08.幽霊が好きなんです
農業エリアの上空を飛ぶブラックはドキドキしていた。
「……亡霊が攻めて来たと言う事は……
あの人も……来ているかもしれない……」
ブラックは敵の侵攻を聞いた時から、かすかに期待していたのだ。
軍勢の参謀を務めるデスリッチが来る事を。
「きっと……来ているはずだ……」
鳥の危険察知能力を発動させ敵の気配を探る。
敵意のある者ならば姿が見えなくても察知できる。
「あの人と会えるのは……この瞬間しかない!
想いを伝えるには……」
レッドに聞いた通りにするんだ。
想いの伝え方を。
ブラックはレッドの言葉を思い出す。
◇ ◇ ◇
「ヒショウさんは話す事が苦手だそうですね」
「ああ……話そうとするんだが……
相手に嫌がられると思って躊躇してしまうんだ。
嫌がれるんだったら何も言わない方がいいのでは、と。
自分も傷つかないし……」
「それも一つの考えかもしれませんが……
ヒショウさんの想いは言葉にしないと伝わりません。
大昔は電子的な通信手段が沢山あったそうですが
人間同士のコミュニケーションがなくなってしまったので廃止されたそうです。
だから今は自分の言葉で伝えるしかありません!」
「でも……」
「勇気です! 思い切って伝えて下さい。
その後の事はいいじゃありませんか。
何もしなければ何も始まりません」
「なんて言えばいいんだ?」
「それは……」
◇ ◇ ◇
その時、ブラックは何もない農園の通路に気配を感じた。
「いる……
見えないけど……ゆっくり動いている……」
察知した地点へ急降下する。
地面に降り立ったブラックは気配を感じた所へ走った。
「そこに誰かいるんですか!」
誰もいない空間に向けて声をかける。
うっすらと人間の姿が浮かび上がって来た。
地べたまで伸びる長い紫色の髪、白の死に装束に赤い帯、真っ白の肌に無表情な綺麗な顔。
あの荒野で見た、デスリッチの姿がそこに現れた!
「……よくわかりましたね……
人間には見えないと思いましたけど……
どうやらイシュライザーですか」
途切れ途切れの電波のような言葉が直接脳に入ってくる。
「あ、あなたは……怪物側の参謀、デスリッチ!?」
ブラックとデスリッチは正面から相対する。
「……どうします? 戦いますか?」
ブラックはブルブルと震えている。
恐ろしさのせいもあるが……それ以上に……
「デスリッチ……さん!」
いきなり土下座するブラック。
「何ですか」
「あ、あなたを……」
「?」
「ひと目見た時から……『好き』になりました!!」
「は?」
「どうか、僕と……
隊長とドラゴンの将軍みたいな関係になって下さい!」
「……何を言っているの?」
頭を下げるブラックを見て唖然とする。
何かの罠か?
「今は戦いの最中……
何か狙いがあるの?」
「いえ……本気で言ってるんです」
「あの人の策かもしれませんね。
……そんな事してないで立って下さい」
言われた通り、立ち上がるブラック。
「ど、どうすれば信じてくれますか?」
「……戦いましょうか。
本気で来て下さい」
「……え?」
「どうぞ。あなたから……」
無防備に立つデスリッチに躊躇するが、
思いを振り切りやる気を漲らせる。
「……よーし! 俺の本気をぶつけて見せる!」
ブラックは両腕に力を入れると大声で叫ぶ!
「ファルコン・ウイング!」
空高く『鷹』の翼で飛び上がる!
「行くぞ! イーグル・ダイブ!!」
右脚を『鷲』のかぎ爪にしてデスリッチめがけて急降下!
デスリッチは全く動かない。
空気を切り裂くブラックの蹴りが襲いかかった!
ブンッ!
「なっ!」
ドキャッ!
デスリッチの体を通り抜けて地面に激突する!
地面が抉れ破片が飛び散る。
「くそ、本当に幽霊か!
……ファルコン・カッター!」
翼を水平に振り切り刀のように切り裂く!
しかし、またしてもデスリッチの体を通り抜ける!
「ウッドペッカー・ピーク!」
右腕を『キツツキ』の嘴に変え、突きを放つ!
デスリッチの体はただの映像のようにすりぬける。
息を切らすブラック。
「はぁ、はぁ、……物理的な攻撃は無効か……」
さらに、がむしゃらに右腕を振り回す。
「うぉぉぉ!」
全くかすりもせず無情に通り抜けるのみだ。
「もういいですね。
……デス・スリープ!」
デスリッチは両腕を大きく広げた。
その途端、紫色の光が放たれブラックを包み込む!
「う……」
クラクラと意識がなくなって行く……
光が消えると地面にブラックは、うつ伏せになって倒れていた。
「……仕方ありませんね」
◇ ◇ ◇
数分後、意識を取り戻すブラック。
「……何があった?」
あっという間の出来事で何も思い出せない。
イシュライザーのマスクが脱がされている。
「気がつかれましたか……」
「えっ?」
デスリッチが地面に正座していて、その膝の上に頭が乗っているのがわかった。
「……こ、これは『膝枕』!!」
「下半身だけ実体化しています。
……意識が戻ったのですね。
しばらくは起き上がれないですけれど」
ブラックは感動でもう一度、意識を失いそうになる。
「何も策はなかったのですね……
罠があれば、手を抜くはずです。
あなたの攻撃は手を抜いてませんでした」
デスリッチから人間的な優しさを感じる。
大人の女性、いや母の慈愛のようだ。
「あ、あなたは……姿は幽霊ですが……
限りない優しさを感じます」
「そうですか」
感情を感じない受け答えだ。
「恐怖は感じます……
それ以上に……あなたからは……人間の温かさを感じます。
本当にあなたは『怪物』なのですか?」
「……私は……元々、『人間』でした。
ある戦いで死んでしまって、このような幽霊の姿に……」
「幽霊でも……俺は、あなたの事を『好き』……です」
キョトンとするデスリッチ。
「好き……ですか。
レッドさんやアルノドーア将軍と同じ事言うのですね。
ですが……私は幽霊です。
何も感じませんし……
いつ……消えてしまうか……わかりません。
好きになるなら、人間にした方がいいです」
「生きているとか死んでいるとか関係ない……
そんなの関係ないです!」
「!……」
胸に響くような感激を受けるデスリッチ。
「あなたの存在自体がいいんです!」
「……わ、私、どうしたら……」
目を閉じて、ブラックの頭を優しく撫でた。
少し頬が赤くなった?
「……」
無言の時間が流れたが
デスリッチは何かを思い出したように
ブラックを優しく地面に寝かせ、立ち上がる。
「……有り難うございます。
初めて、そのような事を言われました。
幽霊ですから……恋愛と言う感覚がわかりません……
だけど……
少し……嬉しいです」
少し笑ったような、そして悲しそうな表情で姿を消して行く。
気配がだんだんなくなって行った。
「デスリッチ……さん!」
ブラック一人を残し、辺りに静けさが戻った。




