07.奴隷になりたい
「ミミ……あなたの仲間たちはどこにいるのですか?」
「はい……ブルーとイエローは居住エリアで亡霊と戦っています。
ブラックは農業エリアの偵察……レッドは中央管理塔を守っております」
魅了には意思に関係なく記憶を言葉にする効果がある。
無機質に応答するミミは人形のようだ。
「他に4人いるのですね。
その中で空を飛べる者はいますか?」
「ブラックは『鳥類』の能力の持ち主です。
かなりの速度で自由に空を飛べます。
……レッドも、速くは飛べませんが翼を発現させる事ができます」
「飛べる者もいるのですか。
空を飛んで行ってもいいのですが発見されては面倒です。
歩いて行きますか……
中央管理塔へ案内しなさい」
「は……はい」
操られているとは思えないほど、頬を赤くして答えるミミ。
◇ ◇ ◇
ミミを先に歩かせて、中央管理塔へ案内させる。
月明かりの中、様々な形をした工場群の中を静かに進む。
「大きな建物が多いですね。
中には何があるのですか?」
「食料や生活用品を生産する機械があります……
全て自動運転です」
「そのようなものが……
外の世界では己の力のみで狩りや耕作によって食料を得るというのに……」
興味を持ったレオンダルムは近くの工場の扉を開け覗き込んだ。
食料の生産ラインがクネクネと曲がりくねりながら続いている。
「まるで一本の道ですね。
これが食べ物を自動で作る機械ですか……
人間の科学技術と言うのは何と凄い。
龍帝様や参謀殿が警戒するのもよくわかる」
「……中央管理塔にある科学技術庁では常に新しい技術が研究、開発されています。
今は『物質転送装置』などが開発中です……」
「人間の頭の中はどうなっているのか……
確か、ここには資源がないので『兵器』の開発ができないと聞いている。
もし、人間が外の世界へ出て資源を得たら大変な事に……」
人間の科学技術の一端を見たレオンダルムは険しい顔になり決意を新たにする。
「ミミ……早く中央管理塔に行くのです!
科学技術を一手に管理する『キャッスル・ブレイン』とやらを破壊せねば」
「はぁ……はぁ……」
ミミの息づかいが荒くなっている。
「さぁ、早く歩きなさい!」
「はぁ……」
艶めかしい吐息だ。
「どうしたのです? 気分でも悪いのですか」
「レ、レオン様……」
ミミが突然、思い切りレオンダルムに飛びつく。
「なッ?」
不意を突かれたレオンダルムは倒されそうになり、フラつく。
レオンダルムにしがみつき両腕の力をさらに入れると
とうとう後ろに倒れてしまった。
ミミは倒れたレオンダルムの上に馬乗りになり
さらに、その厚い胸へ顔を擦り付ける。
「何事ですか……突然……」
「私……体が熱いのです。
……レオン様に……ご命令されるたびに、体が反応して……」
「それは『魅了』の影響です。
体が勝手に反応するからでしょう……」
そんな気休めの言葉など聞かず、レオンダルムの顔に自分の顔を近づける。
「いえ……これが……私が望んでいた事なんです。
毎日こうなれば、と夢に見ていました……
レオン様の『魅了』の力ではなく、私の願いです……
も、もっとご命令を……私……何でも……致します」
顔を紅潮させて全身をぴったり付けてくる。
「自分から奴隷になっていると言うのですか!?
そんな命令されて……喜ぶ人間なんているわけ……」
「こんな事でも……致します」
ミミがその瞬間、自分の唇でレオンダルムの唇を塞ぐ。
「!……」
「んん……!」
何をされているか訳がわからない。
レオンダルムは何もする事ができない。
ぎゅぅぅッ!
だんだん抱きしめられている腕の力が強くなる。
さらに体の密着度が上がる。
このままでは……
なかなか離れないミミを逆に抱きしめ、体を回転させて上になる。
やっと離れて、仰向けになったミミを上から目を細め眺めた。
「……あなたは元々、そのような想いを胸に秘めていたようです。
『魅了』の能力で目覚めさせてしまったらしい。
……しかし、私は『人間』には興味ありません」
「レオン様……私……種族なんて関係ありません……
ライザー・レッドとドラゴンの将軍もそうじゃないですか。
私も、あのような関係になりたい……
いえ……ずっとあなたの……『奴隷』になりたい!」
再び、レオンダルムの首に手を回し、くっつこうとする。
「……『魅了』状態でも自分の意思が消えない者を初めて見ました。
あなたは強い心の持ち主のようですね……
私もそのような方は、人間であっても嫌いではありません」
「レオン様……」
強く願われると断れないレオンダルムであるが……
「しかし、今は任務を果たさなければなりません。
……バンパイア・バインド!」
ビシィッ
「ああ!」
ミミの全身は『金縛り』状態になり、動けなくなった。
だが意識ははっきりしており、話はできる。
「中央管理塔まで、道案内をしてもらいましょうか。
そこまで私が抱いて行きます」
両手でミミを抱え、レオンダルムは立ち上がった。
外に出ると中央管理塔の姿が遠くに見えた。
月の光りで照らされたレオンダルムの顔は青白く美しく浮かび上がり
塔を鋭い眼で睨む。
ミミは自分がその美しい男性に抱き上げられていると思うと
言いようのない喜びが沸き起こる。
その横顔に見とれてまた頬が赤くなった。
「レオン様……」
「何ですか」
「……体の自由がないのも興奮します」
「……なんて人を道案内に選んでしまったんだ。
イシュライザーとは、このような者の集まりなのでは……」
得体のしれない汗を流すレオンダルム。
人通りのない夜の道を中央管理塔へ歩き出した。
◇ ◇ ◇
中央管理塔の前に待機しているレッド。
仲間からの連絡を待っている。
「皆……任務はうまく行っているんだろうか」
ジジジ……
マスクの通信機が反応する。
「お、誰からだ?」
「……タツオ君……タツオ君……」
「えっ?! イイノさ、いえ副司令。
どうしたんです?」
「タツオ君に聞きたいことがあるんだけど……」
「何ですか」
「あなた、敵の将軍から『通信機』をもらっているんじゃないかしら?」
「えっ!
ど、どうしてそれを!」
「こないだの戦いの映像を見たのよ。
ちょっとその通信機を貸してもらえないかしら?」
「な、何に使うのですか?」
「やってみたい事があるのよ」
「何に使うんですか」
「それは……『転送』……よ」




