23.6 昔の話:金色のおじさんは幼女を救いたい(後編)
裸同然の幼女を抱いた怪しい『おじさん』が空を飛んでいる。
背中に金色のドラゴンの翼が付いているのだから普通におかしい。
誰か人間がいれば大騒ぎになるところだが、ここは荒廃した世界。
悠然として大空を二人は行く。
おじさんの目指す場所は避難シェルターがある地点から遙かに遠い。
距離にして1000キロはある。
ドラゴンの飛ぶ速度は鳥ほど速くない。
のんびり旅になってしまったが特に急ぐ理由もない。
大分進んであたりが暗くなってきた。
もちろんこの世界には夜がある。
おじさんは幼女の疲労を心配し、地上に降りる。
「にょにょ、おじさん! 私、眠くなってきたにょ」
「すまん、すまん、わしの国はまだまだ先なんじゃ。
今日はここらへんで休むとするかの」
おじさんはそこらへんにある燃えやすい木材などを集め出す。
地面の一カ所に集めると叫んだ。
「サラマンダー・ファイヤー」
ボッ!
たき火の完成だ。
おじさんは火の近くに幼女を寝かせるとそばに座る。
「なぁ、カレン。腹は空かないか? ん?」
「スピー……スピー……」
「何!? もう寝取るのか? 陽が落ちてすぐに寝るのだな。
もしかすると植物の性質なのか。
ふ~む。このままだと夜中が寒いな……」
何か掛けるものはないか、探す。
しかし瓦礫ばかりで何も見当たらない。
おじさんは探すのを諦めると自分の指の爪を噛んだ。
「……ゴールド・ドラゴン・レザー」
切り取った爪がドラゴンの皮に変わって行く……
それをカレンシアの上に掛けてやる。
「やれやれ。娘ができたみたいじゃ。
わしにも子供ができる日が来るのじゃろうか。
まぁこんな世界じゃ。あり得まい」
優しい目でカレンシアを見る。
今日は一晩中、見張りをしようと思う。
「……スピー……
ううん……ママ……」
「……カレン……まだ子供じゃったの」
そう言うとおじさんはカレンシアの隣に横になった。
「わしのようなおじさんが添い寝とは、この子に見られたら怒られるな」
その時、カレンシアはおじさんの二の腕に自分の両手を絡ませる。
「うーん……スピー……スピー……」
「起きてるんじゃないのか?
よほど一人は寂しかったのじゃな」
カレンシアがぐっすり眠っているか確認してからまた横になった。
おじさんは夜空を眺めながらこの子の幸せを願った……
◇ ◇ ◇
長い旅の末、無事目的地に到着した。
「にょ! 緑がある! あれが『森林』なの?」
遠くには大きな火山がそびえ立っていた。
その周辺は岩石地帯だが眼下には大森林が広がっている。
「ははは、ここがわしの国ドーアじゃ。
そしてわしの城、と言っても岩山じゃが『ドーア火山』と名付けている。
このあたり一帯はな、最初荒れ果てた岩だらけの土地じゃった。
数百年かけて土地を浄化し、地下水を汲み上げて与え、
ようやくこのような大森林に生まれ変わったのじゃ。
人間はそれを一瞬で破壊する。
千年前の出来事を繰り返してはならん。
わしは、それを伝える為に生きてきたのかもしれんな……
地下水を汲み上げるのは今わし一人でやっているが、
いつか自動で汲み上げる装置など作りたいな。
そのような物を作れる者がいればいいのだが……」
カレンシアは広大な森林を見て、自然の偉大さを痛感する。
「にょ……にょ……感動なの!」
カレンシアの目に涙があふれる。
「う……う……びっくりなの! おじさん凄い!」
おじさんは微笑みながら森林の上空を飛び回る。
「この大森林には多くの種族が住んでいるのじゃ。
蜥蜴人、蛇人、蛙人……
元々、動物なのじゃが絶滅しないよう昔、オリジナル・ジェネシスたちが
自分の細胞を分けて遺伝子を強化したのじゃ。
人間の言葉もわかる程、知能もあるのう」
「わー、仲間もいっぱいいるにょ!」
「カレン、君はこの大森林がお似合いじゃ。
太陽の光、水、そして木々が生い茂るほどの土壌。
生きて行くにはこれ以上ないな」
「にょ、おじさん……
カレン……嬉しいにょ」
ぎゅっとおじさんを抱きしめるカレン。
その手を見ると砂で汚れている。
「おっと、まずは体を綺麗にしないと。
ドーア火山には『温泉』と言うものが湧いていてな。
水浴びにはちょうどいいのじゃ」
おじさんはカレンシアを連れてドーア火山に向かう。
火山の麓まで来ると地上に降りた。
岩だらけの山肌から水が流れ出て池のように貯まっている所がある。
そこからは湯気が出ていた。
「にょ、温かい水があるにょ!
しかもこんなにいっぱい!」
「これが温泉じゃ! 温度もちょうどいいくらいじゃ!
カレン、わしはここで見張っているから温泉に入って体を洗いなさい」
「ここに入るのか? こんなの初めてー」
カレンシアは付けている布を脱ぐとそこらへんに投げ捨てて
温泉に飛び込んだ。
ドパーン!
「……おいおい、ゆっくり入りなさい!」
おじさんは頭からお湯がかぶってしまった。
「にょー! あったかいー! 何これー!」
感動してお湯をバチャバチャと跳ね上げて遊んだ後、
ゴシゴシと体を擦って汚れを落とす。
「カレン、どうだ? 綺麗になったか……おお!」
おじさんは自分でも信じられないくらい綺麗になったカレンシアを目撃する。
充分に水分を吸収した長い髪の毛は、茶色から美しく輝く金髪に変わっている。
小さな身体も透き通るような白い肌だ。
汚れていた顔も見違えるような美しさに。こんな顔をしていたのかと言うほど別人だ。
「いやー、びっくりしたよ。これほど変わるとは」
カレンシアは不思議そうにこちらを振り返ると首を傾げた。
「にょにょ? そう?
今までと同じにょ……
うん? 何? 変な生き物がいるにょ」
温泉の岩の上に蜥蜴を発見した。
「おう、それか、それは『遺伝子強化蜥蜴』じゃ。
リザードマンになれなかった蜥蜴の一種じゃな。
ここらへんには、いっぱいいるぞ。
もちろん大森林にもいろんな生物がいるのじゃ」
「ええ! 楽しみー!」
「カレンは何にでも興味を持つんだな。
大森林では迷子に気をつけてくれよ」
一通り洗い終えて、温泉からあがる。
だが一糸まとわぬ裸だ。
「少しは隠したらどうじゃ。
……うーむ。その格好ではな。
よし、服を作ろう」
おじさんは、自分の髪の毛を少し毟る。
「ゴールド・ドラゴン・スレッド!」
髪の毛が糸のように変わり、グルグルに巻かれた。
「さらに、これを服にするぞ。
ライフ・ニットじゃ!」
おじさんは糸に自分の生命力を込めて、頭の中でイメージを浮かべる。
糸がひとりでに動き、鮮やかな服ができあがって行く。
「できた! お前に似合うドレスじゃ、これを着てみなさい」
できたのは緑色のドレス。
美しくエメラルドグリーンに輝く丈夫なドラゴン生地。汚れ、傷にめちゃくちゃ強い。
防御力も鎧並みだ。
カレンシアは言われたとおり着てみる。
「いいぞ。よく似合う。それと、これも作ってあげよう」
さらに、糸を変化させて薔薇の飾りが付いたヘッドドレスを作成した。
「可愛さもあった方がいいかな。
これを頭に付けていなさい。
それに髪の毛もちゃんと結んでおかないと森の中で汚れてしまう。
……カレン、
これからは言葉遣い、マナー、そしてお淑やかさも学ばないとな」
「にょ、私、この言葉使いしかできないにょ」
「何を言っとる。
もし、わしに娘がいたらそんな変な言葉使いさせんわ!」
「……本当なの?」
「ああ、それにお淑やかに育てる。もし娘ができればの話じゃが!」
「……
わかったにょ。
カレンはお淑やかになる」
「それはそうと、今晩はわしの城に泊まって行きなさい。
大森林の何処に住むかは明日探せば良い」
カレンシアを再び抱いて城へ向かう。
おじさんには山登りはお手の物だ。
◇ ◇ ◇
「スピー……スピー……」
カレンシアは夜になった途端、バッタリと寝てしまった。
「おい、カレン。こんな城の大広間の真ん中で寝るな!
もし森の中だったら襲われてしまうぞ」
その時、遙か遠く、上空から異様な音が近づいている事に気づいた。
「うっ! なんじゃ!? 遠くここから数百キロ先じゃが、
何か大きい物体が落ちてくる?」
ヴェルドーアは異様な気配を察知する能力を身につけている。
それはとてつもなく恐ろしいものだった。
今まで感じた事のない……
すぐにドーア火山の頂上へ飛び出すと空に大きな流れ星が見えた。
「隕石か? いや、何か大きな宇宙船!?」
ズドーン!!
ゴゴゴゴ……
何処かに墜落したのか、もの凄い衝撃音が聞こえ、大きな地震がここまで到達する。
「うーむ。何処かに落ちたか。
一体何なのじゃ!?」
危険をドラゴンの細胞が感知する。
これはほっといてはいけない!
「……よし、あれを確認しに行くぞ!
カレンに言っておかなければ」
急ぎ大広間に戻ってカレンシアを抱き起こす。
「カレン! カレン!」
「んにょ?」
かろうじて目を開けたカレンシアに別れを伝える。
「カレン。
おじさんは行かなきゃいけない所ができた!
お前は大森林で自分の住処を見つけなさい」
「にょ……どうしたの、急に」
「遠い場所じゃが何者かが地球に墜落したようじゃ。
お前や大森林の住民たちの為に危険をほっといてはいけない。
わしがちょっと行って危ないものなのか確認しに行く!」
「も、もう行くの?」
「ああ、早いほうがいい。
カレンとは暫くお別れじゃ。
もしかしたら長い間会えなくなるかもしれないが、
お前の力が必要になった時、力を貸してくれ!」
「にょ、おじさんは私の恩人。
必ず助けるにょ!」
おじさんは力強く頷くと、また火山の頂上目指して走り出す。
「忙しいおじさんにょ。
でも、私を助けてくれた……優しいおじさん……
有り難う……」
眠くなる目を擦りながら去って行くおじさんの背中に愛を感じていた……
20年前の話である。




