03.将軍集結
「なんじゃ? 急に部屋から出すとは?」
アルノドーアはデスリッチに連れられて城の大広間にやって来た。
火山の空洞を利用した大広間は先が見えない程、薄暗くかなり広い。
多少暴れても平気だ。
「姫様にまだ紹介してなかったので……新たな3名の将軍を……」
「何? 将軍だと? ついにやって来たのか?」
「はい……3名とも強力な肉体変換能力の持ち主です」
◇ ◇ ◇
大広間には将軍たちが勢揃い……するはずだったが、大男一人しかいない。
「ダハハ……あんたが龍帝のお嬢様か!
俺は虫将軍の『ゾルタクス』! 宜しくな!」
茶色の短髪、筋骨隆々の巨体、見るからに汚い軍服のような格好。
それに口が悪い。
「確かに強そうじゃ。身なりは虫っぽくないのう。
しかし、その汚い格好どうにかならんのか」
「俺は細かい事は好かん。格好なぞどうでもいい。強ければいいんだ!」
目の前に女性がいても関係なく頭をボリボリ掻く。
「むむ。近くにいたくないな。
強ければ、と言うがお前はどのくらい強いんじゃ?」
「ダハハ、なんなら見せてやるぜ。
オリジナル・ジェネシス『虫』の肉体変換能力だ!
……覚悟しな!
マンティス・シックル!」
突然、ゾルタクスが右腕を振り上げ
巨大な『カマキリ』の鎌に変化させた!
「だっ!」
巨体のわりに動きは俊敏。
振り上げた鎌は目に見えないスピードでアルノドーアへ振り下ろされる!
「ドラゴン・アーム!」
ドガッ!
アルノドーアの左腕が、鎌の柄を正確に捉えて防御した!
「ほう!
ただの姫様じゃねーな!」
「感心しとる場合じゃないぞ!
……ドラゴン・ウイング!」
今度はアルノドーアの手刀が、ゾルタクスの体を切り裂こうと水平方向に一閃!
「ハハ!
アイアン・アント!」
一瞬のうちにゾルタクスの胴体は鋼鉄の装甲に覆われた!
ガキッ!
岩をも切り裂くドラゴン・ウイングが簡単に跳ね返される。
「う~む。傷もつかんとは。鋼の体じゃ」
ドラゴン・ウイングでゾルタクスの体をツンツンする。
「ダハハ。いいね、その気の強さ! 気に入ったぜ。姫様!」
「お前に気に入られたくないわ! しかし強いのはよくわかった」
「姫様……! ゾルタクス将軍……!
城の中で戦わないで下さい……龍帝様がお休みでございます」
デスリッチが間に入って制止する。
「ちょっと確認しただけじゃ。気にするな」
「ちょっとどころ……じゃないです! 能力まで使うとは……」
「そうそう、そんなに気にしない。ハハ」
デスリッチは気楽なゾルタクスに呆れる。
「それで次はどいつじゃ? ん?」
何か踏んだ気がする。
「スピー……スピー……」
誰か床に寝ている! 思わず軽く踏んでしまった。
「な、なんじゃ? こんなとこで寝とるとは?」
「……こ、これは……カレンシア将軍です!」
寝ているのはかなり幼い少女。アルノドーアも見た目は幼いがそれよりも幼く小さい。
頭には花のヘッドドレス、金髪でツインテール、緑色の長いドレス姿をして
横向きによく寝ている。
「これが将軍!? ただの子供ではないか」
「子供ではありません……100年以上は生きています……
ここにいる誰よりも年上です……植物の遺伝子があると
成長がゆっくりになるようです」
見た目だけでは信じがたい。
「なんで寝ているんだ?」
「カレンシア将軍は……オリジナル・ジェネシス『植物』の遺伝子を受け継いでおりまして
……太陽の光がないと完全な力を出せません……なので夜はほぼ眠っております」
「スピー……」
「日中しか活動しないのか?」
「そんな事はありませんが……かなりの光がないといけません」
カレンシアの顔を見ながらため息をつく。
「この小さな体で戦えるのか?」
「見た目で判断してはいけません……カレンシア将軍が本当に力を使ったら
……我々全員捕らえられてしまうかと」
「少しは起きんか! 明るくすれば起きるのか?」
「は……」
アルノドーアは右手の人差し指を大広間の壁に向けた。
「サラマンダー・ファイヤー!」
ボボッ!
アルノドーアは大広間のランプに全て火を付ける。
「ダハ、便利な能力だな、おい。こりゃ見やすい」
「う……うん? にょにょ、誰か明るくしたにょ」
カレンシアがひょこっと体を起こす。
「何が『にょにょ』だ! お前がカレンシア将軍だな」
「にょにょ、あなた、だれなの?」
「変なしゃべり方をするな! わしはアルノドーア、お前と同じ将軍じゃ」
「そう言うあなたも変なしゃべり方……何なにょ」
カレンシアは目を擦りながら首を傾げる。
状況がわからないようだ。
「カレンシア将軍……この方が姫様です。
皆、初めて会いますのでご紹介していたところです」
「にょ、この方が姫様? 失礼しました!
……ははー、『カレンシア』と申します」
膝をつきドレスを広げて挨拶する。
「姫様も……これぐらい礼儀正しければいいのですが」
「わしには似合わん。
カレンシア将軍なんて長い呼び方は面倒くさい。
お前の事は『カレン』と呼ぶことにする」
「にょにょ、姫様にそう呼んで頂けるなんて、有り難き幸せ」
手を胸に当てて頭を下げる。
「ダハハ、俺の事はなんて呼ぶんだい?」
「お前は『お前』でいいだろ」
「姫様……そう言わずに」
「ならばゾルタクスの『ゾル』でいい。将軍同士で敬称などいらん」
「いいね! 簡単なのは。ハハ」
「もう一人いるはずじゃないのか?」
辺りを見回してもだれもいない。
「姫様……レオンダルム将軍ならずっといます」
「ん? どこにいるんじゃ?」
「ここでございます」
アルノドーアの影の中から声がする。
「何? 影か?」
後ろに飛んで身構えるアルノドーア。
影だけが床に残る。それがあっという間に人の形に変わる。
「姫様、『レオンダルム』でございます。お見知りおきを」
真っ黒の長い髪は後ろに紐で結ばれ黒いタキシード、靴、全身黒と言うような姿。
背中には蝙蝠の羽根が。
目は切れ長でオレンジ色に輝く。
顔は女性にも間違われるような美しさだ。
「真っ黒で影に隠れていると全くわからんのう」
「私は暗闇の中でこそ真価を発揮するのです。
隠密活動こそ私の得意な任務です。逆に太陽の光は苦手です。
カレンシア将軍とは全くの逆でございます」
こちらも大変礼儀正しい。カレンシアと並んで膝をつく。
「そんなに畏まらないでいい。
同じく将軍ではないか。普通にしてくれ」
レオンダルムは一礼して立ち上がる。
「姫様、私はオリジナル・ジェネシス『吸血生物』の遺伝子を受け継いでおります。
能力は吸血による攻撃や蝙蝠の翼での飛行などがございます」
「吸血生物と言うと血以外は何も食さないのか?」
「いえ、一緒に住んでおりました一族はそうでございますが
私は半分人間でございますので、人間の食べるものならば食べられます。
それに一通りの礼儀作法、料理を学んでおります。
龍帝様や姫様の身の回りのお世話など、執事の任務も可能でございます」
「それは有難い。父上も体の調子が悪いので是非とも頼む。それと……
レオンダルム将軍も同じく『レオン』と呼んでいいか? 長い名前じゃからな」
「は、如何様にも」
「ダハハ、いいね。
ゾルにカレンにレオンか! こりゃわかりやすい」
豪快に笑うゾルタクス。
「デスリッチ将軍はりっちゃんじゃ!」
「その呼び方は……姫様だけにして下さい」
「ハハ、参謀殿は参謀でいいんじゃないか?」
デスリッチは激しく頷く。
自分だけ恥ずかしい呼び方は御免だと言ってるようだ。
「姫様は……なんて呼び方が?」
「わしは『アルノ』と言う名で人間の世界は通っている」
「あの……タツオさんだけじゃないですか……その呼び方」
「ダハ、姫様は姫様でいいじゃねえか」
「はい。その方がよろしいかと思います」
「にょにょ、カレンは『アルノお姉様』と呼びたいです!」
「お前の方が年上じゃろ? 却下だ」
「にょ、私、お姉さまがほしい! 一人じゃ淋しい!」
カレンシアは甘えん坊の性格のようだ。根っから子供だ。
「りっちゃんの方がわしよりお姉さんだ。この件はりっちゃんに任せる」
「ぶー」
「しかし、カレンは昼だけ、レオンは夜だけとは。
将軍が全員揃って出撃するのは無理のようじゃな」
「はい……それに城を空にする事は、今後危険と思われますので
……全軍で出撃と言う訳には行きません」
「それで、誰が出撃するのじゃ?」
アルノドーアは早く出掛けたくてウキウキする。
「姫様は……自室待機です……あと、作戦を教える事はできません」
「なっ! なぜじゃ! わしは昼でも夜でもかまわんぞ」
「あの人間のタツオさんに……通信機で伝えてしまわれたら、
作戦にならないじゃないですか。
……それに姫様はその方を攻撃できません」
「だは? なんで敵と通じてるんだ?」
「姫様とタツオさんは……何と言うか……両思いと言いますか
……結婚を約束している者同士です」
将軍たちは不思議な顔をしている。
「ダハハハハハッ、人間! ……人間とか!?
それに結婚て言うのは何なんだ?」
「……将来……一緒に住む事です」
「ダハハ、なんだそれ? 一緒に体を鍛えるのか?」
「ニョッ、一緒に住むー。カレンも一緒に住みたいー」
アルノドーアは恥ずかしそうに赤くなる。
「その事はいいではないか!
わしはタツオに機密事項は教えない!」
「とにかく……顔合わせは以上です……姫様は自室にお戻り下さい」
「なぬ? わしだけ、のけものか?」
「さぁ、姫様を自室のお連れして」
「おい! りっちゃん!」
デスリッチは蜥蜴人を数人呼びアルノドーアを連れて行かせた。
暴れた時の為に途中までデスリッチも付き添った。
◇ ◇ ◇
「皆さん……お待たせ致しました」
「参謀殿も大変でございますな」
レオンダルムがデスリッチの気苦労を心配する。
「いつもの事ですから……」
「ダハハ、でもあの姫様は王様になる資質あるぜ。
相手をよく見抜くし決断も早い。何より戦いのセンスがあるからな」
「確かにそうですが……純粋すぎますし……何も考えないで行動する事があります。
……誰かに騙されてしまう事が心配です」
「ハ、参謀殿は本当に母親みたいだな」
「……今は私たちだけで行動しましょう……作戦を考えて参りました」
「お聞き致しましょう」
デスリッチは全員の顔を見る。
「ゾル様とカレン様はここに残って城を守ってもらいます」
「にょ、お出かけできないの?」
「ゾル様の防御はこの世界で最強……カレン様の罠も守りに向いています
……お二人がいれば城の外からの攻撃に対して安心です」
城を攻撃された事は最近まずないが、昔は他種族からの攻撃を受けた事がある。
その時はヴェルドーアが健在ですぐに鎮圧したが今は動けない。
もしもの時、ヴェルドーアを守らなければならない。
それに人間たちの動きも心配だ。
「ダハハ、俺が守りか。しょうがねえな」
「カレンは外に行きたい」
「カレン様……作戦でございます……今回は何とか……龍帝様をお守りするために」
「にょにょ、わかりました」
カレンシアはおとなしく頭を下げる。
「有り難うございます……それで出撃するのは、私とレオン様とします」
レオンダルムは意外に思い訪ねる。
「私は龍帝様のお世話をすると思っておりました。何故かお聞かせ願いたい」
「はい……前回出陣した際、蛇人たちによる夜襲を行いました。
あと一歩のところで発見されてしまいましたが夜襲は人間にかなり有効と感じました」
「夜襲でございますか」
「レオン様は暗闇の中では最強……侵入は容易いかと」
「そうでございましたか。
それはよきお考えでございます」
「それに今度は私の部隊を出陣させます。亡霊の軍勢です」
「にょ、オバケ?! こわーい」
「太陽の光に弱いので今まで連れて行きませんでしたが
……今回はレオン様が指揮するのであればと思い……」
「承知致しました。闇夜の行軍ならお任せ下さい」
デスリッチは大きく頷いた。
「それでは作戦を開始致します……将軍たちは配置に着いて下さい」
「おう」「にょにょ」「はっ」
次なる作戦が開始された。
レオンダルム・デスリッチとゴースト軍団による侵攻作戦が人間たちに襲いかかる!




