんじゃな……」
「この前見た『ライフ・ストリーム』を真似してやってみたんだ。
デスリッチさんが使っていたから……」
「……あれは、元々わしの父が開発した能力じゃ。
父みたいに巨大なドラゴンであれば生命力を少し分けても平気なんだが、
わしらのように体が小さいと消耗が著しく速いのじゃ……」
お互いが命を使い、命を守り合う。
強い絆がなければできない行動だ。
二人は強い絆で結ばれていることを確認し合う。
「……タツオ……疲れただろう?
もう少し寝てろ……
わしも、こうして……寝ていたい……」
アルノが腕に頭を強く乗せて来た……
「……確かに少し疲れた……もう少し寝よう……」
二人はさらに寄り添い合うと深い眠りに落ちた……
◇ ◇ ◇
ドカドカドカ……
枕元に足音が聞こえる。
「きゃあ!!
何々? 一緒に寝てるの? お熱いわね!
アルノ、大丈夫?」
「あんちゃん! もう昼になるぞ。まだ、治っていないのか?」
グッスリと眠ってしまっていた……
かなり時間が経った気がする。
そうか、マリカさんとリクトが気になって様子を見に来てくれたんだ。
もう外は明るい。確かに昼になっている。
起きなきゃ行けないが、まだアルノの具合が……
おでこに手を当てて見た。
「熱は下がって来てるみたいだ。
だけどまだ完全に回復していない……」
その時、アルノがパっと目を開ける。
起きていたのか……
「わしなら……大丈夫じゃ。
心配をかけて……すまん。
わしのせいで遠征を中断させてしまったようじゃ。
計画の通り進む為、早く支度をしよう……」
寝袋からサッと起き上がった。
元気になった姿をわざと見せようとしているのか……
きっと体調の悪さを隠しているんだ。
「本当に大丈夫なの?
駄目だったら、もう一泊してもいいのよ」
マリカさんも心配している。
元・医療関係者だから尚更気になるのだろう。
「寝てばっかりしておれん。
あちらから出て来られてしまうかもしれないからな……
行動は素速い程いいのじゃ!
先手必勝じゃ」
「アルノ、髪の毛がボサボサじゃない!
私のテントに来て!
綺麗にしてあげる」
マリカさんはアルノを引っ張って行こうと手を取った。
そのまま二人は外に出て行ってしまった……
本当に体調は大丈夫なのか?
「あんちゃん、行くなら早くテントを片づけようぜ。
荷物は他にもあるからな。準備をしないと」
「そうだな。片付けようか……」
力仕事担当のリクトが軽々とテントを折りたたむ。
巨大なリュックに宿泊道具一式をしまい込んで背負う。
「アハハ、荷物運びの役目ぐらいしないとね。
あんちゃんはあの変なリュックを持って行ってね!」
全員が再びイシュライザー・スーツに身を包み、行軍を再開する。
元気に歩き出すアルノの身を案じながら、すぐ後ろにぴったりと付いて歩いた。
◇ ◇ ◇
砂嵐や日照りに悩まされたが、ついに目標だった『ドーア国』の領域に入る。
敵の本拠地と聞いておどろおどろしい景色を想像していたが、
目の前には意外な光景が広がっていた。
『緑』だ!
緑の木々が生い茂る『大森林』。
地平線を端から端まで見渡しても切れ目が無いくらい広大だ。
「なっ! 緑だ!
こんな場所に……まさか……
『ヒューマン・キャッスル』の農園以来だ。
このような荒野にも植物が育つのか!!」
大きな木や見た事も無い花や果実に大興奮した。
そんな姿を見て、『やはり』と言った顔になるアルノ。
他の隊員も目が点になるほどびっくりしている。
「ここが敵の本拠地!?
イメージと違ーう!
悪魔のお城とか、灼熱地獄とかじゃないの?」
むしろ『ヒューマン・キャッスル』の方が異様な建造物と感じてしまう。
ここには人工の物が何ひとつ無いのだ。
温かな気温、しかも新鮮で心地よい風が吹き、空気がおいしく感じる。
太陽の光で明るく照らされ、緑の木々がそよめく。
生物からしたらここが本当の楽園なのではないのか……
「ドーア火山のまわりはすべて森林地帯じゃ。
この『大森林』の中心にある火山の中に『ドーア城』はある」
深い大森林だ。
一歩足を踏み入れたら出て来られるのだろうか?
「アルノならこの森林を楽に抜けられるの?」
「……実はわしも徒歩では通った事がない。
大蜥蜴に騎乗するか、空を飛んでの二通りでしか通った事がない」
「なら飛んで行くか?」
「ドーア城から丸見えじゃ。
火山の頂上から見張られているからな。
ドラゴンが飛んでいたらあっという間に察知されるだろう」
確かにちょっとでも肉体変換能力を使用したら、気配で知られてしまう。
「だから歩いて行くのじゃ。
方角はわかっとるからのう」
「う~ん、また歩くのか……」
「ねぇ隊長、今ごろ思ったんだけどヒューマン・キャッスルって車があったわよね?」
「ロボットが運転するカートみたいな運搬車があるけど、長距離は走れないみたいだ。
舗装された道路しか走れないし……
それに車は貴重品で壊したりなくしたりできないらしい」
「もう、平和の為に活動するイシュライザー専用車ぐらい作りなさいよー」
「ヒューマン・キャッスルは車を作る資源が無いからね。
車は戦いの為じゃなく住民の生活の為に使った方がいい。
でも本当に平和で大自然の中で暮らして行ければ車なんて不要だと僕は思っている。
まぁ、もう文句言わず先に進もう」
4名は意を決して大森林に突入する。
まるで探検隊になったみたいだ。
「この森林にはいろいろな種族が住んでいるからな。
蜥蜴人、蛇人。
お前たちも見た事あるじゃろう?」
「アハハ、あの怪物たちの故郷か?
襲って来てもやっつけるから大丈夫だよ」
「いや蜥蜴人も蛇人も戦いを好む種族じゃないぞ。
縄張り争いもないし……
父上への忠誠心で戦いに参加してくれただけじゃ」
「あ、俺ボコボコにやっちゃったな。
出てきたら無意識にまたやっちゃうかも……」
「リクト! 肉体変換能力を使っちゃ駄目だぞ。
大人しい種族でも出会ってしまったら騒ぎになる。
見つからず、事を起こさずに行こう」
なるべく足音を立てず、声も立てず、静々と進んで行く。
あまりにも広大な大森林はちょっとやそっとでは抜け出す事ができない。
「この大森林は父上が大地を耕し、地下水を汲み上げ、数百年かけて作られたのじゃ」
「す、凄い! 草木も生えない荒野をこのように変える……
僕もそのような生き方をしてみたい。
これこそ人間がやるべき事業だ!」
歩く度に大森林の凄さで感動する。
荒野に畑を作る、自分の夢と重なる。
将来必ずこの夢を実現しようと心に誓った。
「あっ! あれは……」
遠くに山の影が見えてきた。
ついにやってきた!
ドーア火山。
敵の本拠地が目の前に……




