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科学防衛隊イシュライザー  作者: kuro96
一.怪物襲来編
17/247

17.隊員たちの夜

 科学技術庁の訓練施設では今日も厳しい鍛練が行われている。

 体力テストや筋力の基礎トレーニングはもちろん、メインのライズ能力向上の訓練はつらい。

「タツオ君、両腕・両脚のライズ能力発現100回ずつよ!」

 教官に任命されたマリカさんは優しそうな顔に似合わず厳しい。

「は……!」

 まだ瞬時に能力発現は難しく10回に1回程度しか成功しない。

「うーん、実戦でこれだとやられちゃうわね」

「アハハ、新入りのあんちゃん! 戦場の掃除でもしてれば」

 リクトの毒舌が胸に刺さる。

「……」

 ヒショウはもくもくとライズ発現を繰り返している。

「ヒショウさんは入ってどれくらいなんですか?」

「……」

「ヒショウ君は必要最低限しかしゃべらないわよ。

 誰かフォローする人がいないと冷たい人と誤解されちゃうわ」

「はッ! はッ!」

 ミミさんは本当に真面目だ。ストイックすぎて近づけない。

「何ですか?」

「いや、凄いなーと思って」

「見てないで訓練を続けて下さい。あなたが一人前にならないと足手まといです」

「は、はい…」

 皆、個性的のメンバーだ。

 一人一人はとても強い。

 この世界の人間は自分一人で生きているから協力するとか

 団結すると言う気持ちはほとんどない。

 例外なくこの部隊もチームワークがいいとは言えない。

 もし皆の心が合わされば凄い事ができるだろう。

 そうなればどんなに素晴らしい事か。

 能力が一番下の僕が偉そうな事言えないけれど。


 ◇ ◇ ◇


 一通りの訓練が終わりやっと宿舎へ帰れる。

「皆さんは庁舎の中に住んでるんですか?」

「……」

 何も答えてくれない。当たり前と言うような顔だ。

「そうよ。だってわざわざ居住エリアにいても通勤が大変なだけだもん。

 外は太陽でお肌に悪いし。」

 唯一優しく答えてくれるマリカさん。

 チームのお姉さんで、この人がいないと間が持たない。

 だけどお肌の健康が一番大事だ。

「タツオ君は何でまだ居住エリアに住んでいるの?」

「えっ? いや、住み慣れた方がいいんですよ」

 アルノが戻って来るかも知れないなんて言えない。

 もし帰ってたらイシュライザーなんてやる気はなくなりそうだが。


 宿舎ブロックの前に来るとミミが話しかけて来た。

「タツオ君、今日は厳しく言ってごめんなさい。

 私、すぐ自分の世界に入っちゃうの。気にしないでね」

 いい姿勢で頭を下げる。

「ああ、大丈夫ですよ。僕も訓練にもっと真剣に取り組みますから」

「よかった。また明日ね」

「はい。お疲れ様です」

 いい人だ。やっぱり話してみないと人ってわからないな。

 本当は優しい心を持っているんだ。僕はチームの為に皆と友人にならないと。


 ◇ ◇ ◇


 挨拶し皆と別れ、エレベーターで帰ろうとする。

 途中の階でバッタリとイイノ副司令官と出会った。

「あらタツオ君、お疲れ様。訓練は終わった?」

「はい。チームには迷惑をかけてますが」

 しゅんとしてしまう。

「慌てなくていいわよ。ライズの力なんて普通使わないわよね」

「皆すぐ使いこなしたんですか?」

「やっぱり最初は悩んだわ。実戦を積んで能力を自分のものにしたの」

「僕も実戦に出れますか?」

「最初は皆のサポートとして出てもらいます。

 サポートと言っても後方で待機して戦いを間近で見る事です」

「生き死にの戦いなのにいいんですか?」

「4人の力はまだまだ君より強力です。

 今までの敵と同じ強さの敵なら4人でも大丈夫です。

 未知の強敵が現れたらわかりませんが現在までそのような敵に会った事がありません。

 タツオ君にはそのような緊急事態が起こるまでじっくりと鍛えてほしいのです」

 肩の荷が軽くなった思いだ。イイノさんはとても優しい。

 この世界の人間にない思いやりがある。

「わかりました。有り難うございます。

 あ、イイノさんは何か用事ですか?」

「まだ確認する事があるの。ここで降りるわね。さようなら」

 エレベーターの扉が開くと冷たい風が入ってくる。冷凍室のようだ。

「寒い……早く帰ろう」

 エレベーターは何もなかったように動き出した。


 ◇ ◇ ◇


 冷凍室。

 タワー地下にある長期保存用の施設だ。

 実験に使う薬品や標本などを並べた棚のエリアを通り過ぎると

 冷凍保存カプセルが数十個も並んでいるエリアに着いた。

 一番奥には巨大なカプセルがある。

 イイノはその中のひとつのカプセルの前に立ち止まり中を見つめる。

 中には髪の長い美しい女性が入っている。

「りっちゃん……」

 そう呟くとカプセルに触り目をつぶった。


 ◇ ◇ ◇


 隊員たちの宿舎は訓練施設からはすぐ隣だ。

 部屋は個室であり風呂や洗面所、ベッドや台所用品一通り揃っている。

 狭いが生活には困らない。職員用の食堂もあり、栄養には気を配られている。

「アハハ、俺は飯食べに行こう!」

「私は早くシャワー浴びたい。汗でお肌に悪い。」

「それでは皆さん、また明日。」

「……」

 皆で集まると言う考えはない。それぞれの生活には干渉しない。


 ◇ ◇ ◇


 一人ベッドの上に丸まってる者がいる。

 ヒショウは鳥類のライズ能力の持ち主でフクロウの能力を使えば暗闇でもよく見える。

 しかし彼の部屋はいつも明々と電気が灯っている。

「怖い……

 あー、怖い……

 何か聞こえる……何か見える……やめてくれ……」

 彼は実は極度の怖がりだ。

 しかも異形種の細胞のせいで目はよく見えるし耳も遠くまで聞こえる。

 五感が研ぎ澄まされているのでわずかな空気の動きでも気づいてしまうのだ。

 鳥には常に回りを見回す習性があり、より周囲が気になる。

「ああ……いやだいやだ……この能力。

 幽霊でも出たら死んでしまう……」

 布団を被りびくびくしている。

 食堂に行けばよかった。

 でもリクトは苦手だし………

 誰か一緒にいてくれないか。

 人と話すのは苦手だしそんな事は絶対言えない。

 なんでイシュライザーになんてされたんだ。

 しかもなんで鳥の遺伝子なんだ。

 ネガティブ全開だ。

「ああ早く朝にならないか……皆と一緒なら怖くないのに」


 ◇ ◇ ◇


 シャアアア……


 嬉しそうなハミング。リズムにのった歌声。

 濡れた長い髪はお尻の方までまとわりつく。

 体のあちこちを入念に、染み込ませるようにお湯を擦り付ける。

「うふふ、シャワー大好き、お肌に潤いね!」

 マリカは水分を使用するライズ能力が多い。

 遠距離射撃できる便利な『テッポウウオ』の能力、ウォーター・ショットは便利で多用するが

 撃つたびに体から水分がなくなる。お肌がカサカサになるのだ。

「魚に変化すると魚臭くなっちゃう。化粧もすぐとれるからあまりなりたくない」

 豊満な肉体にお湯が滴り落ちる。

「でも可愛いお魚さんに変化しようかな。クマノミとかチンアナゴ?」

 想像してみるといまいち戦いの役に立たなそう。

「うーん、可愛いけどね。シャチとかサメとか強そうだけど可愛くないわ。

 私、可愛くて小さいものがいいな」

 シャワーを終えバスタオルで拭きながら裸で部屋に戻る。

「水分をたっぷり補給しないとね。」

 冷蔵庫から2リットルの水を取り出すと、赤い唇に含む。

 ゴク……ゴク……

「あー、おいしいッ!」

 あっという間に空になった。

「お肌も潤ってる。お水が最高ね」


 ◇ ◇ ◇


 食堂。

 科学技術庁ご自慢の栄養価を考えたメニューが並ぶ。

 ひとつのメニューを食べるだけで夕食として充分なのだが

 それを無視して一人で3人前も注文しているやつがいる。

 それも肉料理のみだ。

 リクトが肉をかじりなぎら大盛のご飯を食べている。

 あまりの食べっぷりに周りにいた職員が話しかける。

「小さいのによく食べるなぁ、一体どこに入るんだ」

 それに反応しギロッ、と睨む。

「アハハ、おいしいからね。食べるの大好き」

 小さい!?

 小さいだと!

 俺は小さいと言われるのがいやだなんだ!

 俺は強い!

 強さこそ存在する価値だ。

 戦いで敵を倒して俺の強さを見せつけてやる!

 でかくなるんだ!誰よりもでかくなる!

 能力で巨人になっても見かけだけだ。

 本当に強い巨人になりたいんだ。

「アハハ、よく食べたらでかくなるれるかな?」


 ◇ ◇ ◇


 宿舎の一室ではため息が聞こえている。

 はあ、はあ、と声にもならない音が響きわたっている。

「ああ、私は何て嫌な性格なんでしよう!」

 真面目で融通の効かないように思われている事を肌で感じている。

 ミミは訓練もしっかりこなし勉強も疑問があれば必ず質問する。

 挨拶もしっかりし、姿勢も素晴らしい。

 命令もきちんとこなし今まで失敗はない完璧な隊員だ。

 だがその完璧な隊員も実は苦しんでいるのだ。

「真面目すぎて近寄りがたいと思われてる。本当は普通に接したいのに」

 もっとかまってほしい!

 本当は甘えん坊なのだ。

 かと言って今のイメージは崩れるのはプライドが許さない。

 完璧かもっと優しくなるかで悩んでいる。

「タツオ君は優しそうだし普通に接してくれるかも。

 何か心に秘めてるものがあるみたいだけど」

 何か期待している自分がいる。ありのままの自分と付き合ってくれる者を求めている。

「一言多いのもダメね。あー! もう!」

 ストレス発散の大声が部屋に響く。

 完璧な人間などいない。


 科学技術庁の夜は何事もないようにいつも通り過ぎて行った。

 もうすぐ戦乱が起こる事も知らず。


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