16.対峙する二人
そこに現れたのは昔からよく知っている顔。
城の自室に閉じ込めたはずで、何百キロも離れているこの場にいるはずがない。
お互いこのような場所で遭遇する事を予想していなかった。
あまりの衝撃で固まってしまった。
「……姫様! こんな場所で何をなさっているのですか!?」
アルノドーアは、ヘルメットを外しているが白いイシュライザー・スーツを纏っていた。
胸の部分には爪の痕が残っており一戦交えている事がわかった。
「り、りっちゃん……これは……えっと」
何も言わず来てしまっているので答えに窮する。
「……しかも、それはイシュライザー・スーツ……
まさか……イイノさんに……説得されて……」
「実は、イイノが通信機の電波を使ってここに転送してくれたのじゃ。
それで……タツオを助ける為にスーツを借りたのじゃ」
「……なっ……転送装置!!
まさか、そのような使い方を……」
自分の予想を超える戦略に驚愕する。
きっと、この転送装置を開発し、電波による遠距離転送を発案したのは、
そこにいる『イイノ』なのだろう。
「ううう……」
イイノは頭を押さえ、呻き声を上げている。
「イイノ!」
アルノドーアは倒れているイイノを見て、デスリッチが攻撃したものだと感づいた。
「りっちゃん! これはお前がやったのか……」
戦士ではないイイノを傷つけた事に対して怒りがこみ上げてくる。
それにイイノには特別な親近感を覚えていたのだ。
「イイノはただの普通の人間じゃ!
戦士じゃない人間は傷つけないと言っていなかったか!?
……りっ……ちゃ……ん……」
ドラゴンの気を発して、怒りの感情を放出するアルノドーア。
「……お待ち下さい……この者は……ただの人間では……」
「うるさい! イイノは、普通の『人間』だ」
優しい眼差しを向けてくれたイイノを思い出して叫んだ。
「ドラゴン・ウイング!」
右腕をドラゴンの翼に変化させ、攻撃に撃って出た。
「……姫様……話を聞いて下さい……
これは……策略です!」
「いやっ!」
手を開いて制止するが構わず飛び込んだ。
デスリッチはやむを得ず能力を発現……
「……ファントム・スモッグ!」
辺りが黒い霧に包まれ視界が遮られた。
「み、見えない……何処へ行った!?
ぬぬ! ドラゴン・アイ!」
視力をフル回転させ、転送装置の前へ移動しているデスリッチを発見する。
「……これは破壊します。
こんなものがあってはいくらでも攻め込んで来れますから……」
両腕を開いて、攻撃の肉体変換能力を発現だ。
「コールド・ブレ……」
その時! いつの間にか起き上がって携帯型端末を持ったイイノが、
表示されている操作パネルのひとつをタッチした。
……ゴゴゴゴゴ……
転送装置から『光』が迸る!
アッと言う間にデスリッチの身体を包んだ!
「……え?……」
「……『転送』……よ」
デスリッチの姿がパっと消える。
何処かへ転送させたようだ。
「何処に行ったのだ?」
「地上へ転送させたのよ。
でも、またやって来るでしょう」
イイノは何事もなかったように替えの眼鏡をかける。
「わしを同じ所へ転送させてくれ!
お前を傷つけられて何故か……かっ、となってしまっていた。
どうかしたんじゃ……わしは。
落ち着いて、りっちゃんと話がしたい」
アルノドーアはイイノの無事を知り、冷静になった。
「また戻って来れるの?
説得されるんじゃない?」
「必ず戻る。心配しないでくれ」
「じゃあ、ちゃんとライザースーツのヘルメットを付けてからよ。
戦いになったら大変」
「戦いたくはない。理由を話して帰ってもらう」
「……
わかってわ。転送する」
◇ ◇ ◇
デスリッチはヒューマン・キャッスルの真下へ転送されていた。
「……転送されてしまいましたか。
スキを突かれました。
しかし、あの『イイノ』さんは一体……」
ガガガ!!
頭上から電撃が走った。
大地に落ちた電撃の中からイシュライザーが現れる。
「……白いイシュライザー……
姫様ですか」
「りっちゃん。話を聞いてくれ。
その為に来たんじゃ」
冷静に話すアルノドーアは、いつものアルノドーアだ。
「……イイノさん……に何か言われたのですね」
「お前の元の身体はあの塔の『冷凍室』にある、と」
「……そうですか……」
「お前が今動けているのはあの『キャッスル・ブレイン』による科学技術の力で
保存されているからじゃ。
イイノはお前を復活させる為に研究をしているそうじゃ。
今、キャッスル・ブレインを破壊すればお前は死んでしまうし、
復活もできなくなってしまう」
「……」
表情を変えない。冷徹な眼差しで見つめる。
「じゃから、今少し待つんじゃ。
お前の命がかかっているんじゃ」
「……イイノさん……にそう言われたのですか。
イイノさん……が私の身体を守ってくれていたのですね」
「そうじゃ。イイノがいなければ、わしはお前に会う事ができなかった。
感謝せねばならないようなヤツなんじゃ。
じゃから今日は一旦引いて待っていてはくれないか」
デスリッチはアルノドーアの自分への想いを強く感じたが、厳しい顔で答える。
「……それはできません。
私の身体を保存している理由は……
おそらく、オリジナル・ジェネシスの一体、『不死生物』の遺伝子を守る為です。
キャッスル・ブレインは1000年前の科学者から
科学技術の究極の宝である『オリジナルの遺伝子』を未来永劫、
防衛するよう命令されていて現在も忠実にその命令を守っています。
私の体が完全に滅んでしまったら遺伝子が死んでしまうし
誰かに継承する事ができませんから」
「何……りっちゃんの為ではないだと?
そんな事はない!
あのイイノが嘘を言ってるわけない!」
「ヒューマン・キャッスルの科学技術は人間にとって、とても危険なものなのです。
特にオリジナル・ジェネシスの遺伝子は……
私はその科学技術で生き返ろうとは思っておりません。
むしろ遺伝子と共に消えてもいい……
自分の命は科学技術を支配するキャッスル・ブレインを破壊する為に捨てます」
「なんて事言うのじゃ!
わしはお前を助けたい!
その為に……ここに来たんじゃ」
デスリッチはドクロの仮面を取り出し、装着する。
「……私の目的を達成する為には、
姫様!
あなたであっても……倒す!」
「な……に!?」
禍々しい紫色のオーラを発して両手を広げた。
「……姫様! あなたの想いを私に伝えたいのなら
戦って勝って下さい!」
「そうか。
お前は戦いの中で真実を見極めるのじゃったな」
ライザー・ホワイトのヘルメットを深く被り直して
両腕を前に構えた。
「それでは……
りっちゃん……いや、デスリッチ!
勝負じゃ!」
ドーア軍の将軍同士であるデスリッチとアルノドーアが
荒野の真ん中で向かい合った。
師弟の対決が幕を開ける。




