表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
科学防衛隊イシュライザー  作者: kuro96
一.怪物襲来編
2/247

02.ヒューマン・キャッスル


 この星で人間が生活する唯一の場所である人工ドーム。

 昨日の敵襲など何も知らずに日常の生活が始まる。


 人工ドームは『ヒューマン・キャッスル』と呼ばれ、

 元々宇宙で人間が一定期間生活できるよう

 開発された宇宙ステーションだ。

 1000年前に宇宙に打ち上げられたが、

 20年前に酸素供給装置の異常が発生し地上へ緊急帰還。

 偶然鋭い山の頂きに突き刺さった形で着陸した。


 中央部には巨大な塔が立っている。

 その塔の名は『中央管理塔』。通称『タワー』と呼ばれている。

 スーパー・コンピューターが設置されていて、

 ヒューマン・キャッスル全てを管理している。


 塔を中心にして人間の生活する各種の『区域(エリア)』が広がっている。


 塔を取り巻くように『商業エリア』と呼ばれている

 食品や生活必需品を売る店が立ち並ぶ区域があり、

 そこから、人間が生活する『居住エリア』、

 食品を加工したり、生活必需品を製造する『工業エリア』、

 野菜などの植物を育てて収穫する『農業エリア』へと

 それぞれ道が別れている。


 今は朝の出勤時間……

 居住エリアから商業エリアへ向かって一般の住人が移動する時間だ。

 住人たちは工業、農業などの仕事を割り振られており、

 決まった時間に職場へ出勤する事になっている。

 必ず商業エリアを通らないと各エリアへは行けないので、

 商業エリアはこの時間、毎日人が集中するのだ。



 ◇ ◇ ◇



「すいませーん。

 ちょっと通して下さーい!」


 赤色の作業着を着た短い髪をボサボサにした男。

 人々の波を掻き分けて先を急ぐ。


「おい。ちゃんと規則(ルール)を守れ!

 違反者は逮捕されるぞ」


「ちょっと急ぐんです。

 ごめんなさい!」


 ドカッ!


「痛ッ! 違反者がいるぞ!

 セキュリティー・ポリスを呼べー!」


「す、すいません!

 見逃して下さい!」


 平身低頭、謝りながら先を急ぐ。

 その爽やかで控えめな態度に通勤者たちはつい許してしまう。

 不思議な雰囲気を持った男だ。


「まぁ、いいかぁ。

 ところでそんなに急いで緊急な用事があるのか?」


「農業エリアまで早く行きたいんです!

 僕の担当している『トマト』が心配なんです!」


「は……トマト?」



 ◇ ◇ ◇



 宇宙ステーション『ヒューマン・キャッスル』は1000年前、

 この星に存在していた科学技術が採用されており、

 スーパー・コンピューター『キャッスル・ブレイン』によって、

 人間の生活環境は完璧に管理されている。


 ・工場の生産ラインによる食品加工

 ・年中過ごしやすい温度の管理

 ・自動歩行ロボットによる警備や物流

 ・仮想通貨による銀行システム。

 ・資源のリサイクル

 ・汚水の浄化処理

 など、生活全般を支えている。


 近年開発された『物質転送』システムは革新的で、

 近い距離なら特別な『能力』を持った人間を瞬時に転送できる。


 中でも遺伝子の分野は発達しており、

 ここに住む人間の数も管理されているのだ。


 全ての人間が研究施設の中で行われる人工授精で誕生している。

 優秀な遺伝子から様々な分野に秀でた人材が輩出されているのだ。


 また、遺伝子が操作されていて、病気に対する抵抗力を強化されている。

 その為、ここの人間はほとんど病気にならない。

 人間が死ぬのは寿命か事故がほとんどだ。


 だが人間を人工的に生み出している弊害は多い。

 まず『家族』という単位が消滅しており、

 幼少の頃から全員が研究施設で養育されている。


 家族愛という感情はなく、

 恋愛と言う感情も消失している。


 人間同士の繋がり、思いやりと言ったものが

 極端に希薄になってしまっている。


 また、『完全男女平等法』と言う規則(ルール)があり、

 生まれてくる比率、就業する職場の比率も必ず同じと決まっている。


 15歳を過ぎるとそれぞれの能力にあった職業にキャッスル・ブレインの

 判断で自動的に配属される。


 配属と言っても職種は少ない。

 キャッスル・ブレインがほとんど仕事を行っているので、

 補助するのが人間の仕事だ。


 ・ロボットやコンピューターの修理

 ・生産ラインの監視

 ・植物プラントの管理

 など限定されている。


 人間の仕事の中でも、

 遺伝子やロボット、機械の研究・開発を行う科学技術部門は

 特に優秀な人材が配属され、給料や生活環境が優遇される。


 キャッスル・ブレインが決定した規則を『ルール』と呼び、

 人間たちは忠実に守っている。


 規則の代表的なものは……

 ・15歳以上の人間の就労義務。(五勤二休)

 ・住居は全ての人間一人一人に自動で割り当てられる。

 ・許可なくヒューマン・キャッスルの外に出る事は禁止。

 ・関係者以外の中央管理塔(タワー)への出入り禁止。

 ・歩道は一方通行、横断歩道以外の車道への立ち入り禁止。

 ・許可された者以外の深夜外出禁止。

 など厳格な規則がある。


 犯罪は防犯ロボットによって監視されているが、

 規則を守る従順な人間しかいない為、

 犯罪が起こった試しがない。



 ◇ ◇ ◇



 中央管理塔1階から通じるエレベーターで地下に向かった最下階。

 ヒューマン・キャッスルの奥深くにある科学技術部門、

 通称『科学技術庁』のミーティングルームには

 二人の中年の男女と四人の若い男女が向かい合って座っていた。


 中年の男性は黒いサングラスをかけ、腕と足を組み、

 大きな椅子にドカっと座り、

 逆に中年の女性は前の教壇に立って講義している。


 若い男女はそれに耳を傾け、時折頷いていた。


「人間は20年前の緊急着陸以来、

 危機にさらされています。

 人間以外の『異形種(いぎょうしゅ)』、

 または『怪物』と呼ばれる者の出現です。

 地上は『異形種』の支配する世界となっています。

 度々、襲撃を受けておりその脅威に対応する為、

 特別な部署が作られました。

 それがこの『科学技術庁』の特別防衛隊です。

 ここでは遺伝子の力で人間を強化する研究がされてきました。

 17年前、『イイノ博士』が細胞の量をコントロールする

 遺伝子『ライザー』を発見し、

 細胞分裂の活発な若い世代に試験的に接種させ、

 遺伝子定着率の高い上位4名を

 科学防衛庁へ招集し特別部隊を結成しました。

 その4名へ人工的に『異形種』のオリジナルとなる遺伝子を移植。

 『ライザー』と『異形種』の2つの遺伝子を使った

 肉体変換能力『ライズ』の発現に成功。

 防衛の戦いに試験的投入されています。

 異形種とライズを合わせた造語を考案、

 特別部隊の名前を『イシュライザー』としました」


 副司令官であり、天才科学者である『イイノ』の講義が続く。

 頭脳明晰、30代後半だが20代に見える程、若々しい。

 スタイル抜群の妖艶な女性であり、

 整った顔のパーツに眼鏡、

 科学技術庁の職員、誰もが憧れる存在である。


「ヒューマン・キャッスルの歴史を覚えておく事は、

 科学技術庁の職員として当然だぞ。

 よく覚えておけ、お前ら!」


 教鞭を取るイイノ副指令官の脇から、

 あまり目立たない『ヤマタケ』指令官の大きな声がする。


 そんなのは軽く無視する若い男女たち。


「私の名前が歴史のテキストに出てくるなんて、

 大変恐縮してます……」


「そんな事ありません。

 副指令の功績は皆わかっておりますわ」


 真面目な優等生の女性『ミミ』が

 尊敬の眼差しを向けながら元気よく答える。


「ミミさん、有り難う。

 でも私は『キャッスル・ブレイン』の指示通りに行っただけなのです」


「司令官は名前も載ってないな」


 隣の席の毒舌男『リクト』が嫌味を言う。


「うるさい! これから載るんだよ!」


 司令官ヤマタケは科学技術庁の職員の中では

 優秀な方なのだが、

 副司令官があまりにも優秀すぎるせいでいまいち存在感がない。

 完全男女平等法のせいで司令官も男女同じ数とされているので

 仕方なくやっているだけだ。



「リクト君、失礼な事言ってはダメよ」


 その隣に座る綺麗な顔をした女性、『マリカ』が優しく嗜める。


「アハハ、つい余計な事言っちゃうんだよね」


「ねぇ、『ヒショウ』君、何も質問してないけど聞いてるの?」


 隅の席にいるひょろひょろと背の高い男にそのマリカが問いかける。


「……」


「アハハ、全然しゃべらないな」


「起きてるならいいわ」



「副指令、一つ質問があります!」


「ミミさん、何でもどうぞ」


「私たち10代の人間全員に『ライザー』遺伝子が接種されているとの事ですが

 ここにいる4人の他にもイシュライザーになる人間がいるのですか?」


「ここにいる皆さんは突出して遺伝子定着率が高かったのですが、

 残りの10代の方々にはほとんど『ライザー』遺伝子が

 定着しませんでした。

 なぜ皆さんだけそうなのかは研究段階で原因はわかっておりません。

 ですが他の10代の方々も成長期なので

 突然『ライズ』能力に目覚める可能性があります。

 もし今後そのような方が現れればイシュライザーに

 選抜される事も考えられます」


「どうして戦うのが4名だけなのでしょうか?

 もっと大勢で戦えば効率がいいと思うのですが」


「元々、ヒューマン・キャッスルでは

 収容できる人数が限られており、

 今ある資源で生活できる人間は1000人程度。

 近年、生活可能な人口は徐々に減少しており、

 各分野の人間もこれ以上減らせません。

 少ない人数で防衛する、その最も効率のいい方法を

 『キャッスル・ブレイン』が考案したのです。

 ただ4人ではやはり少ないので隊員は10名を目標としています」


「昨日も異形種の大群がやってきましたが、

 彼らは何で襲ってくるのでしょうか?」


「理由は不明です。

 人間の持っている食糧や科学技術を狙っているのではないでしょうか」


「すごい兵器を開発すれば効率が良いのでは?」


「ヒューマン・キャッスル内では

 鉄などの資源を新たに発掘することができません。

 様々なものをリサイクルして利用しており、

 兵器の開発にまで回せない状態なのです。

 また、科学技術庁の人材も限られておりますし、

 我々だけで何とかする方法として

 『イシュライザー』が誕生したのです」


「効率化と言うわけですね」


「……」


「アハハ、でも俺たちが死んだらどうするの?」


「あなたたちを守る為に、『イシュライザー・スーツ』があるのです。

 『イシュライザー・スーツ』には現在まで遭遇した事のある

 全ての敵の攻撃に耐えるだけの防御力を備えております」


「まあ、給料もいいし、俺は戦うの好きだからいいけどな」


「私は人間を守るこの仕事に誇りを持っております。

 例え命を落としても後悔はありません」


「あら、ミミちゃん。

 危ない事言っちゃダメよ」


「イシュライザーは人間の希望なのです。

 決してそのような事がないように日々研究開発を行っています。

 我々科学者があなた方を守ります」


「はいッ!」


「アハハ」


「……」


「一番いいのはイシュライザーが増えることね。

 そういう人たちが現れる事を願うわ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ