23.誕生と別離
リュウヤとカズミのところの子供が無事産まれた。
ハヤオカのところもだ。
ベビーラッシュではないか……
医務室ではついにわしとイイノの子供も産まれようとしていた。
わしとリツは外で緊張しながら待っていた。
「おぎゃぁぁぁ」
「……ヴェルさん、産まれたみたいです!」
「うぉぉぉ、イイノーー!」
あたりにドラゴンの鳴き声のような大声がこだまする。
「……ヴェルさん、ちょっとバレてしまいますよ。
子供の事は内緒にしているんじゃないのですか?」
「そうだった!」
ドラゴンの能力を持つ子供だとわかればキャッスル・ブレインにどんな扱いをされるか。
イイノもなるべく研究室を出ないように過ごし、秘密にして来た。
わしのせいでバレたら水の泡じゃ。
「うぉっほん。すまん、何でも無い」
シミズが医務室の扉を少し開け、手招きしている。
わしを呼んでいるようじゃ。
すぐさま疾風の如き勢いで中に躍り込んだ。
「おお!」
イイノの隣には小さな赤ん坊が……
「わしの子供か……」
布に包まれている赤ん坊を覗き込んだ。
少し普通の人間とは違う?
耳の横にはドラゴンの羽根のようなヒレがついている。
しかも体のところどころには虹のように光輝く鱗が……
「まさしくわしの子供だのう。
強く勇ましいドラゴンの血を引く子供じゃ!」
「……ヴェル、その子は女の子よ……」
「イイノ、よくやってくれた。
この子こそこの星を救うべく生まれてきた子供じゃ。
男も女も関係ない」
リツも医務室に入ってきて子供を抱き上げる。
「……か、可愛い! 特にほっぺが……」
思わずスリスリしている。
「そうやって抱いていると、りっちゃんの子供にも見えるのう……」
「……この子は私も面倒見ます。
悪い人がいれば戦ってでも守ります」
「ハハハ、有り難い事じゃ。
母親が二人いるようで、この子も安心するじゃろう」
わしたちと家族のように過ごしていたリツは自分の事のように喜んでくれている。
でも責任を背負わせてばかりではいけないな。
リツにもいつの日か幸せになってもらいたい。
わしがリツを守ってやらねばな……
「そういえば名前をつけなければいけないのう。
イイノは考えているのか?」
「私が考えている名前は……
一番明るい星を意味するアルファと私の名前を合わせて、
『アルノ』がいいと思うんだけど……」
「それではわしの名前からも取って『アルノドーア』と言う名前にしよう」
「……アルノドーア、素晴らしい名前です。
このヒューマン・キャッスルにはいない名前ですね」
良い名だが、いかにもどこかの将軍みたいで強そうな名前じゃ。
しかし、この世界を照らして行く星と言う感じでとても気に入った。
「名前は決まったけれど……管理コンピューターには登録しないわ。
この子はヒューマン・キャッスルにいるべきではない。
この姿は隠し通せるものではないし……
外の世界で自由奔放に暮らして欲しい……」
「イイノ!? どういう事じゃ?
親子で暮らしたくはないのか!?」
「……あの、お二人ともいいですか?」
リツが何やら妙な機械を持ってこちらに向けている。
「何じゃ、その機械は?」
「……これは『カメラ』と言って、この瞬間を記録しておくものです。
1000年前の遺産です。
データとして保存しておけますし、写真として出力もできますよ」
「何? わしたちの姿を記録だと?」
「……将来、もし忘れてしまっても、
これを見れば『この時』の事を思い出すでしょう。
撮りますから……お子様と3人、くっついて下さい」
捨てられていたガラクタから便利な物を作り出すとは驚きじゃ。
とりあえずリツの気持ちに有り難く応えるとするか。
イイノとアルノドーアを引き寄せるとリツの方に向く。
「……はい、撮ります!」
パチリッ
◇ ◇ ◇
ヒューマン・キャッスルが静まりかえる深夜。
イイノの研究室に音もなく侵入する影があった。
「……イイノは……最近……ここに籠もって何をやっているのだ。
我々のエネルギーも尽きかけていると言うのに……」
研究室の奥には10個のケースとロッカーが2つ。
ケースのうち9個には色違いのヘルメットとスーツが入っている。
ロッカーの中にはさらに金色のスーツと銀色のスーツ。
そしてイイノの使っているデスクの上には携帯用コンピューターと白いスーツが置かれていた。
「……このスーツは……あの時の……
これを強化しているのか……
一体このスーツにはどんな秘密が……」
侵入者はデスクに置かれているコンピューターを起動するがパスワードでロックされている。
「……パスワードで……私のアクセスを止める事はできない……」
しばらく指を止めたがすぐに長い文字列を入力し始める。
すぐに画面が切り替わりファイルが並んだ画面が表示された。
「……これか……スーツの仕様書……
……『ライザー遺伝子』の力で『異形種の遺伝子』を刺激……
生み出される細胞の量を調節する事ができる……
ダイヤル式の調節スイッチで細胞量を調節……
スイッチはヘルメット内のコンピューターへアクセスしなければ調節できない……」
設計図を開くとコンピューターの位置、接続端子の位置などがわかる。
「……これがあれば……私でも簡単にスイッチを調節できるな……
スーツがこれだけ色分けされているとは……
10体のオリジナル・ジェネシスか……」
瞬時に仕様を解析し、イイノの思惑を推理する。
驚くべき思考スピード。
「……オリジナル・ジェネシスの判別色が登録されていたな。
スーツの色と対応しているのか。
金と銀はイレギュラー。
この白いスーツは……あのオリジナル・ジェネシスか……」
侵入者は全てを知り、不気味に微笑む。
「……この白いスーツがあれば……
我々の目的は達成できる……」
◇ ◇ ◇
医務室では親子3人での夜を迎えていた。
「おお。よく寝る子じゃ。
手がかからんな」
「ふふ、まだ生まれたばかりです」
「お前はさっきこの子はここにいるべきではないと言っていたな。
あれはどう言うことじゃ?」
「この子の事、ずっと秘密にしてましたね?」
「ああ、生まれる3ヶ月前には誰にも見られないように、
すべての接触をたって研究室でリモート作業に変えたのう。
一歩も研究室を出なかったし、鍵も開けなかった。
いろいろ世話してくれるりっちゃんくらいしか人を入れてはいない。
生活が大変じゃったがな……そこまでバラしたくないのは何故じゃ?」
「オリジナル・ジェネシスの能力を利用されたくないからです」
「何? わしのドラゴンの能力をか?」
「いえ、今まで隠していましたが……
あの10番目のオリジナル・ジェネシスを継承しているのは……
この『私』なのです……」
「な、何!? イイノが10番目の……
最後のオリジナル・ジェネシス継承者だとー!!」
「ヒューマン・キャッスルの秘密をお話しておきましょう。
このヒューマン・キャッスルは1000年前に楽園化の実験の為に作られた幻の施設……」
「楽園化じゃと? 何じゃそれは?」
「人間が何も苦労しないで永久的に生きられる環境を作る実験です。
キャッスル・ブレインはそれを実現する為に開発されたのです。
当時の科学者の一人が開発したオリジナル・ジェネシスの力を利用した楽園化計画。
それを遂行する為にキャッスル・ブレインは存在しています。
オリジナル・ジェネシスの遺伝子こそ一番の宝と認識しているのです」
「オリジナル・ジェネシスでどうやって楽園になるのじゃ。
わしには炎と風の能力しかないぞ?」
「10体全員の能力が合わさればどんな事でも可能と考えられたのでしょう。
例えば水生生物の能力で水を作り、虫の能力で土を作るなど……
単体では効果は限定されますが10体が結集すれば人間の世界を維持できると思われたのです」
「楽園化とは人間が楽をする世界なのか……」
「ですが人間が楽をするにはかかせないものがあります。
エネルギーの問題です。
特に電気を作り出さなければコンピューターも動きませんから」
「そうじゃな。ここはとても便利なものがたくさんある。
車、エレベーター、コンピューター、工場、水質改善施設……
膨大なエネルギーが必要じゃな。
そういえばどうやってエネルギーを作っているのじゃ?」
「そのエネルギー源が10番目のオリジナル・ジェネシスの能力なのです」
「10番目のオリジナル・ジェネシス……もしや……お前が!?」
「私が定期的に行っている予防接種と言われている行為は……
あれは……私からエネルギーを吸収しているのです……」
「そうなのか……あのアンドロイドが誘いに来る時は、
エネルギーを回収する時だったのか!」
「この数ヶ月、私が隠れていた事でエネルギーも残り少ないでしょう。
きっと私が現れるのを今か今かと待っているはず」
「う~む、お前を特別扱いしていたのはその能力を守るためか?
10番目のオリジナル・ジェネシスの能力とは何なのじゃ?」
「10番目の能力……それは星の力です。
いわゆる恒星。太陽と同じ能力です」
「太陽! 生物ではないではないか!」
「人間も宇宙の一部、1000年前の科学者が遺伝子を操作しすぎて、
突然変異してしまったもののようです。
永久に変異を繰り返し、宇宙のエネルギーをも放出するようになったとか……」
待てよ。オリジナル・ジェネシスと言うからには継承されるのではないのか?
わしとイイノの子供ならもしや!?
「アルノドーアにはもしや、わしのドラゴンとお前の力が継承されているのか?」
「おそらく。まだドラゴンは発現しているようですが将来、10番目の方も発現するに違いありません。
10番目の力はとても暴走しやすい力。巨大すぎてどうなるか全くわかりません。
完全に能力が発現した事は1000年前しかありませんが……
だから私はこの力を暴走させないようにイシュライザー・スーツに能力抑制の機能を加えました。
将来、この子が能力を発現しそうになった時、
白いイシュライザー・スーツを使って力を抑制させたいと考えてるのです」
アルノドーアはドラゴンの継承者でもあり、10番目の継承者でもあった。
きっと継承元であるイイノの能力はこれから衰退して行くだろう。
完全に消滅した時、キャッスル・ブレインはアルノドーアを利用しようとするに違いない。
その為にアルノドーアの存在を隠していたのか……
「あなたはアルノドーアを連れて故郷に戻るのです。
私の能力が完全に消滅するまで10数年くらいは持つと思います。
力が少なくなっても強力なエネルギーですから。
あなたはその間で外の世界を外にいる3人のオリジナル・ジェネシスと共に少しでも復興させて、
アルノドーアが成長するまで健やかに育てて下さい。
ここの機械だらけの世界はこの子には合わないでしょう。
私がここにいる限りアルノドーアを探すことはありません。
成長した時にはきっと自分のやるべき事を見つけてくれるでしょう」
「しかし……イイノはこの子と離ればなれじゃ。
わしとも離れねばならん。
それでいいのか?」
「この子ができた時、私の幸せだけを考えてはいけないと思うようになりました。
世界を変えて行くのはこの子やオリジナル・ジェネシスの子供たち。
私は子供たちの為にここに残り、未来への礎になります」
1000年の間、継承してきたのはおそらく未来に可能性を残す為であろう。
この星を元に戻し、人間らしい生活を取り戻し、人間も生物も環境さえも幸福にする……
わしも未来の為に礎になろう。
「イイノ……わしもお前の願い通りに生きよう」
「ヴェル……愛してる……
離れていてもあなたの事、想っている」
「でもアルノドーアはお前がいなくて寂しがるのではないか」
「りっちゃんを連れて行って下さい。
彼女はきっとあなたの為すことにも、アルノドーアの成長の為にも
協力してくれる」
「アルノドーアがもし10番目の力に目覚めそうになったら?」
「その時は私が救いましょう。
この白いイシュライザー・スーツで……
だけど、ヴェル、忘れないで」
「何をだ?」
「例え私の身にどのような事が起こったとしても……
怒りにまかせてキャッスル・ブレインを破壊しようとしないで。
キャッスル・ブレインを壊してしまったらここの人間は生きていけなくなる。
ヒューマン・キャッスルの機能自体止まってしまうのです。
もし、あなたが外のオリジナル・ジェネシスの力を借りて、
キャッスル・ブレインを破壊しようとしたら……
私もここに残っているオリジナル・ジェネシスたちと共に、
あなたと戦わなくてはいけなくなる。
私たちの目的は人間の自発的な変革。
人間がキャッスル・ブレインを自ら捨て去る時が来るのを待つの。
それだけは……忘れないでね」




