06.ドーア城で奴隷生活
レオンダルムのドーア城での仕事は、大森林に住むいろいろな種族の訴えを聞いたり、
小さな諍いを解決したりする『内政』から、
城内の掃除やヴェルドーアの看病、将軍たちへの連絡など、
ありとあらゆる役目をこなしている。
いわゆる執事と言う事だろう。
今まで一手に引き受けていたデスリッチは大助かりだ。
一番大変なのは食事の用意だ。
将軍や兵士の人数が増えている為、今まで以上の準備が必要となっていた。
ミミは見るに見かねてレオンダルムに進言した。
「……レオン様は多忙を極めております。
どうか、私にもその仕事のひとつでもご命令下さい」
「そうですか。ミミは料理ができるでしょうか?」
「はい。イシュライザーになる前は自分で料理を作っておりましたので、
少しはお役に立てると思います」
「それは助かります。
戦い以外できない者も多いですから。
では早速ですが、厨房へ案内しましょう」
レオンダルムはミミを両腕で持ち上げると翼を広げて宙を舞い厨房へ向かう。
大広間から続く一本道の先にはいろいろな食材が置かれた空間があった。
「ここが厨房です。しかし人間が料理に使う道具などはないです。
一応、暖炉や釜、刃物はあります。
食材は大森林で採れる山菜や木の実、蜥蜴や蛙の肉などです。
これを使って料理を作って欲しいのです」
「……わかりました。このような食材を見るのは初めてですね。
レオン様の為に働いて見せます!」
レオンダルムはミミの格好が気になった。
ずっとイシュライザー・スーツを来ているからだ。
しかも背中は破れ、動きづらそうだ。
「その前に、動きやすい格好をした方がいいですね。
ふ~む……」
レオンダルムは影に変化すると一瞬のうちにいなくなり、そしてすぐに現れる。
「これを着てみなさい。我が一族に伝わる服装です」
「……はい。レオン様」
ミミはその場でスーツを脱ぎ出す。
「……人前で裸になって、
恥ずかしくないのですか?」
「レオン様に見られるなら構いません」
「……」
ミミは言われた通り、渡された服を着た。
サイズはピッタリだ。
「それは『メイド服』と言うものです。
私の故郷で昔の家事使用人が着る服です。
先祖代々伝わっていた物だったので仕舞っていましたが、役に立つとは……」
「レオン様、有り難うございます。
とても動きやすいですわ」
あまりにもミミに似合いすぎだ。
その奉仕的な性格も相まって天職のように思える。
動きやすいように髪を纏める仕草がとても可愛く映った。
「……なかなか、お似合いですよ。
では、私は他の任務に向かいますので夜までここで準備して下さい。
30人前くらいの量です。
大変でしょうけれど、宜しくお願い致します」
「はい……ご命令通りに」
お辞儀をするミミの姿に心を奪われそうになる。
レオンダルムはこれはいけないとその場をさっと後にした。
◇ ◇ ◇
執事の仕事は深夜にまで及ぶ。
夜は外での任務を多くこなしている。
そもそも夜行性なので夜の活動の方がいいのだが、
それでも城に戻って来た理由は、
城内の他の使用人たちに合わせて夜間に休むようにしているのだ。
将軍たちの部屋も勿論用意されている。
岩を削って扉を付けただけの部屋だが寝るだけなら充分だ。
ただ、カレンシアだけは何故か大広間の真ん中で寝ているので部屋を持っている意味がないが。
自室の扉を開けて部屋に入ったが、気配を察知し身構えた。
「……レオン様、私です」
暗闇の中、よく見るとミミが床に膝をついて控えている。
「ミミ、あなたですか……
あなたの部屋は別に用意されているはず。
何故ここにいるのですか?」
「私、レオン様に言われた通り、お食事をご用意致しました」
「将軍たちから聞いております。
なかなかの評判でした。
あなたに任せてよかったです。
……それを報告に来たのですか?」
部屋の燭台に火を灯すとベッドに腰掛ける。
「本日のご命令を完遂致しましたのでご褒美を頂戴にあがりました……」
「褒美だと?」
ミミは一瞬で脚を豹の脚に変化させると飛びかかって来た!
「なっ!」
ドサッ!
意表をつかれ押し倒された。
すかさず馬乗りになって来る。
「レオン様と一緒に寝たいのです。
それぐらいいいですよね?」
真っ赤な顔をして恥じらっているが、それに似合わず行動は積極的すぎる。
メイド服が乱れて悩ましい。
「いや、私はあまり睡眠を取らないので少し横になるだけでいいのです……」
「レオン様の望む格好になりましょうか?
猫耳とか、尻尾とか生やしましょうか?」
「……いや、格好の問題ではないのです。
とりあえず、どいてもらいますか……」
何とか密着状態から逃げよう……
「……レオン様、ミミが嫌いでしょうか?
私、こんなにレオン様が好きなのに……」
泣きそうな顔になってしまった。
ちょっと言い過ぎたか……
ミミの機嫌を損なわないよう、胸の中に優しく抱きしめる。
「このように強引な事をしなくても、私もあなたの事が『好き』ですよ」
「えっ!?」
初めて好きと言ってくれた事に驚く。
流した涙が頬が熱くなって乾いて行く。
「レオン様、本当ですか? 信じても?」
「ええ。
ミミをイシュライザーたちに取られたくありません。
あなたは私のものです。
ずっと一緒に居て下さい」
思いがけなかったのかミミはあっという間に笑顔になった。
「……嬉しいです。私はレオン様のものです!」
……そうか、いつの間にかミミが大事な存在になっていたのだ。
顔には出ないが常にいなくならないか心配していた。
敵の目的がミミの奪取と聞いて居ても立っても居られなかった。
深夜の任務とは辺りの警戒を最大にするため各種族を回っていたのだ。
「今日だけは特別です。
このまま……朝まで寝ていいですよ」
自分の横にミミを静かに寝かせた。
「はい……お願い致します」
ミミは腕にしがみついて目を閉じた。
◇ ◇ ◇
大きな人影がドーア火山の頂上に立っている。
警備の任務を忠実に実行しているゾルタクスだ。
「あたりに敵影無し!
現在のところ、異常無しっと」
切り立った崖の上でも恐怖を微塵も感じていない。
腕を組んで仁王立ちしている。
分厚い胸板、丸太のような両腕……
下手な泥棒では見ただけで逃げ出す。
そんな屈強の戦士が何者も侵入を許さない、と言った表情で眼下全体を睨んでいる。
「ったく。レオンに参謀殿まで……
自分の部屋で捕虜と一緒に寝てるなんてな……」
緊張感を感じず呆れる。
「そんなにいいのかね。誰かと一緒にいるのが……」
今まで敵だらけの中をたった一人で戦ってきた戦士には、
その思いが理解できない。
「姫様、参謀殿、レオン。イシュライザーと戦った将軍が皆おかしくなっちまう。
一体何なんだ!?
イシュライザーってヤツには俺らが知らない特別な力でもあるのか……」
戦いのたびにパートナーができる事を不思議に思う。
「俺とカレンはさすがにないだろうな」
◇ ◇ ◇
城の大広間。
真っ暗な中、小さな寝息が聞こえる。
「スピー……スピー……」
もう皆知れわたっているカレンシアの寝床だ。
広い場所の方が寂しくないらしい。
こんな場所に寝てると踏み潰されそうだが、
今まで踏まれた事はアルノドーアの時しかない。
「スピー……誰か……一緒に……」
カレンシアもたった一人で生きてきた。
一緒に寝たことがあるのは母親と龍帝ヴェルドーアだけだ。
「スピー……お姉様が欲しい……」




