19.戦いの幕開け
暗闇の中、蛇の大群がそろそろと荒野を進む。
その目標となっている山の頂きには『ヒューマン・キャッスル』が七色に光輝いている。
アルノドーアはそれを鋭い目で捉えながらその直後を進む。
「敵はまだ気付いてはいない」
先頭の蛇がヒューマン・キャッスルがある山の直下にたどり着いた。
そこから先はほぼ直角の切り立った岩の崖。崖登りの開始だ。
たとえ蛇のような突起に引っ掛かりやすい体でも登るのは容易ではない。
ゆっくりと足場を見つけながらの崖登り。
落下する者も数名いる。それでも徐々にだが頂きに近づいている。
アルノドーアは崖から少し離れた闇の中で登坂を見守る。
1時間、2時間、時間の経過とともに軍の先頭の姿が小さくなり確認しづらくなって来た。
「ドラゴン・アイ!」
アルノドーアが力を発現させると目の中心が赤く染まった。
ドラゴン・アイには望遠の他に暗闇でも獲物を見分ける力がある。
もう先頭はキャッスルの数十メートル下まで来ていた。
「もう少しじゃな」
◇ ◇ ◇
ヒューマン・キャッスルの人間たちは自分の居住地での睡眠時間に入っていた。
科学技術庁だけは交代で周辺をワイドに探索するカメラを使って警備を行っている。
しかし、暗闇の中、キャッスルの真下から攻め込んでくる敵に対してまだ気が付かない。
ヒショウは今日も自室で布団を被り震えながら眠れずにいた。
だが今日はいつもと違う気配を感じている。
「う……何か闇の中を動く気配がする……岩を登る音が聞こえる……どこだ?!」
小鳥は外敵に対して非常に敏感に反応する。
その鳥類の遺伝子が備わっているヒショウには敵が近付いて来る気配がよくわかるのだ。
しかも天敵の蛇なら尚更だ。
「キャッスルの真下からだ!
……大群が登ってくる!」
バンッ!
部屋から飛び出すと司令室に向かって一目散に走る。
「大変ですッ!」
司令室の扉を開けるとイイノ副司令がまだコンピューターに向かっていた。
「あら? ヒショウ君、慌ててどうしたの?」
「敵襲です。大群がキャッスルの……真下から攻めて来ます!」
「何ですってッ!?」
ヒショウの能力を熟知しているイイノはそれが紛れもなく事実である事をすぐに理解した。
すぐさま隊員に向けて緊急招集の通信を行う。
各隊員には緊急連絡用に携帯型通信機を渡してある。
司令官ヤマタケ、隊員マリカ、リクト、ミミ、もちろんタツオの元にも同時に通信が入る。
「皆、敵襲よ! 司令室に集合して!」
警告音で皆飛び起きる。
「ちっ、なんで真夜中に来るんだよ! まったく」
「せっかくお風呂に入ったのにお肌が汚れるわ」
「来た! 待ってました!」
「はい! 直ちに向かいます!」
タツオだけは居住エリアで寝ている。
「えっ! 緊急通信!? わ、わかりました。今から向かいます!」
タツオ以外のメンバーはすぐ司令室に到着した。
「ちっ、一人だけ遅れやがって」
「アハハ、まだ戦力じゃないからいいんじゃない?」
「ヒショウ君の察知能力でわかったのよ。これを見て!」
司令室の中心の壁に設置されたモニターに崖を登る蛇たちが映し出される。
「……蛇!」
恐怖するヒショウ。
司令官たちは敵の状況を分析する。
「これが敵?! 軍勢じゃない?」
「恐らく敵が蛇に変化してる姿と思われます。
キャッスルに侵入して元の姿にもどるつもりです」
「おいおい、キャッスルの下には着陸した時にできた穴が開いているぞ!
容易に侵入できちまう」
「敵はそこを狙ってきたのでしょう!
こちらの内情を知っている参謀でもいるのでしょうか?」
「とにかくお前ら四人だけでもすぐに出撃だ!
キャッスルに一匹も侵入させるな!」
「はっ!」
「すぐに転送装置へ! 敵は崖に張り付いて登っている。
マリカさんは遠距離から攻撃よ。
ヒショウ君も空中から攻撃して。
リクト君とミミさんは地上で落ちて来る敵を狙うのよ」
「わかりました!」
◇ ◇ ◇
突然キャッスルの底部からサーチライトの光が山肌に向けて照らされた。
「ん? ……もしや?!」
アルノドーアは岩影に身を隠し様子を伺う。
その瞬間、稲妻が走ったかと思うと忘れもしない4人組が立っている。
「あやつらか!」
先陣を切ってライザーブラックが叫ぶ。
「ファルコン・ウイング!」
背中に翼が出現しキャッスルの真下まで飛び上がる。
「…そこか!」
蛇の集団を発見しその先頭目掛けて得意技を発射する!
「イーグル・フェザー!」
先端を尖らせた無数の鳥の羽根が蛇たちを撃ちつける。
ドシッ! ガッ! グサッ!
「ぎゃあああッ!」
一番上の蛇が蛇人に戻りながら落下して行くと
次々と後続の蛇も落ちて行く。
「まだいるわね! 今度は私よ!」
ライザーブルーは右腕を前に突き出した!
「ウォーター・ショットッ!」
腕が魚の頭の形に変化し、次々と水の固まりを撃ち出す!
ドンッ! ドカンッ! バシッ!
「うがぁぁぁッ!!」「ぐわぁぁッ!」
残りの蛇たちを狂いもなく狙い撃ちして行く。
「イーグル・フェザー!!」
ブラックも連続で攻撃し、残りの蛇を落下させて行く。
バタッ!
バタッ! バタタ!
蛇人たちが崖下に転げ落ちた所に
ライザーイエローとライザーピンクの2名が待ち受ける。
「アハハ、来たッ来たッ!」
「笑ってないで、行くわよ!」
二人は同時に右腕を宙にかざした。
「ジャイアント・スイングだッ!」
「ベアー・ナックル!」
岩巨人の腕、熊の腕にそれぞれ変化する!
「それッ!」
イエローが巨大な腕を水平に振るうと十数名の蛇人が吹っ飛ぶ!
「ぎゃッ!」「どはッ!」「ぐがッ!」
「アハハ、楽しい!!」
ピンクも負けじと熊の腕を振り下ろす。
ガァンッ!
「うぎゃーッ!」
敵数名を頭の上から殴りつけると爪の跡から血が噴き出す。
「はッー!」
「ぎゃあああッ!」
さらに熊の腕を横から凪払った。また数体の敵が弾き飛ばされる!
「はッ!」
「アハハ!」
ほとんどの蛇人が戦闘不能になって行く。
ブラックとブルーも集まって4人のライザーたちが揃った。
「……」
「今回も決着がついたみたいね!」
「前回よりも少ないから早かったなー」
「レッド君も来ないうちに終わっちゃたわね」
「アハハ、隊に必要ないんじゃない?」
「もう敵はいないようです。戻りましょう、副司令に連絡……」
「!!」
明かりに照らされている4人の前に
ドラゴンの骨のマスクを被った白いマントの『怪物』が立ち塞がった!
「なんだッ? こいつッ。さっきの蛇より小さいや!」
「……お前ら……もう許さん!」
マスクのせいか不気味な低い声を放つ。
「あなたは誰? この怪物たちの親玉なの!?」
「こんな小さい奴が親玉のわけないじゃん!」
「……全員……倒す……」
ドラゴンの骨の目は真っ赤に燃えるような光を放っている。
ゴゴゴゴゴゴ……
地面が音を立てて震え出した。
「な、何か凄い圧力が……」
「えっ!? 何ッ?」
怪物の全身から赤いオーラが放たれる!
「うぅ……
……駄目だ……こいつは!」
「ヒショウ君?」
普段沈黙しているヒショウが叫んだ。
「こいつはヤバい。
今までの敵なんかゴミみたいなものだ。こいつは……
正真正銘の……怪物!」
4人は怪物から底知れない力を感じていた。
逃げても瞬時に追い付かれてしまう……
背中を見せたら一瞬でやられる感覚に襲われる。
「今までとは確かに桁が違うわ。
こんな怪物、初めて……」
「……戦うしかない」
「逃がしてくれそうにないですね」
4人は怪物に向かって身構える。
「アハハッ、面白いヤツがやっと出たな!
俺が行くぞ!
ビッグ・フット!!」
巨大な『雪男』の両脚に変化すると高い位置から怪物を見据える!
だが怪物は全く動かない。
「アハハ、怖じけづいたか!
これでもくらいやがれ!
ジャイアント・ハンマー!」
両腕も『岩巨人』の腕に変わる。
それを頭の上でがっちり組む。
雪男の両脚、岩巨人の両腕、怪力無双の巨人によるイエローの得意技、
空中高くからの振り下ろし攻撃だ!
唸りをあげて怪物目掛け思いっきり叩きつける!
「ダブル・ドラゴン・アーム……」
怪物が両腕を頭上にクロスさせると
みるみる『ドラゴン』の両腕に変わって行く!
ズガァァァァァァン!!
「な、にッ!?」
『ジャイアント・ハンマー』が怪物を粉々にしたと思った瞬間
太いドラゴンの両腕が十字に組み合わされ防御されている!
「えっ!? あれはレッドと同じ……」
レッドと同じ能力を見たピンクが叫ぶ。
「……こんなものなのか……では今度はこっちの番じゃの!」
その時、参謀デスリッチが叫ぶ!
「将軍! ……いけません! 戦っては!」
「うるさい! お前は動いてはいけないと言う命令じゃぞ!」
デスリッチはその迫力に動けない!
「お前ら覚えておけ!
わしは龍将軍『アルノドーア』じゃ!」
アルノドーアがついに能力を解放する。




