07.アルノドーア倒れる
草木の生えない荒野が続く。目に止まるのは岩や瓦礫ばかりだ。
イシュライザーたちはそんな変化のない旅路を急ぐ。
道案内の為、ライザー・ホワイトの姿をしたアルノドーアが先頭を行く。
「アルノ、よく行く先がわかるな。道しるべなど何もないのに」
「わかるとも。軍が何度も往復したところだからな。
匂いとか足跡とかでよくわかるし、ドラゴンには帰巣本能もあるぞ」
「ふ~ん。僕にはわからないなぁ」
全く迷うそぶりを見せず止まることもない。
しかし、普通の徒歩である。
いくら鍛えられたイシュライザーといえど疲労が出てくる。
アルノドーアは行軍慣れしているのかどんどん進むが、他の隊員はたまったものではない。
タツオ、マリカ、リクトの3名とは距離が開いてきた。
「待ってくれ、俺たちは元々ただの人間なんだ。
少し休憩しないか?」
「だらしないのう。訓練したのではないのか」
「私、水飲みたい……お肌の乾燥が……」
「俺も、干からびちゃう!」
「しょうがない。ここらへんで休憩じゃな……」
3名は地べたにバッタリと大の字に倒れ込んだ。
うわぁぁと言う悲鳴が聞こえる。
暫く横になった後、マリカとリクトはリュックから水筒を取り出し水分補給だ。
「隊長は何でそんな大きい荷物を持ってるのよ?」
「うん。副司令が持って行けって。中身は秘密だそうだ」
「何に使うの? 何かの武器?」
「硬くて重い。鉄でできた何かか? 防御用の盾にできそうだ」
不審に思っていたが命令なので仕方ない。
「うん?」
タツオは遠くでしゃがみ込んでいるアルノドーアが気になった。
「どうした? アルノ? 元気がなさそうじゃないか?」
「……わしも何だか疲れたみたいじゃ……」
アルノが疲れる?
今まで戦闘でもほとんど疲れた姿は見た事がない。
どうしたんだ?
「ここでもう野営しようか? 明日まで休憩する?」
「いや……まだ城まで半分も来とらん。
少しでも先に進んでおこう」
道案内の責任を感じているのか、無理して進んでいるように見える。
止めるのもアルノの気持ちを考えると悪い気がする……
「そ、そうか……じゃあ、もう少しだけ進もう。
皆! 休憩を終えて歩こう!」
「はー、短い休みだった……」
「俺はまだまだ行けるぞ!」
また荷物を背負ってテクテクと歩き出す。
アルノもさっきまでと同じ調子で先を進んでいる。
「大丈夫か……」
足取りもいつも通りなので少し安心した。
◇ ◇ ◇
かなりのハイピッチで歩き通し、辺りが夜の闇に包まれる。
「よし! 大分進んで来たぞ。目標まで半分を切った所だな」
「はぁ、こんなに歩いた事、今まで無い!」
「ア……ハ……ま、まだ大丈夫……」
力が抜けてへたりこむ三人。
しかし、あれからアルノの様子が気になっていた。
「アルノ、今日は有り難う……随分と、一日の目標をクリアできたよ。
疲れただろう?」
どうしたんだ? アルノは立ったままで何も言わない……
「ア、アルノ!?」
「はぁ……はぁ……」
アルノの顔が赤い。
息使いも荒い。何かあったのか!?
「アルノ! 大丈夫か!?」
前に倒れそうになる寸前、抱き留めた。
「……アルノ! アルノ!」
抱いている体温がかなり高い気がする……
アルノは意識がないのか……
目を瞑っていて動かない。
「まさか、熱があるのか!?
おい、アルノ!」
異常を感じたマリカとリクトもそばまでやって来た。
「ど、どうしたの? 何かあったの?」
「おい! 変だぞ、寝てるような感じじゃないぞ」
熱すぎる。
やっぱり尋常じゃない!
まさか! 病気!?
「ドラゴンでも病気になる事があるの?
遺伝子を強化されているイシュライザーが病気になるなんてあり得る?」
「マリカさんは確か医療系の仕事をしていたそうですね。
アルノの具合を看る事はできますか?」
「やってたけど怪我の治療ばかりで病気の対応はした事がないの。
とりあえず水を作る能力を使って冷やしてみるわ」
男二人はテントと寝床を作って野営の準備をした。
マリカさんはアルノのヘルメットとスーツを脱がせて寝袋の中に寝かせる。
そして布を水で濡らし、額を冷やした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
体温がさらに上昇しているようだ。
布を何回も替えるがすぐに熱くなる。
タツオもさわってみるが、もの凄い熱さだ。
「おい、アルノ! しっかりしろ!!」
「できる事と言ったら冷やす事ぐらいしかないわ。
傷薬くらいしか持ってないし……
もう敵の領域に近くて本部にも通信が繋がらない……」
「ど、どうしたらいいんだ……
隊長、隊長と呼ばれても何も出来ることがない……
何してるんだ……俺……」
「隊長、自分を責めないで。
アルノが病気になったのは隊長のせいじゃない」
「でも……アルノを……頑張りさせすぎた……」
「頑張ろうとしたのはアルノよ。
隊長は何も悪くない」
それでも責任を強く感じる……
隊員の……いやアルノの変調を気づいていたじゃないか。
「あんちゃん、落ち込むなよ。
ホワイトはドラゴンなんだぜ。
俺より無茶苦茶強かったじゃないか。
病気なんかに負けるかよ」
リクトもリクトなりに励ましてくれているようだ。
そんな仲間思いの隊員たちに心配させるなんて……
「ここから本部まで戻るにしても遠すぎるし、
アルノを動かせる状態じゃない……
絶対に何か方法はあるはずだ……
アルノは僕が元気にしてみせる!
まだ、明日の行程もある。
マリカさんとリクトは早く休むんだ。
僕がアルノのそばにいる」
「わかったわ。アルノも好きな人と一緒がいいよね。
リクト、私たちは隊長に甘えて休ませてもらいましょう」
「あんちゃんも早く休みなよ」
二人は心配しながら別のテントに入る。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息がますます荒くなっているようだ。
好きな人のこんな状態は見ているだけで辛い。
出来ることなら変わってあげたい。
こんな時、デスリッチさんならどうするんだ……
「デスリッチ……さん……
そうか! あの戦いの時……
デスリッチさんが体力を回復させる肉体変換能力を使わなかったか?」
……ライフ・ストリーム!
そうだ!
確かアルノも僕の傷を塞ぐのに使ってくれていた。
あれなら効果があるかもしれない!
「ライフ・ストリーム……
どうやるんだ。
アルノのような肉体変換能力の天才ならできるかもしれないが……
僕のような者ができるのだろうか……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
アルノ!
アルノが苦しんでいるじゃないか!
自分がやらないで誰がやる!
「よしッ!」
自分の生命力を分け与えるイメージだ。
相手を想い、相手に尽くす、心のパワーだ。
強く……強く……アルノの回復を願う祈りの力……
「……ライフ……ストリーム!」
ヒューッ
自分の体の中から暖かな風が吹き出たような感じだ。
「これだ! これをもっと力強く放つんだ!
もっとアルノを感じるには……」
寝袋を開け、アルノの身体を抱き起こす。
そして、自分の胸の中に優しく引き寄せた。
「ライフ・ストリーム!」
今度は成功だ!
暖かな風と共に生命力が放出される。
明るく輝く命の光が二人を包んだ!
「はぁ…………はぁ…………」
アルノの息使いが穏やかになって行く……
「アルノ……頑張れ……僕の命を君に……」
アルノに限界まで光を放つと力が抜けるように床に倒れてしまった。
だが、ここでやめるわけには行かない!
再び立ち上がり、意識を強く保つ。
光が消えぬよう……かすかな意識を集中させて……
アルノを強く抱きしめ、寝袋に入った……




