06.レオンダルムの奴隷魔術
ヒューマン・キャッスルは深夜になると皆住居に戻り出てこない。
警備上、深夜の外出は禁止され、
街灯は侵入者を発見しやすくする為に一晩中灯っている。
そんな常に厳重警戒体制にあるヒューマン・キャッスルでも
姿の見えない者に対しては無力だ。
ゴースト軍団はヒューマン・キャッスルの壁を通り抜け、ついに侵入を果たしていた。
居住エリアでは既に騒ぎが起きていた。
「きゃああ!
オバケー!!」
「いやー、何か、白いものが!」
風呂に入っていた者は後ろに気配を感じ振り向くと……血まみれの幽霊が……
「ぎゃあああ……」
卒倒する者も出る。
亡霊の軍勢は、人間のいる居住エリアを狙ってわざと姿を現す。
彼らの目的は『煽動』。
敵の目を引き付けて将軍たちが行動しやすくするのだ。
あちこちで叫び声が上がり、中央管理塔の緊急通報窓口に通報する者が続出した。
ゴーストたちはあちこちで動き回り多くの人間が騒ぎ出す。
◇ ◇ ◇
すぐさま科学技術庁にも出動が通達される。
司令室で待機していたイイノは司令官と隊員たちに緊急出動を伝えた。
「……さすが、りっちゃん。
行動が速いのね。
こちらが準備を完了する前に攻めて来るなんて……」
次々に隊員たちが司令室に集まる。
タツオも科学技術庁内へ引っ越したのですぐに到着した。
ヤマタケ司令官は頭を掻く。
「かー。また夜に攻めて来たのか!」
「前回の戦いが、もうちょっとのところでしたから同じ狙いのようです。
しかも今度は亡霊の兵だとか」
「何?! ゴースト?」
オバケなんて見たくなくないし、会いたくない!
皆の顔がひきつる。
「ゴーストってオバケとか言われてるやつか!?
科学万能のヒューマン・キャッスルにオバケなんて……
どうやって倒す?」
「やってみないとわかりませんが『塩』で浄化してみましょうか?」
「何? 塩?」
「昔、『清めの塩』などと言って、悪霊から家を守ったと言います」
「科学者なのに、非科学的な作戦だな」
「非科学的な存在に、科学的な作戦なんて通じないでしょう?
他に対策もないのでやってみましょう。
では各自に指示を出します」
「マリカさんは『ウォーター・ショット』を海水にしてゴースト攻撃を担当。
リクト君はマリカさんの守りを。
二人で居住エリアに行きゴースト退治を行って下さい」
「了解」「はいはい」
「次にタツオ君は塔の入口を守って下さい。
ここを突破されるとヒューマン・キャッスルが危ないので
切り札のタツオ君が最終防衛ラインです」
「わかりました」
「ヒショウ君とミミさんは別々にエリアをくまなく探索して下さい。
敵が幽霊だけとは考えられません。
敵の本命は別にいると思います。
お二人は敵をいち早く見つけ、すぐに報告して下さい。
スピードを活かせる能力のお二人なら適任です。
だけど戦ってはいけませんよ」
「了解!」「承知致しました」
隊員たちは姿勢を正し敬礼する。
「よーし!
敵の侵入を許してしまったのだ。
早く撃退しないと責任問題になる!
急いで行動を開始してくれ!」
「了解!」
号令を受けるとイシュライザーたちはすぐさま司令室を飛び出す。
◇ ◇ ◇
5名はタワーの入口で顔を見合わせた。
「ヒューマン・キャッスル内で戦闘とは初めてですね」
ミミが困惑の声をあげる。
「マリカさん、リクト、建物や人間に気をつけて戦って下さい」
「私のは水鉄砲よ。それに水圧は下げておくわ」
「アハハ、僕は手加減なんてできないな」
「リクト、君はなるべく守りだけにしてくれ」
「わかってるよ」
「ヒショウさん、ミミ、偵察お願いします!
何かあれば連絡下さい」
「……了解」
「宜しくお願いします、隊長」
「では各自、任務を開始しよう」
イシュライザーたちはそれぞれの持ち場に散って行く。
◇ ◇ ◇
ゴーストの1体がデスリッチに報告に来た。
「……レオン将軍、ゴーストたちは居住エリアへの侵入に成功したそうです。
今こそ、我々も行動を開始しましょう」
「では私から参りましょう……参謀殿は後から来て下さい」
レオンダルムは瞬時に翼を広げ、空へ飛び立つ。
あっという間に影に変わり、ヒューマン・キャッスルの通風口から侵入を果たす。
「……さすが、レオン将軍……一瞬で侵入しましたね。
私も行きますか……
ゴースト・バニッシュ……」
デスリッチの姿が透き通り、姿が見えなくなった。
◇ ◇ ◇
「ケケケ……」
居住エリアではゴーストたちが暴れ回っていた。
「早く誰か来てー!」
人々が窓から助けを呼んでいる。
「おーい! ブルー、あそこにいるぞ!」
「ウォーター・ショット! の塩味をくらいなさい!」
バシュッ!
姿を現したゴーストを的確に命中させる!
「ギャッ!」
ゴーストはみるみる消滅して行く。
「アハハ、効いたぞ!」
「へー、効くの?
こんなに効果があるなんて……さすが副司令」
「ブルー、またいるぞ! ほら、あそこにも!」
イエローは次々にゴーストを発見し、ブルーに伝える。
「ウォーター・ショット!」
ババンッ! バンッ!
「ギャー!」「ゲッ!」
次々と消滅して行くゴースト。
しかし、かなりの数がいるようだ。
「皆さーん! ゴーストを発見したら大声で教えて下さい!」
「おーい! この部屋にもいるぞ!」
「私の部屋のトイレにーっ!」
あちこちで声が聞こえる。
「ひゃー! こりゃ、骨が折れるぞ」
「全住居を回ってやっつけるしかないわね。今回もお肌に悪いわ」
◇ ◇ ◇
ピンクは工業エリアを隈無く見て回っていた。
「誰もいない……本当にいるの?」
大きな工場が建ち並ぶ広大なエリア全てを確認する事はかなり労を要する。
「時間がもったいない、肉体変換能力を使うしかないわ。
……パンサー・レッグ!」
両脚を『豹』の脚に変化させ、弾丸のように駆け巡る。
その時、ピンクの横を同じ速さで動く影を発見する。
「なっ! 何なのこの速さ!」
ピンクが急停止すると、影もピンクの前で止まる。
すると影がみるみる人の形に変化して行く。
「えっ? 人!?」
真っ黒なスーツ、コウモリのような翼、長身で美しい真っ白い顔、
そして燃えるようなオレンジ色の瞳がこちらを睨む。
「良い獲物が見つかりましたね。
あなたが『イシュライザー』ですか?」
「誰? その姿……人間じゃない!」
「初めまして……ドーア軍……吸血将軍……
『レオンダルム』と申します」
「しょ、将軍!
あのドラゴンの怪物と同じ……将軍!?」
すぐさまファイティング・ポーズを取るピンク。
「戦うおつもりですか……」
「……はっ! 早く隊長に連絡を……」
「仲間を呼ばれては困ります。なるべく隠密行動しないといけないので……
……バンパイア・チャーム!」
レオンダルムの瞳がオレンジ色に光り輝く。
ピンクはその瞳から目をそらす事ができない。
「な……美しい……宝石のような……瞳……
目をそらさなければ……」
首を振って目を閉じようとする。
「なかなかの精神力ですね……
これはどうでしょう」
さらに光が強くなる。目を開けたくなってくる……
本能が見てはいけないと警告する。
「うう……あの目から逃れなければ……
キャット・ネイル!!」
右腕の爪を『猫』の爪に変化させ、一か八か攻撃に打って出た!
「やっ!」
目をそらしながらレオンダルムの目を狙う。
しかし、レオンダルムはわずかに首をかたむけ爪をかわす。
ピンクは体からレオンダルムにぶつかってしまった。
「これがあなたの能力ですか……
ではこちらも……」
ガシッ!
レオンダルムの手の爪が鋭い『蝙蝠』の爪になり、ピンクの背中を突き刺す!
「きゃあああ!」
そのまま、もう片方の腕でピンクをがっちりと抱きしめる。
「女性に対してこのような振る舞い、申し訳ありませんが任務なのです。
……バンパイア・バイト!」
なんと、ピンクの首に牙を立てて噛みついた!
「……ああああ……」
レオンダルムはさらに両腕に力を入れてピンクを抑えつけ
ピンクの体から血液を吸収して行く。
顔がみるみる白くなり、全身の力がなくなる。
だらんと両腕がさがり、完全に抵抗できなくなった。
牙を離したレオンダルムはさらに宙をさまよっているピンクの目を見て
さらに肉体変換能力を発現する!
「バンパイア・チャーム!」
「あ……あ……」
ピンクの目がオレンジ色に変わる。
「あなたはこれから私の奴隷。私の言う事に従いなさい」
「……はい」
「まず、あなたのお名前を教えて下さい」
「私の名前は……ミミ……」
「ミミですか……いいお名前です……
私の事も『レオン』とお呼び下さって結構です」
「……はい……レオン様」
「それでは、あなたにはタワーとやらに案内してもらいましょうか」
「はい……レオン様……
どんな事でも……ご命令下さい」
喜んでいるような……楽しげな表情が浮かんだ。
顔が赤く染まり、目は潤んでいる。
レオンダルムはピンクを地面に下ろし、歩かせる。
「いい子です……他には何をしてもらいましょうか……」




