18.それぞれの想い
軍勢はヒューマン・キャッスルを遠くに捉えていた。
蛇人は見た目が蛇そのもので人の手足が付いている。
手足を体に引っ込めて蛇と同じ動きをする事が可能。
全身は鱗に覆われている。常に手触りはヌメヌメだ。
牙には獲物を麻痺させる毒を持っている。
攻撃時の瞬発力は鋭いが歩く速度は極めて遅い。
行軍は遅々として進まなかった。
それでも1日半かけてやっと遠くにヒューマン・キャッスルを捉える所までやって来た。
「やっとついたのう。これ程遅いとは尻が痛いぞ」
大トカゲに乗るアルノドーア将軍とデスリッチ参謀が立ち止まる。
姿は戦闘用の例の姿だ。
「将軍……今回は今までのような……昼間、明るいうちに……
攻めないで夜の暗闇に隠れて行動しましょう」
「そうだのう。この前はバカ正直に攻めすぎたのう。人間は夜寝るしな」
「はい……夜まで近付かないでここで待機しましょう」
「うむ。皆のもの、夜までここで待機じゃ!」
無口な蛇人たちは大人しくそこら辺に座り休養する。
アルノドーアたちも大トカゲを繋ぎ岩影に腰かける。
ヒューマン・キャッスルが頭を上げればよく見える。
夢に見ていた場所まであと少し。
龍骨のマスクの下には熱い想いが迸っている。
あの山の上へ、タツオの元へ何としても帰る。
それが果たせるなら立ち塞がる敵は自分が全て倒す!
決意は漲っていた。
……でもたどり着いたら……何て言えばいいのだ。
何も言わないでいなくなってしまった。
怒っているだろうか?
タツオは自分の事を待っているのだろうか?
言い知れない不安が襲いかかる。
……でも会いたい。どう思われていても、会いたい。どうしても会いたい。
この気持ちって何なんじゃ。
何と言う言葉にすればいいのじゃ。何と言う言葉で伝えたらいいのじゃ。
「デスリッチよ、お前は誰か会いたいやつはいるか?」
すぐ横に座るデスリッチに問いかけた。
「……な、何ですか……いきなり……」
「お前はどうしても会いたいヤツはいるのか?」
「……そんな……人間の家族もいないですし……
でも私を助けてくれた方になら……会いたい……」
少し遠くを見ながら思い出しているようだ。
「父上じゃないのか?」
「龍帝様は……いつも会ってます……会いたいのは『人間』です……」
「そいつは男か?」
「……いえ、女の方です……
もう会えないですが……」
「そうか。男に会いたいと思うのはおかしいか?」
「?……男性でも女性でも……いいじゃありませんか」
「ではどうしても男に会いたい気持ちの事を何と言うのじゃ?」
「どうしても? ……う~ん……」
ちょっと恥ずかしそうなデスリッチが可愛く思えた。
「人間だった時……調べた事ですが……1000年以上前の人間は……
相手の事をとても想う特別な感情のことを『好き』と言ったそうです……」
「好…き?」
「相手の事しか……考えられないとか……相手がどう考えているか
不安になったりする……らしいです」
「う、それか……」
「相手にも伝えて……相手も同じなら……『両思い』……」
「両想い……」
「お互いが一緒にいたいと思っていたら……『結婚』と言うのをしていたと……」
「結婚? なんじゃそれは?」
「ドラゴン風に……言うと……一緒の巣に住む……とか?」
「何? 一緒の巣に住む事を結婚と言うのか?」
「1000年前は……そのような制度があったそうです……
今の人間の世界には必要なくなりましたが……」
「お前は結婚していたのか?」
「まさか……私は……『好き』な方は……いませんでしたし
人間の世界では結婚している方が……ひとりもいません……
あ、でも……龍帝様と将軍のお母様は一緒に暮らしていたのではないでしょうか」
「ふーん。そうか……
好き……両思い……結婚……か。」
「戦いの前に……いけませんね……こんな話をしては」
「いや、良い事を教えてくれた。お前は何でも知ってるんだのう」
「元……人間ですから」
◇ ◇ ◇
科学技術庁のミーティング・ルームでは日々研修が行われている。
実戦訓練だけでなく知識の強化も任務のうちだ。
イイノ副司令官が豊富な科学知識を披露する。
ヤマタケ司令官は何もやる事がなくとにかく暇そう。
「転送装置はライズ能力を応用した技術です。細胞を電気に変え指定された地点に発射します。
到着した地点でライズを解除し復元すると言った流れです。
まだ逆送が難しくヒューマン・キャッスル周辺しかうまく行えません。
転送実験で人体への影響を確認しています。
脳や各部のダメージはほぼ確認されていません」
「タツオ君の為に初歩から分かりやすくやってるんですよ。わかってます?」
「これで初歩ですか? 頭が……」
ミミさんのような優等生には叶わないな。
「今日はここまでにしましょう。何か質問ありませんか?」
ミミが手を挙げた。
「転送装置はどのくらいの距離まで転送できるのですか?」
「基本は電気ですので空気中であればどこまでも飛ばせます。
しかし遠くは目的地を設定できない為、
どこに飛ぶかわからないのです。危険ですのでキャッスルと真下の地上の
往復しか使用許可が出ていません」
転送装置を使えば地上に行ける。
地上に行けばアルノを探せる。でも何処を探せばいいんだ?
「あの、質問があります」
「何ですか、タツオ君」
「人を探せる能力と言うのはありますか?」
「人を探す? 誰を探すのですか?」
「いや、誰か行方不明になったらどうするのかと」
「ヒショウ君の『鷹の目』やミミさんの『犬の鼻』の能力で探せるのではないでしょうか?」
そういう能力もあるのか。
しかしヒショウやミミさんではアルノを知らない。どうすればいいんだ。
「どうしても会いたい相手がいた場合、どうすればいいのでしょうか?」
「アハハ、何その質問、科学と関係ないじゃん」
「タツオ君はどうしても会いたい方がいらっしゃるの?」
外の世界の者だとはとても言えない……
「いえ、そのような人がいたと仮定して。皆さんにはそういう人はいないですか?」
「おい、そんな質問するな! 隊の目的とは違うだろ」
ヤマタケは怒って制止するがイイノが割って入った。
「まあ、面白い質問ね。科学にも人間科学と言って人間を研究対象にする分野もあります。
その研修はやった事なかったわね」
「人間科学ですか? 初めて聞きました」
「先程の質問では誰かに会いたいと言う気持ちがある。
と言う事ですよね。では何故会いたいのでしょうか?
皆さんどうでしょうか?」
「……」
「可愛く思える人なら会いたい」
「アハハ、戦えるのなら会いたい」
「そのような事、考えた事ありません」
タツオは考えた末に言った。
「その人の事を一番大切に思っているから」
「凄いわ。とても素敵な答えね。
今の人間にはなかなか気づかない事です」
イイノは優しい目をしている。
この人はそのような会いたい人がいるのだろうか。
自分と同じような気持ちを持っているのか。
「それは、その人の事を『好き』と言う気持ちよ。
好きでなければどうしても会いたいなんて思わない。
またその逆でどうしても会いたくないとかその人が憎いとかは『嫌い』ね」
「好き……」
「……」
皆初めて聞いた事なので驚いて皆沈黙している。
この世界では相手の事より自分の事の方が大事なのだ。
自分さえよければそれでいいのだ。そう考えて来た彼らには衝撃であった。
「いくら自分が強くなったり、勉強ができたり、美しくなったとしても自分だけの満足です。
自分だけでなく相手も良くして行く事。
人を好きになると言う事が人間として、とても素晴らしい事ではないでしょうか」
「えっ?」
「……」
「アハハ……」
「!」
そうか、『好き』か。僕はアルノの事を……
「あなた方もいつかわかる時が来るはずです。
イシュライザーは本来、人の為にあるのですから。」
◇ ◇ ◇
両軍で戦いとは関係なさそうな話を繰り広げている間に夜もふけたきた。
ヒューマン・キャッスルは電気の光で明るいが外の世界は暗闇。
その暗闇の中ではついに作戦が決行される。
「そろそろ人間たちも寝る時間になったな」
アルノドーアは人間が寝る時間を覚えてる。
「将軍、いよいよ……」
「蛇人たちよ。蛇に変化せよ! 音もなく近づくのじゃ!」
「はっ!」
「デスリッチよ。今回はわしも前線に出るぞ!
お前はここにいて絶対に動いてはならん。」
「将軍! ……前線に出てはなりません……」
「命令じゃ。失敗する事はできん」
「は、でも……ご自身では戦わないで下さい……」
「わかっている! しかし前にいる方がよく戦況がわかるのじゃ!」
蛇人たちが密かに山を登り、
後日攻め込む他の将軍たちの為に、ヒューマン・キャッスル底部の入口を発見し、
周りの壁を修復不可能なほど壊す事が第一の目的だ。
しかしアルノドーアはもうひとつの考えがある。
蛇人が見つかって、人間側の部隊が現れた時は……自分自身が戦う。
能力を『全開』にして奴らを全て倒す!
タツオの為に!
邪魔をする全ての敵はやっつける!
今、アルノドーアの戦いが幕を開けようとしている。
幸せを、取り戻す為に。
「全軍! 出撃じゃ!」




