19.銀色の戦士
ドタッ!!
転送装置のアンテナから飛び出した電撃が人の形に変わり、
ライザー・ホワイトが床に現れる。
…………
「アルノ? 大丈夫?」
意識が混濁していて目は宙を見ていた。
誰かに自分の名前を言われた気がする。
アルノ? と呼ぶのはタツオぐらいしかいない。
……誰だ?
ぼやけた視界の先に白衣を着た女性が浮かび上がり、優しく抱き起こされている。
「……イ、イイノか……
すまん……自分から言い出したのに……りっちゃんを止める事ができなかった……」
せっかく送り出してくれたイイノに対し責任を痛感し謝る。
「いいのよ……。あなたはゆっくり休みなさい。
後は私に任せて……」
安心する声……腕の中にいると不思議と落ち着く。
イイノの言葉に緊張が解けたのか意識を失ってしまった。
…………
イイノは携帯型端末で職員を呼び出し、アルノドーアを医務室に運ぶよう指示を出す。
それを見届けるとイイノは『更衣室』に向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
更衣室にやって来たイイノは衣類に埋め尽くされたエリアを通り過ぎる。
そこには白衣や実験用の防護服が収納されたハンガーラックやロッカーが並んでいる。
男女別で着替えをするスペースもある。
進んで行った先には、厳重に電子ロックされている10台のロッカーがあった。
各色のイシュライザー・スーツが納められているロッカーだ。
だが、イイノはそこには目もくれず、それらのロッカーの脇、壁に隠れるように
立っている2台のロッカーの方へ向かう。
そのロッカーの1つの扉をガチャリと慣れた手つきで開ける。
中には汚れたアタッシュケースが入っていた。
アタッシュケースを取り出し、近くにあった机の上に置いて中を見る。
「……キャッスル・ブレインを……守るには……これしかない……」
イイノの目が再び赤く変わった。
◇ ◇ ◇
「うう……頭が……」
眠っていたライザー・ブラックが目を覚ました。
どうやら、まだ農業エリアの一角にいるらしい。
全細胞の働きが停止するような強烈な眠気。
気を抜くとまた眠ってしまいそうだ。
それと激しい頭痛を起こしているが、それどころでは……
「寝ていられない……
早く戻ってデスリッチさんが来た事を知らせないと……」
フラフラしながらも首を振って立ち上がった。
「こんな能力を使われたら皆、眠ってしまう……
恐ろしい相手だ。
……でも、俺への攻撃も手を抜いていた。
人間にはあまり危害を加えたくないようだった」
デスリッチとの一戦を回想するブラック。
「悲しい目をしていた……自分の命を捨てる事を覚悟しているような……」
去って行ったデスリッチの身が激しく心配になる。
きっと帰るつもりなど考えていないのだろう。
誰かが守らなければ本当に消えるつもりだ。
「デスリッチさんを探すんだ!
……俺が……絶対……守る!
ファルコン・ウイング!」
肉体変換能力を発現させると細胞が再び働き出し完全に意識が戻った。
『鷹の翼』をはためかせて空に飛び上がる。
「何処へ行ったんだ?
中央管理塔なのか? それとも別の所か?」
ブラックは獲物の気配を察知する鳥の能力を全開にしデスリッチの行方を追った。
◇ ◇ ◇
「……もう一度、ヒューマン・キャッスルに……」
実体化しているデスリッチはヒューマン・キャッスルへ歩いて行く。
ライザー・ホワイトを撃退したが、まだ任務を果たしていない。
レオンダルムは自分を潜入させる為、わざと塔の前で大袈裟に戦ってくれているだろう。
亡霊たちも大騒ぎして敵の目を引きつけてくれた。
自分がキャッスル・ブレインを破壊する役を果たさなければ何の為に、
今回の作戦を実行したのか意味がなくなってしまう。
「……この上ですね」
ヒューマン・キャッスルの真下まで来ると遙か上空を見上げる。
「……ゴースト・バ……」
そこまで言いかけた時だった。
ズドーンッ!!
バリバリッバリン
空高くからまたもや電撃が地上に走り、火花が散るその中から何者かが現れる!
「……誰ですか?」
デスリッチは残りのイシュライザー5名のうちの誰かがやって来たと予想していた。
しかし、目に飛び込んできた姿は、その5名でも、ライザー・ホワイトでもなかった!
「……こ……この姿は!」
その姿は予想通り『イシュライザー』だった……
ヘルメット、マフラー、スーツ、ブーツ。どれも他のイシュライザーのものと同じ。
だが、違うのは『色』。
眩しく輝く銀色!
全身がメタリックな色彩。
今まで戦場では見た事がないイシュライザーだ。
「……『ライザー・シルバー』……
銀色の戦士ですか……」
一切声を発せず、ただただ真っ直ぐに立っている。
身動き一つしない。
「……」
「……? 誰がそのスーツを着ているのです?
姫様ではないし……」
見た目はイシュライザーだが様子がおかしい。
無機質で気を感じない。
「……本当に人間なのですか?」
動かない人形のように感じて不審に思ったが、
その時、ライザー・シルバーが動き出す。
動きは遅い。
一歩、一歩大地を踏みしめるように近寄って来る。
ドタン、ドタン
「……く……」
無言でじりじりと歩み寄って来るその姿は
幽霊のデスリッチでも恐れを感じる程だ。
「……仕方ありません。
……
コールド・ブレス!」
ゴォォォォ
猛烈な冷気の風が敵の体を吹き抜ける。
水や植物だったら一瞬で凍り付く冷たさだ。
「……」
ライザー・シルバーはそんな冷気の嵐の中を何事もなく近づいて来る。
「……これは!?
何も効いていない?
寒さを感じないと言うの?」
デスリッチの前まで来ると直立姿勢からいきなり……
ズガッ!
「……うっ……」
綺麗な角度でハイキックが飛んでくる!
予備動作を全く行わないので何も対策ができない。
実体してしまっているデスリッチはやむを得ず両手で防いでしまった。
「……重い、ハンマーのよう」
デスリッチはすぐさま浮遊して距離をあける。
「……一体、何の能力を持っているの?」
空中に待機して一息つこうとするが。
「……」
ドンッ
ライザー・シルバーはバネのような凄い脚力でジャンプする。
「……」
デスリッチより高い位置まで飛ぶと両手を手刀のような形にして振り下ろした。
ズガッ
「……きゃ!」
ドォン!
凄い怪力!
弓の弦を切ったようなはじかれ方。
そのまま地上に激突させられる。
今度は頭上から無言でデスリッチを睨み付けている。
デスリッチは全身に得体の知れない恐怖が湧き上がって来た。
「……う……ライザー・シルバー!
本当に人間!?
……これは……
……私のすべての力を解放するしかない!」




