21.継承者1
「シミズに子供ができた!?」
まさか、同居してわずか2ヶ月くらいではないのか?
それに一番大人しいシミズがだと?
「ええ、最近休んでいたから心配して部屋に行ってきたの。
状況から言って間違いないかと……」
「オリジナル・ジェネシスの子供だとすると、遺伝子の継承が起こるのではないか?」
「私には経験がないので何とも言えないわ。
それに出産の為の施設なんてヒューマン・キャッスルにないし……
対応できる医師もいない。
どう対応するかが問題ね」
外の世界には出産を知っている人間が数年前までは生きていたが……
もうこの世にはいない。
しかもその技術を伝えた人間もいない。
もう人間自体がいないのだから。
「外の世界のシェルターにはそう行った施設があったと思う。
もう廃墟になってしまっているが……どうすればいいのじゃ」
「キャッスル・ブレインのデータベースにアクセスしてわかるかしら?
そもそも病気予防技術が発達していて人間が病気になりにくい世界、
怪我を治療する医務室ぐらいしか施設が無いのよ」
「う~む……そうじゃ!
吸血生物の一族は1000年前の文献や遺産を洞窟に保管していると聞いている。
知能も発達しているし、彼らは蝙蝠の一族、同じ哺乳類じゃ。
きっと出産の知識も豊富じゃろう。
医術を心得ている者もいると言っていた。
代表者であるレオンダルムはオリジナル・ジェネシスの継承者、
話は通じるはずじゃ」
「まぁ! そんな方たちがいらっしゃるんですね!
でも、外の世界に行かないと駄目なのよね?」
「シミズだけならオリジナル・ジェネシスの遺伝子を持っているから外に出ても平気じゃ。
わしが連れて行ってもいいぞ」
吸血生物の洞窟ならドーア火山に行くよりも近い。
一日あれば往復もできる。
「これはヴェルに頼るしかないようね。
一度、その方たちに話をしておいていただけないかしら?」
「おお、明日すぐに行ってくるぞ。
わしが外に出る事は隠しておいてくれ」
◇ ◇ ◇
その日から遺伝子課の仕事以外の任務に忙しくなる。
ヒューマン・キャッスルと吸血生物の洞窟を往復し出産に関する情報や医術関係の文献を持ち帰る担当となったのだ。
今後、人間だけで生活する事になれば医術にも詳しい人間も必要になって来るだろう。
その役に立ってくれれば苦労も報われる。
キャッスル・ブレインには秘密にしている。
産まれてくる子供を研究対象にさせない為だ。
普通の人間の生活を送って欲しいとの願いが込められている。
日に日に出産の日が近づいて来る。
予定されている日の前にわしがシミズを洞窟まで運んで医療を心得ている者に任せる。
イイノにはキャッスル・ブレインに知られないように監視を任せた。
さらに産まれた子供にヒューマン・キャッスルの他の子供と同様に暮らせるよう手続きをしてもらう。
準備は万端に整った。
当日、計画通りわしとイイノは動いた。
二人とも慎重に慎重を期した。
さすがイイノじゃ。計画は予定通りすべて成功した。
数日後、無事シミズとその子供ともどもヒューマン・キャッスルに帰還したのじゃった。
「イ、イイノ課長、わ、私なんかの為に……有り難うございます」
「シミズさん、頑張ったわね。
何も心配しなくていいのよ。ゆっくり休んで」
「おい、コンピューターに名前を登録しないといけないんじゃないのか?」
「そうね、科学技術庁で人工的に産まれたように見せかける為に、
データベースに登録しておかないといけないわ。
シミズさん、何か名前を考えていた?」
「オ、オリジナル・ジェネシスの識別名、水生生物から字を取って、
『マリカ』と言うのはどうでしょうか?」
「マリカちゃんですか。良い名前ね。
その名前で登録しておくわ」
「お、お願いします……」
◇ ◇ ◇
さらに月日は過ぎた。
今度はヒビキにも子供が誕生する。
シミズが医術に関する文献を学び、ヒューマン・キャッスルの医療担当となっていた。
わざわざ不死生物の洞窟まで行かなくても病気や出産に対応する為だ。
初任務となったシミズによって無事取り上げられた。
産まれたのは男の子、名前は『ヒショウ』と名付けられた。
「ヒビキにも子供が産まれるとは……
親に似て質問攻めにされたら叶わん。
りっちゃんも将来の為に子供を抱いてみたらどうじゃ?」
「……私なんてよろしいんですか?」
遠慮するリツに勧めると渋々子供を抱いてみる。
「おぎゃぁぁぁ、おぎゃぁぁぁ」
「むむ、よく泣く子だのう」
「……ど、どうすればいいの!?」
「眠いのかもしれん。寝かせてみろ」
リツはベッドの上に正座すると子供を膝に乗せて寝かせてみた。
「Zzzzzz……」
「おお、すぐに寝たな! やっぱり眠かったんじゃな。
リッチの能力を使ったんじゃ無いだろうな?」
「……この子には膝枕が一番いいのかもしれませんね」
リツの顔は親のような顔じゃ。
子供が好きなようじゃ。将来いい親になるじゃろう。
イイノと二人、医務室を出る。
「イイノ、実はひとつ心配している事があるんじゃ」
「心配……?」
「オリジナル・ジェネシスの子供が産まれているのも二度目。
おそらく子供には遺伝子が継承されているじゃろう。
オリジナル・ジェネシスが子孫を残す時は寿命が尽きる時か、自分の身に危機が迫っている時じゃ。
何か危険が迫っているのではないか」
「今は平穏な毎日よ。この星の運命を左右する兆候など見られないし、
そのような危機があればキャッスル・ブレインが予測するのではないかしら?」
「じゃと、いいんだが……」
◇ ◇ ◇
「ヴェル! 大変よ!」
「ん? 何かこの展開、前にあったような。
今度はどうしたのじゃ」
「リュウヤ君とカズミさんに子供ができたそうよ」
「ほ、本当か!?
ヒューマン・キャッスル内の純粋な人間同士じゃと1000年ぶりではないのか?」
「そうよ! 歴史的な出来事と言ってもいいわ。
奇跡の子供と言っていいかもしれない」
確かに奇跡じゃ。
外の世界では当たり前だったかもしれないが……
1000年間、人工的な出生に頼っていたヒューマン・キャッスルの中の人間同士とは。
これを期にして昔に戻って欲しい。
研究室に戻り、リュウヤに会った。
「おい、リュウヤ。
子供ができたそうじゃな。
目出度いと言って良いのか?」
「有り難うございます。
ヴェルさんのおかげです!」
「わしは何もしとらんぞ。
それで、カズミの具合はどうなんじゃ?」
「まだちょっと体調はよくないけど、休んでいれば落ち着いてくると思う。
次はヴェルさんの番ですね?」
「なっ! わしとイイノなんて……そんな事ない……
イイノも研究に忙しいし……」
「焦っちゃって。ヴェルさんももっとイイノさんの事、大事にした方がいいですよ。
働かせすぎです。たまには二人でゆっくりして下さい。
一緒にいる時間、少ないでしょう?
もっと二人の時間を増やして下さいね」
そ、そうか。
オリジナル・ジェネシスの研究だの、イシュライザーの訓練だの、医術の調査だので、
忙しすぎだな。リュウヤの言う通りかもしれない。
イイノに無理させすぎじゃ。
「リュウヤの言う通りじゃ。
イイノをもっと大事にする!
これからは一緒の時間を増やす!」
「その通りです。ヴェルさん!」




